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ルンバートはゴクリと唾を飲んだ。
「そんな事はこのルーマンであり得ない‥」
いくらクリストファーが優秀な王太子であっても‥
「王や貴族達が認めるはずがない‥」
クリストファーは笑った。
「王はとっくに認めている。何せ有事の際は私ではなくミアの命を優先しろと臣下に言うくらいだからな。」
「ルーマン国王が?自分の実子でなく姫様を?」
「父親としてはどう思っているのかは知らないが、王としてはそれが最善だと判断したのだろう。私自身、そう思うのだから、まぁ当然だな。」
クリストファーは父親に見捨てられるとか大事にされていないとかを全く気にしていない。
父親だからこそ、よくわかっているのだ。
ミルアージュ以外は必要なく、いなくなれば何の役にも立たない存在だと。
いや、それ以上にわかっているかも知れない。
国を破滅に追いやる可能性についても。
クリストファーも国王よりミアを最優先にすると決めているため、反感はない。
お互い様なのだから。
何より王命でミアを優先してもらえるのはクリストファーとしてもありがたかった。
「国王が認めたとしても、この閉鎖的な国風のルーマンの貴族達に認められるはずがありません。」
「そうだ。だが、反対する貴族達を潰せば問題ないだろう。私の得意分野だ。」
クリストファーがニヤリと笑う。
ルンバートの血の気が引いた。
この目の前の男が実際にそうするつもりだとわかる。
姫様の前では猫を被っているが、それ以外では冷酷で手段を選ばないというのはアンロック時代から有名だった。
「何を今更怯えている?お前だってミアが活躍できないのは私のせいだと言っていただろう?その場を作ろうとしているのだ、喜べ。」
いやいや、素直に喜べる訳がない。
潰すというのは比喩では無い。
物理的な意味だとわかるのに、それに同意を求めてほしくない。
「それなら尚更、私は手伝えません。医者失格だとしても私は人を救うために医者になったのです。」
患者を救ってなんぼの世界で生きてきたのに、命のやり取りの場になどいたくなった。
ましてや、その片棒を担ぐなんて真っ平ごめんだ。
「勘違いするな。ただ、ミアの補佐をしてくれればいい。心配はない。その件はミアにはバレないようにする。つまりはお前も何も知らずに終わるという事だ。」
クリストファーは意地悪そうにクスクス笑う。
それなら補佐をしてくれだけ言って欲しかった。
こんなネタばらしをされれば、嫌でも気になるだろうとルンバートはクリストファーに突っ込みたい。
ミルアージュ以外への気遣いなどできない王太子らしいといえば、それまでだが。
「引退させてください。」
ルンバートはダメ元で粘ってみた。
「お前には拒否権はないとさっきも言っただろう?大体、こんな国家機密を知っておいて、このままにできる訳がないだろう?」
「あなたが勝手に喋っただけです!」
ルンバートの声は大きくなる。
「だから何だ?それでも国家機密だ。」
そんなルンバートをクリストファーは冷たく一蹴する。
そう言われれば、ルンバートは何も言えなくなった。
王太子と2人きりになどなるべきでは無かったのだ。
「姫様を追い出した時点で気がつくべきでした。」
ルンバートはため息をつく。
ミルアージュを外に出す。
つまり、ミルアージュが知れば問題となる事態が起こるという事だ。
この場にミルアージュがいれば、ルンバートは王城に行く事はなかっただろうが、もうその選択肢は無くなってしまった。
しかもこの話はミルアージュにはできない。
話そうとした時点で自分がこの目の前の男に消されるのがわかるからだ。
「領主が回復するまではこの地に残ります。それからでも良いですか?」
その返事にクリストファーはニコリと笑う。
「もちろんだ。その間にルービオが次期領主となるように手続きをしておこう。」
「‥はい。よろしくお願いします。」
ミルアージュが望んだ事はクリストファーによって叶えられる。
だから、ルービオの件はルンバートが王城に行かなくてもきっと次期領主になっている。
ルンバートを脅して王城へ連れて行けないクリストファーは建前上の理由が欲しかっただけなのだ。
それがわかりながら従うしかないのは癪にさわるが‥仕方がない。
ルンバートはルービオがこの地の領主もなり、このバルコニーから皆に手を振る様子を思い浮かべた。
「そんな事はこのルーマンであり得ない‥」
いくらクリストファーが優秀な王太子であっても‥
「王や貴族達が認めるはずがない‥」
クリストファーは笑った。
「王はとっくに認めている。何せ有事の際は私ではなくミアの命を優先しろと臣下に言うくらいだからな。」
「ルーマン国王が?自分の実子でなく姫様を?」
「父親としてはどう思っているのかは知らないが、王としてはそれが最善だと判断したのだろう。私自身、そう思うのだから、まぁ当然だな。」
クリストファーは父親に見捨てられるとか大事にされていないとかを全く気にしていない。
父親だからこそ、よくわかっているのだ。
ミルアージュ以外は必要なく、いなくなれば何の役にも立たない存在だと。
いや、それ以上にわかっているかも知れない。
国を破滅に追いやる可能性についても。
クリストファーも国王よりミアを最優先にすると決めているため、反感はない。
お互い様なのだから。
何より王命でミアを優先してもらえるのはクリストファーとしてもありがたかった。
「国王が認めたとしても、この閉鎖的な国風のルーマンの貴族達に認められるはずがありません。」
「そうだ。だが、反対する貴族達を潰せば問題ないだろう。私の得意分野だ。」
クリストファーがニヤリと笑う。
ルンバートの血の気が引いた。
この目の前の男が実際にそうするつもりだとわかる。
姫様の前では猫を被っているが、それ以外では冷酷で手段を選ばないというのはアンロック時代から有名だった。
「何を今更怯えている?お前だってミアが活躍できないのは私のせいだと言っていただろう?その場を作ろうとしているのだ、喜べ。」
いやいや、素直に喜べる訳がない。
潰すというのは比喩では無い。
物理的な意味だとわかるのに、それに同意を求めてほしくない。
「それなら尚更、私は手伝えません。医者失格だとしても私は人を救うために医者になったのです。」
患者を救ってなんぼの世界で生きてきたのに、命のやり取りの場になどいたくなった。
ましてや、その片棒を担ぐなんて真っ平ごめんだ。
「勘違いするな。ただ、ミアの補佐をしてくれればいい。心配はない。その件はミアにはバレないようにする。つまりはお前も何も知らずに終わるという事だ。」
クリストファーは意地悪そうにクスクス笑う。
それなら補佐をしてくれだけ言って欲しかった。
こんなネタばらしをされれば、嫌でも気になるだろうとルンバートはクリストファーに突っ込みたい。
ミルアージュ以外への気遣いなどできない王太子らしいといえば、それまでだが。
「引退させてください。」
ルンバートはダメ元で粘ってみた。
「お前には拒否権はないとさっきも言っただろう?大体、こんな国家機密を知っておいて、このままにできる訳がないだろう?」
「あなたが勝手に喋っただけです!」
ルンバートの声は大きくなる。
「だから何だ?それでも国家機密だ。」
そんなルンバートをクリストファーは冷たく一蹴する。
そう言われれば、ルンバートは何も言えなくなった。
王太子と2人きりになどなるべきでは無かったのだ。
「姫様を追い出した時点で気がつくべきでした。」
ルンバートはため息をつく。
ミルアージュを外に出す。
つまり、ミルアージュが知れば問題となる事態が起こるという事だ。
この場にミルアージュがいれば、ルンバートは王城に行く事はなかっただろうが、もうその選択肢は無くなってしまった。
しかもこの話はミルアージュにはできない。
話そうとした時点で自分がこの目の前の男に消されるのがわかるからだ。
「領主が回復するまではこの地に残ります。それからでも良いですか?」
その返事にクリストファーはニコリと笑う。
「もちろんだ。その間にルービオが次期領主となるように手続きをしておこう。」
「‥はい。よろしくお願いします。」
ミルアージュが望んだ事はクリストファーによって叶えられる。
だから、ルービオの件はルンバートが王城に行かなくてもきっと次期領主になっている。
ルンバートを脅して王城へ連れて行けないクリストファーは建前上の理由が欲しかっただけなのだ。
それがわかりながら従うしかないのは癪にさわるが‥仕方がない。
ルンバートはルービオがこの地の領主もなり、このバルコニーから皆に手を振る様子を思い浮かべた。
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