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昏い欲望

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ナバート師を王立薬草園に送り届け、馬車に乗り込む。

今も囚われているサラエリーナは、どれほど心細く、怖い思いをしているのだろうかと

考えるだけでも胸が締め付けられる。

思考に沈んでいる私に、クラーヴィオが声をかけてくれた。

「 ドゥーラ、最悪は私が想定して避けるように努力する。難しいだろうけど、
今は、敵の中にいるサラエリーナを取り戻せると信じていて 」

 クラーヴィオの気づかいに、胸が熱くなった気がする。

屋敷に戻ると、玄関ホールに執事が待ち構えていた。

「 ケルド様が意識を取り戻されました 」

その言葉に、私はクラーヴィオと顔を見合わせて、はじかれたように2階の彼の部屋へ
向かった。

大きな寝台の上に、弱弱しい表情で身体を起こしていたケルドが私たちが開けた

ドアの音に、緩やかに顔を動かす。寝台の横に腰かけていた、ファザーンも、瞳がうるんでいる。

「 ケルド!!大丈夫? 」

私の言葉に、少しうつむいたケルドはかすかな声でつぶやいた。

「 ごめん。聞いたんだ。薬を飲まされて意識がなかったとはいえ、

君に乱暴なことをするなんて……本当にごめん。顔、見せられる立場じゃないよ」

ケルドのその言葉に、思わず駆け寄った。

「 ケルド、あなたが悪いんじゃないの。あなたに薬を使った人間が一番悪いの。
あなたは、悪くない。こうして生きていてくれたことが、嬉しい。ありがとう 」

 そして、私は、彼の体をぎゅっと抱きしめる。

柔らかな髪がすっかり汚れてしまっている。こんなになるまで、頑張ってくれていたのに。

かすかに嗚咽が聞こえる。ケルドが、ずっと我慢していた涙があふれていた。

ひとしきり泣いて、少し落ち着いたのか、ぐっとケルドが私の肩を押した。

「 ドゥーラ。ごめん。勘違いしちゃいそうだから、もういい。」

少しぶっきらぼうに言うと、顔をそむけるケルド。しかし、心なしか耳が赤くなって見える。

「 おふたりさん、ここに僕たちがいること、思い出してね」

後方から、苦笑いするクラーヴィオが声をかけてきた。

ケルドがひとしきり感情を吐き出して落ち着くまで見守っていたのだろう。

「 とりあえず、あの爺さんはサントル園長に預けてきた。サラエリーナ嬢の解毒薬を

作らせている。間に合うといいんだが 」

クラーヴィオは、ファザーンに話しかける。




☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・

同時刻。

苦々しく歯ぎしりをしながら、主からの冷水を浴びせられたかのような言葉を思い出す
女がいた。

「 この私がザーコボル様の不興を買うなんてぇ、あってはならないことですわぁ」

鋭い視線で天を仰ぐ女、アダラは思考を巡らせる。

すべては無能な部下のせい。

監禁されていた薬草師の部屋のカギをかけ忘れたせい……万死に値する。

私たちが来たことを告げ口した毒師の老いぼれ……口の中に熱した鉄の塊をぶち込んでやる。

そして逃げ出した薬草師の小娘。

あの時は寝たふりをしていたのかと思うと、自分をだました事に激しく

憎しみを掻き立てられる。まったくもって忌々しい。

私を拒絶する、あの男が興味を示したというだけでも面白くない。

なのに、国王に召し抱えるなんて生意気だ……死んだ方がましだという辱めを受けさせてやる。

イライラする……八つ裂きにしてやりたい。

「 そうだわぁ。あの小娘をぉ私が捕らえてザーコボル様に捧げればいいんじゃなぁい? 」

私に苦痛を与えたものは、百万倍にして返さなくては。

その微笑みに禍々しいものを宿しながら、アダラは地下の寒々とした通路を急いだ。


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