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第2章

ヴォルティスの裁き

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「神様?」

リーナは神様の言っている意味がわからなかった。

私に手を出した報い?
姿形は確かに神様だ。だが、リーナが知っている神様と全く雰囲気が違っている。
今まで怖いなんて思った事もなかったのに‥
神様の冷たい微笑みに背筋がゾクリとする。

そんな私の様子に気づいた神様は民衆から私に視線を向けた。

「怖いか?これが元々の私だ。」
そう言って神様は悲しそうに乾いた笑いを浮かべた。
私が神様にそんな顔をさせていると思うと胸が苦しくなった。

「神様!罰は私が受けます。私が闇落ちをしたのがいけなかったんです。ごめんなさい、ごめんなさい。」

「かわいい子が悪いわけではない。そなたは陥れられた、この男にな。」
神様は公爵を睨みつける。

「何を言う!私は何もしていない!」
公爵は神に怒鳴りつける。

「私はお前に発言の許可を出してはいない。」
低くなった神様の声が公爵に向けられる。
公爵は膝をつき、口をパクパクと動かすが、声を出せなくなっているようだ。

「私は裁きの神だ!私の前で嘘など通用しない!!」

神の神気が一気に強くなる。
神様は裁きの神?
リーナは一年半一緒にいたが、神様の役割を初めて聞いた。

民衆がパタパタと倒れる。
その様子を神様はチラッと見た後、別の方向を向く。

「この状況を見てもまだ、人々を守るつもりか?マークバルダ。」
神様の視線の先にはマークバルダ様が立っている。

「ヴォルティス様、民衆が真実を知ればパニックを起こし、穢れが多くうまれます。」
マークバルダ様は真っ直ぐに神様を見つめ答える。民衆はマークバルダ様によって眠らされただけのようだ。

「構わないだろう。今から裁きが始まるのだから、すぐに減る。」
神様は笑っている。

「ヴォルティス様‥」
マークバルダ様は次の言葉が出てこず、眉間のシワはさらに深くなった。

裁き?リーナにも状況はわからないが、最悪の事態になっている事だけは伝わってきた。

その時、バタバタと国王と騎士たちがやってきた為、ヴォルティスとマークバルダの話は中断された。

リーナは呆然と神達のやりとりを見ていた。
神様とマークバルダ様が信頼しあっていたのをずっと見てきた。
神様も口では文句を言いながらもマークバルダ様を大切にし、決してないがしろにしなかった。
それなのに‥神様とマークバルダ様の間に冷たい壁が見える。完全に対立している‥





「マークバルダ様、これはどう言うことでしょう?」
王がマークバルダに聞いた。
普通、神は民衆の前になど現れない神聖なもの。王は状況がわからず焦っていた。

ヴォルティスの冷たい視線が王に向く。
「お前がもっとしっかりしていれば、このような事態にならなかった。裁きを早めた罪は重いぞ。」
ヴォルティスの視線も声も冷たく突き刺さるようだ。
怒っている‥誰の目にもわかった。
王はゴクリと唾をのんだ。

ヴォルティスと王の間にマークバルダが入る。
「このような事態になり申し訳ありません。全ては私の責任です。」
ヴォルティスに頭を下げるマークバルダを見て人々は驚く。マークバルダは人と関わる神で一番高位の神だったのだから。
王達はヴォルティスがマークバルダより高位の神だと認識した。

「もう全て終わった事だ。私がかわいい子を望む事はそんなに難しい事だったか?唯一の望みすら私は叶えられないのか?」
ヴォルティスはマークバルダの謝罪など必要ないと目で言う。謝罪などなんの意味もないのだから。その代わりに何度も自分自身に問いかけた言葉を口にした。

「‥‥」
マークバルダは何も返答できなかった。
ずっと側にいたマークバルダにはヴォルティスの辛さや苦しみが痛いほど伝わっている。何を言っても慰めになどならない事がわかっていた。

「なぜ、人が裁かれるのですか?闇落ちした者への処理は人に任されているはずです。」
王が神々に問う。

「マークバルダが結んだ取り決めなど私には関係ない事だ。裁きの神として私のかわいい子を闇落ちさせ、悪意の対象とした者達への罪を問うだけだ。」
いちいち口を挟むなと言うように低い声でヴォルティスは答える。

「裁きの神?闇落ちさせた?どう言う事ですか?」
王は恐る恐る聞く。

「ここにおられるのは最高神ヴォルティス様だ。そしてそこにいる聖女候補はヴォルティス様の聖女となるはずだった。その者が闇落ちさせなければな。」
マークバルダが公爵を睨みながらヴォルティスの代わりに答える。

「最高神の聖女‥」青い顔をして王は繰り返す。
ヴォルティスは映像を王達に見せた。公爵の愚かな行為、民衆のリーナへの憎悪、最高神と呼ばれる神がかわいい子と呼ぶ者に向けられた悪意の一部始終を。

ヴォルティスは信じたかった。かわいい子が守ろうとしていた人達を‥あたたかい心もあるのだと。だからこそ、公開処刑の場まで様子を見ていた。
だが、民衆はかわいい子へ憎悪を向け、攻撃した。結局は公爵と何も変わらないという結論となった。

ヴォルティスは公爵に話しかける。
「わかるか?お前が犯した罪。私のかわいい子にどれだけ穢れを浄化する力があるのか。かわいい子がいなければ、もうこんな世界はとっくに終わりを迎えていた。」

公爵はパクパクと口を動かすのみで言葉を発せられなかった。

「マークバルダ、お前もわかっているだろう。私のかわいい子がいなくなれば、私の穢れは増える。どちらにしても人への裁きの時は近い。」

「はい、ヴォルティス様。」

「ならば、今でも良いだろう?少し早まるだけだ。」
そう言ってヴォルティスは微笑んだ。とても冷たく、決定事項だと言うように。
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