わがまま妃はもう止まらない

みやちゃん

文字の大きさ
80 / 252

80

しおりを挟む
「ミルアージュ様に軍の指揮ができるわけがない!大体あの第三部隊を出すなど我が国の恥だ!」
第二部隊隊長のキュラミールは叫んで立ち上がった。

「恥?」
突き刺すようなミルアージュの冷たい視線がキュラミール隊長に向けられた。
その場にいた者達はミルアージュのあまりの威圧感に固まった。

「ルーマンで一番マシな部隊が第三よ。これ以上侮られる訳にはいかないの。国の存続がかかっている時にあなたのしょうもないプライドで時間をかけたくない。」

「しょうもないプライドだと!」
キュラミール隊長は拳を握り、今にもミルアージュに殴りかかりそうな勢いだった。

「…キュラミール隊長、席につけ。命令だ。」
クリストファーにそう言われると従わない訳には行かずキュラミールは納得いかない顔をしながら渋々席についた。

「まずリスクがある以上、ミルアージュを出す事はできない。私の代わりはいてもミルアージュの代わりはいない。今のルーマンには必要な存在だ。アビーナル、アルトへの命令内容を見ても父上もそう判断しているのだろう。」

クリストファーの発言に皆言葉を失った。
どうして王太子妃が王太子より重要となるのか。
クリストファーの寵愛は有名だが、国王はなぜ?

ミルアージュが口を開く。
「クリストファー殿下、私が出るのが一番最適だとわかっていますよね?それとも私が信じられませんか?」

ミルアージュの口調は丁寧だ。何より冷静に話している。
それなのに…クリストファーに向けられた圧はものすごく強いものだった。

「…私が出るよりうまく場をおさめる事ができるだろう。だが…」
クリストファーはミルアージュに嘘がつけない。すぐにバレる嘘などついてミルアージュの信頼を失いたくない。昔からの癖のようなものだったが、ミルアージュを守るという重要な場面でも嘘をつくという選択を選ぶ事はなかった。

「ミルアージュ様の方がクリストファー様よりうまく場をおさめる?そんな…ありえない。」
宰相がポソリと呟く。
クリストファーはルーマンが誇る王太子だ。それなのに、クリストファー自身もミルアージュもミルアージュの方が上だと考えている。

「勘違いしないで、私の方が優秀と言っているわけではないわ。良くも悪くもクリストファー殿下はアンロックでも要注意人物だったわ。」

ミルアージュはクリストファーをチラッと見てフゥとため息をついた。
厳重な守りを誇っているアンロック王城に息を吸うように不法侵入し、行動も全く読むことができない。常識も通用しない。ある意味誰よりも怖い人物だった。

「相手の裏をかく戦法ならピカイチよ。クリストファー殿下の行動は誰にも予測できない。だけど、正攻法しかもレーグルトが相手なら私の方が有利だわ。」

クリストファーが皆にわかるように説明を付け足した。ミルアージュは自分から何も言わないが、この先の話には必要な事だ…

「ミルアージュはレーグルト・レンラグスの連合軍と戦った時のアンロック側の総司令官だ。」

「はっ?アンロックが不利の中、圧勝したあの戦いですか?」

「そうだ、当時13歳だったミルアージュはアンロックの白銀強王と呼ばれていたな。」

白銀強王とは、顔まで隠した白銀の鎧を身につけていた王に付けられた通り名だった。

クリストファーは吐き捨てるように言う。クリストファーにとってミルアージュを苦して続ける最大の戦争だっただけに苛立ちが隠せなかった。

「あれはアンロックの前王だったのでは?」
宰相が少し考えてから聞いた。

「前王は病に臥せっていた。だが、あの場では王の存在は必要だった。誰よりも強い王がな…ミルアージュは王の替え玉だ。」

アンロックはまだ成人もしていないミルアージュに全てを押し付け利用した。
クリストファーはそんなアンロックの連中を毛嫌いしていたはずなのに…蓋を開ければ自分もそんなアンロックの連中と同じ事をミルアージュにしようとしている。
そして、ミルアージュはまた心の傷を増やす。

「クリストファー殿下、そんな真剣な顔をしてもダメよ。あの後大変だったんだから。」
その頃のミルアージュを思い出し殺気を出しているクリストファーにミルアージュは釘をさす。

「クリストファー様もその戦に関わっていたのですか?」
宰相が聞いた。ルーマン宰相ですら知らない隣国の内情をまだ成人もしていないクリストファーが知っている事に首をひねった。

「関わっていたというか…終わった後にちょっとな。」
クリストファーは何事もないようにシレッと誤魔化した。

ミルアージュは冷たい視線をクリストファーに向けながら説明した。
「開き直らないで。本当に大事だったのよ。私が王の代わりで戦に出ていた事に激怒してアンロックに怒鳴り込んだ挙句、無抵抗の軍部大将を殴り飛ばすなんてね。」

「は?殴り飛ばした?」
宰相が驚きのまま呟いた。

他国の内情に口を出した挙句に軍の大将を殴るなどあり得ない…謝罪で済むのか?
まだ成人していないとは言え、王太子クリストファー様がアンロックで処刑されてもルーマンも文句をいう資格すらないレベルの話だ。

国王が真っ青な顔でアンロックに旅立った事があったな…宰相は国王の苦労に少し同情した。

「ミアに苦痛を与えた愚か者だ。当たり前だ。アンロック王は病で弱ってたからさすがに殴れなかったがな。」

言い換えれば…病人じゃなければ殴っていたと言っているクリストファーに皆が青ざめた。

殴っていたらクリストファーは確実にこの場にはいなかったはずだと思ったから。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章をゆっくり更新中です。書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

処理中です...