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第四章 新兵・ノベル!

34.ノベルの武器は、これだ!

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 ◆

 強力な戦闘武器の条件は、『遠距離からの攻撃かつ一撃で仕留められる威力を持つ』武器である。

 石器時代までで一番強い武器は弓とされ、中世以前ではカタパルトや連射型大型弩砲バリスタが有名だ。
 近世に近づくにつれて爆薬が開発され、『最強戦闘法』は陣を組んだ歩兵軍による近接戦闘から、一撃で一掃できる爆薬を用いた遠距離戦闘にスタイルを変えてきた。

 さて、本題に入ろう。
 果たして、これから戦闘を行うとして、単騎で大量の敵を制圧し、自分は怪我を負わない武器はどれだろうか?

 中世までの科学力限定で、歩兵武器で最も強いとされる武器は槍だそうだ。
 理由は単純に自分と味方のリーチが長いからだ。
 皆は知らないかもしれないが、槍は『突き刺す』と言うよりも『叩きつける』方が強力であるのだ。
 長さが3メートルもある槍であれば、敵の頭蓋を打ち砕くには十分すぎる。
 ただし、中世の世界観でありながらもすでに爆薬が開発されているというありがたい条件があるのだ。
 こんな情報を頂いておいて、この機を逃す理由が他にない。
 それに、俺はまだ魔法も何も使えないなまくらだ!
 それだったら、もうこれ一択しかないだろう!

 ◆

「私で良ければ。その、君の名は?」

 俺とハイライターは風呂から上がり、約束通り戦闘学を教授してもらう申請をするためにこの女性を訪ねていた。

 ハイライターは、げっそりした顔で俺を見る。
 明らかに俺の下した決断に心底納得がいっていないご様子だな。

「はじめまして! 俺の名前はノベルです! これから、よろしくお願いします!」


 俺は目の前であくびをする女性に向けて頭を下げた!
 その女性はとにかく天女というにふさわしい美貌の持ち主で、髪の毛はロングで黒髪。
 瞳の色は緋色で、大人しそうな顔立ちだ。
 クシャクシャの花の髪飾りをボサボサの髪の毛にくくりつけてセット完了のご様子。
 朝の9時だというのに、まだ隊服を着ておらず、オトナな黒下着の姿で現れたのだ!

「す、すまんないきなり訪問して。寝起きで悪いんだが、今すぐに色々と教えてはもらえんか?」

「それは残念。仕事があるから、これで」

 と、女性は扉の奥の方へと姿を消した。

「……どういう人なんすか、この人」

「こういうやつなんだ昔から。ここへ来て長いが、あいつが働いているところを俺様は一度も見たことがない。というかノベル! なぜこいつを師匠としようとしているのだ! 全く分からんぞ俺様は!」

 ハイライターの不満は爆発し、部屋の前で地団駄を踏む!
 だがしかしハイライター!
 俺はこの武器じゃなきゃ戦闘するやる気が出ないんだ!
 なんと言おうが、俺は絶対にこの人に弟子入りするからな!

「ええい、マスターの息子だからと遠慮していたが、もう言わせてもらうぞ! なぜノベルはそんなに馬鹿なんだ! これだけ筋肉を鍛え、剣術の基礎までを知っておきながらどうして遠距離支援の武器を選ぶ! 拳銃術の何がそんなにいいのだ!」

「銃って言うのはな! 俺の世界では、中世から現代にかけて最も強力な武器とされてきたんだぞ! 筒から発射される火薬兵器から文明は始まり、現代ではミサイル・ロケットとして世界的に脅威と称されている! つまり、飛び道具こそが最強なんだよ!」

「それがなぜロマンだと言うのだ! この世界では飛び道具として『魔法』がある! なのにどうしてノベルはわざわざ意味不明な銃術に固執するのだ! 俺様は全くもって納得がいかない!」

 ハイライターは珍しく火を吹きながら怒り狂う!
 初めて見たぞ、ここまでこいつが本気で興奮しているところ!
 ――やっぱり、一番弟子の行く末としては剣術や魔術の極みに到達して欲しいのだろう。
 魔法が存在するこの世界において、銃なんて言ってみれば最弱とまである。
 短剣とはいえアサシンスキルがあるだろうし、双剣とはいえ魔法の支援があれば簡単に間合いに入れるだろう。
 そう考えてみれば、本当に銃は需要がないのかもしれない。
 ただし、俺はその『最弱』という文に魅力を感じているのだよ!

 ラノベにおいて、『最弱』は『最強』に変換されるものなんだよ!
 そんな常識も知らずに何が最高騎士長だこの馬鹿!

「俺様は言うぞ! 絶対に銃術を学ぶことは許さん! 短剣学を受講しろ! ノベルには近接戦闘が確実に向いている!」

「そう言われても無駄だ! 銃はな、歴史上で最も強い武器なんだ! この世界がなんであろうが、俺は絶対にステイプラーさんに銃術を教えてもらうからな! 銃は男のロマンだ!」

「魔術こそがロマンだ!」

「銃こそが!」

「魔術こそが!」


 ――なんて俺とハイライターが喧嘩していると、突然ステイプラーさんがいる部屋の扉がバタンと開いた!
 すると、俺を見下すために下を向いていたハイライターの蒼白の角が扉に突き刺さって身動きが取れなくなってる!

「……ノベル。君は銃が好き?」

「だっ、ステイプラー! お前、わざと俺様の角が刺さるように扉を開いただろ! お前が穴から覗いてたの、気付いてたぞ!」

 ハイライターが角を抜こうとぐいぐい扉を引っ張るが、全く抜ける気配がない!
 ステイプラーさん、どんだけ強い力で扉を開いたんだ?!
 見た感じ、この扉の厚さは20センチくらいでかなり分厚い!
 おそらくこれは吸音ウレタン、防音材だ!
 ハイライターさん、外の音を遮断するためにガチ装備してんだなぁ……。
 全ては快眠のためだろうか?

「ノベル。こたえを聴かせて。君は、銃が好きか?」

「お、俺は銃が好きです! 何故ならば、銃が最強だと以前から思っていたからです! ラノ……本で武器の戦闘描写を見ても、間違いなく銃が強く、なによりもロマンがある! だから、俺は銃を選ぶ!」

「だー、ノベル! 銃学はさせないぞ! 銃なんかよりもよっぽど近接戦闘が」

 ――と、ステイプラーさんは突然、重厚な扉を思いっきり足刀蹴りした!
 明らかにハイライターの角が刺さった部分を蹴り、彼は蝶番ちょうつがいで回転して壁に叩きつけられる!

「おぶしっ!」

 俺の目の前に、綺麗な御御足おみあしが空中でつやめき、太ももが――!

「は、ハイライターぁぁ!」

 ガタガタと揺れる音がしていた扉だったが、ハイライターが壁に叩きつけられたが最後、なんの音も立てなくなってしまった。
 扉の奥にいる竜人は、一体どのような状況になっているのだろうか――。

「ノベル」

「は、はいっ!」

「私は君を気に入った。銃が何たるかを教授してあげる。部屋に入って」

 だらしない格好のステイプラーさんは俺の手を掴むと、付き合いたての女性が男を家に招き入れるような素振りを見せる!
 ダメだってこう言う展開は!
 ラノベではこう言うお色気展開はありがちだが、大抵は『突然、女の子の好感度マックス』はネタ扱いされるんだよ!

「と、とりあえず着替えてくださいステイプラーさん! 銃学を教えてくれるのならまず射撃場に」

「寝る。ノベルは今日から私の抱き枕」

「……はいっ? はいっ?!」
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