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「あのワインの入手経路は不明だ。領主はさるお方から頂いたと言っていたそうだ。」
クリストファーはミルアージュが興味を示しそうな話題を振った。
せっかく振り向いてくれたのに嫉妬する小さな男と思われたくてなくて。
ミルアージュから見れば、今までだってクリストファーは独占欲を隠すこともなかったし、それが慣れたものだったので気にしなかったのだが。
「そう、領主から見てさるお方ね…捕まっているのにワインを飲もうなんて余裕すぎる。」
領主より身分の高いものなどそんなに多くない。
領主からの信頼を得てさるお方と表現される人など容易に想像できた。
「自分が無罪にでもしてやると言ったのではないか?」
クリストファーも領地での領主の性格を踏まえてそう結論づけていた。
あの肝の小さな領主が裁判を前にワインで乾杯するなど考えられないからだ。
「これで一気に背後にいるさるお方までたどり着けるところだったのに。」
あの領主ならつつけば色々とバラしてくれたに違いなかった。
敵もそう思うからこそ、裁判前に毒殺をしたのだろう。
「まぁ、そういうな。前から奴は逃げ足だけは早い。」
「そう知っていたのならもっと厳重に監視するべきだったのではないの?」
ミルアージュはクリストファーをギロリと睨んだ。
「だから第三部隊に任せたんだ。その中の誰が裏切ったのかも見つけないといけない。」
キュラミールを追い詰めるより大変かもしれないとクリストファーは思っている。
第三部隊員にスパイがいると思って間違いはないが、元々ミルアージュの部隊であり隊員達への思い入れは強い。
真実を知ってミアが傷つかなければいいが。
クリストファーはそちらの方を心配していた。
「クリス、誰であっても正当な罰を受けてもらう。私なら大丈夫よ。」
「そうだな。だが、泣きたくなったらここに戻ってこい。そのためにこの両手はあるのだから。」
クリストファーは両手を広げた。
フフッとミルアージュは笑ってクリストファーの胸の中に飛び込んだ。
「頼りにしているわ。」
クリスの胸の中がこんなに安心できるようになるなんて。
クリストファーに抱きしめられながらミルアージュは目を閉じた。
いつも気を張っていた。
誰も犠牲にしたくないから。
私がやらなければ。
ずっとそう思っていた。
こんな風に無条件に心の支えとなってくれるクリストファーにどれほど救われてきたのだろう。
「クリス、ありがとう。愛してるわ。」
ミルアージュもクリストファーにこの思いを返していきたい。
ミルアージュのその一言でクリストファーは顔を真っ赤にした。
「ああ、私もだ。離れ難いが、もう行かないといけないんだ。ミアはもう少し休んでいてくれ。毒を口につけたのだからな。」
クリストファーは無理やりミルアージュをベットに寝かせた。
そのまま、早足で部屋を出た。
扉の外でクリストファーは「ハァー」と大きく息を吐いた。
ミルアージュがあまりに可愛くて押し倒しそうになったのを何とか理性で止めた。
いや、政務を蔑ろにして嫌われるのを恐れたという方が正しい。
本当ならミアと二人きりで過ごせていたのに。
クリストファーの怒りはかわいいミルアージュを見てしまっただけにフツフツと大きくなっていった。
クリストファーはミルアージュが興味を示しそうな話題を振った。
せっかく振り向いてくれたのに嫉妬する小さな男と思われたくてなくて。
ミルアージュから見れば、今までだってクリストファーは独占欲を隠すこともなかったし、それが慣れたものだったので気にしなかったのだが。
「そう、領主から見てさるお方ね…捕まっているのにワインを飲もうなんて余裕すぎる。」
領主より身分の高いものなどそんなに多くない。
領主からの信頼を得てさるお方と表現される人など容易に想像できた。
「自分が無罪にでもしてやると言ったのではないか?」
クリストファーも領地での領主の性格を踏まえてそう結論づけていた。
あの肝の小さな領主が裁判を前にワインで乾杯するなど考えられないからだ。
「これで一気に背後にいるさるお方までたどり着けるところだったのに。」
あの領主ならつつけば色々とバラしてくれたに違いなかった。
敵もそう思うからこそ、裁判前に毒殺をしたのだろう。
「まぁ、そういうな。前から奴は逃げ足だけは早い。」
「そう知っていたのならもっと厳重に監視するべきだったのではないの?」
ミルアージュはクリストファーをギロリと睨んだ。
「だから第三部隊に任せたんだ。その中の誰が裏切ったのかも見つけないといけない。」
キュラミールを追い詰めるより大変かもしれないとクリストファーは思っている。
第三部隊員にスパイがいると思って間違いはないが、元々ミルアージュの部隊であり隊員達への思い入れは強い。
真実を知ってミアが傷つかなければいいが。
クリストファーはそちらの方を心配していた。
「クリス、誰であっても正当な罰を受けてもらう。私なら大丈夫よ。」
「そうだな。だが、泣きたくなったらここに戻ってこい。そのためにこの両手はあるのだから。」
クリストファーは両手を広げた。
フフッとミルアージュは笑ってクリストファーの胸の中に飛び込んだ。
「頼りにしているわ。」
クリスの胸の中がこんなに安心できるようになるなんて。
クリストファーに抱きしめられながらミルアージュは目を閉じた。
いつも気を張っていた。
誰も犠牲にしたくないから。
私がやらなければ。
ずっとそう思っていた。
こんな風に無条件に心の支えとなってくれるクリストファーにどれほど救われてきたのだろう。
「クリス、ありがとう。愛してるわ。」
ミルアージュもクリストファーにこの思いを返していきたい。
ミルアージュのその一言でクリストファーは顔を真っ赤にした。
「ああ、私もだ。離れ難いが、もう行かないといけないんだ。ミアはもう少し休んでいてくれ。毒を口につけたのだからな。」
クリストファーは無理やりミルアージュをベットに寝かせた。
そのまま、早足で部屋を出た。
扉の外でクリストファーは「ハァー」と大きく息を吐いた。
ミルアージュがあまりに可愛くて押し倒しそうになったのを何とか理性で止めた。
いや、政務を蔑ろにして嫌われるのを恐れたという方が正しい。
本当ならミアと二人きりで過ごせていたのに。
クリストファーの怒りはかわいいミルアージュを見てしまっただけにフツフツと大きくなっていった。
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