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旅人編

55.大騒ぎ

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「赤い髪の子供…。」

エレミヤは走りながら呟いた。
すると、向こうの方から白い光のようなものが打ち上がるのを見た。

(花火…か?いや、違うな。)

聖弓レジュリアートの力を知らないエレミヤはこれがミイロの仕業だということを知らない。

なので、エレミヤは自分に向かって伸びてくる糸に目を見開いた。

「わっ?!」

エレミヤは反射的に構えたが、その糸から何やら声が聞こえたので、攻撃を留める。

『…るか…え……は……』

聞こえてくる小さな声。
エレミヤがそれを取ると、ニュン!とそれが広がり、それを繋いでいた線が消える。

エレミヤは驚き、

「どぅあっ?!」

周りの視線が集まる。
エレミヤは変な声が出たことと自分へ集まる怪訝な視線に耐えきれず、紙状になったそれを耳に当てた。

『…ミヤ。聞こえるか。』
「ジュリバークさん!あ、はい。聞こえてますけど…。なんですかこれ。携帯電話?」
『けい……?なんだそれは。これはミイロの聖弓の力だ。「無線通信」だ。』

エレミヤはふうん、と声を出す。

「便利ですね。」
『あぁ。それを耳につけろ。そうすると、透明になって目立たなくなる。自分から歩いて100歩以上離れた糸を繋いだ相手に聞こえる。…これで安心してユユリアと離れることができるな。』
『そうですよね。僕もアーシ達が心配で…。まぁ、一番強い剣ですから、心配はいらないんでしょうけど…。』

子持ち二人が親馬鹿トークを繰り広げていると、

『パパ、メハナにも一応は聞こえてるんだよ。』
『わぁい、パパ大好き!』
『ダ、ダリアだって大好きですもん!愛してますもん!』

という声が同時に聞こえた。
どうやら個人と通信することは出来ないらしい。

『あ、悪いな。ユユリア。』
「僕も大好きだよ、二人とも。メハナもね!」

ジュリバークが平坦な声でそう言い、エレミヤは娘と妹に弾んだ声をかける。

『わぁい!』
『どっちの方が好きですか、父様!』

アーシリアは喜びの歓声を上げ、ダリアは親として一番困る質問を聞いてきた。

エレミヤは軽く唸る。

「どっちも…って言っても聞いてくれませんよね…。」
『『うん!』』

エレミヤは足を止めずに肩を落とす。

(どうしよう…。何か、この危機的状況から逃れる方法を…。)

エレミヤは考え込んだ。
その間、剣姉妹は黙って父の答えを待っていた。

「答えはこの仕事終わってからね!浮かれちゃうとだめでしょ?以上!」

エレミヤはそう叫ぶと、一方的に会話を打ち切る。

『あ、パパぁ!言い逃れなんてずるいっ!』
『そうですよ!そこだけは姉様に賛同ですっ!』
『そこだけって…ダリアの薄情者ぉ!姉をそんな』
『本当のことを言ったまでですよ姉様。』

どこまでも冷たいダリアとギャンギャン喚くアーシリア。
姉妹の仲の危機だが、アーシリアの方がシスコンなので、すぐに身を引くことを知っているの。なので、

(よし、話が逸れた。今のうちに!)

エレミヤはそこで無線通信機を懐に仕舞う。

そして、大きくジャンプして、屋根に飛び移る。

「わあ!」
「なんだ、あいつ?!」

周りの人が口々に驚きを表す。
しかし、エレミヤはそれはもう聞こえていなかった。

屋根の上で目を瞑り、耳に全神経を集中させている。
エレミヤでもいくらなんでもこの国全員の様子を見ることはできないため、規則的な音の中に交じる所々から聞こえてくる異常な心拍数。
それを聞き分けているのだ。

音は光と違い、完全に遮ることはほぼ不可能に近い。
しかし、そう言っても超人的な聴力からこそできる技であるが。

(東の約500メートル先に一人。そこからさらに600メートル先に15程…。犯罪者集団か?
そして、西、8990先に一人。これは…単独犯…なのか?)

エレミヤは更に何人か異常な鼓動を聞き分け、目を瞑ってから5分後、ようやく目を開いた。

そして、エレミヤはポケットから通信機を取り出すと、声をかける。

「だれか、龍を貸してくれないか?」

そして帰ってきた答えは、

『え、なんで?』
『氷蓮でもいいのでは?』

などと批判的な声が聞こえてきた。
エレミヤは苦笑いをすると、

「上から見てみんなに指示を出したいんだよ。何人か容疑者をつかめたから。あと、氷蓮は一回、国を滅ぼしちゃってるからね。怖がらせたくないな。のこの人達を。」

すると、通信機の向こうから納得の声聞こえてきた。

『なるほどな。』
『お兄ちゃん、言ってることがいちいち怖いよ?』
『どうやってやったのかは本当に分からないけど、エレミヤは凄いね…。』

ジュリバークとメハナは普通に対応。
ユウは諦めのため息をつく。
しかし、驚いた様子もないユウは出会ってからさほど経っていないユウでさえエレミヤの実力に納得しているという事になるのだろうか。

「そうかな?ユウも出来そうだけど?」

エレミヤは淡々とそう言う。
ユウはエレミヤの性格もだいたいは知っているのでそこで大きくため息をつく。

『お前なぁ…。まぁいいや。龍欲しいんだっけ?俺の光龍、貸そうか?』
「うん。ありが…」
『まっくん!私の紅蓮、貸してあげるよ!』

感謝の言葉の寸前、ミイロが割り込んできた。
エレミヤは突然のミイロの提案に

「みぃ。それは有り難いんだけど、この国では炎龍は…」
『なら、それを逆手に取るのよ!』
「はぁ?」

理解不能。
エレミヤの顔にそう書いてありそうに素っ頓狂な声を出し、開いた口を閉じるのを忘れたエレミヤ。

『この国では炎龍が神聖なんでしょ?なら、神聖なる紅蓮に乗って、神っぽく登場して一言言ったらそこで終了!かっこいいし、アニメっぽくて一石二鳥っ!』
(…みぃって本当はアニメ好き?そういえば、弓道もアニメの影響で始めたって本人が言ってた…ような…。)

目立つのに少々嫌気を感じるエレミヤは理由としてもなかなか納得いかなかったが、ここで反論すると色々と面倒臭そうになるだろう、と断言できるのでエレミヤは呆れ顔でミイロに向かってこう言いかける。

「分かったよ。みぃ。」

すると、ミイロは想像以上に興奮し、声の語尾が裏返るほど大喜び。

『ほんと?!わぁーい!』

そんな歓声にエレミヤが微笑んでいると、

『まっくんのかっこいいところ、見れちゃう!やったぁ!』
(はぁ。あくまで自分のためね。なるほど。)

エレミヤは微笑みを引つらせながら思ったのだった。

大騒ぎの国の中、エレミヤ達は和気あいあいと任務を遂行していた。
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