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聖女とルイード
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ノックをした後ルイードは王太子の執務室の扉を開ける。
「兄上、話とはなんだ?」
中に入ろうとして固まった。
「聖女様‥」
もう一ヶ月は会っていない、夢にまで見ていた聖女様が立っていた。
あぁ、少し痩せたか?
何があった?
聖女様を諦めるのに必死となり、彼女に気を配る事ができていなかった事を後悔した。
王城内に聖女様の危険は今のところないはずだ。
報告も来ていない。
なのに目の前の聖女様はこのように苦しそうなのだ?
駆け寄りたい。
話をしたい。
だが、今の俺に許されるものではない。
兄上が聖女様のところに婚約解消に行っていた。
もう成立したのだろう。
婚約者でも何でもない俺にこちらから話しかける資格などない。
「‥‥」
沈黙を破ったのは聖女様の方だった。
「ルイード‥さん‥」
ルイードさん‥前はそう呼ばれていた。
それなのに名前にさんを付けられただけでこんなに苦しくなる。
絞り出すように声を出す。
「聖女様、私の事はルイードと。私のような者に敬称をつける必要はありません。」
ただルイードと呼んでもらいたいだけだ。
なのにどうしてそう言えない?
それがこんな最悪の事態を招いたと言うのに、本当に情けない。
「じゃあ、ルイード」
そう名前で呼ばれるだけでこんなに胸の中があたたかくなる。
幸せな気持ちになる。
聖女様への不純な気持ちをなくそうと努力してきたのに、名前を呼ばれるだけで引き戻される。
「泣いているの?」
聖女様が心配そうな顔をしているのが見える。
そこで初めて自分の目から涙がこぼれている事に気付いた。
名前を呼ばれただけで涙が出るほど嬉しいなんて‥
「申し訳ありません。このような情けない姿を晒し‥一度頭を冷やして参ります。」
恥ずかしさのあまり、慌てて涙をぬぐい外に出ようとした。
「待って!ルイード」
聖女様にまた名前を呼ばれた。
あぁ。
やはり諦めきれない。
こんなにこんなに‥愛している。
「あなたに謝りたいの。ごめんなさい。」
頭を下げる聖女様。
「聖女様が謝る必要はありません。何に謝っているのかはわかりませんが。」
「何それ、謝っている内容もわからないのに謝らなくてもいいなんて、意味不明。」
クスリと笑う。
聖女様が笑ってくれた。
あぁ、神様もう何もいらない。
もう死んでもいい。
「ルイードの言葉を何も信じず、自分を守るためにあなたを傷つけた事を謝りたい。」
信じられないようにしたのは俺だ。
聖女様は何を謝る必要がある?
「聖女様は何も悪くありません。悪いのは私です。」
「‥我儘な事はわかっている。でももう聖女様と呼ばないで‥」
聖女様の目から涙がポロリと流れる。
「えっ、あっ、申し訳ありません。」
近づくこともできず、オロオロするしかない自分はなんて情けない。
そうだ、聖女としての自分を認められない彼女にとって聖女様と呼ばれるのは苦痛なのだろう。
名前はダメ‥
聖女様はダメ‥
なんて呼べば良い?
「気がきかず申し訳ありません。なんとお呼びすれば良いでしょうか?」
聞くしかない。
いくら考えても俺にはわからないのだから。
「コトミと‥」
「えっ‥ですが、それは‥」
呼んでいいのか?名前を‥
「呼ぶなと言ったのは私なのに、ルイードに聖女様と呼ばれ、敬語を使われるのは距離を取られているようで辛い‥」
えっ、俺はどうしたらいい?
距離を取ってはいけなかったのか?
今まで令嬢を避けることしかしてこなかったから女性の心なんかさっぱりわからない。
何をどうすれば正解なんだ?
混乱してコトミを見つめる。
「ルイード、私はあなたにコトミとして認めて欲しかったの。聖女でもなく、アイーダの代わりとしてでもなく‥」
「えっ‥コトミはコトミだろう。確かに聖女だが、コトミが聖女だろう。アイーダとはそもそも別だが‥」
「違うよ。アイーダの身体に入っているから聖女なんだよ。元々はただの人なんだ。」
「コトミはコトミだ。ただの人だろうが、聖女だろうがそれはコトミという存在に付いているものだ。何が違う?」
ルイードは首を傾げた。
本当にわからないのだろう。
それを見て、笑いがこみ上げてくる。
ルイードは本当に何も気にしてないんだ。
私をコトミとして見てる。
コトミという存在に付いているオプションが聖女って‥
「あははっ!考えすぎ!私って本当に馬鹿だ。」
お腹を抱えて笑う。
こんな風になるのはいつぶりだろう。
ルイードはそんな私を見て呆気に取られている。
「もう、お腹痛い。あはは」
そう、勝手に落ち込んで、勝手に結論出して、勝手にルイードを拒否して‥
何て最悪なやつなんだろう。
笑いながら泣ける。
ルイードは、その様子をどうすることもできずにオロオロしながら手を出したり、引っ込めたりしている。
「コトミ‥」
不器用にもほどがある。
そんなルイードをちゃんと見てなかったのは私。
目の前のルイードが可愛くて仕方ない。
「近くにいて欲しい。」
私から素直な思いを言わなければ、何も始まらない。
「近くにいてもいいのか?俺はお前に酷い事をした。許されるのか?」
ルイードの瞳が不安げに揺れている。
「私の方が酷いよ‥ごめんね。」
「兄上、話とはなんだ?」
中に入ろうとして固まった。
「聖女様‥」
もう一ヶ月は会っていない、夢にまで見ていた聖女様が立っていた。
あぁ、少し痩せたか?
何があった?
聖女様を諦めるのに必死となり、彼女に気を配る事ができていなかった事を後悔した。
王城内に聖女様の危険は今のところないはずだ。
報告も来ていない。
なのに目の前の聖女様はこのように苦しそうなのだ?
駆け寄りたい。
話をしたい。
だが、今の俺に許されるものではない。
兄上が聖女様のところに婚約解消に行っていた。
もう成立したのだろう。
婚約者でも何でもない俺にこちらから話しかける資格などない。
「‥‥」
沈黙を破ったのは聖女様の方だった。
「ルイード‥さん‥」
ルイードさん‥前はそう呼ばれていた。
それなのに名前にさんを付けられただけでこんなに苦しくなる。
絞り出すように声を出す。
「聖女様、私の事はルイードと。私のような者に敬称をつける必要はありません。」
ただルイードと呼んでもらいたいだけだ。
なのにどうしてそう言えない?
それがこんな最悪の事態を招いたと言うのに、本当に情けない。
「じゃあ、ルイード」
そう名前で呼ばれるだけでこんなに胸の中があたたかくなる。
幸せな気持ちになる。
聖女様への不純な気持ちをなくそうと努力してきたのに、名前を呼ばれるだけで引き戻される。
「泣いているの?」
聖女様が心配そうな顔をしているのが見える。
そこで初めて自分の目から涙がこぼれている事に気付いた。
名前を呼ばれただけで涙が出るほど嬉しいなんて‥
「申し訳ありません。このような情けない姿を晒し‥一度頭を冷やして参ります。」
恥ずかしさのあまり、慌てて涙をぬぐい外に出ようとした。
「待って!ルイード」
聖女様にまた名前を呼ばれた。
あぁ。
やはり諦めきれない。
こんなにこんなに‥愛している。
「あなたに謝りたいの。ごめんなさい。」
頭を下げる聖女様。
「聖女様が謝る必要はありません。何に謝っているのかはわかりませんが。」
「何それ、謝っている内容もわからないのに謝らなくてもいいなんて、意味不明。」
クスリと笑う。
聖女様が笑ってくれた。
あぁ、神様もう何もいらない。
もう死んでもいい。
「ルイードの言葉を何も信じず、自分を守るためにあなたを傷つけた事を謝りたい。」
信じられないようにしたのは俺だ。
聖女様は何を謝る必要がある?
「聖女様は何も悪くありません。悪いのは私です。」
「‥我儘な事はわかっている。でももう聖女様と呼ばないで‥」
聖女様の目から涙がポロリと流れる。
「えっ、あっ、申し訳ありません。」
近づくこともできず、オロオロするしかない自分はなんて情けない。
そうだ、聖女としての自分を認められない彼女にとって聖女様と呼ばれるのは苦痛なのだろう。
名前はダメ‥
聖女様はダメ‥
なんて呼べば良い?
「気がきかず申し訳ありません。なんとお呼びすれば良いでしょうか?」
聞くしかない。
いくら考えても俺にはわからないのだから。
「コトミと‥」
「えっ‥ですが、それは‥」
呼んでいいのか?名前を‥
「呼ぶなと言ったのは私なのに、ルイードに聖女様と呼ばれ、敬語を使われるのは距離を取られているようで辛い‥」
えっ、俺はどうしたらいい?
距離を取ってはいけなかったのか?
今まで令嬢を避けることしかしてこなかったから女性の心なんかさっぱりわからない。
何をどうすれば正解なんだ?
混乱してコトミを見つめる。
「ルイード、私はあなたにコトミとして認めて欲しかったの。聖女でもなく、アイーダの代わりとしてでもなく‥」
「えっ‥コトミはコトミだろう。確かに聖女だが、コトミが聖女だろう。アイーダとはそもそも別だが‥」
「違うよ。アイーダの身体に入っているから聖女なんだよ。元々はただの人なんだ。」
「コトミはコトミだ。ただの人だろうが、聖女だろうがそれはコトミという存在に付いているものだ。何が違う?」
ルイードは首を傾げた。
本当にわからないのだろう。
それを見て、笑いがこみ上げてくる。
ルイードは本当に何も気にしてないんだ。
私をコトミとして見てる。
コトミという存在に付いているオプションが聖女って‥
「あははっ!考えすぎ!私って本当に馬鹿だ。」
お腹を抱えて笑う。
こんな風になるのはいつぶりだろう。
ルイードはそんな私を見て呆気に取られている。
「もう、お腹痛い。あはは」
そう、勝手に落ち込んで、勝手に結論出して、勝手にルイードを拒否して‥
何て最悪なやつなんだろう。
笑いながら泣ける。
ルイードは、その様子をどうすることもできずにオロオロしながら手を出したり、引っ込めたりしている。
「コトミ‥」
不器用にもほどがある。
そんなルイードをちゃんと見てなかったのは私。
目の前のルイードが可愛くて仕方ない。
「近くにいて欲しい。」
私から素直な思いを言わなければ、何も始まらない。
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「私の方が酷いよ‥ごめんね。」
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