わがまま妃はもう止まらない

みやちゃん

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「国の存亡に関わる事態…」
アルトがゴクリと唾をのんだ。
アビーナルはある程度予想していたのだろう。表情は全く変わらなかった。

「そう、もうこの国はもたないわ。一番問題なのはその危機感を持っている者が王城内に少なすぎる事ね。国王やクリスの味方が増えればもう少し違う道を辿れていたはずなのに…」

ミルアージュは悲しそうに言った。

「平和が続き、強い統率力の必要なくなったルーマンの王族の力が弱くなったのはわかるわ。議会も整備されて、王の暴政を止められる仕組みもうまく機能すればとても良いシステムだしね。」

アンロックも王政をとっているが、議会にも一定の力を持たせている。
ただ、現状のルーマンではその体制が国王やクリストファーの変革の邪魔でしかない。
貴族達が自分達の都合が良いように体制を変えていこうとしている…
ここで、法に乗っ取って貴族達は動いている。それを無理やり王族主導で変革すれば、クーデターが起こるのは間違いないだろう。
自分達の利益を減らすような事に納得するはずがないのだから。

いくら国力や軍事力が落ちていると訴えてもルーマンという大国を誇り、自分達が一番だと思っている貴族達に理解させるのは難しい。

「今の体制に不満を持つ者もいたはずだけど、それを言う者はこの王城で生き残れていないのでしょうね…」

「ルーマンはそんなに弱体化しているのですか?」
アビーナルはミルアージュに聞いた。

アビーナルだって現状の体制に納得しているわけではない。この国を蝕んでいるのも理解はできるが…近い未来に存亡がかかるレベルだというのは信じられなかった。
アンロックと並ぶ大国ルーマンであるはずだ…

「特に軍部がやばいわ。ここは戦争も魔獣と戦う必要もないし、実力主義でなくても十分やっていけるから…低レベルすぎて話にならない。アンロックの新人の方がまだマシよ。瞬殺されるわ。」
新人であろうと元々実力があるものばかりだ。
はっきり言って勝負にもならないとミルアージュはため息をついた。

「そんなにか…」
軍部のレベルにアルトが驚きを隠せない。
身分があれば出世ができる。コネが何よりものをいうルーマンで実力があるものは目をつけられ潰される。
育たないのは当たり前だ。

「どのくらい弱いかというと…例えばアンロックと戦争になったらルーマンはどのくらいもつと思う?」
ミルアージュの口調はルーマンが負けるのは絶対のようだ。

「そっち方面は私の専門範囲ではないですが、一年は戦えるのではないですか?」
軍部の人数、武器、蓄えなど考えてもそんなにすぐにやられる程ではないだろう。 

長期戦になれば、軍部が強く、豊かな財源、資源があるアンロックに負ける事は予想できる。

「周辺の都市なら一週間かからないし、中心の王都を落とすのには移動も含めて一ヶ月かからないわ。でも、クリスが出てくればかなり面倒だから、私なら離れている隙を狙うわね。」

「はっ?一ヶ月?」
王都が落ちるというのはルーマン軍の全滅をいう。
アンロックからルーマン王都までの移動も入れてその期間で落とすなら実質は二週間ほどで落ちる計算をしている。

「そんな事は…」
さすがにアビーナルも驚きが隠せない。

「第一部隊より第二部隊が特にひどい。クリスがわざとに使えない者達を集めたような雑な部隊だわ。国王の指揮する第一に入れられないからだけど、クリスはよく抑えていると思うわ。」

国王の力では軍をまとめきれないため、隊長の手腕が必要となるが、第二部隊は隊長すらひどい有様だ。その部隊を指揮するクリストファーがどれほど大変かわかる分、ミルアージュも同情していた。

「あー、第二部隊はキュラミール隊長ですからね…」
軍部に疎いアビーナルですらその名を知っていた。
王城内で力を持つキュラミール公爵家。
王族の血も入っており、家格第一主義。敵対するものには容赦ないため、絶対に敵に回るなと言われている。

「クリスは実力のある潰されそうな者達の為に第三部隊を新設したの。第三部隊が一番まともだわ。」

「だが、アンロックの同盟国のルーマンに手を出す国などないだろう?」

あんなに世界情勢に疎かったアルトの座学効果は出ているとミルアージュもアビーナルも思った。

「アンロックが同盟を破棄したらどうなる?」
ミルアージュは静かに口を開く。
それが一番最悪なパターンだ。

「えっ、そんな事があり得るのですか?」
ミルアージュはアンロックの元王女だ。元々そんな話が出ていたのかと聞くとミルアージュは首を横に振った。

「ルーマンに来てからこの現状を知ったわ…ルーマンが属国となりアンロックに対価を払って守ってもらうのはありよ。だけど、同盟は対等な立場なのよ。対価もなしに守るだけなんて必要ないでしょう。国にとって利益よりリスクが高ければ同盟の必要性はないわ。」

アンロックとルーマンという大国の同盟で世界の均衡をはかれているのならまだアンロックも我慢できるだろうが、それすら難しい状況となっている。

「属国になど絶対にならないでしょうね…」
アビーナルは眉間にしわを寄せた。

力もないくせにプライドだけが高い者達の集まり…
対価を渡し属国という選択を選ぶとは思えない。

「実力すらわかっていないから痛い目を見るまで気付かない。その時に後悔しても、もう終わりよ。ルーマンの状態が知れ渡り、アンロックの保護がなければ豊かな土地を持つルーマンは狙われるわ。」

「ですが、アンロックにはルーマン第二王女が嫁ぎ、ミルアージュ様もルーマンにいるのですよ。友好関係のあるアンロックが同盟を切るなど…」

「…もし私や第二王女を気にして国を危険に陥れるなんてあり得ない。レンドランド王であろうと私情を政務に入れることは許されない。」

あの優しいレンドランドならきっと苦しむだろう。
だが、アンロック王として決断するはずだ。
ルーマンを切ると。

アンロックにいた頃のレンドランドの辛そうな顔を思い出しミルアージュは避けられたらと祈ることしかできなかった。





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