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最終章 ノベルとアズリエル

71.永久の誘惑

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 ◆


「起きろノベル! 今日は特別な日だぞ! パーティーだパーティー! 俺様たちがカップル誕生を爆発的に祝うのだ!」

「……流石にそろそろしんどくなって来た。頭がおかしくなりそうだ」

 俺はそれでもベッドから起き上がって元気にハイライターに受け答えをした。
 ――もうこれで6回目だ。
 俺は、この1日を無限ループしている。
 理由はもうすでに分かっているが、アズリエルに言い出すのが怖くて仕方がなかった。
 あいつはこれで幸せなのだろう。
 そして、俺もその行為に幸せを感じていたりする。

『ノベルとずっと一緒にいたいです!』

 ただ、その言葉だけが原動力となり、俺は今日を生きたい。
 ――でも、そろそろ親父が限界みたいだ。
 ごめんな、アズリエル。
 出会いがあるならば、別れも必ずあるんだ。

 ◆

「ノベルのベッドは今日もフカフカですね! いつまでもこうしてノベルと一緒に寝ていたいです!」

「え、お前は俺の部屋で寝るの初めてじゃないのか?」

「……はっ! そそ、そうですとも! アズちゃんがこの部屋に来るのも初めてですよ! もー、ノベルは馬鹿ですねぇ」

 アズリエルは目を右へ左へと泳がせる。
 まぁ、そもそも俺がこの異変に気付かないわけねぇだろバカ。
 ……だが、俺は何も言ったりしない。
 アズリエルが俺にしてくれてる想いはスッゲェ嬉しいんだ。
 しかし、この永遠にループを続ける1日にも、そろそろ終止符を打たなければならない。
 そうじゃなきゃ、アズリエルは本当に俺とここで過ごし続ける未来を望んでしまいそうだから。
 ――そして、俺もその永遠を許してしまうかもしれないから。

 ◆

「今日もお布団がぬくぬくです。アズちゃんはとても楽しいです。ノベルがずっとアズちゃんのそばにいてくれるだけで、幸せが溢れてくるのです」

「あぁ、俺もだ。お前がいなきゃ、俺はもう生きていけない気がする。ありがとな、アズリエル」

 俺は内心、ヒヤヒヤが止まらなかった。
 アズリエルは『無限』という甘言に取り憑かれ、少しずつだが精神が擦り減っていることが分かる。
 俺だって本当はずっと一緒にいたいさ!
 そんなことよりも……俺はお前がいなくなることよりも、アズリエルが壊れてしまう方が心配だ!

 永遠とは、ことごとく人格を歪めてしまうんだ。
 その結果、無限に依存して精神が崩壊し、ただ目的を捨てて風景を貪る廃人になってしまう。
 ――それだけは、それだけは避けなければならなかった。
 純粋で清らかなアズリエルのためにも。

「ねぇ、ノベル。アズちゃんは思うのです。ノベルメイカーをこれから極限まで改稿すれば、あと1週間は滞在期間を伸ばせますよ」

「そりゃ無理な相談だ。俺の改稿は絶対だ。綺麗に並べられたパズルをひっくり返して繋ぎ直すのには莫大な時間がいる。それに、過去にあったことを完全に無かったことにしちまったら、因果が、物語自体がダメになる。もう、過去の文は改変しない。このまま、明日で終わりだ」

「……だ、だったら! 最初から全部やり直すってのはどうですか!? そうすれば、アズちゃんたちは出会ったところからスタートします! また10万字の旅を一緒に始められます!」

「それも無理な相談だ。俺は現世に帰らなきゃならないし、筋トレした事実を消したくはないしな」


 アズリエルは駄々を捏ねる女の子のように俺に提案をしてくる。
 だが、全て却下だ。
 もう、今日がリミットだと決めたからには。

「……もう、眠たいです。ノベルは早く眠ってください」

「あれ、もっと話そうぜ?」

「今日は疲れました。おやすみなさい」

 ――こうやって、彼女は俺が寝静まるのを待つのだ。
 こうなると、アズリエルは絶対に話を聞いてくれない。

「分かったよ。じゃ、おやすみ」

 俺はランプを消し、アズリエルからわざと手を離して眠る態勢に入る。
 そして数時間が経つと、彼女はすすっとベッドから出て、俺の机の上でゴソゴソし始めるのである。
 アズリエルは、ベルトに貼り付けた四次元バッグのチャックからノベルメイカーを取り出して、そして――。

 しかしどうやら彼女が求めるものが無いようで、テーブルの上や下を眺め始める。
 あれれ、ペンがどこにも無い? って焦ってるんだろうな。
 どうしてどうして、探しまわっちゃうよアズちゃんは! ……って感じかな?



「探し物はこれか、アズリエル?」

「のっ、ノベル! 起きてたんですか?」

「あぁ。ってか、お前! 何回このくだりを繰り返す気だ! いい加減にしやがれ!」

「うっ……」

 アズリエルはノベルメイカーを机の上に置くと、俺のほうに歩いてくる。
 探し物――、それはこの『ノベルメイカーペン』だろう。
 そして、このペンを使ってアズリエルが何をするか、それはもう決まっている。

「また明日まで全部消すつもりか? この白インクを使って」

「そうですよ。何度でも何度でも、アズちゃんは消し続けます! どれだけ胸が痛くても、どれだけみじめに思えても、もうノベルと一緒に居れるのはこの方法しかないんです! この方法でしか、ノベルと過ごすことはできない! ……これしかもう、ないんです」

 アズリエルは俺に抱きつくと、強く強くしがみ付いて来た。
 お前の気持ちは痛いほど分かってる。
 もう、同じ日を6日も過ごしてる。
 昔読んだラノベでも同じ展開があったっけ。
 ま、残念ながら、俺は青春豚野郎ではないけどな。
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