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君と紫陽花の咲く頃に
君と紫陽花が咲く頃に
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それは今に戻って、リンリンと、リンリンの友人に会いに行ったときのこと―
「あら、リンの彼氏も来てたんだ。」
「どうも、よろしくお願いします。」
「あはは、ホントに彼氏はキチンとさんなんだ。」
「リンリン、普段俺の事、他の人にも話しているのかよ。」
「話題に出しているけど、大体、面倒見たり見られたりしてるって答えただけよ。」
リンリンが友人の作品を朗読する趣味を再び再開することになり、まずは顔合わせという事で。声を出してもいい部屋を借りて、そこでちょっとした朗読会をすることになったのだが。彼女の友人というのもあり、自己紹介する前から俺の事を知られているようだったが、ネタにされているというよりは褒められているみたいだからセーフとしよう。
「それで、今回は朗読をお願いしたいんだけど。」
「どういう詩なんですか?」
「短編なんだけど紫陽花の詩でね。イメージを膨らませるように読んで欲しいなって。」
「イメージ。」
「うん。即興で書いた詩だから最初はサラッと読んでくれるだけでいいんだけど。
ゆくゆくはね。」
リンリンと朗読研究会でしていたのと同じような感じだ。リンリンは無茶振りと本人も言っていたけど、実際、そういう風にして自分の詩を読まれたい人とかもいるんだったら先に経験を積んでおいて結果オーライだな。
「とりあえず詩を見せて。」
「はいよ、リン。」
リンリンの友人から詩を見せて貰うと。
ここは紫陽花の咲く場所
菱のようにブーケのように霞のように咲き広がる
見渡せば周りは露を貯め溢れた分は大地につるりと還っていく
水を吸い、つるり
水を吸い、つるり
水を吸い、つるり
ひたひたに水を貯めて枝を伸ばしていく
紫陽花の咲く頃は
ひたひたに水が溜まり
吸い込み貯める生物を瑞々しく変えていく
時には天気の皮肉も交じった気まぐれも
静かに暮らし見守る音の魔女がいた
梅雨の時期は魔女は草木に触れず、樹にも触れず
ぽちゃぽちゃと落ちる雨の音を聴いて暮らす
ぽちゃりぽちゃり
ぽちゃり、ぽとん
雨の時期は雨の音しか鳴らず
退屈にも聞こえる日々を
やがて来る晴れ間を待つように
貯めた水が瑞々しく結実する日が来るように
雨音しか聞こえなくても、誰かの声が聞こえるように
ぽちゃり、ぽちゃり
晴れはまだ遠くても
ぽちゃり、ぽちゃり
雨音は沢山の声を運んでくる
「……。」
魔女の絵本の作者だったのか。俺は数年越しの事実を知り、リンリンがなんで俺にこの本を勧めたのかと思ったら友人が作った本だったからなのかとようやく把握した。あの頃に書籍化して結構な装丁にもなったのか。どういう経緯があったのかは知らないけど、すごいな。友人がそこまでの本を作ったならそりゃ読んだりもするか。
「ねえ、どうかな。」
俺の感想を待つようにリンリンの友人は聞いてくる。
「そうですね……ざっと読んだ感じですが。
擬音が多いから、同じ言葉が続いても読み方を変えていったら面白そうだと思います。
逆に雨ばっかりで退屈そうに聴かせたかったら、同じような感じで。
近年だと洪水とかもあるからもっとどよどよした感じに読ませたいならそれでも。」
「ふんふん。まあ、洪水はね……それで読ませるならもっと違う話にするかな。」
「あとは、そうだな……後半の晴れる日が来るのを待つところは。
晴れを願っているような感じに読んだりとか。」
「そうだね、それは欲しい。」
俺の意見を聞いてくれているし、どうやらリンリンから聞いた話よりも俺の読み方をさせてくれそうな人だが、突っ込むところは突っ込んでいるな。
「うんうん。感情を込めて読んでくれそうだし読み方にも工夫を付けてくれるんだね!
いいじゃん、リンリンの彼氏。私が最初に自分の本を読んで貰った時よりも。
読んでくれるようになれてるし!」
「え? 見てたんですか、アレ?」
どうやら大学時代の俺の春の新歓朗読会にも来てくれていたようだった。自分の本をどう読んでくれるかはそりゃ興味あるか。それに俺、褒められてるな。スッカリなりを潜めていたけど、この人だって創作の神様の寵愛に俺を引き込んでくる人だったりするのだろうか。
「うん。リンリンが想像力が最初から逞しくて有望な人が来てくれたって。」
想像力か。妄想と紙一重だが、活かせるところではそう言えるんだな。それにしても最初の頃を思い出すと、リンリンもよく俺の話を聞いて乗せてくれたっけ。最初だからみんなの力量(特に俺)を知りたかったんだろうし、慣らしだとこんなもんなのか。
「ああ、ありがとうございます。」
「いやあ、私の方こそありがとうだよ。
本読んでくれたし、擬音とか自分で頭働かせて作ってくれたんでしょ?」
「あ、ああ。はい。」
「んもー、本当に嬉しかったのと、読んでくれた人とまたこうして読んで貰えるんだから。
こっちは作者冥利に尽きるって。」
「ははは……。俺もまさかリンリンの友人としての紹介で会えるとは思いませんでした。」
「えっ、なに。読んだ本、そっちも覚えててくれたの?」
「はい。最初の作品ですから。」
「やだー、嬉しいこと言ってくれるじゃん!」
あの頃のツテでまた、こういう事がやれるんだから、俺としてもありがたい話で。どっちかと言うと、俺はまた、リンリンが朗読をするところが見たかったんだけど、なぜか俺の方に意見が集中しているような?
「ねえ、リン、リンはどう?」
と思っていたら作者の方から聞きに行っていた。
「うん。せっかくランランが意見を出してくれているから、それに乗ろうかなって。」
「そう? リンはどう読みたいとかないの?」
どうやら今度は二人で打ち合わせに入ったようだ。
「うーん。ランランがいいところを突いたから。
リズムを付けて読みたいかな? 音感がよさそう。」
「イメージとしてはどんな感じ?」
「音の魔女が出てくるところでちょうど場面転換になるでしょ?
だったら前半がランラン、後半が私でどうかな。二人で読むんだし。」
「そうだね。いいね。」
「二人の会話を聴くに、話としてもそんなに重くないと思うのさ。
重い要素としても退屈だなー、ぐらいで。」
「うん。私もその辺にしておいて欲しい。」
「寧ろ紫陽花と、梅雨の季節に出てくる生物の方にクローズアップしたい。」
「具体的には?」
「紫陽花は綺麗な感じで、雨音はユーモアのあるリズミカルな感じで。
雨を吸って生きていそうな生物はカタツムリとかカエルとかだと思うのね。
そういうののイメージは……擬音が無いからイメージ付けにくいと思うけど。
ちっちゃい生き物だからここもユーモアのある感じで読んで。
魔女の方は人間だと思うから。特に雨で生命力とか関係ないと思うのね。
寧ろ早く晴れないかなって思っているような読み方で。
雨の音で人の声が聞こえるって言うのは大体晴れて欲しいってことよ。
後は農家がいいところまで作物が育てとかそういうところ。
他にも雨が降ったら得する人と損する人の何やかやがあるかもしれないし。
元々が人の意見を聞いていた魔女だからそういうことを想像したりするんじゃない?」
「なるほどねー。声が付くとやっぱりそういう工夫がやれるからいいよね!」
リンリンはリンリンで、イメージを出すことに抵抗が全くないな。あとやっぱり、俺が言わなかった事とかも拾ってくれてる。俺ももっと、言えるようにならないとな。今度は先輩後輩とかもないんだし、俺だってあの頃の続きをしたくない訳じゃない。ようやく、こうなる日が来たんだ。
「後は魔女は魔女で、人里離れたところに住んでるとしたら、人の声の他にも。
植物の声とか、カタツムリとかカエルとかの声を聴いてたりもするかもしれないよな。」
「うん。それはあるね。」
リンリンと友人との会話に俺も参加する。
「そうね。でもそこまでイメージに入れられる?」
「晴れを待っているとばかり思っていたから。
明るい口調で読むとチグハグになりそうだし。
こっちはそういう生き物も含んでもユーモラスに読まなくてもいいかなとは思っている。」
「いや、行けるんじゃないか? ぽちゃり、ぽちゃりの所とか。
様々な音を運んでくるなら、そこで読み方を変えていけば。
ユーモラスに読まないのも、ユーモラスに読むのも両方入れられる。」
「ああ、そっか。そうすればいいのね。」
「へー。リンリンの彼氏も読んでくれているのね。」
リンリンと俺の会話に友人も乗り気だ。
「久しぶりだねー、このやり取り。詩に向かって、みんなで読み方、打ち合わせするの。」
「私はリンたちがこうするところ見るの初めてだけど。
あんなにスイスイ読んじゃう裏で、こういう打ち合わせもしているんだなって。
見るのが新鮮だよ。」
「そのまま読んじゃってもいいんだけどね。
やっぱりこう……イメージを膨らませたいと言われると。
リズムとか。イントネーションとか、オノマトペを口で言う効果音とか。」
「やりたくなってくれたならいいよー。」
「よし、じゃあ。一旦、読んでから、またやりますか!」
「はーい。よろしくー。」
俺とリンリンが貰ったペーパーを持って並んで立ち、また、朗読が始まる。こういう形でリンリンの横顔を見るのも随分久しぶりだった。俺が初めて読んだ頃と違うのは、リンリンの友人の前で立っても、詩の世界に入り込んでいる間はあがらずに読めるようになった度胸が付いたのと、そして。
「ここは、紫陽花の咲く場所―」
久しぶりに朗読した時に。随分と、そうしていない時期で衰えていたのかと思ったらそうでもなく。そんな気にならずに、読み進められて。多分、初めて俺が朗読研究会で読んだ絵本の作者の続編を予期せぬ形で読めたからかもしれず。
「菱のようにブーケのように、霞のように咲き広がる―」
俺のパートが梅雨でも紫陽花が咲き乱れ、情景も生命力が溢れている部分を読んでいるためか。場面が思い浮かぶようで。
「……。」
リンリンの友人も、にこやかな表情でうんうんと頷きながら俺たちを見ている。条件を変えて再び、あの時間に戻るのは、どうなる事かと思ったけど。久しぶりの出だしとしては、随分と俺の想像力もたくましく育ち。
「静かに暮らし見守る音の魔女がいた―」
隣でリンリンが自分のパートに入って読み始める頃には。紫陽花の茂る場所で魔女が雨音を聴きながら静かに過ごしている情景が浮かぶぐらいには、俺のイメージも膨らんでいたのだった。
(何だ、俺もこの時間に戻りたかったのか。)
リンリンとこうする時間に戻りたかったのもあるが。創作の神様が俺にはどういう神様が付いているのか分からないけど。俺の場合は妄想力を逞しくする神様が付いているみたいだし、俺自身も神様に付かれている自分を実感したかったのかもしれないな。
「あら、リンの彼氏も来てたんだ。」
「どうも、よろしくお願いします。」
「あはは、ホントに彼氏はキチンとさんなんだ。」
「リンリン、普段俺の事、他の人にも話しているのかよ。」
「話題に出しているけど、大体、面倒見たり見られたりしてるって答えただけよ。」
リンリンが友人の作品を朗読する趣味を再び再開することになり、まずは顔合わせという事で。声を出してもいい部屋を借りて、そこでちょっとした朗読会をすることになったのだが。彼女の友人というのもあり、自己紹介する前から俺の事を知られているようだったが、ネタにされているというよりは褒められているみたいだからセーフとしよう。
「それで、今回は朗読をお願いしたいんだけど。」
「どういう詩なんですか?」
「短編なんだけど紫陽花の詩でね。イメージを膨らませるように読んで欲しいなって。」
「イメージ。」
「うん。即興で書いた詩だから最初はサラッと読んでくれるだけでいいんだけど。
ゆくゆくはね。」
リンリンと朗読研究会でしていたのと同じような感じだ。リンリンは無茶振りと本人も言っていたけど、実際、そういう風にして自分の詩を読まれたい人とかもいるんだったら先に経験を積んでおいて結果オーライだな。
「とりあえず詩を見せて。」
「はいよ、リン。」
リンリンの友人から詩を見せて貰うと。
ここは紫陽花の咲く場所
菱のようにブーケのように霞のように咲き広がる
見渡せば周りは露を貯め溢れた分は大地につるりと還っていく
水を吸い、つるり
水を吸い、つるり
水を吸い、つるり
ひたひたに水を貯めて枝を伸ばしていく
紫陽花の咲く頃は
ひたひたに水が溜まり
吸い込み貯める生物を瑞々しく変えていく
時には天気の皮肉も交じった気まぐれも
静かに暮らし見守る音の魔女がいた
梅雨の時期は魔女は草木に触れず、樹にも触れず
ぽちゃぽちゃと落ちる雨の音を聴いて暮らす
ぽちゃりぽちゃり
ぽちゃり、ぽとん
雨の時期は雨の音しか鳴らず
退屈にも聞こえる日々を
やがて来る晴れ間を待つように
貯めた水が瑞々しく結実する日が来るように
雨音しか聞こえなくても、誰かの声が聞こえるように
ぽちゃり、ぽちゃり
晴れはまだ遠くても
ぽちゃり、ぽちゃり
雨音は沢山の声を運んでくる
「……。」
魔女の絵本の作者だったのか。俺は数年越しの事実を知り、リンリンがなんで俺にこの本を勧めたのかと思ったら友人が作った本だったからなのかとようやく把握した。あの頃に書籍化して結構な装丁にもなったのか。どういう経緯があったのかは知らないけど、すごいな。友人がそこまでの本を作ったならそりゃ読んだりもするか。
「ねえ、どうかな。」
俺の感想を待つようにリンリンの友人は聞いてくる。
「そうですね……ざっと読んだ感じですが。
擬音が多いから、同じ言葉が続いても読み方を変えていったら面白そうだと思います。
逆に雨ばっかりで退屈そうに聴かせたかったら、同じような感じで。
近年だと洪水とかもあるからもっとどよどよした感じに読ませたいならそれでも。」
「ふんふん。まあ、洪水はね……それで読ませるならもっと違う話にするかな。」
「あとは、そうだな……後半の晴れる日が来るのを待つところは。
晴れを願っているような感じに読んだりとか。」
「そうだね、それは欲しい。」
俺の意見を聞いてくれているし、どうやらリンリンから聞いた話よりも俺の読み方をさせてくれそうな人だが、突っ込むところは突っ込んでいるな。
「うんうん。感情を込めて読んでくれそうだし読み方にも工夫を付けてくれるんだね!
いいじゃん、リンリンの彼氏。私が最初に自分の本を読んで貰った時よりも。
読んでくれるようになれてるし!」
「え? 見てたんですか、アレ?」
どうやら大学時代の俺の春の新歓朗読会にも来てくれていたようだった。自分の本をどう読んでくれるかはそりゃ興味あるか。それに俺、褒められてるな。スッカリなりを潜めていたけど、この人だって創作の神様の寵愛に俺を引き込んでくる人だったりするのだろうか。
「うん。リンリンが想像力が最初から逞しくて有望な人が来てくれたって。」
想像力か。妄想と紙一重だが、活かせるところではそう言えるんだな。それにしても最初の頃を思い出すと、リンリンもよく俺の話を聞いて乗せてくれたっけ。最初だからみんなの力量(特に俺)を知りたかったんだろうし、慣らしだとこんなもんなのか。
「ああ、ありがとうございます。」
「いやあ、私の方こそありがとうだよ。
本読んでくれたし、擬音とか自分で頭働かせて作ってくれたんでしょ?」
「あ、ああ。はい。」
「んもー、本当に嬉しかったのと、読んでくれた人とまたこうして読んで貰えるんだから。
こっちは作者冥利に尽きるって。」
「ははは……。俺もまさかリンリンの友人としての紹介で会えるとは思いませんでした。」
「えっ、なに。読んだ本、そっちも覚えててくれたの?」
「はい。最初の作品ですから。」
「やだー、嬉しいこと言ってくれるじゃん!」
あの頃のツテでまた、こういう事がやれるんだから、俺としてもありがたい話で。どっちかと言うと、俺はまた、リンリンが朗読をするところが見たかったんだけど、なぜか俺の方に意見が集中しているような?
「ねえ、リン、リンはどう?」
と思っていたら作者の方から聞きに行っていた。
「うん。せっかくランランが意見を出してくれているから、それに乗ろうかなって。」
「そう? リンはどう読みたいとかないの?」
どうやら今度は二人で打ち合わせに入ったようだ。
「うーん。ランランがいいところを突いたから。
リズムを付けて読みたいかな? 音感がよさそう。」
「イメージとしてはどんな感じ?」
「音の魔女が出てくるところでちょうど場面転換になるでしょ?
だったら前半がランラン、後半が私でどうかな。二人で読むんだし。」
「そうだね。いいね。」
「二人の会話を聴くに、話としてもそんなに重くないと思うのさ。
重い要素としても退屈だなー、ぐらいで。」
「うん。私もその辺にしておいて欲しい。」
「寧ろ紫陽花と、梅雨の季節に出てくる生物の方にクローズアップしたい。」
「具体的には?」
「紫陽花は綺麗な感じで、雨音はユーモアのあるリズミカルな感じで。
雨を吸って生きていそうな生物はカタツムリとかカエルとかだと思うのね。
そういうののイメージは……擬音が無いからイメージ付けにくいと思うけど。
ちっちゃい生き物だからここもユーモアのある感じで読んで。
魔女の方は人間だと思うから。特に雨で生命力とか関係ないと思うのね。
寧ろ早く晴れないかなって思っているような読み方で。
雨の音で人の声が聞こえるって言うのは大体晴れて欲しいってことよ。
後は農家がいいところまで作物が育てとかそういうところ。
他にも雨が降ったら得する人と損する人の何やかやがあるかもしれないし。
元々が人の意見を聞いていた魔女だからそういうことを想像したりするんじゃない?」
「なるほどねー。声が付くとやっぱりそういう工夫がやれるからいいよね!」
リンリンはリンリンで、イメージを出すことに抵抗が全くないな。あとやっぱり、俺が言わなかった事とかも拾ってくれてる。俺ももっと、言えるようにならないとな。今度は先輩後輩とかもないんだし、俺だってあの頃の続きをしたくない訳じゃない。ようやく、こうなる日が来たんだ。
「後は魔女は魔女で、人里離れたところに住んでるとしたら、人の声の他にも。
植物の声とか、カタツムリとかカエルとかの声を聴いてたりもするかもしれないよな。」
「うん。それはあるね。」
リンリンと友人との会話に俺も参加する。
「そうね。でもそこまでイメージに入れられる?」
「晴れを待っているとばかり思っていたから。
明るい口調で読むとチグハグになりそうだし。
こっちはそういう生き物も含んでもユーモラスに読まなくてもいいかなとは思っている。」
「いや、行けるんじゃないか? ぽちゃり、ぽちゃりの所とか。
様々な音を運んでくるなら、そこで読み方を変えていけば。
ユーモラスに読まないのも、ユーモラスに読むのも両方入れられる。」
「ああ、そっか。そうすればいいのね。」
「へー。リンリンの彼氏も読んでくれているのね。」
リンリンと俺の会話に友人も乗り気だ。
「久しぶりだねー、このやり取り。詩に向かって、みんなで読み方、打ち合わせするの。」
「私はリンたちがこうするところ見るの初めてだけど。
あんなにスイスイ読んじゃう裏で、こういう打ち合わせもしているんだなって。
見るのが新鮮だよ。」
「そのまま読んじゃってもいいんだけどね。
やっぱりこう……イメージを膨らませたいと言われると。
リズムとか。イントネーションとか、オノマトペを口で言う効果音とか。」
「やりたくなってくれたならいいよー。」
「よし、じゃあ。一旦、読んでから、またやりますか!」
「はーい。よろしくー。」
俺とリンリンが貰ったペーパーを持って並んで立ち、また、朗読が始まる。こういう形でリンリンの横顔を見るのも随分久しぶりだった。俺が初めて読んだ頃と違うのは、リンリンの友人の前で立っても、詩の世界に入り込んでいる間はあがらずに読めるようになった度胸が付いたのと、そして。
「ここは、紫陽花の咲く場所―」
久しぶりに朗読した時に。随分と、そうしていない時期で衰えていたのかと思ったらそうでもなく。そんな気にならずに、読み進められて。多分、初めて俺が朗読研究会で読んだ絵本の作者の続編を予期せぬ形で読めたからかもしれず。
「菱のようにブーケのように、霞のように咲き広がる―」
俺のパートが梅雨でも紫陽花が咲き乱れ、情景も生命力が溢れている部分を読んでいるためか。場面が思い浮かぶようで。
「……。」
リンリンの友人も、にこやかな表情でうんうんと頷きながら俺たちを見ている。条件を変えて再び、あの時間に戻るのは、どうなる事かと思ったけど。久しぶりの出だしとしては、随分と俺の想像力もたくましく育ち。
「静かに暮らし見守る音の魔女がいた―」
隣でリンリンが自分のパートに入って読み始める頃には。紫陽花の茂る場所で魔女が雨音を聴きながら静かに過ごしている情景が浮かぶぐらいには、俺のイメージも膨らんでいたのだった。
(何だ、俺もこの時間に戻りたかったのか。)
リンリンとこうする時間に戻りたかったのもあるが。創作の神様が俺にはどういう神様が付いているのか分からないけど。俺の場合は妄想力を逞しくする神様が付いているみたいだし、俺自身も神様に付かれている自分を実感したかったのかもしれないな。
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