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prologue
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季節が過ぎて、風が吹いて、淋しさが呼んでいる。
昨日から吹き始めた木枯らしは断続的にけれど不定期に窓を鳴らし、私はそちらに目をやる。もう冬か、誰にも届かない独り言を呟く。少し前までは季節が変わることに、特別な感情を持つことなんてなかった。服を変えて、髪形を変えて、夏休みが近づいて、私は意味もなくちょっとわくわくして、秋には文化祭があって、冬になったらどんなマフラーしよう、もうすぐクリスマスだな、プレゼント考えるの面倒だな、クリスマスにひとりぼっちやだよ、なんて将来になんの関係もしない悩みではしゃぐ級友を横目に、私は君のことを考えるのだ。それはちょっとした優越感、幸福感。年が明けたらお年玉もらわなきゃ、今年の抱負なんて決めらんない。10代の私たちは最強で、何にでもなれて、でも何にもなれない。先だけが無駄に長くて、それでいて何も見えない。不安、けれどそれが若者の特権で、訳わかんない自信で振り払えるようなそんな気がしていた。
そして長い冬が終わって、春が来て、新しい学年になって、あぁいよいよ受験だ。大学に行く? 専門学校に行く? 就職はまだ早いな。でも勉強したくないな。受験なんて無くなればいいのに。みんな好きなところに行けたらいいのに。でもそんなことよりクラス替えだ。君と同じクラスになれるのかな。なれなかったら悲しすぎる。でも、この間買った雑誌には「適度な距離感が長続きの秘訣」なんて書いてあったから、もしかして隣りのクラスくらいがちょうどいいかもしれない。にしてももう高3か、あっという間だったな。1年なんて光の速さで過ぎていく、そんな風に思っていたし、ずっとこんな感じでだらだらと、けれど確実に季節を越えて、年月を重ねていくんだと思っていた。1年なんて。
私に残された1年がもうすぐ終わろうとしている。次の春に私はいるだろうか。最近では呼吸をするのさえ苦しい。きっと直に私の口には呼吸器が繋がれ、それがなくてはまともに呼吸ができなくなるのだろう。朝も昼も夜もなく、私はずっとこの苦しさと闘いながら、それでも生きようとするのだろう。良かった、こんな姿を見られる前に君とお別れしておいて。
こんな姿を見られるくらいなら死んだ方がマシ、いや、もうすぐ死んじゃうんだけど。そう思って私は決断したし、それには今も全く後悔なんてしていないのだけれど、もういつ死んだっていいようにしたんだけれど、それでも私は生きようとしてしまう。君がいる世界に。そして今日も窓をたたく風に淋しさを感じてしまう。君に会いたい、会って話がしたい、と。
その音と心臓の鼓動がリンクする瞬間が一番嫌だ。だから私はイヤホンを耳につける。少しでも優しい音楽で身体を満たしていく。瞼は閉じない、次に開く保証がないから。だから私はずっとディスプレイの文字を眺めていく。再生された時間は私が生きた時間。そして振り払おうとした孤独の数。大丈夫、もうすぐお母さんが来てくれる。私はそう言い聞かせて音楽に身を委ねる。
最近はずっとクラシックを聴いている。ピアノの音とヴァイオリンの音。歌詞があるとつい自分に重ねたくなってしまうから聴かなくなった。昔はありきたりなラブソングばっかり聴いていたのに。今の私には必要ない。余計な感情は欲しくない。
ずっと君を愛し続ける
意味も分からずにそんな言葉の響きに胸をときめかせていた。私もいつかそんな風に思われるのだろうか。そして思うのだろうか。一番好きな人に好きって言ってもらえて、私の人生はピークだったんじゃないかと思う。これ以上は無いと。もうすぐ死ぬ私が思うんだから間違いない。だって私に「ずっと」はないから。時限付きなんだから。それから私はこう思うようになった。
いつまでも忘れない恋って素敵なんじゃないか
少なくとも私は君のことをいつまでも覚えている。きっと死ぬその時まで忘れないんだと思う。この記憶があれば、私は優しいままでいられる。心の中に刻まれたものは永遠なんだと思う。
でも君は? 私のことを忘れないでいてくれたら、私はとても嬉しいんだけれど、その世界にもう私はいなくて。君はずっと思い出の中でしか生きられなくなる。私はいい、もうすぐいなくなるんだから、私は君を思い出の中に閉じ込める。でも君は、君だけはできることなら幸せになってほしい。本当はその相手が私なら良かったんだけれど、そうだったらそれが私の人生のピークになるんだろうけれど。でも私にはそれができないし、それを求める勇気も責任もない。だったら君にとっての幸せは何だろう? 私とは正反対なんじゃないかな。
私のことをいつまでも忘れていてほしい
君にとってはそれが幸せで、私は私の幸せを噛みしめて、そして別々の道に進んで行こう。私の道はもうすぐそこで途切れてしまうけれど、君の前にはまだ道があるんだから。
だから私は自分のしたことを後悔しない。君の悲しそうな顔は全部そのためなんだ。君には私を忘れてほしいんだ。
でも、そのためにあの子は傷つく。あの子の気持ちを知りながら私はとても残酷なことをしてしまった。心が痛い、本当にごめんね。きっと私のことを許してはくれないんだろうけど、私の最後のわがままを聞いてほしい。最後だから。ちゃんとその憤りも私は背負って死んでいくから。
音楽が変わり、私に抗えない眠気が襲ってくる。次もちゃんと目が覚めるんだろうか。色々と覚悟はできたけれど、でもまだもう少しだけ君のいる世界にいたい。恐怖と引き換えに眠るから、きっと見る夢には君が笑顔でいますように。
私はゆっくりと瞼を閉じる
昨日から吹き始めた木枯らしは断続的にけれど不定期に窓を鳴らし、私はそちらに目をやる。もう冬か、誰にも届かない独り言を呟く。少し前までは季節が変わることに、特別な感情を持つことなんてなかった。服を変えて、髪形を変えて、夏休みが近づいて、私は意味もなくちょっとわくわくして、秋には文化祭があって、冬になったらどんなマフラーしよう、もうすぐクリスマスだな、プレゼント考えるの面倒だな、クリスマスにひとりぼっちやだよ、なんて将来になんの関係もしない悩みではしゃぐ級友を横目に、私は君のことを考えるのだ。それはちょっとした優越感、幸福感。年が明けたらお年玉もらわなきゃ、今年の抱負なんて決めらんない。10代の私たちは最強で、何にでもなれて、でも何にもなれない。先だけが無駄に長くて、それでいて何も見えない。不安、けれどそれが若者の特権で、訳わかんない自信で振り払えるようなそんな気がしていた。
そして長い冬が終わって、春が来て、新しい学年になって、あぁいよいよ受験だ。大学に行く? 専門学校に行く? 就職はまだ早いな。でも勉強したくないな。受験なんて無くなればいいのに。みんな好きなところに行けたらいいのに。でもそんなことよりクラス替えだ。君と同じクラスになれるのかな。なれなかったら悲しすぎる。でも、この間買った雑誌には「適度な距離感が長続きの秘訣」なんて書いてあったから、もしかして隣りのクラスくらいがちょうどいいかもしれない。にしてももう高3か、あっという間だったな。1年なんて光の速さで過ぎていく、そんな風に思っていたし、ずっとこんな感じでだらだらと、けれど確実に季節を越えて、年月を重ねていくんだと思っていた。1年なんて。
私に残された1年がもうすぐ終わろうとしている。次の春に私はいるだろうか。最近では呼吸をするのさえ苦しい。きっと直に私の口には呼吸器が繋がれ、それがなくてはまともに呼吸ができなくなるのだろう。朝も昼も夜もなく、私はずっとこの苦しさと闘いながら、それでも生きようとするのだろう。良かった、こんな姿を見られる前に君とお別れしておいて。
こんな姿を見られるくらいなら死んだ方がマシ、いや、もうすぐ死んじゃうんだけど。そう思って私は決断したし、それには今も全く後悔なんてしていないのだけれど、もういつ死んだっていいようにしたんだけれど、それでも私は生きようとしてしまう。君がいる世界に。そして今日も窓をたたく風に淋しさを感じてしまう。君に会いたい、会って話がしたい、と。
その音と心臓の鼓動がリンクする瞬間が一番嫌だ。だから私はイヤホンを耳につける。少しでも優しい音楽で身体を満たしていく。瞼は閉じない、次に開く保証がないから。だから私はずっとディスプレイの文字を眺めていく。再生された時間は私が生きた時間。そして振り払おうとした孤独の数。大丈夫、もうすぐお母さんが来てくれる。私はそう言い聞かせて音楽に身を委ねる。
最近はずっとクラシックを聴いている。ピアノの音とヴァイオリンの音。歌詞があるとつい自分に重ねたくなってしまうから聴かなくなった。昔はありきたりなラブソングばっかり聴いていたのに。今の私には必要ない。余計な感情は欲しくない。
ずっと君を愛し続ける
意味も分からずにそんな言葉の響きに胸をときめかせていた。私もいつかそんな風に思われるのだろうか。そして思うのだろうか。一番好きな人に好きって言ってもらえて、私の人生はピークだったんじゃないかと思う。これ以上は無いと。もうすぐ死ぬ私が思うんだから間違いない。だって私に「ずっと」はないから。時限付きなんだから。それから私はこう思うようになった。
いつまでも忘れない恋って素敵なんじゃないか
少なくとも私は君のことをいつまでも覚えている。きっと死ぬその時まで忘れないんだと思う。この記憶があれば、私は優しいままでいられる。心の中に刻まれたものは永遠なんだと思う。
でも君は? 私のことを忘れないでいてくれたら、私はとても嬉しいんだけれど、その世界にもう私はいなくて。君はずっと思い出の中でしか生きられなくなる。私はいい、もうすぐいなくなるんだから、私は君を思い出の中に閉じ込める。でも君は、君だけはできることなら幸せになってほしい。本当はその相手が私なら良かったんだけれど、そうだったらそれが私の人生のピークになるんだろうけれど。でも私にはそれができないし、それを求める勇気も責任もない。だったら君にとっての幸せは何だろう? 私とは正反対なんじゃないかな。
私のことをいつまでも忘れていてほしい
君にとってはそれが幸せで、私は私の幸せを噛みしめて、そして別々の道に進んで行こう。私の道はもうすぐそこで途切れてしまうけれど、君の前にはまだ道があるんだから。
だから私は自分のしたことを後悔しない。君の悲しそうな顔は全部そのためなんだ。君には私を忘れてほしいんだ。
でも、そのためにあの子は傷つく。あの子の気持ちを知りながら私はとても残酷なことをしてしまった。心が痛い、本当にごめんね。きっと私のことを許してはくれないんだろうけど、私の最後のわがままを聞いてほしい。最後だから。ちゃんとその憤りも私は背負って死んでいくから。
音楽が変わり、私に抗えない眠気が襲ってくる。次もちゃんと目が覚めるんだろうか。色々と覚悟はできたけれど、でもまだもう少しだけ君のいる世界にいたい。恐怖と引き換えに眠るから、きっと見る夢には君が笑顔でいますように。
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