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【第32話】母の真意、娘の決意

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――今、私は母上アマデル皇妃と対峙している。

いつもは悠然と構えている母上だが、今は苛立ちを隠せず、険しい顔をしていた。



「お前……今回の件、どういうことなの? 私はドミニクに指揮権をと言ったはずよね?」



私は冷や汗を感じながらも、母上をまっすぐに見つめた。

「はい、承知しています。ですが、グラヴィス様やお兄様たちとも話しました。ドミニクお兄様は“皇太子になりたくない”とおっしゃっていました」



「ドミニクの意見? そんなことどうでもいいのよ! 私は――なぜ言うことを聞かなかったのかと聞いているの!」



母上の声が鋭く響く。

(……昔は、この声だけで身体がすくんでいた)

けれど、もう私はあの頃の私ではない。



「私は以前の私ではありません。もう母上の言いなりにはなりません。兄弟で争うことは、もうしてほしくないのです!」



「いつからそんな生意気になったの!? すべてお前たちのためなのに!」



母上の手が振り上がる。

叩かれる――そう思った瞬間、扉が勢いよく開いた。



「……グラヴィス様!」



驚く母上の前で、グラヴィスが私を抱き寄せた。

「大丈夫ですか?」

私は小さく頷く。



母上は息を荒げながら睨みつけた。

「丁度いいわ。グラヴィス、お前にも言いたいことがあるの。飼い犬に手を噛まれるとはこのことね……恩を仇で返す気?」



「……貴方様には、十分尽くしてきたはずです。どんな理由があろうと、ジェニエットを傷つけることは許しません」



「お前に何がわかるの!? 私が自分のためだけに動いてきたとでも!? すべて、子どもたちのためなのよ!」



(子どもたちのため……?)



「カーティスが皇帝になったら、私たちは殺される! マデラン皇后が放っておくはずがない! だから私は――そうならないように……!」



その言葉に、私は息を呑んだ。

「……母上、そんな理由で……」



母上の不器用な愛情が、痛いほど胸に刺さる。



「母上。カーティスお兄様は、私たちを傷つけたりしません。兄弟の絆は本物です」



「そんなの、なってみないとわからないじゃないの!」



そのとき――



「安心してください、アマデル様」



扉の奥から、カーティスお兄様の声が響いた。

彼の後ろには、ドミニク兄様、アドニス兄様、そして父上の姿があった。



「確かに、母上とアマデル様の間には深い溝があります。けれど、それは私たちには関係のないこと。私たちはあなたたちを決して傷つけません」



「そうだよ、母上。僕たちの絆は、そんなことで壊れたりしない」



皇帝――父上が、静かに一歩前へ出た。

「……そんなにもお前を苦しめていたのか。だが、陰で政治を操っていたことは許せぬ。アマデル、お前はしばらく離宮に籠もれ」



その言葉に、母上は力なく膝をついた。



その背中は、かつての誇り高き皇妃ではなく、一人の孤独な母親のように見えた。



――こうして、長きにわたる母上の策略は静かに幕を閉じたのだった。





--
(あとがき)



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