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迫りくる期限
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商人ギルドの長は、痛々しい顔の傷跡をひきつらせながら、ファザーンの質問に答えていた。
商人というのは、商売の才覚を持っていても、神にすがる人が多い。
王都にある、主神6柱の各神殿への定期的な寄進を行っているのも、順調に今後も
商売をできるように、という祈願も込められている。
ところが、最近ユーラーティ神殿への寄進の額が減ってきているとちょっとした噂が
聞こえてくるようになり、人を使って調べたところ決まってアダラ副司祭長の使いの者に
渡した商人の寄進額が減っているということで、先日、前もって内部にギルドに親交のある
事務方の古株に寄進額を伝え、どのくらいの差があるのかを調べようとしたが、
今回は届くことすらなかったという。噂に上がった他の商人にも使いを立て、集会の時に
探りを入れたところ、大多数の商人が被害にあっていた。
近々、王都の古くからの行事の星祭があるため、いつもよりも寄進額は増額されている。
寄進額が少ないということは、多くの商人にとって商売があまり上手く行っていないと
憶測が飛び、不名誉なことになる。
そこで、アダラに問い詰めようとしたところ、のらりくらりとかわされ、さすがに
腹が立ったギルド長は、大声で威嚇して、アダラの目にもとまらぬ攻撃に
倒されたそうだ。
鋭い爪でざっくりと顔を切り付けられて痛みのあまり気絶してしまった。
そこへ、ドゥーラが現れて手当をして一命を取り留めたということだ。
「星祭って、今月の末頃だったっけ?」
各神殿に、星読みの巫女が集い今年の国の運勢を占うという行事で、古くからある伝統的な
祭りのひとつだ。王都ほど人が多く住まうところだと、やっぱりお祭りも盛大なんだろうなぁ。
神殿の一部の人を除き、一般の人たちは星祭は楽しみな行事だったりする。
星が夜空を彩り、街にはそれぞれで屋台が並ぶ。掛け声とともに珍しい異国の食べ物や
この時ばかりの雑貨が売りに出されたり、旅芸人が広場で芸を見せる。
独り身の男女はそれぞれ気になる異性を誘って夜の街を散歩する。
当然、その後カップルが多く誕生するというわけだ。
星祭には、事件をすべて解決して……。
つい、今は傍にいない人を思い出して赤面した。いやいや、ちょっと待て私。
今はそんな浮かれてる場合じゃないでしょ!!と自分に突っ込みを入れる。
思考が忙しく動き回ってひとり赤面したりアタフタしたりの私の横で、
冷静なファザーンは、難しい顔で考え込んでいた。
「そうか……星祭りがありましたね」
ファザーンは星祭、という単語に頷いている。
「星祭には、多くの金銭や人が動きます。大がかりな儀式をするためには資金は
いくらあっても足りないだろうし、何より準備のために荷物が行き来しても目立ちません」
そっか。儀式のためには、どうしても大がかりな準備が必要になってくる。
星祭の祭壇は、人里離れた場所に物を運んだとしても、星祭の準備だと言ってしまえば
不審に思う人はそう居ない。実にうまいところを突いた作戦ということなのか。
「儀式の時期はわかったのですが、肝心の場所の特定がまだなのです」
ファザーンは、文献をあたったけれど、封じられた神の聖域がどこをさすのか
までは特定できていないのだそうだ。
期限は迫っているというのに……私は、唇をかみしめる。
「お前さんらが探している場所かはわからんが、頻繁にアダラやユーラーティの者が
出向いとる場所は分かるぞ」
しばしの沈黙の後、しゃがれた声が痛みに声をひきつらせ話しかけてきた。
「今なんて?」
驚きのあまり、一斉に声の主、商人ギルド長の声に視線が集まる。
「アダラの動向を探るため、人に調べさせていたのだが、アダラがやけに頻繁に
出向いている場所があったのを思い出したのだ」
アダラは、この一件の中枢にいる人物だ。そして、実際に動いている人でもある。
その人が無意味に特定の場所に足を運ぶとも思えない。
「神殿の北に位置する谷があるのを知っているか?」
「谷、ですか」
ギルド長は無言で頷く。
「子供の頃におとぎ話で聞いた、神が戦い邪神を滅ぼしたとされる場所だ。人がむやみに近づいては
ならないと、わしの世代の人間は親から伝えられているから決して近づかん」
神殿の北側に大きな谷があるというのは地図で見たことがある。
谷底は深い上に毒の煙が立ち上り、危険なので立ち入りを禁じられた場所だった。
「危険ですが、調べてみないといけないようですね」
危険だとされている場所、人払いが完璧な場所はあまりにもあやしい。
行ってみて、怪しいところをひとつづつつぶしていくしかない。
ファザーンとケルド、私は顔を見合わせて頷いた。
商人というのは、商売の才覚を持っていても、神にすがる人が多い。
王都にある、主神6柱の各神殿への定期的な寄進を行っているのも、順調に今後も
商売をできるように、という祈願も込められている。
ところが、最近ユーラーティ神殿への寄進の額が減ってきているとちょっとした噂が
聞こえてくるようになり、人を使って調べたところ決まってアダラ副司祭長の使いの者に
渡した商人の寄進額が減っているということで、先日、前もって内部にギルドに親交のある
事務方の古株に寄進額を伝え、どのくらいの差があるのかを調べようとしたが、
今回は届くことすらなかったという。噂に上がった他の商人にも使いを立て、集会の時に
探りを入れたところ、大多数の商人が被害にあっていた。
近々、王都の古くからの行事の星祭があるため、いつもよりも寄進額は増額されている。
寄進額が少ないということは、多くの商人にとって商売があまり上手く行っていないと
憶測が飛び、不名誉なことになる。
そこで、アダラに問い詰めようとしたところ、のらりくらりとかわされ、さすがに
腹が立ったギルド長は、大声で威嚇して、アダラの目にもとまらぬ攻撃に
倒されたそうだ。
鋭い爪でざっくりと顔を切り付けられて痛みのあまり気絶してしまった。
そこへ、ドゥーラが現れて手当をして一命を取り留めたということだ。
「星祭って、今月の末頃だったっけ?」
各神殿に、星読みの巫女が集い今年の国の運勢を占うという行事で、古くからある伝統的な
祭りのひとつだ。王都ほど人が多く住まうところだと、やっぱりお祭りも盛大なんだろうなぁ。
神殿の一部の人を除き、一般の人たちは星祭は楽しみな行事だったりする。
星が夜空を彩り、街にはそれぞれで屋台が並ぶ。掛け声とともに珍しい異国の食べ物や
この時ばかりの雑貨が売りに出されたり、旅芸人が広場で芸を見せる。
独り身の男女はそれぞれ気になる異性を誘って夜の街を散歩する。
当然、その後カップルが多く誕生するというわけだ。
星祭には、事件をすべて解決して……。
つい、今は傍にいない人を思い出して赤面した。いやいや、ちょっと待て私。
今はそんな浮かれてる場合じゃないでしょ!!と自分に突っ込みを入れる。
思考が忙しく動き回ってひとり赤面したりアタフタしたりの私の横で、
冷静なファザーンは、難しい顔で考え込んでいた。
「そうか……星祭りがありましたね」
ファザーンは星祭、という単語に頷いている。
「星祭には、多くの金銭や人が動きます。大がかりな儀式をするためには資金は
いくらあっても足りないだろうし、何より準備のために荷物が行き来しても目立ちません」
そっか。儀式のためには、どうしても大がかりな準備が必要になってくる。
星祭の祭壇は、人里離れた場所に物を運んだとしても、星祭の準備だと言ってしまえば
不審に思う人はそう居ない。実にうまいところを突いた作戦ということなのか。
「儀式の時期はわかったのですが、肝心の場所の特定がまだなのです」
ファザーンは、文献をあたったけれど、封じられた神の聖域がどこをさすのか
までは特定できていないのだそうだ。
期限は迫っているというのに……私は、唇をかみしめる。
「お前さんらが探している場所かはわからんが、頻繁にアダラやユーラーティの者が
出向いとる場所は分かるぞ」
しばしの沈黙の後、しゃがれた声が痛みに声をひきつらせ話しかけてきた。
「今なんて?」
驚きのあまり、一斉に声の主、商人ギルド長の声に視線が集まる。
「アダラの動向を探るため、人に調べさせていたのだが、アダラがやけに頻繁に
出向いている場所があったのを思い出したのだ」
アダラは、この一件の中枢にいる人物だ。そして、実際に動いている人でもある。
その人が無意味に特定の場所に足を運ぶとも思えない。
「神殿の北に位置する谷があるのを知っているか?」
「谷、ですか」
ギルド長は無言で頷く。
「子供の頃におとぎ話で聞いた、神が戦い邪神を滅ぼしたとされる場所だ。人がむやみに近づいては
ならないと、わしの世代の人間は親から伝えられているから決して近づかん」
神殿の北側に大きな谷があるというのは地図で見たことがある。
谷底は深い上に毒の煙が立ち上り、危険なので立ち入りを禁じられた場所だった。
「危険ですが、調べてみないといけないようですね」
危険だとされている場所、人払いが完璧な場所はあまりにもあやしい。
行ってみて、怪しいところをひとつづつつぶしていくしかない。
ファザーンとケルド、私は顔を見合わせて頷いた。
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