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【番外編】『ルイ誕生と、公爵家のさらなる幸せ』
アリスが二歳の誕生日を迎える頃、公爵家には再び待望の知らせが舞い込んだ。
――ミレイのお腹に、新たな命が宿ったのである。
一度出産を経験したミレイは、前回よりも心に余裕を持って日々を過ごしていた。
時に吐き気や倦怠感に悩まされることもあったが、アリスが小さな手で「おかあさま、だいじょうぶ?」と気遣ってくれるたび、その優しさが胸を温めてくれた。
一方で、落ち着かないのはアレクセイ公爵だった。
あの時と同じように、出産の日が近づくにつれて、彼の心はざわついていた。
厳格で誰よりも冷静な公爵が、妻の分娩室の扉の前を落ち着きなく行ったり来たりしている姿は、館の者たちにとっても微笑ましい光景となっていた。
その日も、汗をかきながら廊下を歩き回る公爵の裾を、小さな手がきゅっと掴んだ。
「おとうさま、どうしたの?」
アリスが小首をかしげる。「あかちゃんうまれるの、うれしくないの?」
その一言に、公爵ははっとした。
幼い娘の澄んだ瞳に見つめられ、思わず胸が熱くなる。
「……そうだな、アリス。私は嬉しいのだよ。お前の弟か妹が生まれる――これほど喜ばしいことはない」
そう言ってアリスを抱き上げると、彼女は安心したように小さく笑った。
その瞬間、室内から――力強い産声が響き渡った。
「おぎゃあ、おぎゃあ!」
公爵とアリスは思わず顔を見合わせ、同時に微笑む。
ふたりの心を満たすその声は、まるで新しい幸せの訪れを告げる鐘の音のようだった。
扉が開き、産婆が汗を拭いながら姿を現す。
「おめでとうございます。元気な男の子です……跡継ぎ様ですよ」
館中に歓喜の声が広がった。
新たな命の誕生は、公爵家に仕える者すべてにとっても喜びであり、祝福であった。
公爵はアリスを抱いたまま、急いで室内に入った。
そこには、出産を終え、疲れ果てながらも微笑むミレイの姿があった。
「ご苦労だったな、ミレイ。大丈夫か?」
公爵が声を震わせながら妻の手を握る。
「はい……アレクセイ様。私も、赤ちゃんも……無事です」
ミレイの額には汗が滲んでいたが、その瞳には確かな安堵と喜びが宿っていた。
その横には、布に包まれた小さな赤子が眠っている。
公爵は胸が張り裂けそうなほどの感動を覚え、そっとその顔を覗き込んだ。
「……なんて可愛らしいのだ。我が息子よ。お前の名は――ルイ。強く、大きく育ってくれ」
その声に反応するように、赤子はかすかに手を動かし、眠りながら小さな口をすぼめる。
「ルイ……」
アリスがそっと赤子の頬に指を伸ばし、ちょんっと触れた。
そして、花が咲いたように笑顔を見せる。
「ルイ、わたしがおねえちゃんよ。かわいいね!」
その純粋な言葉に、部屋の空気はさらに温かくなる。
ミレイは目に涙を浮かべ、公爵は深く息を吐いて娘と息子を見つめた。
――家族が増えるということは、こんなにも胸を満たすものなのか。
「ミレイ……ありがとう。君がいてくれるから、私はこんなにも幸せでいられる」
その言葉に、ミレイは静かに微笑み返す。
彼女の視線の先には、夫の逞しい腕に抱かれたアリスと、眠るルイの姿。
愛する者たちに囲まれ、これ以上ない幸福がそこにあった。
こうして、公爵家には新たな希望が芽吹き、温かな未来へと歩み始めるのであった。
---
(後書き)
アリスとルイの誕生により、ますます賑やかになった公爵家の様子を描きました。
アレクセイ公爵の父としての姿、ミレイの母としての優しさ、そしてアリスの愛情深いお姉ちゃんぶり……。
次回は、ルイが少し成長してアリスと一緒に遊ぶ、ほのぼのとした日常編をお届け予定です。お楽しみに!
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