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【第5話】皇妃アマデルと、すれ違う想い

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私は決心した。せっかく転生したのなら、愛のある結婚をしたい。冷たい政略結婚なんてまっぴらだ。

そう思った私は、少しでも彼と親しくなるため、何度もお茶や散歩に誘うようになっていた。



最初こそグラヴィスは戸惑っていたが、次第に私の変化を受け入れ、その目は日に日に柔らかくなっていった。

会うたびに彼は、まるで詩人のような言葉で私を褒めてくれる。



「今日も美しき貴方様に会えて、天にも昇る気持ちです」

「ジェニエット様のお心は天使のように清らかで、その笑顔は庭園のどの花にも勝ります」



(きゃぁぁ♡ グラヴィス素敵すぎる!褒められすぎて、もう溶けちゃいそう♡)



そんな日々が続いた頃――。

王城の中で、ジェニエットとグラヴィスが急に仲睦まじくなったという噂が立った。

その噂はすぐに、皇妃アマデルの耳にも届いてしまったらしい。



そして、ある日。

私は母上――アマデルの部屋に呼び出された。



(あの、毒親皇妃アマデルと初対面か……うわ、胃がキリキリする……)



扉を開けて部屋に入ると、そこには銀髪を波のように流した、若々しく美しい女性がいた。

三人の子を持つとは思えないほどの美貌。皇帝からの寵愛を今も受けているという噂は本当らしい。

――けれど、その目には冷たい光が宿っていた。



「お呼びでしょうか、母上」

私は形式的に頭を下げる。

すると彼女は、穏やかな笑みを浮かべながら言った。



「頭を上げて、楽になさい。今日は少し気になることがあってね。直接お前に聞きたかったの」



「気になること、とは?」

首を傾げると、アマデルの笑みはほんの少しだけ、鋭さを帯びた。



「最近噂を耳にしたの…。あなたとグラヴィスが随分と親密になったとか…。――あんなに泣いて嫌がっていたのに、急にどういう風の吹きまわしかしら? まさかとは思うけど、何か企んでいるのではなくて? ……第一皇子派と手を組んでいる、なんてことはないでしょうね?」



(はぁっ!? 自分の娘を疑うなんて、この人どこまで冷たいの!?)



怒りを押し殺し、私はできる限り穏やかに答えた。

「企みなどございませんわ。ただ、グラヴィス様の魅力に気づいたのです。今は心から愛しております」



アマデルは一瞬だけ沈黙し、そして再び柔らかな笑みを浮かべた。

「……そう。なら良いの。今後も仲良くなさい。グラヴィスには、お兄様たちのこともよろしくと伝えておいて」



(ああ、この人は本当に、娘を“駒”としか見ていないんだ……)

そう痛感しながらも、私は表面上だけの微笑みを浮かべる。



「はい。グラヴィス様とは仲良くしてまいります。ご心配なく」



「そう、なら良かったわ。今日も貴女の元気そうな顔が見られて嬉しいわ」

という表向きの笑みの裏に、冷たい光を感じるのだった。



部屋を出た瞬間、私は深く息を吐いた。

(はぁ……嫌な感じ! こんな時こそ推しで癒されなきゃ!)



そう思って、メアリーを連れてグラヴィスの執務室へ向かう。

だが、そこに彼の姿はなかった。

衛兵に聞くと、「軍の訓練場におられます」とのこと。



(そういえば、グラヴィスって頭脳だけじゃなく武にも優れてるのよね。戦場で皇帝と共に幾度も勝利を重ねた英雄……。もう、完璧すぎる!)



思わず頬をゆるませながら訓練場へ向かうと、そこには、厳しい表情で部下と話すグラヴィスの姿があった。

陽光を浴びる銀の鎧がまぶしくて、思わず足を止める。



(……やっぱり格好いい。けど、今声をかけたら迷惑かしら)

踵を返そうとしたその瞬間――。



「……ジェニエット様!? どうされましたか!」



グラヴィスが気づいて駆け寄ってきた。

私は少し照れながら言う。



「グラヴィス様に会いたくなってしまって。お邪魔でしたよね?」



グラヴィスの瞳が一瞬見開かれ、すぐに柔らかく緩む。

「ジェニエット様がお邪魔など、ありえません。いつでもいらしてください」



「よかった……。そう言っていただけて嬉しいです。母上のところに行ったせいか、少し気分が沈んでしまって……」



「アマデル様のところへ……? ご要件はいったい……?」



「特に何も? ああ! でも、“お兄様たちのことをよろしく”と伝えてほしいと言っていましたわ」



その言葉に、グラヴィスは少しだけ目を伏せ、穏やかに微笑んだ。

「心配なさらずとも、私は皇子殿下方の味方でございます。……ジェニエット様も、母上のためにご無理をなさらぬように」



(えっ!? もしかして、私が母上に言われて無理してここに来てると思われてる!?)



「そ、そんなことありませんわ! 本当に、貴方に会いたくて――」



「わかっております」

彼は静かに首を振り、優しい眼差しで続けた。



「……ですが、ここは訓練場です。危険ですので、お部屋にお戻りください」



その言葉は紳士的でありながら、どこか距離を感じさせた。

ジェニエットは胸の奥がチクリと痛むのだった。





(あとがき)

ようやく母と対面したジェニエット。けれど、グラヴィスの瞳に映るのは“誤解”の色で――。次回、彼の胸の内が明らかになります!

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