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第19話「公爵、王子の影に走る不安 ― 王城での誤解と入れ違い」
早馬を駆り、王城の門へと急いだアレクセイは、馬から飛び降りるなり従者に声を張った。
「王へ、至急謁見を願いたい!」
その切迫した様子に、近衛兵もただならぬ気配を察したのか、すぐに王へと伝令が走る。
程なくして、王自らが謁見を許した。
重厚な扉が開き、アレクセイは堂々とした歩みで謁見の間へと進み出る。王は玉座に腰掛け、白髭を揺らしながら朗らかに笑った。
「どうした、公爵よ。婚約の返事ならば、そんなに焦らずともよいではないか。……まぁ、あやつ――フェルナンドはやけに急いておるがな。ふぉっふぉっふぉ」
その冗談めかした声音に、アレクセイは片膝をつき、深々と頭を垂れた。
「恐れながら――王子との婚約の件、どうか無かったこととしていただきたく存じます! ミレイは私と相思相愛の間柄。本日にも婚約を整えようと、まさにその矢先でございました。すべて私の不手際、王子へは誠に申し訳なく……!」
王は目を丸くし、そしてゆっくりとその表情を緩めていく。
「なんと……そうであったか! ふぉっふぉっふぉ! あの独り身を貫いてきたお前が、とうとう巡り合ったというのだな。それはめでたい、誠に喜ばしいことだ!」
大きくうなずく王に、アレクセイは安堵の息を吐いた。
「では、どうか王子には今回の件は無かったことと……王よりお伝え願えますか」
「うむ、しかたあるまい。フェルナンドには余から言い含めておこう」
そう応じつつも、王の顔にふと翳りが差す。
「……ただな、公爵。あの子は生まれてすぐ母を亡くした。今の王妃とは年も近く、母の温もりというものを知らぬまま育った。ミレイ殿には……母のような、姉のような落ち着いた魅力を感じたのだろう」
アレクセイの瞳が鋭く細められた。
胸の奥に小さなざわめきが走る。
「……そういえば、王子はいまどちらに?」
アレクセイの問いに、王もはっとして側仕えに視線を投げた。
「王子の所在を確かめよ!」
召使いがすぐに駆け寄り、頭を垂れる。
「は、はいっ。王子は……今朝早く、公爵邸へ向かわれたと伺っております」
「――なにっ!?」
王とアレクセイの声が同時に響いた。
王子が、よりによって自分の不在の邸へ――。
脳裏に、怯えるミレイの顔が浮かんだ。
アレクセイの胸に冷たい衝撃が走り抜ける。
「……っ、ミレイ!」
次の瞬間、彼は踵を返し、謁見の間を飛び出した。
背後で王の低い声が響く。
「……公爵、急げ。あの子は悪気はなくとも――独占欲の強い男ぞ」
廊下を駆け抜けながら、アレクセイの心臓は激しく鳴り響いていた。
守らねば。
彼女だけは、この手で必ず――。
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「王へ、至急謁見を願いたい!」
その切迫した様子に、近衛兵もただならぬ気配を察したのか、すぐに王へと伝令が走る。
程なくして、王自らが謁見を許した。
重厚な扉が開き、アレクセイは堂々とした歩みで謁見の間へと進み出る。王は玉座に腰掛け、白髭を揺らしながら朗らかに笑った。
「どうした、公爵よ。婚約の返事ならば、そんなに焦らずともよいではないか。……まぁ、あやつ――フェルナンドはやけに急いておるがな。ふぉっふぉっふぉ」
その冗談めかした声音に、アレクセイは片膝をつき、深々と頭を垂れた。
「恐れながら――王子との婚約の件、どうか無かったこととしていただきたく存じます! ミレイは私と相思相愛の間柄。本日にも婚約を整えようと、まさにその矢先でございました。すべて私の不手際、王子へは誠に申し訳なく……!」
王は目を丸くし、そしてゆっくりとその表情を緩めていく。
「なんと……そうであったか! ふぉっふぉっふぉ! あの独り身を貫いてきたお前が、とうとう巡り合ったというのだな。それはめでたい、誠に喜ばしいことだ!」
大きくうなずく王に、アレクセイは安堵の息を吐いた。
「では、どうか王子には今回の件は無かったことと……王よりお伝え願えますか」
「うむ、しかたあるまい。フェルナンドには余から言い含めておこう」
そう応じつつも、王の顔にふと翳りが差す。
「……ただな、公爵。あの子は生まれてすぐ母を亡くした。今の王妃とは年も近く、母の温もりというものを知らぬまま育った。ミレイ殿には……母のような、姉のような落ち着いた魅力を感じたのだろう」
アレクセイの瞳が鋭く細められた。
胸の奥に小さなざわめきが走る。
「……そういえば、王子はいまどちらに?」
アレクセイの問いに、王もはっとして側仕えに視線を投げた。
「王子の所在を確かめよ!」
召使いがすぐに駆け寄り、頭を垂れる。
「は、はいっ。王子は……今朝早く、公爵邸へ向かわれたと伺っております」
「――なにっ!?」
王とアレクセイの声が同時に響いた。
王子が、よりによって自分の不在の邸へ――。
脳裏に、怯えるミレイの顔が浮かんだ。
アレクセイの胸に冷たい衝撃が走り抜ける。
「……っ、ミレイ!」
次の瞬間、彼は踵を返し、謁見の間を飛び出した。
背後で王の低い声が響く。
「……公爵、急げ。あの子は悪気はなくとも――独占欲の強い男ぞ」
廊下を駆け抜けながら、アレクセイの心臓は激しく鳴り響いていた。
守らねば。
彼女だけは、この手で必ず――。
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