わがまま妃はもう止まらない

みやちゃん

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ある程度話がついたところでレンドランドがミルアージュのところにやってきた。

「姉上、後処理だけですので部屋にお戻りください。姉上の部屋はそのままにしていますから。」
にこやかに話すレンドランドはさっきまでの冷ややかさはなくなり、ミルアージュのよく知っている穏やかな弟だった。

「ああ、ありがとう。少し休ませてもらおう。」
クリストファーが弾んだ声でミルアージュの代わりに答えた。

「ああ、クリストファー殿、言い忘れてましたが、後で晩餐がありますので時間は空けておいてくださいくださいね。」
レンドランドにそう言われるとクリストファーの声のトーンは一気に落ちた。

「いや、ミアも疲れている事だし、今日は別々で良いのではないか?」

レンドランドはミルアージュを見つめた。
「姉上、ルーマンとアンロックにとって重要な話があります。晩餐に参加できますか?」

「もちろんよ。」

「良かった。それと明日、母上に会いに行きませんか?会いたがっています。」

レンドランドはクリストファーを無視してミルアージュに微笑んだ。
穏やかか微笑みの中に家族の交流に口を挟むなというような圧がクリストファーに向けられている。

「ええ、私も会いたいわ。」

元々レンドランドに甘々なミルアージュがその弟から言われて応じない訳がなかった。

クリストファーはレンドランドをギロリと睨む。
完全にクリストファーの負けだ。

クリストファーは、晩餐をパスしてミルアージュと二人のひと時を楽しんだ後、レンドランドと少し話をしてからルーマンに戻るつもりだった。

全て先手を取られた。
ミルアージュが頷いた以上もうクリストファーでは止められないのが確定した。

腹立たしく思うのと同時に少しホッとしていた。

しばらく見ないうちにしたたかになった…
真面目一辺倒で自らを追い詰められていたレンドランドではなくなった。

クリストファーはミルアージュをチラッと見る。

レンドランドに向かって笑うミルアージュは本当に嬉しそうだった。

ミアももうレンドランドに対し心配する事もない。
これはこれで良い成果だ。

レンドランドはミアの悪評を払拭するのと同時に自分はもう大丈夫と示したかったのだろうか。

もう少しミアとの時間は我慢しよう。
クリストファーはフゥと息を吐いた。

ミアを失ったと思ったあの時の絶望を思い出せば大抵のことは我慢できる。

ミアが消えた時、もう全て終わりだと思った。
こんな風にいい方向に向かうなんて…
クリストファーはレンドランドには感謝していた。

アンロックから同盟を切ると正式な使者より早くレンドランドから通達が来ていた。

同盟破棄は避けられないが、アンロック国内の動きが怪しく調査を進めるから少し待ってほしいと。

それと同じく、レーグルトが戦の準備を進めていた情報が入っていた。
時期が合いすぎている。
アンロックと同盟が切れるルーマンが狙われるのは間違いなかった。
レーグルトがアンロック議会に手を回した。
レンドランドも危機感を強めたからこそ、慎重に対応する事にしたのがわかっていた。

だが、レンドランドが対応する前に攻めてくる可能性もある。

それにミアを巻き込みたくなかった。
国王の救助でボロボロになっていて、今にも倒れそうなミアにそんな事を言えば失ってしまう。

それが怖くていつかはバレることを先延ばしにした。
ミアだけでもアンロックに保護してもらえたらと心にもない離縁も申し出た。

それでもミアは独りで消えた。
アンロックにも助けを求めなかった。

自分が何も話さなかったから…
アンロック宰相から同盟破棄を聞いた時のミアの表情は忘れられない。

ミアを失いたくないと自分の感情を優先させてミアに何の配慮をしなかった後悔と罪悪感をクリストファーは一生忘れないだろう。

こんな風に笑えるミアを見る事ができるなんて…

クリストファーは優しい微笑みを浮かべながらミルアージュを見つめていた。

「では姉上、戻りますね。」
レンドランドはミルアージュに声をかけ、クリストファーの横を通って皆の集まる方に向かった。

「そんな顔をしているとあなたの弱点がすぐにわかってしまいますよ。まぁ、姉上には誰も勝てませんが。ちゃんと幸せにしてくださいね。」
クリストファーの横を通る時、ボソリとレンドランドはクリストファーに嫌味を言った。

「そんな事は言われなくてもわかっている。」
クリストファーも隣にいるミルアージュに聞こえないくらいの小声で呟いた。
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