ヘタレ女の料理帖

津崎鈴子

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落語祭りの焼きうどん

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日差しが優しく照らす春の日に、庭で草引きをして居る。
春先だけど紫外線対策につばの広い帽子をかぶり、手には肘まである手袋を装備。

エミさんのうちに来てはや一週間が経つ。
近所の人や商店街の人達にも紹介してもらい家具をそろえたりしているうちに
目まぐるしく時間がたっていた。

エミさんのご自慢の庭は小さな灯篭があったり花壇が有ったりして
整えたらすごく綺麗なんだろうけど、雑草が幅を利かせていて
せっかくの景観が残念なことになっていた。

「ごめんねユキちゃん、庭の草引きお願いできる?」

というリクエストの元重装備で草むしりをしている。

庭自体はさほど広くないんだけど途中で出てくる虫やらに慣れないので
いちいち絶叫していたら、エミさんが大笑いしている。

でもやっていくと、無心になれて結構時間がたつのが速かった。
見れば、雑草は45リットルの袋ひとつ分になり、心なしか庭はスッキリしてきた。

「ユキちゃん、ご苦労様。お昼にしようか」

エミさんが呼びに来たので、装備を外し手を洗って台所へ向かうとすごくいいにおいがする。

「エミさん、今日は何?」

朝から動いていてすごくお腹がすいているからフライパンのジュウジュウいう音に敏感になる。
醤油の焼けた香ばしいにおいがあたりに漂っている。

「ああ、すぐ出来るからね」

エミさんの声に、お箸を用意しながら、のぞき込むと具が入っていなかった。あれ?

お皿に移して出してくれたのは、それはそれはシンプルな焼きうどんだった。

確かに焼きうどんだ。しかも細麺。白のうどんが醤油でほんのり色づいているけど
具らしい具がない。

????

お皿に移したうどん玉を焼いたものに、花かつおをひとつかみかけてその上に目玉焼きを
トッピングしたものをはいと、勢いよく出してくれた。

「ユキちゃん、どうぞ召し上がれ」

具のない焼きうどんかぁ。とちょっと残念に思いつつイイ匂いに箸をつける。

ええええ!!!ナニコレ超旨いんですけど!!!!

箸がすすむことすすむこと!!

エミさんは私の分を先に作ってくれたらしい。
自分の分を今から作るようだ。

材料は、うどん玉と味の素、鰹節に醤油と玉子と
いたってシンプルだ。

油を引いて煙が出るまで温めたフライパンに
うどんを一旦水でくぐらせてほぐしたものを投入。
しばらく炒めたら味の素をパラリとふりかけ
鍋肌から醤油を一周。

もうすごいいい匂い。

それをお皿に移して花かつおをひとつかみして
乗せる。そして別のフライパンで焼いていた
目玉焼きを仕上げに乗っけて完成。

シンプルだけど美味しいわ。
炭水化物バンザイ!

エミさんは、自分の分を仕上げると私を見る。
「なんだ、先に食べてて良かったのに」
「いや、おいしかったから、どうやって作るのかと思って」
「簡単でしょ?大阪に行った時にお祭りの屋台で食べたのよ」

欧米の友達が、落語にはまっていて落語のお祭りがあると知って来日したのだそうだ。
面白そうだったので、エミさんもついて行ったらしい。
「毎年9月頭の土日にあるらしいね。都合が合えば一緒に行く? 中々パワフルで楽しいお祭りだったよ」

なんか、凄く楽しそうなお祭りのようだ。
エミさんは、おばあちゃんの妹だから
すごい年齢のはずなのにバイタリティがすごい。
そんなエミさんがパワフルというんだから想像できないわ。残りのうどんを食べながら圧倒されていた。


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作者のひとりごと

大阪の上本町というところに、生魂神社と言うところがありまして、そこで毎年開催される落語の創始者の彦八さんを偲ぶ落語家さんのお祭りが開催されます。そこで落語家さんや一門のお弟子さんがやってる模擬店の一つに文枝茶屋というのが有って、そこで出されるメニューが焼うどんです。
5代目桂文枝さんが、苦労の時代に編み出したレシピだそうで、一度食べたら病みつきです。
5代目文枝さんは、お弟子さんを取るたびにまずこのうどんを作って食べさせたんだそうです。
師匠が作ってくれるうどんを前にお弟子さんたちはさぞ緊張し、また胸いっぱいになったことでしょう。又今年も行きたいなぁ。ちなみに、うどんは細麺、目玉焼きは半熟がいいそうです。

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