桜の散る頃に

白石華

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桜の散る頃に

交歓

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「ご馳走って何が。」

「精液が、です。」

「やっぱりそうか。それしかないよね。」

「私、植物の妖精ですから。
 特に今の季節、葉っぱを沢山、生やしますし、その後は実をならします。
 滋養のあるものが。」
「肥料としての意味でなの。」
「他に何かあるんですか?」
「ううん。ないないないない。いいやもうこの話は。」
「良くないです。私のお礼の話はどこに行ったんですか。」
「うーん……。」

 俺は考える。この子とえっち……するのは抵抗はない。当の本人だって精液がご馳走だと言うくらいである。意味を知っている上に抵抗も持ってないんだろうな。……しかし今一つ俺の中で踏ん切れない。

「あっ、そうだ。お礼だったらこれはどう?」
「はいっ。私で出来ることなら。」
「さっき抱きついてきたとき、桜のいい匂いがしたんだ。
 もう一回、それを出来たら良いなって。」
「それだけで……いいんですか。」
「あのね。スーパーの安売りで買ったビスケットにそこまで恩を感じなくていいんだよ。」

 妖精さんは何か考えているようだったが。

「……はい。」

 最後には頷いた。

「じゃあ、これで。……ん。」

 俺は妖精さんを抱きしめる。驚くほど軽く、フワフワして。桜の花の匂いがする。頭を撫で、軽く薄いピンク色の前髪とサイドの残り毛を梳くと、もっと強くそれを感じた。ピンク色の髪なのに、梳き撫でて広げると光に当たって白くなる。

「ん、はふ。ふあ、あ……。」

 妖精さんも気持ちよさそうに目を細めている。今度は羽に触れてみることにした。撫でると細かい羽毛が沢山付いていて綿のようにフワフワして、暖かい。小鳥を掌に載せたときの感触、とでも言うんだろうか。

「はああ……あ。」

 これでだって良いじゃないか。知り合って間もないのに、何もビスケットを貰えたぐらいで俺とえっちしなくたって。

「あの……。」

 妖精さんが口を開く。

「何?」
「私の匂い、気に入っていただけたんですか?」
「うん。いい匂いだと思うよ。」
「なら、もっと匂いがするところ、知ってます?」
「え?んっ?」

 妖精さんが身を乗り出して、いきなり唇を俺に重ねてくる。柔らかくて、ぷるんとして瑞々しい唇。

「ちゅ……ちゅる。」
「んんんんっ???」

 舌を差し入れてきて……これは何だ?

(桜の匂い……だけじゃなくて、甘酸っぱい果物みたいな味……。サクランボ?)

「んく、んっ……。」

 唾液を流し込まれたのに何の抵抗もなく、すんなり飲めてしまった。寧ろ美味しいとさえ思ってしまう。

「ちゅぱ……んっ。美味しいです……あなたの唾液。ちゅるる……るる……んっ。」

(妖精さんも……俺の唾液を味わっている?)

 頭が混乱してくる。

「ちゅ、ちゅる……る、るっ。ぷはあっ。
 ちょ、ちょっと。俺は何もそこまで君にして貰わなくても。」
「私とあなたが子作りの行為だけをしても……それはお互いを食べる行為なんですよ。
 どうしてしたらいけないと思うんですか。」

 寂しそうな目で俺を見た。

「……。」

 俺は人間の、女の子の姿をした、この子が、そんなことを言うのに少なからずショックを感じてしまって。

「やっぱり……君って人間じゃないんだね。」

 この子の発言でズレがあるのは、そういうことなんだろう。

「正確には植物に宿る精霊……妖精です。」
「でもさ、どうしてそんなに俺としたいんだい?」
「私にはどうしてしたくないのかが分かりません。」
「……だね。」

 これだけ事実を見せられたら。俺も、もう理由が欲しいとは思わなくなっているようだ。
 行為に……この子が同意してくれて俺がこの子を可愛いと思う以外の動機は必要ないんだろう。だけどえっちが出来る理由が。

(この子とえっちをするのが厭って訳じゃない。)
(お菓子をあげたお礼でこの子とえっちをするってことが……。)
(自分が堕ちてしまった気分にさせる……。)

 そう。これがさっきまで俺に踏ん切りが付かなかった原因である。

(そこだけは解消されないままなんだよな……ちくしょー。)

 もういい。なるようになればいい。俺だって……この子とえっちがしたくない訳じゃないんだ。

「……君は精液がご馳走なんだよね。」

 やけっぱちになった。

「はい。」
「俺も君の唾液が……美味しかったし。体液はみんなそんな味がするの?」
「特に一番濃いところは……ここです。」

 細かいプリーツが付いたフワフワしていそうな素材のスカートを俺に捲って見せる。

(う……下に穿いていたのってニーソックスだったんだ。)
(って、え、もっと、もっと上げるの???ちょ、ちょっとそこは。)

 下着が見えるところまで捲り上げてしまい。真っ白のレースで縁取りされたパンティが穿かれたその部位は……布越しではあるけど見た目は人間と同じだった。

「……。」
「植物の生殖器ですから。他にも汗も……匂いがしますよ。」

 俺は目の前の出来事に追いつけなかった。やけっぱちになっても次から次に理解不能の事態が起こる。

「う……うん。」

 グラグラと頭が揺れるような心地がする。覚束無い返事になってしまう。それでも俺は、惹きつけられてしまうのか、上手く言葉で言い表せない何かが既に芽生えていた。

「もう一回、キスがしたい。不意打ちって形じゃなくて。」
「はい。……ん。」

 返事をすると瞳を閉じ、俺を待つ。俺はゆっくりと唇を重ねていき。

(ああ……やっぱり柔らかい。)

 ふっくらした、さっきの行為で潤みを持つ唇を味わう。身体から桜の香りが漂うのが強まったようだ。唾液はサクランボの味がして。さっきまでの俺にあった抵抗は一体、何だったのだろうかと思える程……自然にそれが行えていた。

「ちゅく、ちゅる……るる、るっ。」
「ちゅ、ちゅる……んっ。はあっ、んん……るっ。」

 舌を絡めると、すぐにそれに応じてくれて。舌も……ザラザラしてるのに唾液で滑り、絡み付くようだ。

(この子の唾液……美味しい。)

 口に含むと馥郁とした香りが口いっぱいに広がっていった。

「あのさ。」
「はい。」
「ベッドに移動しない?俺……もう我慢できそうにないし。
 ベッドって言うのは……さっき俺が寝ていた場所ね。」

 俺は目線をベッドに向ける。そこを妖精さんも目で追って理解したようだ。コクリと頷いて俺に付いてきた。

「聞いてもいいかな。」

 ベッドの真ん中に二人で座ると。

「はい。」
「妖精さんって名前はある?」
「名前……ですか?」
「うん。自分に付いている呼び名みたいなもの。
 俺にはあって、谷口茂樹(たにぐち しげき)っていうんだ。
 えっちをするときは名前で呼んだ方が良いかなって。
 えっちのときまで『妖精さん』とか『君』で呼ぶのもね。」
「ありますよ。ホノカ、って言います。山の神様に付けて貰いました。」
「あはは……えっち前にようやく名前の自己紹介か……。」
「?それがどうかしたんですか?」
「ホノカちゃんは気にしなくて良いよ。ホノカちゃんは……愛撫って必要ある?
 こう……身体を触ったり、舐めたりして気分を高めてえっちの準備をすること。」

 もう気にするもんか。
 ここに来るまで、どれだけ道を踏み外してしまったと思っている、俺。

「身体は人間と同じつくりですけど舐めた方が……味が分かると思います。」
「うん。でも。」

 俺はホノカちゃんの肩を抱いて。ベットに寝かせる。

「これは俺の意思ですることだから。それだけで終わらせたくないんだ。」
「茂樹さん?あっ……。」

 襟として首に結ばれていたリボンを解くと胸元まで露わになる。大きさは……控え目で。寝て膨らみが分かるか分からないかぐらいである。フリルの着いた合わせ目に触れ、ボタンも外し、乳房を完全に晒した。肌は真っ白なのに乳首と乳輪はピンク色で。

「……可愛いおっぱいだと思う。」
「ありがとうございます。」

 ホノカちゃんは嬉しそうにしている。乳房に手を伸ばし掌で乳房を中心に、さわさわと丸く円を描く。

「う、んんっ……うあ……。」

 滑らかで、撫でている内に汗ばんできて肌に付くようになる。暖かくてプニプニして控え目な感触を確かめられるのが心地よい。

「食べることだけを考えたら……無駄なことかもしれないけどさ。
 こうして……触れても。気分って高まるんだよ。」
「……はい。撫でて貰えると嬉しいのは私だって。
 だけど、それを意識させてしまったら。私として頂けなさそうだったから。」
「だろうね。ごめん。今のは忘れて。」

 自分でも驚く程、安心したのが分かる。ホノカちゃんも……そうだったのかと思ったら俺はもうどうでも良くなってきた。

「あっ、んんんっ。ふあ……あっ。」
「ホノカちゃんの匂いが濃くなってきた。これでだって。」

 硬くなってきた乳首を指先で親指と人差し指で捏ねるように摘む。

「やっあっ、ふあ……あっ。そんな風に、弄ったら。」

 切なそうに声を上げる。

「ああ……もう。ふあっ。茂樹さん……あっ。」

 目尻に涙が浮かんできたところで瞼に唇を付け、涙を舐め取る。

「んんっ、ちゅっ、ちゅ……。れるっ。涙も、甘いんだ。ここは……?」

 そこから舐め下ろしていき、頬、顎と舐めていく。桜の香りと蜜の味がして。

「はい。私……桜の妖精……ですから。んんっ。」

 唇にも付ける。

「んんっ、ちゅ、ちゅ……はあっ。やっと私にも頂けました……。ちろっ。」

 嬉しそうな表情をして俺に唇を返し、唇を舐める動作もする。

「ホノカちゃん……んっ。」

 唾液を流し込んでみる。

「んっ、んんっ。んく……んく。」

 ミルクでも飲むように喉へ流し込んでいった。

「ふあ……あ。美味しい。」

(もう、いいよな。)

 うっとりして唾液を味わうホノカちゃんを見ていたら俺の中で何かがプッツリと切れた。

「ちゅぱ……ホノカちゃん。そろそろ本格的にしようか。」

 唇を離し、呼びかける。

「どうするんですか?」

「体液を……交換しようかと思って。俺は寝るから。その上に反対側に身体を向けて俺のものとホノカちゃんのを口で摂取する。」
「はっ……はいっ。」

 ホノカちゃんの返事は速く、嬉しそうな響きが混じる。俺は何でだか分からないが、種族の違うえっちも本人が喜んでいるなら悪くないと思えてきていた。
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