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【第1話】推し悪役を救うため、私は姫に転生しました
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中原カナデ、27歳。
恋も夢も、ちょっとお休み中。
朝は満員電車、昼はパソコン、夜はコンビニ弁当。
誰に責められるでもないけれど、胸のどこかが空いたままの毎日だった。
「これでいいのかなぁ……」
そんな呟きが口癖になった頃、唯一の楽しみは“スマホで読む恋愛小説”だった。
なかでも私が夢中になっていたのは――砂漠の大帝国ブリリアントを舞台にした、絢爛たる宮廷ロマンス。
主人公は、銀の髪と青い瞳を持つ帝国の姫・ジェニエット(17歳)。
白磁のような肌と可憐な唇を持ち、皇帝のたった一人の娘として何不自由なく育った少女。
けれど彼女には、ただ一つだけ許されないことがあった――「自由に恋をすること」。
母・アマデル皇妃は皇帝の寵愛を受けながらも、正妃ではない――そんな複雑な立場にあった。
彼女は息子を皇帝に据えるため、日夜政の渦に身を置いていた。
正妃マデランが産んだ第一皇子は、皇太子として既に最有力。
その座を奪うため、アマデルは腹心の部下である宰相グラヴィスとジェニエットを政略結婚させ、権力の頂へと駆け上がろうとしていた。
結婚を泣いて嫌がる娘の頬を撫でながら、アマデルは慈母の微笑みを浮かべて言う。
「母のために、国のために、グラヴィスと結婚してくれるわね?」
その優しさの裏に、情け容赦ない命令が潜んでいることを、ジェニエットは知っていた。
逆らえなかった。
“皇妃の娘として役に立たねば”――そう自分を言い聞かせて。
……いやいや、親ガチャ失敗にもほどがある!
そして問題の彼、宰相グラヴィス(31歳)。
彼は、静かな威圧を纏う男だった。
長身で鍛え上げられた体。
長い黒髪を後ろで束ね、眉は薄く、表情はほとんど動かない。
目の下の隈が、彼の長い政務の夜を物語る。
その瞳は琥珀のように深く、底に燃える炎を秘めていた。
外交も内政も、軍略も、宮廷運営も——。あらゆる分野で卓越した才覚を発揮し、皇帝すら彼の助言を重んじた。
だが誰も知らない。
そんな有能な男が、かつて皇帝の側仕えだった頃から、ずっと一人の少女に恋していたことを。
当時14歳だったジェニエットが、庭の噴水のほとりで笑った――
その光景が、グラヴィスの胸に焼きついた。
それは、どんな戦略書にも載らない“敗北”だった。
理性では抗えぬ恋――それが、グラヴィスという男の唯一の弱点だった。
政略結婚とはいえ、この結婚は彼にとって奇跡と喜びだった。
グラヴィスは宰相としての忙しい日々をこなしながらも、姫への思いを最優先にしていた。
執務の合間には必ず姫のもとを訪れ、愛を囁き、宝石や香油を贈る。
宴や謁見の準備も彼が手配し、姫が少しでも快適に過ごせるよう、細部にまで配慮を欠かさなかった。
その一挙手一投足すべてに心を注ぐ――それが、静かで深く、真っ直ぐな愛の形だった。
けれどジェニエットは彼に微笑みすら返さなかった。
彼女の瞳は、いつもどこか遠くを見ていた。
はい、切ない!こうゆう有能なのに恋して一途な大人の男性マジささる!好き!私の推し決定!どうか報われて欲しい。そう願いながら小説を読み進めていた…だけど。
そんなある日、隣国ナグラートの王子・アルフォンスが帝都を訪れる。
金髪に黄金の瞳を持ち、絵本から抜け出したような完璧な美貌。
誰もが夢見る“自由な恋”を体現する男。
ジェニエットは彼と出会い、恋に落ちた。
秘密の逢瀬。
月夜の口づけ。
燃えるような恋。
――そして、それを知ったグラヴィスは、静かに崩れていく。
彼は嫉妬に呑まれ、ついに王子暗殺を企てる。
だが計画は失敗し、同盟を結んだばかりの隣国の王子を狙った大罪として――処刑されてしまう。
そして物語は、ジェニエットとアルフォンスの婚礼で幕を閉じる。
「めでたし、めでたし」。
――読み終えた私は、スマホを握りしめて叫んだ。
「はあ!? グラヴィスが報われないって何それ!!」
だって、彼は誰よりも真っ直ぐで、誰よりもジェニエットを愛していたのに。
どうして彼だけが罰を受けるの?
政略とはいえ先に裏切ったのはジェニエットじゃない!?
どうしてグラヴィスだけが、こんなにも切なく終わらなきゃいけないの?
私は、心の底から思った。
――私なら、彼を幸せにできるのに。
そう、“推し”を救いたい。
救われなかった彼に、報われる未来を。
その夜、そんな想いを胸に眠りについた。
***
――目を覚ますと、そこは見知らぬ天井だった。
「……え?」
天井は金色に輝き、幾何学模様の彫刻が施されたアーチ。
透ける薄絹の天蓋、香の甘い香り。
(ここはどこ…?)
すると部屋の扉からノックの音が…
入ってきたメイドのような格好をした女性は、涙を滲ませながら
「ジェニエット様! ご無事でよかった……!
転んで頭を打たれて意識が戻られなかったのですよ!」
(……え? 今なんて言った?)
おそるおそる近くの鏡を覗く。
そこに映っていたのは、銀の髪と青い瞳を持つ、美しすぎる少女。
「……うそ。これ、私!?」
頭の奥がじんじんして、息が詰まる。
鼓動の音が耳の奥で鳴り響き、視界が揺れる。
(待って、落ち着いて……夢? いや、鏡の中の私が――まばたき、した!?)
メイドは続けて言う。
「やはり、グラヴィス様との婚約をお悩みになって混乱を……」
(グ、グラヴィス!?婚約!?)
思考が止まる…。
でも、次第に胸がざわめいた。
…まさか、私…?
私は、中原カナデ。
推し悪役グラヴィスを救いたいと願った女。
そして今――
その世界に、ジェニエットとして転生してしまったのだ。
こうして、“悪役宰相グラヴィス”の運命を変えるための、
恋と転生の物語が――始まったのだった。
―――
恋も夢も、ちょっとお休み中。
朝は満員電車、昼はパソコン、夜はコンビニ弁当。
誰に責められるでもないけれど、胸のどこかが空いたままの毎日だった。
「これでいいのかなぁ……」
そんな呟きが口癖になった頃、唯一の楽しみは“スマホで読む恋愛小説”だった。
なかでも私が夢中になっていたのは――砂漠の大帝国ブリリアントを舞台にした、絢爛たる宮廷ロマンス。
主人公は、銀の髪と青い瞳を持つ帝国の姫・ジェニエット(17歳)。
白磁のような肌と可憐な唇を持ち、皇帝のたった一人の娘として何不自由なく育った少女。
けれど彼女には、ただ一つだけ許されないことがあった――「自由に恋をすること」。
母・アマデル皇妃は皇帝の寵愛を受けながらも、正妃ではない――そんな複雑な立場にあった。
彼女は息子を皇帝に据えるため、日夜政の渦に身を置いていた。
正妃マデランが産んだ第一皇子は、皇太子として既に最有力。
その座を奪うため、アマデルは腹心の部下である宰相グラヴィスとジェニエットを政略結婚させ、権力の頂へと駆け上がろうとしていた。
結婚を泣いて嫌がる娘の頬を撫でながら、アマデルは慈母の微笑みを浮かべて言う。
「母のために、国のために、グラヴィスと結婚してくれるわね?」
その優しさの裏に、情け容赦ない命令が潜んでいることを、ジェニエットは知っていた。
逆らえなかった。
“皇妃の娘として役に立たねば”――そう自分を言い聞かせて。
……いやいや、親ガチャ失敗にもほどがある!
そして問題の彼、宰相グラヴィス(31歳)。
彼は、静かな威圧を纏う男だった。
長身で鍛え上げられた体。
長い黒髪を後ろで束ね、眉は薄く、表情はほとんど動かない。
目の下の隈が、彼の長い政務の夜を物語る。
その瞳は琥珀のように深く、底に燃える炎を秘めていた。
外交も内政も、軍略も、宮廷運営も——。あらゆる分野で卓越した才覚を発揮し、皇帝すら彼の助言を重んじた。
だが誰も知らない。
そんな有能な男が、かつて皇帝の側仕えだった頃から、ずっと一人の少女に恋していたことを。
当時14歳だったジェニエットが、庭の噴水のほとりで笑った――
その光景が、グラヴィスの胸に焼きついた。
それは、どんな戦略書にも載らない“敗北”だった。
理性では抗えぬ恋――それが、グラヴィスという男の唯一の弱点だった。
政略結婚とはいえ、この結婚は彼にとって奇跡と喜びだった。
グラヴィスは宰相としての忙しい日々をこなしながらも、姫への思いを最優先にしていた。
執務の合間には必ず姫のもとを訪れ、愛を囁き、宝石や香油を贈る。
宴や謁見の準備も彼が手配し、姫が少しでも快適に過ごせるよう、細部にまで配慮を欠かさなかった。
その一挙手一投足すべてに心を注ぐ――それが、静かで深く、真っ直ぐな愛の形だった。
けれどジェニエットは彼に微笑みすら返さなかった。
彼女の瞳は、いつもどこか遠くを見ていた。
はい、切ない!こうゆう有能なのに恋して一途な大人の男性マジささる!好き!私の推し決定!どうか報われて欲しい。そう願いながら小説を読み進めていた…だけど。
そんなある日、隣国ナグラートの王子・アルフォンスが帝都を訪れる。
金髪に黄金の瞳を持ち、絵本から抜け出したような完璧な美貌。
誰もが夢見る“自由な恋”を体現する男。
ジェニエットは彼と出会い、恋に落ちた。
秘密の逢瀬。
月夜の口づけ。
燃えるような恋。
――そして、それを知ったグラヴィスは、静かに崩れていく。
彼は嫉妬に呑まれ、ついに王子暗殺を企てる。
だが計画は失敗し、同盟を結んだばかりの隣国の王子を狙った大罪として――処刑されてしまう。
そして物語は、ジェニエットとアルフォンスの婚礼で幕を閉じる。
「めでたし、めでたし」。
――読み終えた私は、スマホを握りしめて叫んだ。
「はあ!? グラヴィスが報われないって何それ!!」
だって、彼は誰よりも真っ直ぐで、誰よりもジェニエットを愛していたのに。
どうして彼だけが罰を受けるの?
政略とはいえ先に裏切ったのはジェニエットじゃない!?
どうしてグラヴィスだけが、こんなにも切なく終わらなきゃいけないの?
私は、心の底から思った。
――私なら、彼を幸せにできるのに。
そう、“推し”を救いたい。
救われなかった彼に、報われる未来を。
その夜、そんな想いを胸に眠りについた。
***
――目を覚ますと、そこは見知らぬ天井だった。
「……え?」
天井は金色に輝き、幾何学模様の彫刻が施されたアーチ。
透ける薄絹の天蓋、香の甘い香り。
(ここはどこ…?)
すると部屋の扉からノックの音が…
入ってきたメイドのような格好をした女性は、涙を滲ませながら
「ジェニエット様! ご無事でよかった……!
転んで頭を打たれて意識が戻られなかったのですよ!」
(……え? 今なんて言った?)
おそるおそる近くの鏡を覗く。
そこに映っていたのは、銀の髪と青い瞳を持つ、美しすぎる少女。
「……うそ。これ、私!?」
頭の奥がじんじんして、息が詰まる。
鼓動の音が耳の奥で鳴り響き、視界が揺れる。
(待って、落ち着いて……夢? いや、鏡の中の私が――まばたき、した!?)
メイドは続けて言う。
「やはり、グラヴィス様との婚約をお悩みになって混乱を……」
(グ、グラヴィス!?婚約!?)
思考が止まる…。
でも、次第に胸がざわめいた。
…まさか、私…?
私は、中原カナデ。
推し悪役グラヴィスを救いたいと願った女。
そして今――
その世界に、ジェニエットとして転生してしまったのだ。
こうして、“悪役宰相グラヴィス”の運命を変えるための、
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