1 / 4
プロローグ 『まさにどの世界もガチャは付き物だ』
しおりを挟む
静寂に包まれた夜。
周辺に光というものは一切無く、あるとすれば無数の星々の輝きだったがそれさえも今は姿を消している。
季節に合わない冷風が抜け、木々が騒ぎ出すと共に束の間の静寂は破られる。
腹の震えるような轟音。
微かなそれは次第に大きく、大きくなり身体全体までも震撼させる。
逃げなきゃ、これは普通じゃない。
辛うじて正気を保つ脳が警鐘を鳴らすも心は既に不安に染まり、足は恐怖の鎖に縛られていて何の反応も示さない。
自分の身体が自分のモノでない感覚。
今の状態を表すのにこれ以上的確な言葉はないだろう。
「........っ!?」
そびえ立つ木々が不自然に傾き、一瞬にして消える。
目前に迫るそれに俺は目を見張った。
激流だ。
山のあらゆるものを巻き込む激流。
これが土砂崩れか。
間髪入れる事なく走る激痛。
筋肉がギシギシと悲鳴をあげ、内臓が圧迫される。
上も下もわからない浮遊感に意識が沈んでいく。
ああ、これは死ぬな。
走馬灯が駆け巡る中、俺は命を散らした。
************************
はずなんだが。
「何で俺は生きてるんだろうな」
「生きてはいませんよ。確かにあなた、菱田龍也さんはあの時死にましたから」
天蓋付きの真っさらなベット、豪華な造りのシャンデリア。
何処かの国のお姫様が住んでそうな部屋のカーペットの上に座り込んだ状態で俺はそんな言葉を漏らす。
それに応えるのはこの部屋にいるもう一人の人物だ。
鮮やかな桃色の髪を肩ほどで整え、金の蔦の刺繍の入った貫頭衣のようなものに身を包んでいる。
通りかかる人が皆、振り返るような可愛らしい顔つきの少女の深紅の瞳が見つめてきた。
「今こそ私の力でそれはそれは酷い有様だった肉体も完璧に元どおりに構成出来てますが...あなたが学校行事を勝手に抜け出し、勝手に死んだおバカさんであることに変わりはありません」
「やめて、それは俺も自覚してるから」
何となくでこなすはずだった林間学校でどうしてあんな事を。
心のどこかでは何となく生きる生活に不満があったのだろうか。
いや、そんなはずは....多分ない。
人を助けるために死ぬならまだ格好がつくが、これは只のアホ死にである。
ああ、八十歳まで生きて家族に見守られながら普通に死ぬ予定だったのになあ。
頭を抱えながら唸り声をあげる俺に可憐な少女は呆れたように溜息をつく。
「自覚してるならいいです。ま、起こってしまったことは仕方ありませんし。自然災害なので一概にあなたのせいとも言い切れません。本来はこのまま消滅....
となるんですがちょっと事情がありまして」
「事情?」
俺の問いかけに少女はコクンと頷く。
「はい、ですのでタツヤさんには異世界転生という方法を取りたいと思います」
「.....そんな事出来んの?」
ラノベとかで多く出てくる異世界、主にファンタジーな世界は誰もが一度は憧れを持つ。
この主人公みたいに俺も異世界に!みたいな感じで...持たない人は知らん。
しかし、それはあくまでも創作であって実際には存在しないことも大半の人達は理解している。
俺もそれは理解しているので、そんなバカな!ハッ!!と鼻で笑ってやりたかったが、まずこの身に起こってる事が結構異常なので頭ごなしに否定は出来なかった。
というかこの子何者なの。
明らかに人間じゃないような...
「私は神様ですからこれくらいは造作もありません」
愛らしい少女は少し自慢げに胸を張る。
「はあ、それはすげぇな.....神様だったんだな」
「気づいてなかったんですか」
「普通、気づかなくね!?」
「あなたの身体をあっという間に無傷に出来るなんて神様くらいでしょう?人間の医者ならお手上げレベルですよ」
かなりご不満そうに頰を膨らませる神様。
一瞬、そんな感じはしたけど神様はスマホゲームのガチャ前とか初詣の時ぐらいしか信じないでしょ。
そう言えばスマホゲームの夏イベ近かったな....とか考えていると神様がハッと何かに気づいたかのように続ける。
「おっと、あまり時間がないですね...えーと、異世界に行くにあたってスキルを一つ付与することになってるので、今与えてしまいましょう」
そう言って、神様が俺の胸に手をかざす。
瞬間、胸に淡い光が宿り、やがて消滅した。
「これで終わり?」
「ええ、これで異世界に着いた時には使えるようになっているはずです」
あまり実感はないが、それは異世界の方で湧くだろう。
それより気になることを聞かなければいけないな。
「これってチートスキル?」
チートスキルがあるかないかによって結構変わる。
これがあれば富とか名誉とか何かも得て楽に暮らすなんて事も可能なわけだからね。
「それはわからないです。確かにとんでもないチートスキルが付与される前例もありますが...これランダムなんで」
「くじ引きかよ!?」
これからの生活が決まるっていうのにゲームのガチャと変わらんやん。
確率も分からないし、十連じゃなくて単発。
明らかに闇だが...ま、まあ、俺の運は覚醒してるはずだ。
何たって神様が構成した肉体の持ち主だし!
「さてスキルの付与も済んだので...そろそろ異世界への転生を開始しましょう」
神様がパチンと指を鳴らすと周囲にいくつもの魔法陣が浮かんだ。
それらはだんだんと数を増し、輝きも一層強くなる。
「あなたの異世界での生活が健やかであらん事を...心から願っています」
向日葵のような神様の笑顔を最後に俺の意識は途絶えた。
周辺に光というものは一切無く、あるとすれば無数の星々の輝きだったがそれさえも今は姿を消している。
季節に合わない冷風が抜け、木々が騒ぎ出すと共に束の間の静寂は破られる。
腹の震えるような轟音。
微かなそれは次第に大きく、大きくなり身体全体までも震撼させる。
逃げなきゃ、これは普通じゃない。
辛うじて正気を保つ脳が警鐘を鳴らすも心は既に不安に染まり、足は恐怖の鎖に縛られていて何の反応も示さない。
自分の身体が自分のモノでない感覚。
今の状態を表すのにこれ以上的確な言葉はないだろう。
「........っ!?」
そびえ立つ木々が不自然に傾き、一瞬にして消える。
目前に迫るそれに俺は目を見張った。
激流だ。
山のあらゆるものを巻き込む激流。
これが土砂崩れか。
間髪入れる事なく走る激痛。
筋肉がギシギシと悲鳴をあげ、内臓が圧迫される。
上も下もわからない浮遊感に意識が沈んでいく。
ああ、これは死ぬな。
走馬灯が駆け巡る中、俺は命を散らした。
************************
はずなんだが。
「何で俺は生きてるんだろうな」
「生きてはいませんよ。確かにあなた、菱田龍也さんはあの時死にましたから」
天蓋付きの真っさらなベット、豪華な造りのシャンデリア。
何処かの国のお姫様が住んでそうな部屋のカーペットの上に座り込んだ状態で俺はそんな言葉を漏らす。
それに応えるのはこの部屋にいるもう一人の人物だ。
鮮やかな桃色の髪を肩ほどで整え、金の蔦の刺繍の入った貫頭衣のようなものに身を包んでいる。
通りかかる人が皆、振り返るような可愛らしい顔つきの少女の深紅の瞳が見つめてきた。
「今こそ私の力でそれはそれは酷い有様だった肉体も完璧に元どおりに構成出来てますが...あなたが学校行事を勝手に抜け出し、勝手に死んだおバカさんであることに変わりはありません」
「やめて、それは俺も自覚してるから」
何となくでこなすはずだった林間学校でどうしてあんな事を。
心のどこかでは何となく生きる生活に不満があったのだろうか。
いや、そんなはずは....多分ない。
人を助けるために死ぬならまだ格好がつくが、これは只のアホ死にである。
ああ、八十歳まで生きて家族に見守られながら普通に死ぬ予定だったのになあ。
頭を抱えながら唸り声をあげる俺に可憐な少女は呆れたように溜息をつく。
「自覚してるならいいです。ま、起こってしまったことは仕方ありませんし。自然災害なので一概にあなたのせいとも言い切れません。本来はこのまま消滅....
となるんですがちょっと事情がありまして」
「事情?」
俺の問いかけに少女はコクンと頷く。
「はい、ですのでタツヤさんには異世界転生という方法を取りたいと思います」
「.....そんな事出来んの?」
ラノベとかで多く出てくる異世界、主にファンタジーな世界は誰もが一度は憧れを持つ。
この主人公みたいに俺も異世界に!みたいな感じで...持たない人は知らん。
しかし、それはあくまでも創作であって実際には存在しないことも大半の人達は理解している。
俺もそれは理解しているので、そんなバカな!ハッ!!と鼻で笑ってやりたかったが、まずこの身に起こってる事が結構異常なので頭ごなしに否定は出来なかった。
というかこの子何者なの。
明らかに人間じゃないような...
「私は神様ですからこれくらいは造作もありません」
愛らしい少女は少し自慢げに胸を張る。
「はあ、それはすげぇな.....神様だったんだな」
「気づいてなかったんですか」
「普通、気づかなくね!?」
「あなたの身体をあっという間に無傷に出来るなんて神様くらいでしょう?人間の医者ならお手上げレベルですよ」
かなりご不満そうに頰を膨らませる神様。
一瞬、そんな感じはしたけど神様はスマホゲームのガチャ前とか初詣の時ぐらいしか信じないでしょ。
そう言えばスマホゲームの夏イベ近かったな....とか考えていると神様がハッと何かに気づいたかのように続ける。
「おっと、あまり時間がないですね...えーと、異世界に行くにあたってスキルを一つ付与することになってるので、今与えてしまいましょう」
そう言って、神様が俺の胸に手をかざす。
瞬間、胸に淡い光が宿り、やがて消滅した。
「これで終わり?」
「ええ、これで異世界に着いた時には使えるようになっているはずです」
あまり実感はないが、それは異世界の方で湧くだろう。
それより気になることを聞かなければいけないな。
「これってチートスキル?」
チートスキルがあるかないかによって結構変わる。
これがあれば富とか名誉とか何かも得て楽に暮らすなんて事も可能なわけだからね。
「それはわからないです。確かにとんでもないチートスキルが付与される前例もありますが...これランダムなんで」
「くじ引きかよ!?」
これからの生活が決まるっていうのにゲームのガチャと変わらんやん。
確率も分からないし、十連じゃなくて単発。
明らかに闇だが...ま、まあ、俺の運は覚醒してるはずだ。
何たって神様が構成した肉体の持ち主だし!
「さてスキルの付与も済んだので...そろそろ異世界への転生を開始しましょう」
神様がパチンと指を鳴らすと周囲にいくつもの魔法陣が浮かんだ。
それらはだんだんと数を増し、輝きも一層強くなる。
「あなたの異世界での生活が健やかであらん事を...心から願っています」
向日葵のような神様の笑顔を最後に俺の意識は途絶えた。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を
逢生ありす
ファンタジー
女性向け異世界ファンタジー(逆ハーレム)です。ヤンデレ、ツンデレ、溺愛、嫉妬etc……。乙女ゲームのような恋物語をテーマに偉大な"五大国の王"や"人型聖獣"、"謎の美青年"たちと織り成す極甘長編ストーリー。ラストに待ち受ける物語の真実と彼女が選ぶ道は――?
――すべての女性に捧げる乙女ゲームのような恋物語――
『狂気の王と永遠の愛(接吻)を』
五大国から成る異世界の王と
たった一人の少女の織り成す恋愛ファンタジー
――この世界は強大な五大国と、各国に君臨する絶対的な『王』が存在している。彼らにはそれぞれを象徴する<力>と<神具>が授けられており、その生命も人間を遥かに凌駕するほど長いものだった。
この物語は悠久の王・キュリオの前に現れた幼い少女が主人公である。
――世界が"何か"を望んだ時、必ずその力を持った人物が生み出され……すべてが大きく変わるだろう。そして……
その"世界"自体が一個人の"誰か"かもしれない――
出会うはずのない者たちが出揃うとき……その先に待ち受けるものは?
最後に待つのは幸せか、残酷な運命か――
そして次第に明らかになる彼女の正体とは……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる