わがまま妃はもう止まらない

みやちゃん

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「…優秀な医者かもしれない。だが、あの毒が知っているものと違っていたらどうした?死なない保証があったのか?ワインを調べるにしても試薬を使うとか、ほかに方法があっただろう?」

アルトは本気で怒っていた。
ここまで怒るアルトをミルアージュは初めて見た。

「ごめんなさい。」
ミルアージュは素直に謝った。

ミルアージュは毒の耐性はかなりのものだ。
国が安定せず、子供の頃から命を狙われていただけに念入りに訓練されていたから。
毒を甘く見ている訳でもないし、誰よりも対処方法は知っているからこそ試した。

毒での暗殺はその場にいなくてもできてしまい暗殺者を特定するのも難しい。
だからこそ、完全に逃げられる前に早く対応する事が必要だ。

アンロックとルーマンでは毒に対する知識や認識がだいぶ違うのを感じた。
だが、アルトは自分を心配して怒ってくれている。そのアルトの思いを否定したくはなかった。

「いや、こちらこそ、すまない。感情的になった。」
アルトは自分が主人に対しての出過ぎた言動に気づいた。
ミルアージュを守るのは自分の役目であるとはいえ、感情的に怒りをぶつけるなど臣下としてしてはいけなかった。

ミルアージュは実力主義だ。
使えない臣下として見捨てられたら。
また置いていかれたら。
そういうアルトの怯えは顔に出ていた。

「私を思って言ってくれたとわかっているわ。ありがとう、私に意見してくれる者などあまりいないから助かるわ。」
ミルアージュはアルトにできる限り優しく対応した。
何に怯えているのか、その原因が何だったのかわかってしまった。

でも、このままではいけないわね。

このまま隊長で終わるのなら問題ない。
いずれ王となるクリストファーより自分の命令を優先するなど将軍として大問題だ。
今のままでは将軍にはできない。

アルト自身それを望んでいないのもわかる。

「アルト、あなたは将軍になるつもりはない?」
ミルアージュはまっすぐにアルトを見つめた。

「…今返答が必要か?」

「いいえ、でもこれだけは覚えておいてほしいの。私はクリストファーと共に生きていくと決めた。だからこそ、軍部の立て直しがどうしても必要なの。それをあなたに頼みたいと思っているけど、あなたが無理と言うなら別の者を早急に探す必要があるわ。」

ミルアージュの言葉にアルトはゴクリ都唾を飲んだ。

「それは俺を外すということか?」

「将軍はクリストファーの命令を最優先にできる人でなければ無理よ。あなたは隊長のままでもいい。考えておいて。」

「俺は…姫に仕えたい。姫を守りたいんだ。」

「そう言ってもらえるのは嬉しいわ。でもずっと私に仕えるのは難しいと思う。」

いずれ王妃となる。
クリスのそばにいるというのはそういうことだ。
いつまでも部隊を率いるわけにもいかない。
今はあくまでも立て直しのための仮の立場なのだから。
王妃を守るという望みを叶えるにはミルアージュの護衛になるくらいしかない。

「…少し考える時間をくれ。」
アルトの表情は厳しい。眉間に皺を寄せて何かを考え込んでしまった。

「…ええ、もちろん、構わないわ。でもあまり時間はないから早めにお願いね。」
ミルアージュにとってアルトはこの国で少ない味方であり信頼関係だってある大切な人だ。
そんな大切な人を切り捨てるような発言をしている事に罪悪感も多少ある。

だが、クリストファーと生きていくと決めた以上それを最優先に動くのは当然のことだと割り切ることにしたその結論に間違いはないと自分を奮い立たせる。

「…姫は少し休んでくれ。俺は現場に戻るから何かわかればすぐに知らせる。」
そんなミルアージュの覚悟を感じてかアルトは一礼をし、部屋を出た。



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