君と桜が咲く頃に

白石華

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君と桜が咲く頃に

君と桜が咲く頃に、その2

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「はいー。いらっしゃーい。」

「どうもです。」

 花見当日。既に公園に来ていた部長が一人、公園の入り口の前で俺を出迎えてくれた。

「さっそくだけど、どのくらい案は決まったかね。」
「えーっと。部長の想像の域を出ないと思います。」
「うん。耳で聞いたまんまってことね。
 効果音と思わずに、イメージ音でやってみようと思うんだけど。」
「何ですかそのイメージ音って。」
「魔女が触れると音が鳴るとは言ったが。
 私たちが耳で聞いたことがある音だと読んだ覚えはない。
 あとそのまんま読んでも、聞き慣れた音だと流しちゃうかと。」
「そうですね。」
「まず、風に揺れたときの音の再現は却下で。」
「俺も何となく、そんな気はしてました。」
「というわけで、桜や草花、川や池を見ながら。
 イメージに合う音と言うか発声を探しに行きましょう。
 終わったらお花見で。」
「はい。」

 公園の中に入ると。平日の春の夕方だからかそんなに人はおらず、しかし昼間ぐらいには明るい中を歩いていく。ウォーキングコースやアスレチックがあるがそこは俺たちの目当ての場所ではないから、桜並木や花畑、川と池の方を歩いていく。

「いやー目が潤うわー。」
「綺麗ですね。」
「音の魔女って、触れて何を鳴らしたかったのかな。」
「うーん。国が滅んだあと、話すのをやめちゃった人ですからね。」
「うん。もう一声。今回はランランのイメージも聞きます。」
「ああ、はい。」

 正直、朗読サークルでそこまでするとは思ってなかったから、意表を突かれるも、その通りだなと思ったからイメージを膨らませる。

「ランランは、鳴らすとしたら、どんな音だと思う?」
「俺は……。桜だと。」
「うん。言ってみて。」
「あ……。」

 リンリンが、桜の木の元で俺の返答を待つのだが、桜吹雪に佇む姿に、一瞬、魔女が答えを待っているように見える。

「どしたの? ランラン。」
「あいえ、目の錯覚が。」
「お外だからねー。目が疲れちゃった?」
「話は戻るんですが。
 魔女って国が亡びるまでは来た人に助言をしていたんですよね。」
「そうだね。」
「それで国が滅んだあとは、話すのをやめて。
 触れたものに音を鳴らすようにした。」
「そうだね。」
「それだと、相手に正解を言うんじゃなくて。
 向こうの声を聞くようにしたんじゃないかなって。
 しかも声を発さない相手の。」
「ランランはそう思ったんだ。」
「だからこう……。桜の気持ちになったら。
 ようやく暖かい時期が来たなー、とか、そういうのかなって。」
「ランラン、いいねそれ。それを音で探してみよう。」
「え、そ、そうですか? ホワーンてした感じかな。」
「うん、いいじゃんいいじゃん。」

 リンリンがやたら俺の意見に食いついてくる。この人はどうしてこう、創作の神様の寵愛に、俺も引き込もうとするのだろうか。その気になってしまうではないか。

「ランラン、次は草花はどう?」
「草花……。
 草花って、にょきにょき伸びて、パッと花を咲かせますね。」
「ふんふん。」
「桜と同じで、ようやく暖かくなったーって思ったけど。
 もうちょっと勢いがある短い感じで。
 花は桜よりも控え目でホワンだけど草はブワーッとで。」
「ふふん。これもメモね。ぼん、ぼぼぼぼん、とかかな。」

 こんな調子で俺はリンリンと作中で扱われた音色のイメージ探しに乗り気になっていった。リンリンは俺のイメージした音をメモしてくれていった。

「よーし。イメージ探し終わり!」
「お疲れ様でした。」
「ランランもお疲れー。こういうこと、二人でやれて楽しかったよ。
 いつもは一人か先生とだし。
 先生とか一人で読んでとかだとする気にもならなかったからね。」

 リンリンからまた人のいないマイナーサークルの悲哀を聞かされた。

「今日はランランもいっぱい動いてくれたし。
 お花見弁当は持ってきたかね?」
「はい。」

 俺はコンビニで買った、サンドイッチと惣菜、パックに入った飲み物、ちょっとした花見シーズン用のコンビニスイーツが袋に入ったのを見せる。

「ふむ。軽く食べられるぐらい?」
「はい。ここで食べられるか分からなかったから、持って帰れるように。」
「丁度、東屋が空いてるからそこで食べよう。」

 リンリンの指さした先には、池の真ん中に渡された木製の手すり付き橋を通った先の、後ろは地面と繋がっている半島だった。そこが緩く盆みたいな山っぽく土が盛られていて、東屋から公園周辺を見渡せるようになっていた。何でこんないいスポットが花見シーズンに空いていたのか、実にラッキーである。高いと意外と風通しがよくて寒いからな。花冷えもあるし、日差しのある昼間を過ぎたらいなくなるのか。てくてくと橋を渡っていくと。

「ランラン、鴨、鴨がいる! 花筏もある!」
「大喜びですね、部長。」
「桜と鴨だよ! 写真だ!」
「はーい。」
「島に着いたら島から橋も撮るよ!」
「了解です。」

 既に一仕事、終えて今度は遊ぶ時間だからか、リンリンがスマホを構えて大はしゃぎだった。

(俺……このサークルと、部長といて、楽しいんだろうな。)

 創作の神様に俺を引き会わせようとしたり、遊ばせてくれたり、うまいもの食べるところを教えてくれたりと、そういう所は感謝している。向こうがどう思ってくれているか分からない内からは親切にしてくれているのをそう思ったりしたら失礼になるかもしれないから、あんまり、男女の関係と思わないようにしていたが、そういう関係になっても、別にいいなとさえ思ってしまう。好きか嫌いかと聞かれると好きに入るんだろうが、それよりも、サークルで活動する時間が楽しかった。

「ランラン。周りを見て、何か感じる?」
「まだサークル活動の続きですか?」
「ああ。いいとこ座れたからアイデアを練ろうと思ってね。
 どっちみち、続きは次の活動に持ち越しだけどね。」
「そうですね。俺、早いとこ燃料補給しないと疲れちゃって。」
「そりゃ大変だ。食べよう。」

 リンリンから解放され、ようやく東屋にたどり着き飯にありつけたのだった。好意自体はあっても、それでもまだ、俺はこの人の横顔しか、きちんと見られなかったが……。

 ・・・・・・。
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