ヘタレ女の料理帖

津崎鈴子

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いかめしいおじさんのいかめし1

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 エミさんの家には結構お客さんがやってくる。
近所の人だったり、仕事を頼みたいと昔なじみの人だったり。

エミさんは、面倒見がよくて昔からいろんな人に頼りにされていたのだそうだ。

そして、今日も昔なじみのひとりがやってきた。

「おや?あんた新しい家政婦さんか?!」

しゃがれた声のごついおじいさんが、私をじっと見る。

作務衣を着ていて頭髪が輝かしいけど、お坊さんでもなさそう。
すごく日焼けしていて、ボディビルダーみたいにいかつい。

日焼け具合がまるでシゲル・マツザキチックだ、日本人離れしてる。

「いえ、親戚のものです、ちょっとお世話になっていまして」

おじいさんの声はとても大きくてよく響くから、仕事中だったエミさんが部屋から出てきた。

「ロクさん、あんた声が大きいよ。近所迷惑!!」

手にはA4の封筒を持っている。

「ほら、出来たよ。あとはあんたとこの若いのに任せたらいい」

そういって封筒を手渡すと、おじいさんはすまねえ、とまるで相撲取りのように
手を左右に振る。ごっつぁんです的な感じで。

「お茶でも飲んでいく?」

エミさんのその声に待ってましたとばかりにそのおじいさんロクさんは靴を脱ぐ。


☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・

「この人は、魚屋の隠居のロクさんだよ。もう代替わりしてるからユキちゃんは初対面だったかな?」

エミさんは、お茶を出しつつ声をかける。

「ユキちゃんっていうのか。うちのマサキと同じくらいかな」
ロクさんはお茶を飲みながら話す。

マサキさんっていうのは、商店街の魚屋魚六の店員さんで、確か年上だったはず。
全然このおじいさんと似ていない気がする。お母さん似みたいだ。

「そうだねぇ、でもユキちゃんの方がちょい下くらいじゃないかな」

「ねえ、ユキちゃん、彼氏いるのかい?」

興味深そうにロクさんが聞いてくる。

うわっ。出たよ。この年の親父さんのおせっかいババァ状態。
結婚が絶対正義と思ってて、結婚していないと一人前じゃないってやつ。

 ええ、こないだまでは居ましたとも。別れたてホヤホヤですよ。
ムッとしてしまう。好きで別れたんじゃないわ。クソッ

 表情が硬くなる私を見て、エミさんが大きな声を出した。

「ロクさん、あんた古臭いこと言ってるねぇ。今や女は結婚なんざしなくたって生きてけるんだよ」
あたしをご覧よ、と鼻高々に言い放つ。

「今の時代は女性が活躍する社会ってやつだよ。家に閉じ込めるなんてかび臭いったら」
「そういやぁエミさんは、昔は活躍してたよなぁ」
圧倒されつつロクさんが相槌を打つ。

「昔は、じゃなくて昔から、だよ。本当にあんたは昔から言葉選びがなっちゃいない」
「厳しいなぁ」
「ところで、あんたそろそろ若イカが出始めじゃないの?」

エミさんが、やりこめられて頭をかくロクさんに別の話を振った。
「ああ、あれか。そろそろだな。ちょっとマサキに聞いてみよう」

ロクさんは携帯を取り出して電話した。どうやら店へ連絡したようだ。

「おいう、俺だ。若イカは入ってるか?あるか。よし、ちょっとまてよ」
電話口をふさいでエミさんに確認する。

「あるってよ。どのくらいいる?」

「私とユキちゃんで食べるだけだからね、8つあったら足りるよ」
「エミさん、いかめし作るんだろう?余分に渡すからうちの分も頼むわ」

やや前のめりでロクさんがいう。

「まぁ、手間は変わらないからね。サービスしてくれるんだろうね」
「いや、仕事を頼んだからお代代わりに持ってこさせよう」

そういって、電話口で20杯もってこいってう。電話口なんだからもっとボリューム
落とした方がいいと思うんだけどなぁ。

そして、手の空いてる店員さんひとに配達するように頼んでいた。
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