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第四章 新兵・ノベル!

30.待ちに待った異世界剣術!

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 ◆

 ヒロインは、死ぬ運命にある道具ではない。

 今ではあまり見なくなったが、過去の作品では『感動』を煽るためだけに無意味にヒロインが死ぬことが多かった。
 人が死ぬことは悲しいことであり、もう2度とその人に出会う事はできない。
 それが理由で、『感動させるためなら、ヒロインを殺せばいいじゃん』と安易な作者の空想によってコロコロと人が死んでいくのだ。

 ヒロインとは、主人公に最も近い人物であり、読者からすれば結婚相手や家族と同等の関係なのだ。(男性主人公の場合)

 言っておくけど、ヒロインは感動を誘うための道具じゃないからね?
 ラノベの中だとしても、文字は生きて動いているんだぞ!
 よくもまあそんな簡単に人を殺せるな!
 とりあえず、心が癒されるような絵本を読んだり
 童謡を歌って子供の頃の純粋な気持ちからやり直せ!

 ◆

「おし、構えろノベル! お前はカナヤの傭兵になったんだ! 剣と盾を用いた戦い方くらいは覚えなきゃなぁ!」

「分かってるぜハイライター! 死ぬほど鍛えたこの体、余すことなく使いこなしてやるよっ!」

 ――それから俺は、カナヤの傭兵の中で1番強い人物である、最高騎士長・ハイライターから剣の稽古を受け始めた!
 筋肉は最高調に鍛え上げられたものの、戦闘の基礎である剣士の戦い方や魔法の扱い方などは全く学んでいない。
 それを察したハイライターは、朝の6時から9時頃まで稽古をつけてくれることになった!

「ふぁー。本当、朝早くからよく体を動かせますね。アズちゃんは眠いです」

「お前が起こしてくれって言ったんだろうが!」

「ほら、どこ見てるノベル! 俺様から目を離していいのかなぁ?!」

 ハイライターはぐるりと一回転すると、右腕の剣が俺の盾に向けてくるのが分かった!
 そんな攻撃、俺の盾ですぐに受け止めてやる!

「だろうな! 熟練度がモノを云うのだよノベル!」

 ――瞬間、俺の足が宙に浮き、後ろ向きに倒れる!
 マジか、ハイライトの野郎、足を引っ掛けやがった!
 剣ばかりに目が行って、俺の盾で遮られる足元の部分から攻撃を仕掛けてきた!
 やっぱり、最高騎士長と言うだけあって、戦闘能力と経験値は馬鹿にならない!

「あいたっ!」

 俺はすぐに目を開いて剣を構えようとするが、すでにハイライターの剣先は、俺の頭の上にある。

「どうして立ち上がろうとする? 重厚な鎧を着てるのに、体を起こせるかな?」

「……確かに」

「じゃあ問題だ。ノベルは俺の前に倒れた。次はどうすればいい?」

「そりゃ、剣を避けるのが優先だ! 回転しながら避けるとか?」

「残念。正解は、『パリィ』と言う技術で剣を弾くことだ。ただし、これは剣対剣の条件下でだ。槍などの武器ではまた判断が変わってくる。それに、魔術を駆使するものや、二刀流の敵もいるだろう。その場合は――」


 ハイライターは珍しく、真面目な顔で俺に事細かく説明をしてくれる。
 普段はただのユーモア聞かせたお兄さんって感じだけど、いざ戦いのことになると騎士長という風格を醸し出す。

 ――すげぇじゃねぇか異世界!
 そもそも、最高騎士長から稽古受けられるって、めちゃくちゃラッキーなことなんじゃないか?

「もっと、もっと俺に剣術を教えてくれよハイライター!」

「そのつもりだぜ兄弟? 俺様に剣を教われば、間違いなく最短で全ての技をこなせるだろう。――ただし、甘いことは一切しねぇ。ここで手足が切り落とされたとしても、それは全て手前の実技不良ってだけだ。それに、俺様は1度教えたことは2度と教えねぇ。分かったか新米騎士!」

「あぁ! 全力で俺を殺しに来い!」

「ここは戦場だ! 俺様の独壇場のなぁ!」

 そして、俺はハイライターの剣をパリィする!
 教わったことは全て吸収、スポンジよりも強く吸収する!
 攻撃は最大の防御って言葉は本当なんだって体に染み込ませる!
 怯えるくらいなら、初めから剣術なんて習わないさ!
 俺は最終目的のためにこの時間を生きている!

「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
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