【完結】ラノベ作家の異世界転生〜ぐーたら美少女天使とのラブコメ×ファンタジー〜

王一歩

文字の大きさ
20 / 78
第二章 勧善懲悪

17.ルビで設定語るのやめろ!

しおりを挟む

「まずルーラー。説明しておくが、ラノベにおいて、ルビを乱打するのは愚か者がやることだ。難しい漢字を並べてニヤいてる作者を一度でもいいからぶん殴ってやりたい」

 ルビとは、要は読めない漢字を読めるために当てる字だ!
 背黄青鸚哥セキセイインコとか雛罌粟ひなげしとか四月一日わたぬきとか小鳥遊たかなしとか、小学生では読みづらい漢字を補填するのがルビという機能!
 それを作者が良い様に乱用し、カナヤみたいな感じでなんでもルビをつけ始める!
 これがどれほど洒落臭しゃらくさいか分かるか?!

「え、ラノベ……? ノベル様、ラノベとは?」

「アズちゃんが説明します。ラノベとは、異世界人が読む暇つぶしの聖書なのです」

「は、はぁ……。それで、私の言葉には何か不都合がありましたか?」

 ルーラーがキョトンとした顔になるのは分かる!
 だって、言ってる本人はなんの悪意もないのだから!
 イケナイのはこの世界観を作り出してるどっかの馬鹿だ!

「良くある話だ。漢字にルビを打てば、説明せずとも良くなるとか考えてる作家がいる。他にも、カッコいいってだけの理由で造語をあたかも既存の言葉のようにずらずらと並べる作家もいる! これじゃ、読者が何を言ってるのかさっぱり分からんのだぁぁぁぁぁ!」

 俺はノベルライターの設定記入欄を開き、赤ペンで殴り書きをする!
 なんだよ、『国家ストゥーピオ』って!
 なんだよ、『妖精族クリッジアタモス』って!
 聞いてるこっちからすれば、当て字されてる事はわからねえんだよ!
 こんなもん、『国家くに』とか『妖精族フェアリー』とかでいいの!
 良い加減にしてくれよ異世界!

「それに、詠唱方法も設定変更だ! この世界では詠唱を短くする! 指の先に力を込め、魔法の名前を言ったら詠唱終了でいいんだよ! この世界はあまりにも段階が多くてやり辛い! 面倒な設定は全部省いたほうがいい!」

 ――俺は設定を書き加え、顔を見上げた!
 すると、風景がグニャグニャと歪んで見える!

「うわっ、二日酔いみたい!」

 俺は、世界の変動を初めて肌で感じたのだ!
 流石に世界の理や常識を書き換えるほど大きなことを書くと、その設定が反映されるまでには時間がかかるみたいだ。
 風景の揺れがなくなるまでの10秒間、俺は立っているのがやっとであるほどに立ちくらみがしてならなかった。
 ――これはいいことを知った。

 戦闘中なんかに理を書き換えるようなことをすれば、俺は数秒間だけ再起不能になる。
 例えば、『重力操作する』なんて破格のスキルを書けば、理が書き換わる間は代償として動けなくなる。
 つまり戦闘中に、物理演算の理を書き換える戦い方は出来ないってことが今証明できた。
 いや、そもそも重力操作なんてしたら、矛盾メーターが溜まって俺が先に死んでまうか!


 ……揺れが完全に止まり、気づくと俺はルーラーとアズリエルに背中をさすられていた。
 俺が再起不能状態である間は、他人は動けることも確認。
 戦闘中はノベルライターの能力を使わないほうがいい事は分かった。

「だ、大丈夫ですかノベル! 突然フラフラと立ち上がったり座り込んだり! 何かに取り憑かれましたか?!」

「ノベル様、イレイザー様から治療を受けたとはいえ、一度病院に行った方が良いのではないですか?!」

 二人の美少女たちが俺を囲んでくれてる。
 アズリエルは俺の背中をさすってくれて、ルーラーは両手を握って胸の前に持っていってる。
 二人とも、俺のことをこんなに心配してくれてんのか。
 なんだか、嬉しいな。

「大丈夫だ! ノベルメイカーの副作用だ! それと、また質問してもいいかルーラー?」

「は、はい! 私に答えられることであれば!」

 ルーラーはシャキッと立ち、俺の質問に答えてくれる誠意を見せてくれた。

「もう一度聞く。歴史とか世界観とか色々教えて欲しい!」

「分かりました。ここはノベル様がおっしゃられた通り地球です。人間族・竜人族・妖精族・亜人族・獣人族の5種類の種族がいます。えっと、獣人族にはあだ名があったのですが……あれ、なんでしたっけ?」

 ルーラーは困惑しているのか、人差し指で自分の顔を触る。
 ふふっ、もうお前は変なあだ名で呼ばれたり、馬鹿にされる事はないさ。

「ペット……って言いたいのか?」

 俺はルーラーにそう言うと、彼女はクスッと笑いながら、

「なんですかペットって! ユーモアがあって面白いですねノベル様は!」

 腹を抱えながら、ルーラーはケラケラと笑って見せた。

「……ノベル。カッコいいところあるじゃないですか」

「うるせぇよ。俺的に納得がいかねぇことを消しただけだしな」

 アズリエルは俺を見上げて、肘で俺のお腹をトントンと叩く。
 まぁ、これくらいのレベルだったら書き換えてあげても良かったしな。
 流石に獣人に対する脆弱せいじゃくな思想を弄るのは怖かった。
 それよりも、自分でこの問題をなんとかしたいと思う節が強かったんだがな。

『名詞のルビを簡略化する』

『呪文の詠唱を簡略化する』

『獣人族のペットというあだ名を消滅させる』

 おそらく、これは俺の偽善だ。
 主人公だと言われたから、こんなに優しいことをしてもいいかなって思えるだけ。
 実際、俺がこの世界の住民だったら、きっと俺は獣人族を迫害する側にまわっているはずだ。
 なぜならば、俺は多数派で生きていきたいから。

 だけど、俺は多数派から抜け出してもいいくらいに強い絶対権力を手に入れたのだ。
 出来ないから、俺は善行をするフリだけをする偽善者だった。
 でも、今の俺ならなんでも出来る。

 俺は、人生で初めて特定の誰かのことを幸せにしてあげたいと思ったのだ。

 ラノベで誰かのことを幸せにしたかったわけじゃない。
 自分が認められて幸せだった。
 自分のことばかりを考える毎日に、俺はいつの日か偽善のために生きてきたのだろう。

 ――今の俺は、偽善だとしても人を救える。
 いつの日か、俺は紛れもない本物の善人になる事はできるのだろうか?

「ありがとうございます、ノベル様!」

 瞬間、俺の心の中に何かが透き通っていくような心地がした。
 ルーラーの声が、俺の心の迷いを打ち砕いてくれたような、そんな優しい心地である。


「あ、あれ? どうして私、感謝したのでしょう! えへへ」


 ありがとうだなんて、今まで何回も言われてきた。
 褒められたかった、愛されたかった。
 それだけのために、俺は生前、善行してきた。
 偽善の塊だ、自分の利益のために、評判を気にして、歌舞かぶいて、下手くそな演技をしていただけのただの偽善者だ!

 なのに、今はどうしてだろう。
 本当に、誰かの未来のためになってあげたいと思ってる。

「の、ノベルっ! どうしたのですか!」

「ぐずっ……俺も、俺もありがとよ……」

 男のくせに、心からポロポロと溢れてきやがる。
 心の奥に開いていた何かしらの穴が埋まり、溜まっていた雨水が流れ出るみたいに涙腺からボロボロと!

「わわわっ! 私が何かしちゃいましたか?! ノベル様、この私が悪いんでしたら、どうかこの私に罰をくださいませ!」

「ば、ばがやろおっ! 俺は、俺はお前らに会えたことに感激してんだっ!」

「ななななな、何を恥ずかしいことを言ってるんですか! 異世界に来て感極まってるのは分かります! でも、男泣きすることないでしょう! ほら、ハンカチ貸しますから泣き止んでください!」

 俺は、異世界に来て良かったなって思う。
 一人でラノベを書いているときは寂しかった。
 だけど、今はこうやって仲間がいてくれる。

「ノベル様! 私、一発芸をいくつか持ってます! それで笑ってくれたら嬉しいです! 獣神様に見せるための演舞と村長様のモノマネです! 身内ネタなので笑えるか分かりませんが……」

「そうです! アズちゃんも何かしますから! えっと……ぴーぴーえーぴーのアズちゃんバージョンをしましょう!」

「あ、ありがとうな! ありがとな!」


 やらない善よりやる偽善。
 弱い偽善より強き善。

 俺は、そうやって生きていきたい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...