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第二章 勧善懲悪
16.怖〜い騎士・イレイザー
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「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
3種類の音のソノリティ。
野太い声から甲高い声まで、まるで三重奏を聴いているかのようだ。
金属を叩く音に、叫び声と鞭を打ち付ける声。
3つの音が相まって、三重奏というよりかは三重苦か?
やめておこう、ラノベではこういうギャグはイマイチ受けないから。
俺はアズリエルとルーラーがお菓子をもりもり食べる正面で、ノートの設定記入欄を眺めながら次の設定を考えていた。
関係ないが、イレイザーが出してくれたお菓子は頗る美味だ!
レシピを聞いて現代に持ち帰れば、割と店で通用する美味さだ!
異世界から帰る前には学んでおこう!
「外が随分と騒がしいですね。お祭りとかですか?」
アズリエルはチョコレートを頬張っているのか、唇周りが茶色い。
あの、天使様。
こんなに苦痛に悶える声を聞いてどうしてお祭り騒ぎだと思うのでしょう。
サイコパス娘って叩かれても知らんぞ。
「いいえ、これは違いますよアズリエルちゃん! きっと拷問です!」
「は、拷問なのですか! 嬉しそうな声に聞こえますよ!」
「私は獣人の類の中でもウサギ族なので、耳がいいんです。3人の男の方々が爪を剥がされたり、鞭で叩かれてますね。この声は、外で私のことを捕まえようとしてた人たちですね。なんて声で鳴くのでしょう!」
なんだ、この会話!
女の子同士がしていい会話じゃない!
なんだ、ここってサイコ患者のパーティー会場だったりしないよな!
「それにしても、ルーラーはあのチーマーを許したんですか? 随分と酷いことを言われていましたが」
「はい。多分、許しています。そもそも獣人は怨念などという感情はあまり抱かないので、数時間もすれば不快感を忘れてしまいます。だから、獣人は人間様に服従し、怒りに疎いのかもしれませんね」
ルーラーはそう言い、チョコレートを口に放り込んで頬に手を置いた。
確かに、彼女は初めから怒っている様子はなかった。
ということは、獣人たちは常日頃から他の種族に虐げられていたのだろう。
あの程度の屈辱を受けてもケロッとしていられるなんて。
人間だったら、憎悪を抱いて復讐したいと思ったりするだろうに。
「あ、そういえばルーラー! 俺たちはまだこの世界に来てまだ日が浅いんだ。歴史とか世界観とか色々教えてくれよ!」
俺は曇りなくルーラーにそう言うと、アズリエルは目を丸くして手をバタバタと振ったのだ!
「ノベル! 何を言っているのですか! アズちゃんたちは異世界から来たわけではありません!」
「異世界? どういうことですか?」
ルーラーはアズリエルがバタバタするので、頭の上に疑問符を浮かべる。
アズリエルのやつ、焦ってんな?
「いいんだアズリエル。この子には別に異世界人であることを打ち明けてもいい」
「えぇ! でも、ノベルはイレイザーには隠しておけと!」
「言っただろ。イレイザーは政府側の人間だ。話が拗れた時に、幅広いコネクトを持った人間に素性がバレてたら厄介になることがある。だが、ルーラーは庶民側だ。この世界の情報を聞き出すならすなわちこっちの方が安全だ」
「な、なるほどぉ。アズちゃんにはもう何も理解できません。とりあえず、ノベルの言うことに従います」
アズリエルは少しだけ怒った顔をして、テーブルの上のお菓子に手を差し伸べた。
さっきからルーラーの話をぬらりくらりと躱してたから、「異世界から来たという事実を隠していたアズちゃんの努力はどうなるのですか!」とか言いたげだな。
ま、それは後で謝るとして。
「あのぉ。もしかして、ノベル様とアズリエルちゃんは本当に異世界から来たのですか?」
「あぁ。俺たちは地球がある世界から来た。そもそも、ここは地球か?」
俺はまずは大前提である土地の名前から質問に入る。
ここはまず地球なのかどうかで、これからの物語の進行が大きく変わってくるからな。
地球じゃなくて、平面の世界だったら船を使うのは危険だ。
「えぇ。よく分かりませんが、人間様たちはこの世界のことを地球と呼んでますね」
「え、ふぇいっ……なんて?」
ルーラーは笑顔で俺に対してそんな爆弾発言をしやがった。
フェイルドセル?!
なんだそれはっ!
俺はルーラーが喋っている言葉を確認するために、ノベルメイカーを開く!
すると、ルーラーが言った言葉が活字で事細やかに記されていく!
地球って書いてフェイルドセル?!
うわぁ、出た出たこう言うクソラノベでありがちな事象が!
「地球には5の種族の存在が確認されているそうです。最も賢く、貪欲に土地を開拓する人間族。最も力強く、戦闘力で人間族を圧倒する竜人族」
あぁ、ああっ!
ルーラーは悪魔だ!
こんなにも情報を淡々と読み上げるこの仕草といい、邪悪なきこの目!
説明してくれてるのはありがたいんだけど……!
「国家を裏から支える、魔力値がズバ抜けて高い妖精族。神界から命を受けて生まれたとされる亜人族。そして、身体能力が高く勘が鋭い獣人族。あだ名は『ペット』ですけどね」
「なんだかごちゃごちゃしていて分かりにくいですね。ルーラーはどうしてこんなのを覚えられるんですか?」
「覚えるも何も、これが事実ですし。天界の魔素から生み出されたとされる絶対支配者様が名付けたと聞きましたが」
俺の頭の中は、すでに限界を迎えていた。
もう、頭の血管がブチ切れてしまうんじゃないかってくらい我慢したよ!
だが、俺は生粋のラノベ好きだ!
ツッコミを入れずにいられるかぁ!
「ストップ、ストップ!」
俺はルーラーが呪文のような言葉が口から出ないように合図を出す!
これ以上聞いたら頭がおかしくなる!
「は、はい。どうかされましたか?」
「あの、一応聞いておくが、獣人族は文字は読めるか?」
「読める方もいらっしゃるとは思いますが、基本的には読めないと思います。私もその一人ですし」
うわぁぁぁ、出たよ典型的な大矛盾だ!
俺がルーラーに質問をした途端、ノベルメイカーの矛盾メーターが1増えて5になった!
こう言うことがラノベでは起きてしまうから怖いんだよ!
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