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【番外編⑦】舞踏会での奇跡のプロポーズ♡
ミレイに手を引かれ、コレットはついに会場の大広間へと足を踏み入れた。
きらめくシャンデリアの光が反射し、宝石のような笑い声が飛び交う。華やかなドレスの令嬢たちと、燕尾服に身を包んだ紳士たち。その輪の中に立つだけで、場違いな気がして胸がきゅっと縮む。
しかし、すぐに一人の男性がミレイの姿を見つけ、歩み寄ってきた。
黒髪を後ろに撫でつけ、堂々とした風格を持つ――アルデリア王国公爵、アレクセイその人である。
「どこに行っていたんだい? 心配して探しに出ようとしていたところだよ」
彼はミレイの手を取り、その瞳を愛おしげに細めた。傍目にも溢れるほどの慈愛が感じられ、見ているこちらが頬を赤らめそうなほど。
コレットは(……まるで理想の夫婦。耳にする噂以上に、まさしく愛妻家なのね)と胸を打たれる。
ミレイはにっこりと微笑み、「ごめんなさい、アレクセイ様♡ ちょっとお花を摘みに行っていたら、不快な場面に出くわしてしまって……。その時に、こちらのコレットさんと出会ったの」とコレットを紹介した。
慌ててコレットは裾をつまみ、深くお辞儀をする。
「お、お初にお目にかかります。アール伯爵家の……コレットと申します」
アレクセイは驚いたように目を細め、「ほう。君が……例の伯爵令嬢か。王子から君の話は聞いているよ」と言った。
「えっ……?」
コレットは思わず顔を上げ、ぽかんとする。
「なぜここに? 王子と一緒ではないのかね?」
その言葉に、ミレイが手を叩いて「あらまあ!」と声を上げる。
「あなた、まさか……この方が“あのコレット”なの? 私ったら気づかなかったわ!」
事態を飲み込めず、コレットはただ目を瞬かせるばかり。
アレクセイは申し訳なさそうに微笑み、「失礼。実は君のことを、甥であるフェルナンド王子から聞いていたのだ。今日は自ら迎えに行くと張り切っていたのだが……すれ違ってしまったようだね」
――すれ違い。そうだったのか……。
胸の奥に、じんわりと温かさと切なさが広がっていく。
そして、ずっと気になっていたことを勇気を振り絞って尋ねた。
「あの……フェルナンド様は、私のことを……なんとおっしゃっていたのですか?」
アレクセイとミレイは互いに目を合わせ、からかうように微笑む。
「それは――本人に聞くべきではないかな?」
「本人……?」と振り返ったその瞬間。
「……はぁ、やっと見つけた」
息を少し乱しながら、黄金の髪を揺らして立っていたのは――フェルナンド王子だった。
彼はコレットを見つけると、安堵と喜びが混じったような表情を浮かべ、まっすぐに歩み寄ってくる。
「伯爵邸まで迎えに行ったのだが、もう出かけられたと聞いて……急いで来た。ドレスを着てくれたんだね。……本当に、素晴らしく美しい」
その声は真剣で、耳に届くたび胸の奥が震える。
フェルナンドは頬を赤らめ、しかし誇らしげに微笑んだ。
「コレット。君をエスコートする栄誉を、私にくれないだろうか?」
差し出された手。
会場の視線が一斉に集まり、鼓動がうるさいほどに高鳴る。
それでもコレットは、おずおずと彼の手を取った。
公爵夫妻が温かな眼差しで見守る中、楽団の音楽が鳴り響く。
「一曲、お相手願います」
優雅にエスコートされ、ダンスが始まる。
「わ、私……あまり上手では……」
「大丈夫。全部、私に任せて」
フェルナンドの導きに身を委ねると、不思議と足が自然に動き、旋律に溶け込んでいく。
見つめ合う視線。彼の手の温もり。
その全てが、まるで夢の中にいるようで――会場中の人々がうっとりと見惚れていた。
曲が終わり、拍手が響く。
しかしフェルナンドは、彼女の手を放さず言った。
「もう一曲……お願いしてもいいかな?」
「で、ですが……」
2曲続けて踊るのは、婚約者かそれに近しい者の証。令嬢たちのざわめきが走る。
けれどフェルナンドは真剣な眼差しで囁いた。
「お願いだ。私と、もう一度」
その声音に抗えるはずもなく、コレットは頷いた。
2曲目が始まり、会場は大きなどよめきに包まれる。
――これは、事実上の婚約宣言。
令嬢たちの嫉妬の視線すら、もはや届かない。
そして曲が終わると同時に、フェルナンドは侍従に合図をした。
差し出されたのは、大きな赤薔薇の花束。
フェルナンドは片膝をつき、その花束を捧げ持ちながら、熱を帯びた瞳でコレットを見上げる。
「コレット――心から君を愛している。どうか、私と結婚してほしい」
会場中に衝撃の声が響く。令嬢たちが悲鳴を上げ、それでも誰一人、二人の間に割って入れる者はいなかった。
夢にまで見た光景が、いま目の前で現実となっている。
込み上げる涙が頬を伝い、それでも笑顔でコレットは答えた。
「……はい。私でよければ」
その瞬間、公爵夫妻を筆頭に、会場は拍手喝采に包まれた。
信じられない。けれど、確かに現実。
コレットは胸いっぱいの幸福に包まれ、夢うつつのように立ち尽くしていた。
---
――そして、その光景を天界から見下ろす影がひとつ。
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