わがまま妃はもう止まらない

みやちゃん

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アザイルは多忙だ。
だが、少しくらいの損害が出たとしてもミルアージュに会う方が得だと考えたため、すぐに返事を書いた。

部下達にはかなり文句を言われたが、こればかりは譲れなかった。
自分の直感を信じてここまで商店を大きくした。

だからこそ、今回はミルアージュ優先で行くべきだという自分の直感に素直に従った。

ミルアージュに初めて会った時言っている意味がわからず混乱もしたが、無理をしても来て良かったと思うまでに時間はかからなかった。

アンロックの王女であるミルアージュはルーマンにない感覚を持っている。
ミルアージュから聞かされる内容はアザイルの考えつかないものだった。

だが、新たなものを提案するだけではない。
ルーマンに沿わないと意見を出すと柔軟に人の意見にも耳を傾ける。

それが支配者側の人間にどれほど難しいものなのかアザイルもわかっている。

何より遠慮せずものが言い合えるというものはとても楽しかった。

ミルアージュなら許してくれる、そう思わせる魅力がある。

これが悪評高い王太子妃…
本当にこの国の人間は人の見る目がない。
いやアンロックもだろう。
こんな人材を国外に出すなんて。

ミルアージュを自分の商店に引き込みたいという欲を抑えるのに苦労している。

これほどの知識、技術を持つ人材を手に入れられないなんて…

王太子妃ではあるが、離縁の話も出ていると聞く。
アンロックにも戻るつもりもないだろう。
戻るつもりならこんな街に来ていない。

数ヶ月前の前のことを懐かしく思いながらこんなに心を許してしまった自分にアザイルは苦笑いをした。
「ミア様は今後どうしたいのですか?」

ミルアージュは街をまっすぐに見て笑って言った。

「この街の皆が皆が笑えるようにしたいわ。」

「いえ、ミルアージュ様自身の事を聞きたいのです。これが終われば王城に戻るのですか?それとも離れるのですか?」
商人と王太子妃の会話の域を超えているのをアザイル自身自覚しているし、不敬罪に問われてもおかしくない。

だが、王城から離れアンロックに戻らないのなら…
そんな淡い期待がアザイルの中にあった。

返答によっては色々と準備をしなければならない。

「わからないわ。」

「わからない?」

「そう、私がこの国の役にたてるなら戻るし、邪魔になるなら消えるしかない。まだ結果は出てない。」

ミルアージュは遠くを見た。
ミルアージュ自身はクリストファーとともに生きる事を決めている。
だが、そうできない状況となることも考えられる。

その切なそうな表情にアザイルはドキリした。

「この街の事ですか?概ね成功ではないですか?」
あんな寂れた街をここまでしたのだ。
誰も文句は言えないだろう。

「この街にはまだ大きな問題が残ってるわ。それに結果が出ていないのはこの街じゃない…」
最後は独り言のように呟いた。

「もし離れる事になれば私のところに来ませんか?今あなたがお持ちの身分には及びませんが、財産は今以上をお約束しましょう。」

ミルアージュは少し驚いた顔をしたがすぐに笑った。

「ありがとう。でも無理だわ。」

「あなたの存在は表には出さないようにします。」

「そういう話ではないわ。私は商人にはなれないの。」

「それほど優れた感覚や経験を持ちながら何を言うのですか?」

「私は稼ぐ事ができない。民の幸せが第一だからね。」

商人ならばどうしても利を考えなければいけない。
それが当たり前だ。
慈善事業をしているわけではないのだから。

ミルアージュは民の利が全てだ。
たとえ赤字を出しても最善の道を探す。

「ならばあなたの個人資産を作りそこから慈善事業をしてください。この国最大の商店です。あなたが困らないくらいの融通はできます。身分が足りないのでしたら爵位を私が受けましょう。」
アザイルも粘った。
ルーマン最大の商店の主であるアザイルは貴族からも一目置かれている。
貴族の身分など煩わしいもので断っていたが、ミルアージュが手に入るのなら我慢できる。
そのくらいミルアージュがどうしても欲しかった。

「アザイル、そういう事を言っているのではないわ。私の行動は敵を作り、悪評もでる。商店には痛手になるわ。それを考えて動けなくなるのは嫌なのよ。」
今の立場を失ったとしてもミルアージュは生き方を変えられない。
そんな事はわかっている。

「ははっ、私は振られたのですね。」

「そんなつもりはないわ。」

「私には迷惑かけられない…ですが、クリストファー様なら迷惑かけてもいいと思われたのでしょう?」

王太子妃を隠すわけにはいかず、ミルアージュの名はどうしても表に出る。
悪評が高かったミルアージュ。
そしてルーマンに来てからのミルアージュの言動に対する貴族たちの反発もある。
それを一手に引き受けるクリストファーの事を考えない訳ではなかっただろう。

「それは…」

王太子と商人である自分を比べてしまうなんて愚かだ。
そう思いながらも諦めきれない気持ちでいっぱいだった。

「クリストファー様ときちんと話し合う方が良いですよ。後悔しますから。ここの支払いは私がしておきます。」

うまくいかなければいいのに…
そうなれば、その機会を見逃さない。
アザイルはニッコリとミルアージュに笑いかける。

そのままアザイルは立ち上がり、ミルアージュに頭を下げ店を出た。

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