数字で見るダイエット

独楽の音

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第10話-“350gの罠”体重減少の時こそ油断大敵

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8月12日の朝。
いつものように体組成計に乗り、淡々とした日課をこなす。
数字が出るまでの数秒間は、ほんのわずかに緊張する——昨日より増えているのか、減っているのか。その小さな変化が、最近の自分にとっては一日の気分を左右するほど大きなものになっていた。

表示された数値を見て、まずは胸を撫で下ろした。

体重は76.35kg。昨日より350g減っている。

「よし、まあ……悪くない」

ほんの少しだけ満足感がこみ上げた。
たった350g、されど350g。積み重ねれば大きな差になる。最近は“数字だけに振り回されるのは危険だ”と頭では理解しているつもりでも、やっぱり減っていれば嬉しいのだ。

そのまま他の数値も確認する。

体脂肪率:23.3%(-0.1%)

筋肉量:55.55kg(-0.2kg)

基礎代謝:1628kcal(-7kcal)

水分率:53.9%(+0.1%)

歩数:14,971歩(前日)

全体としては小さな変化だが、体重が減っているぶん、今日はいいスタートを切った……そう思ってしまっていた。

——しかし、である。

いつものようにAIに体組成の解析を依頼すると、返ってきたメッセージは、自分のそんな淡い達成感をあっさりと打ち砕くものだった。

【脂肪として減っているのは約 -35g。
残りはほとんど水分・グリコーゲン・消化内容物の変化です】

読んだ瞬間、胸の奥で「え……?」という声がした。

“350gも減ってるって言ってるのに、実質35gしか減っていない?”
“じゃあ、この満足は一体なんだったんだ……?”

そのときの自分には、AIが言っていることは理解できるようで理解できない——そんな感覚だった。
理屈としては、グリコーゲン1gには3gの水が結びついているとか、運動量・食事・塩分の変化で水分は大きく揺れるとか、その辺は知識として知っていた。

だが、いざ自分の身体の数字を目の当たりにすると、その“知識”はまったく心に届いてこない。

「うーん……そんなに簡単に水分って変わるのか?」

少し納得できない気持ちを抱えつつ、昨日の行動を思い返してみる。
特別なことは何もしていない。
お盆休みで仕事はなく、トレーニングも休み。
町を歩いて軽く1万5千歩ほどは歩いたが、それも普段通り。

むしろ休日としては理想的なくらい、のんびりした日だったはずだ。

——なのに、なんで?

今となって考えてみれば単純だ。
トレーニング疲労の回復に伴って、筋グリコーゲンが消費され、そのぶん体内の水分量が揺れただけ。脂肪はほとんど落ちていない。それだけの話だ。

しかし当時の自分には、それが腑に落ちなかった。

「え……もしかして筋肉減ってる?」
「歩きすぎた?」
「昨日の食事、何か問題あった?」

そんな不安が次々と頭をよぎった。

そこで、さらにAIに相談してみた。
翌日の胸トレと足トレを連続で行う予定だったため、その点についてアドバイスを求めたのだ。

返ってきた答えは、またしても冷静だった。

【明日と明後日、連日で筋トレするなら、今日は糖質を多めに補給すべきです】
【+80~120gの糖質を追加すると、グリコーゲンの不足を防げます】

どう考えても理にかなった意見だ。
ただのエネルギー不足なのだから、補給すればいい——それだけ。

だがこの当時の自分は、まだ“体重を減らしたい”という気持ちに強く引っ張られていた。
糖質を増やすと言われるだけで、どこか罪悪感のようなものを感じてしまっていた。

「糖質増やすと太るんじゃないか……?」
「でも明日のトレもあるし……うーん……」

迷いながら、今度は歩数についても尋ねてしまった。

「歩きすぎでしょうか?減らしたほうが……?」

AIの返事はこうだった。

【歩数は12,000歩前後を維持した方が良いです】
【むしろ減らすと回復が遅れることもあります】

これもまた、今なら納得できる。
運動量を一定に保たなければ、アンダーカロリーの設計も狂うし、身体の変動が読みづらくなる。
歩くことで血流も良くなり、むしろ回復が促進される——当然のことである。

だがこの頃の自分は、まだ“痩せたい気持ちと筋肉を残したい気持ちの両立”に慣れていなかった。
どうしても数字、特に体重というわかりやすい指標に心が揺れてしまっていた。

たった350gの減少に喜び、
その350gの内訳が“ほぼ水分”だと知って落ち込む。

本当なら見るべきなのは筋肉量・基礎代謝・歩数の継続性だったはずだ。
脂肪の増減は、もっと長いスパンで見るものなのだと、今ならわかる。

でも、その頃はまだ——
「とにかく体重を減らすことこそが正義」
そんな気持ちから抜けられずにいた。

思えば、この日のやり取りは、のちの自分の“考え方の転換点”のひとつだったのかもしれない。
数字の読み方や、身体の仕組み、そして“焦らないこと”の重要性を理解するようになっていく、その入口だった。

とは言っても別にこの時のやり取りや心情が無駄だったのかというとそれもちょっと違うと思う。

だって自分が考え方を入れ替えるきっかけになったのだから
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