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最終章 ノベルとアズリエル
72.アズリエルのお願い
しおりを挟む「俺だってお前と一緒にいられるのならば、なんだってしたい。でも、もう無理なんだ。しちゃいけないんだよ、無限機関を作り出す現象である『タイムループ』は」
――ラノベでバランスを崩すガチで最もヤバイ現象、『無限に過去に戻れる』ことだ。
これができるのなら、あらゆることが実現可能になり、どのチートスキルよりも危ないんだ。
『ギャンブルの結果を全て覚えておく』
『敵の位置に先回りできる』
『魔法関係なしの不意打ち狙撃』
『未来に行って、過去で情報を売り捌ける』
『隠し悪役キャラを確認できる』
『常人ではできない犯罪・強姦・無差別殺人ができる』
『最も効率的な攻略ルートを検索できる』
『最悪の事態を乗り越えたくないから、先に元凶の芽を潰す』
タイムループはまさにそれが出来てしまう破格スキル。
さらに、矛盾メーターがついておきながら、それを回避できる、ノベルメイカーの超絶最大の欠陥だ。
白インクで、改稿もせずに文を丸ごと消せば、そこまでの過去に戻る。
物語の部外者、および物語の設定上の都合で外部サイドにいるアズリエルは、記憶が残ったままその時点で再開する。
身体状態はその時のままだが、精神と記憶は全く変動はない。
つまり、永久機関ができるのだ。
しかし、記憶は持って過去に戻るため、精神は疲弊する。
「なぁアズリエル。どうして俺は、今まで白インクで物語を丸ごと消すことがなかったから分かるか?」
「分かりますよ。ラノベでは、過去に戻ることはご法度だから……ですよね?」
「あぁ。過去――人生はやり直すことができない。だから、今が儚く尊く、悲しいんだ」
俺はポツポツと涙を落とし、アズリエルを強く抱きしめる。
今になって、本当に寂しくなってきた。
今日は、もうアズリエルに白インクで文を消させない。
だから、明日でこの物語は完結する。
もう、アズリエルとは会えなくなる。
温もりを感じられなくなる、優しい笑顔を見れなくなる、幸せの根源を失ってしまう――。
それでも、人は歩き出さなければならない。
俺はこれ以上、足踏みを続けてはならないんだ。
「……ノベル! アズちゃんは寂しいです! 寂しくて寂しくて、これからアズちゃんはどうすればいいですか?! アズちゃんはきっとこの世界に取り残されるでしょう。――最初は召喚されることが面倒くさいと思ってたのに、今はもう帰りたくないと思ってる。ノベルがいるから……それなのに、ノベルがいなくなったらアズちゃんはどうして生きていければいいんですか!」
アズリエルの泣き声が俺の部屋に響く。
――俺は何度も何度も告白をして、何度もその告白が無かったことになった。
何度も好きと言い合い、お互いに愛を感じ合った。
「俺を忘れないでほしい、かな。そんで、ルーラーと一緒にナンバーズを目指せ! ハイライターに仕込んでもらえたら、驚くほど強くなれるぞ?」
「そ、それは絶対に嫌です! あんな鬼畜トレーニングはまっぴらごめんです!」
だろうな。
お前は常にグータラグータラの堕天使だ。
ま、アズリエルはらしく生きていけばいい。
それにな、俺はお前を忘れないぞ?
「――俺が元の世界に帰ったら、真っ先にお前をヒロインのデザインとして使う!」
「えっ……?」
「聞いて驚け、天使族のアズリエルちゃんはまさかまさか、主人公の妻になる! そういうストーリーを俺が書いてやるよ! だから、もうこれ以上泣くのは終わりだ! 俺はアズリエルを絶対に忘れない! どんな作品のアズリエルも、超絶幸せにしてみせる! だから、もう泣くな!」
そう、前を向かなければならない!
寂しいけど、悲しいけど、俺たちは別れて生きていかなければならない!
「う、ううっ! 絶対にアズちゃんを幸せにしてあげてください! 幸せにして、素敵な笑顔にさせてください!」
アズリエルは背伸びをし、俺に寄っかかって目を瞑る。
俺はその仕草で察し、俺もゆっくりと目を瞑って彼女の唇に唇を重ねた。
ふっ、異世界でファーストキスを済ませちまうとはなんとも童貞の鑑たる転生者だな。
「今の、ファーストキスです」
「俺もだよ」
アズリエルの目は潤み、そして再び唇を尖らせる。
だから、俺は何度もアズリエルと唇を重ね、ねっとりした唾液を飲み込んでは糸を引いた。
――アズリエルの口の中は甘かった。
甘くて甘くて、甘すぎて……。
「くっ……アズリエル……」
「な、泣いてばかりじゃダメです! ……どんな物語のアズちゃんでも、幸せにしてあげてください。幸せにしなかったら、このアズちゃんはノベルの魂を刈り取ってあげませんから!」
アズリエルは涙を拭き取り、満面の笑みを見せてくれた!
そう、お前は笑顔が似合う最高の天使だ!
俺はお前のおかげで幸せだった!
ありがとうの言葉ばかりしか出てこない!
「……それとですね、ノベル。この世界にアズちゃんが残るに当たって、1つお願いがあるのです」
「おう、なんでも言ってくれ! お前の最後の願いだろうからな!」
「あの、あのですね。アズちゃんは天使族で、ノベルは新竜人族なわけです。設定上、オッケーらしいです」
――ん、なんの話だ?
「その、あの……。アズちゃんはすでに成熟した天使です。そして、今日は良い感じに悶々なのです」
ん、なに、なになに?!
悶々?!
「その……今日は女の子で言う『危険日』ってやつです! なので、今がナイスなタイミングなんです!」
え、へぇ?!
な、なな、ななな!
「はっ、ええ、そそそそうなのかぁ!」
やばい、こういう時、男からは何って言ったらいいのか分からない!
「あの、あのですね! ノベルがいなくなった後も、アズちゃんはノベルの妻であったという事実を残したいのです! だから、その……」
アズリエルは俺の手を掴み、そっと自分の胸にあてがった。
こここ、この展開っ……!
「ノベルとの赤ちゃんが欲しいです! アズちゃん、頑張ってノベルの赤ちゃんを産みたいです!」
俺は真っ赤になってそういうアズリエルの胸をちょっとだけ揉んでみた。
ほとんど胸はないけど、それでもちゃんとポツっと硬いものが手のひらに!
「どうなんですか、どうなんですかノベル! アズちゃんと子作りしてくれるのですか!?」
「え、あのっ……し、します! 是非お願いします!」
突然すぎる展開に俺は心底驚いた。
アズリエルは強引に俺の上に乗っかってくると、今まで我慢していた欲という欲の全てを吐き出してきたのだ。
まずい、これはもう……官能小説的展開だ!
とりあえず今日の執筆は終了だ終わり!
皆さん、お疲れ様でしたー!
これからは、我々だけのプライベート空間です!
さよならあっ!
◆
そりゃぁもう、激しかったな。
言っとくけど、お互い初めてなんだぞ?
なのに、アズリエルったら頑張りすぎたぜ全く。
『絶対に赤ちゃんが欲しいです! もっと頑張ってくださいノベル! 絞り出してくださいっ!』
――今でも、その表情を思い出すだけで鼻の下が伸びてしまう。
いやぁ、本当に凄かった……。
これが、異世界かぁ。
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