断罪の剣

虚ろ。

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卯月 琉璃

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 私は要らなかった。
 でもこの世に生まれ落ちてしまった。

 私には他人と大きく違うところが3つもあったらしい。

 私は、物心ついた時から他人の感情がわかってしまった。
 同じ空間にいるだけで勝手に感情が共有される。

 頭痛と共に入り込む誰かの気持ち。自分と混ざり合う、まるで私がそう思っているかと錯覚させるほどに。

 まだ無邪気だった私は他の人もそうだと思っていた。
 だから言ってしまった。
 そこからだ。地獄が始まったのは。

「おーい、みんなー!嘘つき魔女がきたぞーー!」
「やべっ!操られちゃうぞーw」

 みんな笑って私から逃げる。でも私はただ1人皆と違う笑みを浮かべていた。
 何もなかったかのように私はいつも通り振る舞う。
 たまに殴られたりもした。けどこれを耐えればきっと楽になると信じて。

 そんな幼稚園生活。
 終わったと思えばまた地獄が始まるとも知らずに。

 そして卒園した。記念写真なんぞ目にもくれず。
 次は小学校か。そんな思いと共に。

 幸い同じ小学校にいったのは片手で数えられるほど。
 それもあまり関わりのない人達だったから何も気に留めなかった。

 みなが「これからの6年間楽しみだ。」と口々に言う中、私だけが早く終われと願っていた。
 友達が欲しかったのだろう。私は楽しいフリを、強がって笑っていたのを今でも覚えている。
  うずき るり
  「卯月 琉璃です。これからよろしくね。」
 
 自己紹介は淡々と済ませ、休み時間に空っぽな笑顔を振りまき、5分もしない間にクラスの全員と打ち解けた。
 これは我ながら凄いと思った。

 でも空白の平穏が続いたのは小学校中学年までだった。先生、親からの過度な期待。
 
 「琉璃、琉璃は頭がいいんだから余裕でしょ?簡単だよね?」
 「卯月さんは頭が良い子ですね。小学校の勉強なんて余裕でしょう。」

 続く続く親に辿れと言われた線をなぞる。今にも消えそうな不確かな物を。
 一歩間違えて仕舞えば。

 「何でこんな事ができないの!?」
 「琉璃は部屋に戻ってて。」

 あぁ、また始まるのだろう。

 「お前の教育が悪いせいだろ!」
 「ろくに面倒みなかった貴方がそれを言う?!なんで私に押し付けるのよ!」

 やっぱり。小学校は簡単だからと、テスト満点は当たり前、成績も1つでも◯があればこうだ。
 あぁ、うるさいなぁ。そう思いながら俯いて耳を塞いで。1人誰にも聞かれないように泣いていた。

そんな事が続いた中学年。頭の中では友達と喋っていた。

 「ねぇ、私悪い子だからいつも喧嘩させちゃうのかな?」
 「親の普通なんて分かりもしねぇけど少なくともお前は頑張ってると思うぜ?」

 実在しない友達、イマジナリーフレンド。私の頼りは“それ“だけだった。
 しかし、”それ“は異端だったらしい。いつか親にバレた時は精神科に行かされた。
 おかしいところは全部治さなきゃ、正さなきゃ、。。。。。

「あなたはおかしいんです。そんなのいるわけないでしょう?」

 あぁ、私はおかしいんだ。周りに合わせなきゃ、合わせなきゃ合わせなきゃ。

そんな中過ごした高学年。でもそんな世界に色が宿った瞬間を今でも鮮明に覚えている。

 君に会った瞬間だった。たまたま5年生でクラスが一緒になった。
 みんながキラキラした眼で世界を見ている時。ほんの僅かだったが、絶望、失望を映した瞳をしていた。

 楽しそうな顔をして、心の音は寂しそうで消えてしまいそうだった。そんな君の名は
  ”星月  悠夜“ほしずき ゆうや と言った。

 いつかの私のように空っぽな笑顔を振り撒く少年。
気付かぬうちに目で追っていたのだろう。
 少年はこちらに気づくとニコッと笑顔を見せた。

 「なぁ、名前なんていうんだ?5年間クラス違うやついるとはな。俺は星月 悠夜。気軽に”ゆうや”とでも
呼んでくれ、」

 近づいてきたと思えば自己紹介。まぁ、当たり前か。
 
 「えっと、ゆうや、?よろしくね。私は卯月 琉璃。”るり”って呼んで。」

 あぁ、あの瞳は気のせいか。という気持ち、小さなため息と共に挨拶を返す。

 「よろしくな!るり。そういやるりってさーーー」

 「おーい、悠夜。何やってんだー?こっちで一緒に遊ぼうぜ!」

 「ごめんー今行くー」
 
 何か言おうとしたのだろう。気になったが初対面なのもあって追わなかった。
 
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