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「ミア、一緒に部屋に戻ろう。」

クリストファーはミルアージュの腰に手を回し、部屋を出ようとしている。

「クリストファー様!まだ疑いははれていません。今日、ミルアージュ様はこのままここに泊まっていただきます。」
宰相は慌てて止める。

クリストファーはどさくさに紛れてミルアージュと退室するつもりだった。

チッと舌打ちが聞こえる。

王太子が舌打ちをしたのか?

皆、クリストファーの顔を見て固まった。
溢れんばかりの殺気を押し殺し笑顔を貼り付けているクリストファーに恐怖を感じる。

クリストファーは他国からも恐れられている。
欲しいものを手に入れるためには手段を選ばない、ムチャだろうと何だってする。
そんな王子だった。
最近は落ち着いてきていたのに…

「もう一度言ってみろ。誰に疑いがかかっているのだと?こんなところにミアを置いておけるか。」

「ですが…」
宰相は少し腰が引けている。
クリストファーの威圧感に押されていた。

「私はここでも良いわよ。犯人じゃないけど、疑われるような軽率な行動したし。」
ミルアージュは皆に向かい頭を下げた。

クリストファーの殺気が消え、慌ててミルアージュに話しかける。

「だが、ミア。こんなところに一人で置いておけない。」

「アンも一緒よ。」

「だが、ミアが狙われた可能性だって否定できないのに。」

北の塔は王族や高位貴族が幽閉される塔だ。
侵入だって逃亡だってできない構造になっている。
クリストファーだってそのことを知っている。それでも自分の目に届かないところにミルアージュがいるのが嫌なのだ。

「確かにクリスの側が一番安全かもね。じゃあ、クリスもここに泊まる?」
ミルアージュはクリストファーに提案をした。

「えっ…」
北の塔は何度も言うが、犯罪を犯した王族などを幽閉する場所だ。

何もしていないクリストファーを北の塔に入れるなどあり得ない。

「いいのか?」
クリストファーはウキウキしながら答えている。

そんなにミルアージュ妃が良いのか?
宰相も尋問官もクリストファーの様子に驚いている。

ハァーと国王は大きなため息をつく。
「クリストファーもここに泊まって良い。だが、やるべき事の邪魔はするな。仕事も放棄するな。」

「ああ、わかった。」
クリストファーの声は弾んでいる。

こうして王太子夫婦は北の塔で一夜を過ごす事になる。

ルーマンが建国されて王族が罪も犯さず北の塔に泊まるのは初めてのことだった。




「なんか懐かしいわね、二人でこうやって過ごすのも。昔はよくクリスが会いにきてくれていたわね。」

こんなにのんびり過ごすなど久しぶりだった。

さっさと政務をやりあげ、クリストファーはミルアージュの元に戻ってきた。
こう言う時のクリストファーは無敵だ。
皆が驚くスピードで仕事を終わらせていた。

「そうだな、前はよくアンロックに会いに行っていたよな。」
クリストファーも上機嫌に返答する。

ミルアージュに会いたくて理由をつけてはアンロックに行っていたクリストファーは今こうやって自分の妃となったミルアージュが愛おしくて仕方がない。

「私はミアを幸せにできているか?こんな事に巻き込んですまない。」

幸せにできているか?
何度もこの言葉を聞いた。
クリストファーは悲しそうな顔をしている。今回の件はミルアージュ以上にクリストファーの方がこたえているようだ。

「クリスのせいじゃないし、私は幸せよ。」
クリストファーは優しくミルアージュは抱きしめた。

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