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「アザイル様、どうされたのですか?とても良い取引だったのに。」
バールが帰りの馬車でも難しい顔をしているアザイルに声をかけた。
一商店が三大国と対等に取引ができた。
アザイルにとっても今までで一番の功績だ。
だが、アザイルは喜ぶ様子はない。
それ以前に眉間に皺を寄せ黙り込んだままだった。
「どうするべきかと思ってな。」
そういうとアザイルはまた黙り込んだ。
アザイルは思い返していた。
クリストファー様がイライラしながら私と話すミルアージュ様を見つめていたのはわかっていた。
それでもミルアージュ様は私との会話を優先させてくれた。
それがこんなにも嬉しいものだったなんて。
一商人でしかない自分に向けられた危険なクリストファーの嫉妬にすら優越感を得ていた。
もうミルアージュ様への強い思いを自覚するしかなかった。
そんなミルアージュ様からの依頼…
その内容には驚いた。
クリストファー様を含む全ての者に内密に。
それが条件だった。
アザイルの人脈を活かせば、すぐに依頼は達成できるだろう。
だが…
ここで悪魔の囁きが聞こえてくる。
これをうまく使えば、クリストファー様とミルアージュ様を仲違いさせられそうだと。
そうすればミルアージュ様を手に入れるチャンスが出てくる。
そう思ってしまう自分の声を理性が否定する。
そんな事をしてもミルアージュ様の心は手に入らない。
商人としての信頼を得ておく方が良い。
そうすればこれからもずっと関わっていける。
アザイルは商人としての決断で悩んだ事はない。
自分の直感と今までの経験を信じている。
だが、遅く来た初恋には直感も経験も何の役にも立たなかった。
「バール、お前なら愛する人と商人としての信頼のどちらを取る?」
アザイルの心の声が漏れた。
その言葉を聞いたバールは意味がわからないと呆気にとられた表情をみせた。
「愛する人ができたのですか?」
「…」
アザイルは返答できなかった。
「もしや…」
このタイミングてアザイルがいうのなら間違いない。
ルーマン王太子妃ミルアージュ様…
バールも取引の時、アザイルが楽し気に話していた女性がいたのを知っていた。
あの時は商談に夢中で違和感を感じただけだったが…
仕事上の相手には見せることのない優しい表情をミルアージュ様に向け、心から笑っていた。
アザイルの固まった表情を見てバールはため息をついた。
「女性に興味を持てたのはよかったですが、また難しいお方に惚れましたね。」
バールから見てもアザイルはもてる。
ミルアージュ様でなければその恋は叶った可能性は高い。
「私だって惚れようとして惚れた訳ではない!」
「そうですね。恋とはそういうものです。」
バールはククッと笑った後真顔に戻した。
「これはあなたの部下からの進言です。あのお方に手を出すということは許されません。商店て働いている者全てが路頭に迷います。いや、生き残れないかもしれません。王族に楯突くのですから。」
アザイルはグッと拳は握りしめる。
そんな事はわかっている。
いくらレンドランド、ブランを後ろ盾にしたところで本店があるのはルーマンだ。
ルーマンの王族に目をつけられれば、もう次の就職先など望めないだろう。
「そんなのはもちろん、わかっていますよね。ここからは恋の先輩としてのアドバイスです。そのお方は人妻です、手を出すというのはリスクを負います。それでも手を出さなければならないほど、その方は今不幸なのですか?笑顔に…幸せにできるのはどなたですか?あなたですか?」
「それは…」
ミルアージュ様の幸せとはなんだろう。
ミルアージュが優秀なことや国民を大切にしているのは知っている。
だが、アザイルはそれ以外の事は何も知らないことに気づいた。
クリストファー様には迷惑をかけてもよいと心を許している。
そして、クリストファー様の横で笑うミルアージュ様の表情は明るかった。
安心しきっているような見たことがない緩んだ表情だった。
ズキリと胸が痛くなる。
「答えは出ましたか?相手の幸せを願い、身を引くのもいい男の条件ですよ。私なんか何回身を引いた事か…いい男の典型です。」
バールが自慢気にいうのをみてアザイルは吹き出した。
「お前から教わることなどないと思っていたのに…大先輩だったんだな。」
「私もアザイル様に教えることがあるなんて思ってもみなかったですよ。振られ続けたのにも意味があったんですね。あっ、人格に問題があった訳ではなく忙しすぎて時間が合わなかっただけですからね、勘違いしないでくださいよ。」
バールは大袈裟に手振りをつけ、ため息をつく。
目の前の弱気な主人を初めて見てバールも動揺していた。
だが、初恋おめでとうと許せる事態ではない。
アザイルの為にも商店のためにも。
しばらくは目を光らせないといけないとバールは心に誓った。
あのお方でなければ、遅く来た主人の初恋を応援できるのに…
そう思うとバールはとても複雑な思いで窓の外を眺めていた。
バールが帰りの馬車でも難しい顔をしているアザイルに声をかけた。
一商店が三大国と対等に取引ができた。
アザイルにとっても今までで一番の功績だ。
だが、アザイルは喜ぶ様子はない。
それ以前に眉間に皺を寄せ黙り込んだままだった。
「どうするべきかと思ってな。」
そういうとアザイルはまた黙り込んだ。
アザイルは思い返していた。
クリストファー様がイライラしながら私と話すミルアージュ様を見つめていたのはわかっていた。
それでもミルアージュ様は私との会話を優先させてくれた。
それがこんなにも嬉しいものだったなんて。
一商人でしかない自分に向けられた危険なクリストファーの嫉妬にすら優越感を得ていた。
もうミルアージュ様への強い思いを自覚するしかなかった。
そんなミルアージュ様からの依頼…
その内容には驚いた。
クリストファー様を含む全ての者に内密に。
それが条件だった。
アザイルの人脈を活かせば、すぐに依頼は達成できるだろう。
だが…
ここで悪魔の囁きが聞こえてくる。
これをうまく使えば、クリストファー様とミルアージュ様を仲違いさせられそうだと。
そうすればミルアージュ様を手に入れるチャンスが出てくる。
そう思ってしまう自分の声を理性が否定する。
そんな事をしてもミルアージュ様の心は手に入らない。
商人としての信頼を得ておく方が良い。
そうすればこれからもずっと関わっていける。
アザイルは商人としての決断で悩んだ事はない。
自分の直感と今までの経験を信じている。
だが、遅く来た初恋には直感も経験も何の役にも立たなかった。
「バール、お前なら愛する人と商人としての信頼のどちらを取る?」
アザイルの心の声が漏れた。
その言葉を聞いたバールは意味がわからないと呆気にとられた表情をみせた。
「愛する人ができたのですか?」
「…」
アザイルは返答できなかった。
「もしや…」
このタイミングてアザイルがいうのなら間違いない。
ルーマン王太子妃ミルアージュ様…
バールも取引の時、アザイルが楽し気に話していた女性がいたのを知っていた。
あの時は商談に夢中で違和感を感じただけだったが…
仕事上の相手には見せることのない優しい表情をミルアージュ様に向け、心から笑っていた。
アザイルの固まった表情を見てバールはため息をついた。
「女性に興味を持てたのはよかったですが、また難しいお方に惚れましたね。」
バールから見てもアザイルはもてる。
ミルアージュ様でなければその恋は叶った可能性は高い。
「私だって惚れようとして惚れた訳ではない!」
「そうですね。恋とはそういうものです。」
バールはククッと笑った後真顔に戻した。
「これはあなたの部下からの進言です。あのお方に手を出すということは許されません。商店て働いている者全てが路頭に迷います。いや、生き残れないかもしれません。王族に楯突くのですから。」
アザイルはグッと拳は握りしめる。
そんな事はわかっている。
いくらレンドランド、ブランを後ろ盾にしたところで本店があるのはルーマンだ。
ルーマンの王族に目をつけられれば、もう次の就職先など望めないだろう。
「そんなのはもちろん、わかっていますよね。ここからは恋の先輩としてのアドバイスです。そのお方は人妻です、手を出すというのはリスクを負います。それでも手を出さなければならないほど、その方は今不幸なのですか?笑顔に…幸せにできるのはどなたですか?あなたですか?」
「それは…」
ミルアージュ様の幸せとはなんだろう。
ミルアージュが優秀なことや国民を大切にしているのは知っている。
だが、アザイルはそれ以外の事は何も知らないことに気づいた。
クリストファー様には迷惑をかけてもよいと心を許している。
そして、クリストファー様の横で笑うミルアージュ様の表情は明るかった。
安心しきっているような見たことがない緩んだ表情だった。
ズキリと胸が痛くなる。
「答えは出ましたか?相手の幸せを願い、身を引くのもいい男の条件ですよ。私なんか何回身を引いた事か…いい男の典型です。」
バールが自慢気にいうのをみてアザイルは吹き出した。
「お前から教わることなどないと思っていたのに…大先輩だったんだな。」
「私もアザイル様に教えることがあるなんて思ってもみなかったですよ。振られ続けたのにも意味があったんですね。あっ、人格に問題があった訳ではなく忙しすぎて時間が合わなかっただけですからね、勘違いしないでくださいよ。」
バールは大袈裟に手振りをつけ、ため息をつく。
目の前の弱気な主人を初めて見てバールも動揺していた。
だが、初恋おめでとうと許せる事態ではない。
アザイルの為にも商店のためにも。
しばらくは目を光らせないといけないとバールは心に誓った。
あのお方でなければ、遅く来た主人の初恋を応援できるのに…
そう思うとバールはとても複雑な思いで窓の外を眺めていた。
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