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旅先
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自分の姿を窓に移して確認すると少し安心した。感情はちゃんと押さえられている。でもうまく心の整理がつかない。祖父母に会えるかもという希望は一瞬で消え、その祖父母に対する仕打ちにも心が傷んだ。……母親はどんな気持ちでいたのだろう…。自分を産むとすぐに亡くなってしまったというのはこういった事が原因だったのだろうと簡単に想像がついた。
暗い気持ちで荷物をとりに行くとメイド頭が僕が寝起きしている部屋のドアの前に立っている。
「…何しに来たんだい?お前の事はもう奥様から聞いているんだ。さっさと出て行くんだね。」
このメイド頭は本妻さんが実家から連れて来た人なので本妻さんに忠実だ。胸を張り両腕を組んでドアに立ちはだかる。しかしこのメイド頭さんは言葉は酷くても実際に僕を傷つける事はしない人だ。
「はい。直ぐにと言うことですので荷物だけ取りに来ました。こうなると解ってはいましたので荷造りは済ませてあります。…荷物を検査してください。大事な物を盗んで行ったと言われては困りますので。」
もう会うこともないのだと思うとちょっとだけ強気になれた。部屋をもらえなかった僕の居場所だったパントリーに入れてもらいボロボロのバックから着替えを2組と母親の物だという木箱に入った遺髪、庭師のお下がりのポンチョ、割れた鏡と歯が何本か無い櫛……。何も文句は無いだろうとメイド頭を見ると意外にもメイド頭は沈んだ顔をしていた。そしてバックに荷物を戻すと、僕の目を見て真剣な表情で言った。
「よくお聞き、王都への道は知っているね?王都に行って城の求人を探しなさい。ルカは本当は賢い子だ文字の読み書きも計算も本当はちゃんと出来るって私は知っているよ。紹介状が無くても台所の下働きや水汲みなら雇ってもらえる。身売りなんてせずちゃんとしたところでやっていくんだよ、わかったね?」
そして王都への資金として小銀貨を3枚渡してくれた。……何だかんだと叱られはしても手を挙げる事はしなかったメイド頭に心から感謝して僕は言われた通り王都を目指して歩いた。
こうなる事を予想していた僕は屋敷の裏手の森の中にある潰れかけた小屋にちょっとずつ荷物を隠していた。汚れているけど丈夫なバックに自分で森からとってきた果実で作ったジャム。木の実。先代の庭師が隠居するときくれた小刀。デザインが古いと捨てられた正妻の息子のブーツやシャツ。ちょっとの銅貨。
用意しておいて本当に良かった。
こうして僕は王都に向かい、現在無事に到着している。だけど城で働くために向かって来たはずが途中の町で見た御触れにより城の一角で選定試験を受ける事になってしまった。
その御触れというのは
『成人を迎えた未婚者、婚約者のない者。かつ無垢なる者は役所に申し出ること。これは如何なる者にも与えられた義務であり隠匿する事は罪となる』
と書かれていた。それを安宿で女将さんから聞かされた僕は他の泊まり客の該当者と共に役所に連れていかれ、その町で集められた人達と一緒に王都に来た。
一緒に来た人達は100人を越えるため道中の盗賊等に襲われる心配もなく途中の寝食も提供されつつ来れたのでこの選定試験を不合格になっても運が良かったと思っている。
王都に着いた僕らは知らないうちに第一次試験に受かっていたらしく第二次試験として簡単な読み書きをさせられた。でもそれは本当に簡単な物で最低限出来れば良いというような物だったので僕でも受かることが出来た。次の第三次試験は面接だった。面接といっても僕らの姿を見るだけ。10人一組で面接官の前に並び、胸につけた1~10の番号が読み上げられると一歩前に出てクルリと一回りして戻る。全員が終わったあともう一度番号を呼ばれれば迎えの人に連れられて次の会場に向かう。呼ばれなかった人はここで放免になるので元の町に戻る人は連れてきてくれた人と一緒に戻るらしい。
ここまで来て僕たちはようやく詳しい話を聞くことが出来た。
『王の後宮に侍る為に100人の人間を厳選する。上位20人を推薦者として後宮に送る。残る80人は後宮で使える者とする。現在、先王の后も妃もなく現王の后はなく、妃が3名のみであるため推薦者に選ばれた者は等しく妃になれる機会が与えられる。』
……こんな事は夢みたいだ。
暗い気持ちで荷物をとりに行くとメイド頭が僕が寝起きしている部屋のドアの前に立っている。
「…何しに来たんだい?お前の事はもう奥様から聞いているんだ。さっさと出て行くんだね。」
このメイド頭は本妻さんが実家から連れて来た人なので本妻さんに忠実だ。胸を張り両腕を組んでドアに立ちはだかる。しかしこのメイド頭さんは言葉は酷くても実際に僕を傷つける事はしない人だ。
「はい。直ぐにと言うことですので荷物だけ取りに来ました。こうなると解ってはいましたので荷造りは済ませてあります。…荷物を検査してください。大事な物を盗んで行ったと言われては困りますので。」
もう会うこともないのだと思うとちょっとだけ強気になれた。部屋をもらえなかった僕の居場所だったパントリーに入れてもらいボロボロのバックから着替えを2組と母親の物だという木箱に入った遺髪、庭師のお下がりのポンチョ、割れた鏡と歯が何本か無い櫛……。何も文句は無いだろうとメイド頭を見ると意外にもメイド頭は沈んだ顔をしていた。そしてバックに荷物を戻すと、僕の目を見て真剣な表情で言った。
「よくお聞き、王都への道は知っているね?王都に行って城の求人を探しなさい。ルカは本当は賢い子だ文字の読み書きも計算も本当はちゃんと出来るって私は知っているよ。紹介状が無くても台所の下働きや水汲みなら雇ってもらえる。身売りなんてせずちゃんとしたところでやっていくんだよ、わかったね?」
そして王都への資金として小銀貨を3枚渡してくれた。……何だかんだと叱られはしても手を挙げる事はしなかったメイド頭に心から感謝して僕は言われた通り王都を目指して歩いた。
こうなる事を予想していた僕は屋敷の裏手の森の中にある潰れかけた小屋にちょっとずつ荷物を隠していた。汚れているけど丈夫なバックに自分で森からとってきた果実で作ったジャム。木の実。先代の庭師が隠居するときくれた小刀。デザインが古いと捨てられた正妻の息子のブーツやシャツ。ちょっとの銅貨。
用意しておいて本当に良かった。
こうして僕は王都に向かい、現在無事に到着している。だけど城で働くために向かって来たはずが途中の町で見た御触れにより城の一角で選定試験を受ける事になってしまった。
その御触れというのは
『成人を迎えた未婚者、婚約者のない者。かつ無垢なる者は役所に申し出ること。これは如何なる者にも与えられた義務であり隠匿する事は罪となる』
と書かれていた。それを安宿で女将さんから聞かされた僕は他の泊まり客の該当者と共に役所に連れていかれ、その町で集められた人達と一緒に王都に来た。
一緒に来た人達は100人を越えるため道中の盗賊等に襲われる心配もなく途中の寝食も提供されつつ来れたのでこの選定試験を不合格になっても運が良かったと思っている。
王都に着いた僕らは知らないうちに第一次試験に受かっていたらしく第二次試験として簡単な読み書きをさせられた。でもそれは本当に簡単な物で最低限出来れば良いというような物だったので僕でも受かることが出来た。次の第三次試験は面接だった。面接といっても僕らの姿を見るだけ。10人一組で面接官の前に並び、胸につけた1~10の番号が読み上げられると一歩前に出てクルリと一回りして戻る。全員が終わったあともう一度番号を呼ばれれば迎えの人に連れられて次の会場に向かう。呼ばれなかった人はここで放免になるので元の町に戻る人は連れてきてくれた人と一緒に戻るらしい。
ここまで来て僕たちはようやく詳しい話を聞くことが出来た。
『王の後宮に侍る為に100人の人間を厳選する。上位20人を推薦者として後宮に送る。残る80人は後宮で使える者とする。現在、先王の后も妃もなく現王の后はなく、妃が3名のみであるため推薦者に選ばれた者は等しく妃になれる機会が与えられる。』
……こんな事は夢みたいだ。
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