ヘタレ女の料理帖番外編

津崎鈴子

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あの人たちのあの日あの時 (テル編)2

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 結婚式の準備が急ごしらえだった自覚はある。
でも、幼馴染や同級生たちからはこぞって欠席の返事が続々と届く。
確かに、相手は変わってしまってるけど、俺の結婚式なんだよ?
なんで欠席になるのかわからない。これは、アヤが悪い噂を回してしまった結果なんだろうと思う。
幼馴染の幸せを素直に祝えないアヤは、とんでもない性格だな。

 俺の職場の同僚は、出席してくれるらしい。少しホッとする。

 ところが、あいちゃん側の欠席者はシャレにならないレベルになっていて、会社からは課長だけが出席するという。親戚も忙しいとかいろいろと理由はつけているが欠席になるんだって、あいちゃんのお母さんが嘆いていた。これも俺の元カノのせいだとあいちゃんがお母さんに愚痴ったらしい。

 いや、ユキは、俺に惚れてるんだから、そこまでの嫌がらせをするような女じゃない、とは思うけど、そこまで妨害するくらい逝っちゃってるんだったら、やっぱり俺がユキを狂わせてしまったんだろう。俺って罪作りだなぁって思うけど、あいちゃんを悲しませるのはやめてほしい。お腹には俺の子供がいるわけだし。

しかし、事態は急転した。

ヤンキーで幅を利かせていた姉ちゃんの舎弟が、あいちゃんの身辺を探り当てた。
父親候補は俺だけじゃなかった。いや、俺だけじゃない、というよりも大勢の候補のうちのひとりに俺がメンバー入りしてる状態。
 その上、うちにも届いた内容証明郵便。候補の中でも父親の最有力の奥さんからのものだった。

 あいちゃんは、ろくでもない女だったんだ。

おふくろも真っ青な顔してあいちゃんに、DNA鑑定をするように言ったが、わめき散らして抵抗している。

ホントに俺の子っていう女の勘とか母親の勘があるなら素直に従えるよね?っていう姉ちゃんの一言にも拒絶を繰り返す。

いくら俺が馬鹿で鈍感でももうわかった。

この女のお腹の子は、俺の子じゃない。

だから言い放った。

「嫌がるのは怪しいからじゃないのか?」

自分でも驚くくらいの冷たい声だった…………表情も作れない。

あいちゃんの顔は、青を通り越して白くなっている。

「そんな……信じてくれないの?」

唇を震わせて俺に詰め寄るけど、何を信じればいいんだよ。

可笑しくなってもう止められなかった。

「信じさせてよ、証明してよ、俺の子なんだったら出来るでしょ?出来ないって言ってる今のあいちゃん、自分でも破たんしてるってわからない? とにかく費用のこと心配してるんだったら俺が出すよそれでいいでしょ?」

 あいちゃんはうなだれた。もう逃げられないと観念したようだ。

姉ちゃんがネットで調べて手配していたそのDNA鑑定する会社にそのまま行くことになり、後日、確かに親子関係が認められないっていう証明が送られてきたけど、あいちゃんは姿を消した。

その結果用紙を見たら、目の前が真っ暗になった。

俺はこんな女に騙されて、大切な宝物のユキを失ったのか。

踊らされていた。舞い上がっていた。

ユキに会いたい。ユキは俺を許してくれるだろうか。

それから数日、意識がなかったそうだ。

☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・゜☆.。.:*・

「お兄ちゃん、ユキちゃんに会えたらちゃんと謝らないとダメだよ?お兄ちゃんが悪いよ」

ハルカが、ユキにメールして近いうちに来てくれることになりそうだと言ってくれた。

 見舞いに来てくれるんだったら、やっぱり俺のこと忘れられなかったんだなって少し安堵する自分がいる。もう、ユキみたいなイイ女は俺の人生で現れないだろうし、今度こそ大事にしないとなって決意する。
でも、兄としてのプライドがあるから、ハルカにはつい大きなことを言ってしまった。

「ユキは、俺に惚れすぎて別の女と結婚するってことになった時にアパート引き払って別のところに住んだってくらいなんだ。今、フリーになった俺の、しかも寝込んだ姿を見たら看病したくて戻ってくれるさ。そうしたら、ハルカの望み通り、ユキはお義姉ちゃんになるんだぞ」

「ばっかじゃないの? そんなわけないじゃん」

 心底あきれ返ったような口調でハルカは俺にたてついたような事をいう。
ハルカは姉ちゃんと仲がいいせいかすごく生意気になってきた。反抗期ってやつなのかな。
つい、反射的にハルカを怒鳴りつける。

「ハルカ、子供は大人の話に首突っ込むんじゃない。出てけ!!」

解ってるよ、ユキが簡単に許してくれないかもしれないって。
でも、俺のこの弱った姿を盾にしても、戻ってきてもらう。俺にはユキが必要なんだ。
ユキだって、俺が必要だって思いたいし。

なにか言いたそうな顔をしつつ、ハルカは病室から出て行った。

静まり返った病室で、今までのことを思い返す。

どうやったら許してくれるかなって、悩んでいるうちになんだか疲れて寝てしまった。


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