123 / 252
123
しおりを挟む
アザイルは多忙だ。
だが、少しくらいの損害が出たとしてもミルアージュに会う方が得だと考えたため、すぐに返事を書いた。
部下達にはかなり文句を言われたが、こればかりは譲れなかった。
自分の直感を信じてここまで商店を大きくした。
だからこそ、今回はミルアージュ優先で行くべきだという自分の直感に素直に従った。
ミルアージュに初めて会った時言っている意味がわからず混乱もしたが、無理をしても来て良かったと思うまでに時間はかからなかった。
アンロックの王女であるミルアージュはルーマンにない感覚を持っている。
ミルアージュから聞かされる内容はアザイルの考えつかないものだった。
だが、新たなものを提案するだけではない。
ルーマンに沿わないと意見を出すと柔軟に人の意見にも耳を傾ける。
それが支配者側の人間にどれほど難しいものなのかアザイルもわかっている。
何より遠慮せずものが言い合えるというものはとても楽しかった。
ミルアージュなら許してくれる、そう思わせる魅力がある。
これが悪評高い王太子妃…
本当にこの国の人間は人の見る目がない。
いやアンロックもだろう。
こんな人材を国外に出すなんて。
ミルアージュを自分の商店に引き込みたいという欲を抑えるのに苦労している。
これほどの知識、技術を持つ人材を手に入れられないなんて…
王太子妃ではあるが、離縁の話も出ていると聞く。
アンロックにも戻るつもりもないだろう。
戻るつもりならこんな街に来ていない。
数ヶ月前の前のことを懐かしく思いながらこんなに心を許してしまった自分にアザイルは苦笑いをした。
「ミア様は今後どうしたいのですか?」
ミルアージュは街をまっすぐに見て笑って言った。
「この街の皆が皆が笑えるようにしたいわ。」
「いえ、ミルアージュ様自身の事を聞きたいのです。これが終われば王城に戻るのですか?それとも離れるのですか?」
商人と王太子妃の会話の域を超えているのをアザイル自身自覚しているし、不敬罪に問われてもおかしくない。
だが、王城から離れアンロックに戻らないのなら…
そんな淡い期待がアザイルの中にあった。
返答によっては色々と準備をしなければならない。
「わからないわ。」
「わからない?」
「そう、私がこの国の役にたてるなら戻るし、邪魔になるなら消えるしかない。まだ結果は出てない。」
ミルアージュは遠くを見た。
ミルアージュ自身はクリストファーとともに生きる事を決めている。
だが、そうできない状況となることも考えられる。
その切なそうな表情にアザイルはドキリした。
「この街の事ですか?概ね成功ではないですか?」
あんな寂れた街をここまでしたのだ。
誰も文句は言えないだろう。
「この街にはまだ大きな問題が残ってるわ。それに結果が出ていないのはこの街じゃない…」
最後は独り言のように呟いた。
「もし離れる事になれば私のところに来ませんか?今あなたがお持ちの身分には及びませんが、財産は今以上をお約束しましょう。」
ミルアージュは少し驚いた顔をしたがすぐに笑った。
「ありがとう。でも無理だわ。」
「あなたの存在は表には出さないようにします。」
「そういう話ではないわ。私は商人にはなれないの。」
「それほど優れた感覚や経験を持ちながら何を言うのですか?」
「私は稼ぐ事ができない。民の幸せが第一だからね。」
商人ならばどうしても利を考えなければいけない。
それが当たり前だ。
慈善事業をしているわけではないのだから。
ミルアージュは民の利が全てだ。
たとえ赤字を出しても最善の道を探す。
「ならばあなたの個人資産を作りそこから慈善事業をしてください。この国最大の商店です。あなたが困らないくらいの融通はできます。身分が足りないのでしたら爵位を私が受けましょう。」
アザイルも粘った。
ルーマン最大の商店の主であるアザイルは貴族からも一目置かれている。
貴族の身分など煩わしいもので断っていたが、ミルアージュが手に入るのなら我慢できる。
そのくらいミルアージュがどうしても欲しかった。
「アザイル、そういう事を言っているのではないわ。私の行動は敵を作り、悪評もでる。商店には痛手になるわ。それを考えて動けなくなるのは嫌なのよ。」
今の立場を失ったとしてもミルアージュは生き方を変えられない。
そんな事はわかっている。
「ははっ、私は振られたのですね。」
「そんなつもりはないわ。」
「私には迷惑かけられない…ですが、クリストファー様なら迷惑かけてもいいと思われたのでしょう?」
王太子妃を隠すわけにはいかず、ミルアージュの名はどうしても表に出る。
悪評が高かったミルアージュ。
そしてルーマンに来てからのミルアージュの言動に対する貴族たちの反発もある。
それを一手に引き受けるクリストファーの事を考えない訳ではなかっただろう。
「それは…」
王太子と商人である自分を比べてしまうなんて愚かだ。
そう思いながらも諦めきれない気持ちでいっぱいだった。
「クリストファー様ときちんと話し合う方が良いですよ。後悔しますから。ここの支払いは私がしておきます。」
うまくいかなければいいのに…
そうなれば、その機会を見逃さない。
アザイルはニッコリとミルアージュに笑いかける。
そのままアザイルは立ち上がり、ミルアージュに頭を下げ店を出た。
だが、少しくらいの損害が出たとしてもミルアージュに会う方が得だと考えたため、すぐに返事を書いた。
部下達にはかなり文句を言われたが、こればかりは譲れなかった。
自分の直感を信じてここまで商店を大きくした。
だからこそ、今回はミルアージュ優先で行くべきだという自分の直感に素直に従った。
ミルアージュに初めて会った時言っている意味がわからず混乱もしたが、無理をしても来て良かったと思うまでに時間はかからなかった。
アンロックの王女であるミルアージュはルーマンにない感覚を持っている。
ミルアージュから聞かされる内容はアザイルの考えつかないものだった。
だが、新たなものを提案するだけではない。
ルーマンに沿わないと意見を出すと柔軟に人の意見にも耳を傾ける。
それが支配者側の人間にどれほど難しいものなのかアザイルもわかっている。
何より遠慮せずものが言い合えるというものはとても楽しかった。
ミルアージュなら許してくれる、そう思わせる魅力がある。
これが悪評高い王太子妃…
本当にこの国の人間は人の見る目がない。
いやアンロックもだろう。
こんな人材を国外に出すなんて。
ミルアージュを自分の商店に引き込みたいという欲を抑えるのに苦労している。
これほどの知識、技術を持つ人材を手に入れられないなんて…
王太子妃ではあるが、離縁の話も出ていると聞く。
アンロックにも戻るつもりもないだろう。
戻るつもりならこんな街に来ていない。
数ヶ月前の前のことを懐かしく思いながらこんなに心を許してしまった自分にアザイルは苦笑いをした。
「ミア様は今後どうしたいのですか?」
ミルアージュは街をまっすぐに見て笑って言った。
「この街の皆が皆が笑えるようにしたいわ。」
「いえ、ミルアージュ様自身の事を聞きたいのです。これが終われば王城に戻るのですか?それとも離れるのですか?」
商人と王太子妃の会話の域を超えているのをアザイル自身自覚しているし、不敬罪に問われてもおかしくない。
だが、王城から離れアンロックに戻らないのなら…
そんな淡い期待がアザイルの中にあった。
返答によっては色々と準備をしなければならない。
「わからないわ。」
「わからない?」
「そう、私がこの国の役にたてるなら戻るし、邪魔になるなら消えるしかない。まだ結果は出てない。」
ミルアージュは遠くを見た。
ミルアージュ自身はクリストファーとともに生きる事を決めている。
だが、そうできない状況となることも考えられる。
その切なそうな表情にアザイルはドキリした。
「この街の事ですか?概ね成功ではないですか?」
あんな寂れた街をここまでしたのだ。
誰も文句は言えないだろう。
「この街にはまだ大きな問題が残ってるわ。それに結果が出ていないのはこの街じゃない…」
最後は独り言のように呟いた。
「もし離れる事になれば私のところに来ませんか?今あなたがお持ちの身分には及びませんが、財産は今以上をお約束しましょう。」
ミルアージュは少し驚いた顔をしたがすぐに笑った。
「ありがとう。でも無理だわ。」
「あなたの存在は表には出さないようにします。」
「そういう話ではないわ。私は商人にはなれないの。」
「それほど優れた感覚や経験を持ちながら何を言うのですか?」
「私は稼ぐ事ができない。民の幸せが第一だからね。」
商人ならばどうしても利を考えなければいけない。
それが当たり前だ。
慈善事業をしているわけではないのだから。
ミルアージュは民の利が全てだ。
たとえ赤字を出しても最善の道を探す。
「ならばあなたの個人資産を作りそこから慈善事業をしてください。この国最大の商店です。あなたが困らないくらいの融通はできます。身分が足りないのでしたら爵位を私が受けましょう。」
アザイルも粘った。
ルーマン最大の商店の主であるアザイルは貴族からも一目置かれている。
貴族の身分など煩わしいもので断っていたが、ミルアージュが手に入るのなら我慢できる。
そのくらいミルアージュがどうしても欲しかった。
「アザイル、そういう事を言っているのではないわ。私の行動は敵を作り、悪評もでる。商店には痛手になるわ。それを考えて動けなくなるのは嫌なのよ。」
今の立場を失ったとしてもミルアージュは生き方を変えられない。
そんな事はわかっている。
「ははっ、私は振られたのですね。」
「そんなつもりはないわ。」
「私には迷惑かけられない…ですが、クリストファー様なら迷惑かけてもいいと思われたのでしょう?」
王太子妃を隠すわけにはいかず、ミルアージュの名はどうしても表に出る。
悪評が高かったミルアージュ。
そしてルーマンに来てからのミルアージュの言動に対する貴族たちの反発もある。
それを一手に引き受けるクリストファーの事を考えない訳ではなかっただろう。
「それは…」
王太子と商人である自分を比べてしまうなんて愚かだ。
そう思いながらも諦めきれない気持ちでいっぱいだった。
「クリストファー様ときちんと話し合う方が良いですよ。後悔しますから。ここの支払いは私がしておきます。」
うまくいかなければいいのに…
そうなれば、その機会を見逃さない。
アザイルはニッコリとミルアージュに笑いかける。
そのままアザイルは立ち上がり、ミルアージュに頭を下げ店を出た。
1
あなたにおすすめの小説
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
嘘はあなたから教わりました
菜花
ファンタジー
公爵令嬢オリガは王太子ネストルの婚約者だった。だがノンナという令嬢が現れてから全てが変わった。平気で嘘をつかれ、約束を破られ、オリガは恋心を失った。カクヨム様でも公開中。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる