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◆番外編⑥◆ 蜜菓子の記憶 (〜 マデラン視点 〜)
しおりを挟む彼女は、私のなんだったのだろう──。
アマデルが軟禁されてから、もう一年が経とうとしている。
私の夫を奪った、憎い女。
そして、誰よりも大切だった人。
幼いころから、ずっと一緒だった少女。
心の中では、相反する二つの感情が今も渦を巻いている。
なぜ、ここまで彼女を憎く思うようになったのだろう。
あれは、彼女が皇帝の寝所に行く少し前のことだった。
「マデラン様。私は決してあなたを裏切りません。あなただけです。」
あのとき、彼女はそう言った。
熱い眼差しで、震える声で。
けれど私は、その言葉を無視した。
その真っ直ぐな想いが、あまりにも眩しくて、そして――怖かったのだ。
夫を奪われたことが、どうしても許せなくて。
彼女が妊娠したと聞いたとき、頭が真っ白になった。
夫を奪われたような、親友を奪われたような、裏切られたような気持ちだった。
……違う。
“誰でもない、彼女だけは駄目だったのだ。”
彼女だけは、私の側にいて、私の味方で、私だけのものだったから。
毒菓子を送ったのは、すべてを終わらせるためだった。
思い出の花の蜜菓子と共に――。
メイドに持たせたあと、私は声を殺して泣いた。
終わらせたかったのは、彼女ではなく、私自身の苦しみだったのかもしれない。
けれど毒殺は失敗に終わり、彼女も皇帝に訴えることはなかった。
それ以来、彼女の私を見る眼差しはどこか遠く、静かで、もう、――“私の知る彼女”ではなかった。
私は常に怯えていた。
彼女がすべてを奪っていくような気がして。
地位も、夫の愛も、誇りも。
周囲のメイドたちが囁く声が、胸を締めつけた。
「マデラン様を差し置いて、自分は皇妃にまで上り詰めて……きっと最初からマデラン様を利用していたのですわ。」
「なんて恥知らずな女なのでしょう。マデラン様、お可哀想に。」
はじめは腹立たしかったその声が、いつしか本当のように思えてしまった。
私は“憎むことでしか”自分を保てなくなっていた。
……けれど、本当は。
誰に喜びを分かち合ってもらいたかった?
誰に悲しみを慰めてもらいたかった?
誰の胸に顔を埋めて、泣きたかった?
答えは、最初から一つしかなかった。
息子のカーティスが正式に皇太子となった日。
華やかな式典の陰で私は決意した。
軟禁されている彼女に、どうしても会いたかった。
許してくれなくてもいい。
せめて、もう一度だけ会いたかった。
私は彼女のいる離宮へ向かい、階段を駆け上がった。
後ろをついてくるメイド達の声も、もう聞こえなかった。
扉の前に立つと、アマデル付きのメイドが驚いたように目を見開いた。
「皇妃に会いに来たと伝えて……会いたくないなら、それで構わないわ。」
やがて扉が開く。
そこには、窓からの陽光を浴びて立つアマデルの姿があった。
その横顔は穏やかで、美しく、そして――どこか遠い。
私は、ただ立ち尽くした。
そして、涙が止まらなかった。
--
(あとがき)
マデランは、愛と嫉妬、そして孤独のはざまで揺れる女性です。
彼女が本当に欲しかったのは、愛ではなく“理解”だったのかもしれません。
アマデルへの憎しみは、その裏返しのような強い愛情。
人は時に、いちばん大切な人を傷つけてしまうものです。
この番外編は、そんな“取り戻せない後悔”を描きたくて、そっと綴りました。
これにて、番外編最終話となります。今まで読んでくれた皆さま、ありがとうございました✨
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