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第3章「消失」④
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変なことを訊くかもしれないんですけど、と前置きをして、僕は店員さんに訊く。
「僕がこの店に誰と来てたか、って覚えてますか」
誰って、と少し困ったようだった。どんな人か、でも良いです、と加えると、少し考えた後に、思いついたように言った。
「あー、途中から女の子と良く来てたよね。
最初は1人だったけど」
「どんな子だったかって覚えてますか」
「そこまでは…大人しい子っていう印象しかないかな」
僕はその言葉に真奈を重ねる。少し違和感があった。
「そう言われたら思い出してきた。その子と2人で来てて、しばらくしたら急に来なくなったのよ。それで、どうしたんだろうと思ってたら、違う子と3人で来たの、あなた」
それはいつくらいのことですか、と訊くと、驚く答えが返ってきた。
「最後にあなたがその3人で来たのは高3の春ね。そうそう、その日、その男の子から頻繁に声を掛けられたからはっきり覚えているわ」
高3の春? 僕が真奈と付き合い始めて、まだ間も無いことである。と、いうことは、その声を掛けた男の子というのは近野のことだろう。僕も覚えているし。けれど、そうであれば、彼女のいう「2人で来ていた」という相手は真奈ではなくなる。
「それ、本当ですか? ということは僕が女の子と2人で来ていたのは高2ということですか?」
何をそんなに慌てているのかわからない、といった表情で彼女は、そうよ、と言った。僕は間違いがないのかと念を押すと、彼女は、間違いない、と言った。
「私、高3の春で1回手伝いを辞めてるのよ、受験のためってやつ。それで最後の日にあなたたちが来たから間違いはないわ」
彼女ははっきりと自信を持って明言した。正しいのなら、僕は高2の時に真奈ではない誰かと、しかも女性と頻繁にここを訪れていたことになる。それが誰かはわからないけれど、柳町さんの話なら、それは恵美さんということになる。僕は本当に恵美さんと付き合っていたのだろうか、柳町さんの言うことだけであれば、僕はまだ信じることはできなかっただろう。けれど、こうして全く僕らのことを知らない人からも証言が出てしまった。きっと僕は本当に恵美さんと付き合っていたんだと思う。だとしたら、どうして僕はそんな大切なことを忘れてしまっているのだろうか。それだけでなく思い出せないのだろうか。自分自身が信じられなくなってくる。僕が本当に望月唯人であることも疑わしくなってくる気分だった。
お好み焼き店を出ると、僕は次の目的地に向かう。次の目的地までは歩いてしばらくある。空腹は満たされ、歩くにはちょうど良かった。それに、歩きながら色々と考えたかった。そうでもしないと頭の中が混乱しきって、それでいて自分自身が信じられなくて声をあげてしまいそうだった。歩き始めると、僕は思い出してスマートフォンを取り出した。昨日、別れ際に柳町さんと交換した連絡先にメッセージを送ることにした。
>望月フミノ
昨日は遅くまで付き合わせてごめん。
望月です。
>望月フミノ
思い出の場所を巡ってる。
僕のことを覚えている人にも会った。
>望月フミノ
君の言うように、僕は本当に恵美さんと
付き合っていたのかもしれない。
その目的地には高校帰りによく立ち寄っていた。高1の帰り道にたまたま見つけた店だった。お洒落な外装のお店。見るとクレープカフェだった。地元にそんなテイストの店は少なくて、こういう店を知っていたら将来のデートの時にも使えるかもしれない、と行ってみることにした。とおはいえ、1人で行けるはずもなく、無理を言って僕は部活の仲間を連れて行った。中もお洒落なカフェになっていて、とても緊張したことを覚えている。それでも平然を装いながらクレープを注文した。良く分からなくて、1番メジャーなバナナチョコクレープを注文した。注文を取って作り出したのは、僕の母と同じくらいの女性だった。とはいえ、カフェの店員さんっぽくピンクのポロシャツにブラウンのチノパンを履きこなしていて、母よりも若く見えた。そのクレープはとても美味しかった。しっとりとした生地にクリームが良く合った。夢中で食べていると、男2人の客が珍しかったのか、店員さんが話しかけてきた。柔らかい話し方で、話しているととても気さくな人だということがわかった。彼女は店員ではなく、この店のオーナーの奥さんで、中学生の娘がいることも教えてくれた。やはり母と年齢が近いらしかった。
それから僕はその店に何度も通うようになった。最初は数人で行っていたけれど、そのうち僕は1人でも行くようになった。そして行くと必ず僕は母と年齢が近いその彼女と話し込むのだった。僕はサラダクレープと呼ばれるハムや卵を挟んだクレープが大好きで、それとコーヒーを毎回頼んでいた。そして彼女に学校のことや部活のことをなんでも話していた。おそらく僕は母よりも色々なことを話していたと思う。僕にとっては第2の母のようだった。高2になるころ、近くに大型ショッピンモールができ、その店はその中にテナント出店することになった。夫婦だけで切り盛りしていたので2店を併行して運営することは難しく、完全移転となった。外観も含めて好きだったので残念だったけれど、移転後、一気に客足は伸びたように思う。贔屓目なしに繁盛していた。僕は移転後もその店に通い、彼女と色々な話をした。そして、真奈とも何度もそこへ行ったのだ。
高1から卒業するまで、僕の高校生活はその店と共にあった。そしてそこで色々な話をした。彼女は僕のほとんどを知っている。
だからこそ僕は絶対にそこに行かなければならなかった。というよりも、最初からそこへ行って、彼女に訊きさえすれば全て片付くのだった。僕が真奈以外に、いや、真奈と通いだす前に、恵美さんとその店に行っていたかを問えば、全て明らかになるのだ。
「僕がこの店に誰と来てたか、って覚えてますか」
誰って、と少し困ったようだった。どんな人か、でも良いです、と加えると、少し考えた後に、思いついたように言った。
「あー、途中から女の子と良く来てたよね。
最初は1人だったけど」
「どんな子だったかって覚えてますか」
「そこまでは…大人しい子っていう印象しかないかな」
僕はその言葉に真奈を重ねる。少し違和感があった。
「そう言われたら思い出してきた。その子と2人で来てて、しばらくしたら急に来なくなったのよ。それで、どうしたんだろうと思ってたら、違う子と3人で来たの、あなた」
それはいつくらいのことですか、と訊くと、驚く答えが返ってきた。
「最後にあなたがその3人で来たのは高3の春ね。そうそう、その日、その男の子から頻繁に声を掛けられたからはっきり覚えているわ」
高3の春? 僕が真奈と付き合い始めて、まだ間も無いことである。と、いうことは、その声を掛けた男の子というのは近野のことだろう。僕も覚えているし。けれど、そうであれば、彼女のいう「2人で来ていた」という相手は真奈ではなくなる。
「それ、本当ですか? ということは僕が女の子と2人で来ていたのは高2ということですか?」
何をそんなに慌てているのかわからない、といった表情で彼女は、そうよ、と言った。僕は間違いがないのかと念を押すと、彼女は、間違いない、と言った。
「私、高3の春で1回手伝いを辞めてるのよ、受験のためってやつ。それで最後の日にあなたたちが来たから間違いはないわ」
彼女ははっきりと自信を持って明言した。正しいのなら、僕は高2の時に真奈ではない誰かと、しかも女性と頻繁にここを訪れていたことになる。それが誰かはわからないけれど、柳町さんの話なら、それは恵美さんということになる。僕は本当に恵美さんと付き合っていたのだろうか、柳町さんの言うことだけであれば、僕はまだ信じることはできなかっただろう。けれど、こうして全く僕らのことを知らない人からも証言が出てしまった。きっと僕は本当に恵美さんと付き合っていたんだと思う。だとしたら、どうして僕はそんな大切なことを忘れてしまっているのだろうか。それだけでなく思い出せないのだろうか。自分自身が信じられなくなってくる。僕が本当に望月唯人であることも疑わしくなってくる気分だった。
お好み焼き店を出ると、僕は次の目的地に向かう。次の目的地までは歩いてしばらくある。空腹は満たされ、歩くにはちょうど良かった。それに、歩きながら色々と考えたかった。そうでもしないと頭の中が混乱しきって、それでいて自分自身が信じられなくて声をあげてしまいそうだった。歩き始めると、僕は思い出してスマートフォンを取り出した。昨日、別れ際に柳町さんと交換した連絡先にメッセージを送ることにした。
>望月フミノ
昨日は遅くまで付き合わせてごめん。
望月です。
>望月フミノ
思い出の場所を巡ってる。
僕のことを覚えている人にも会った。
>望月フミノ
君の言うように、僕は本当に恵美さんと
付き合っていたのかもしれない。
その目的地には高校帰りによく立ち寄っていた。高1の帰り道にたまたま見つけた店だった。お洒落な外装のお店。見るとクレープカフェだった。地元にそんなテイストの店は少なくて、こういう店を知っていたら将来のデートの時にも使えるかもしれない、と行ってみることにした。とおはいえ、1人で行けるはずもなく、無理を言って僕は部活の仲間を連れて行った。中もお洒落なカフェになっていて、とても緊張したことを覚えている。それでも平然を装いながらクレープを注文した。良く分からなくて、1番メジャーなバナナチョコクレープを注文した。注文を取って作り出したのは、僕の母と同じくらいの女性だった。とはいえ、カフェの店員さんっぽくピンクのポロシャツにブラウンのチノパンを履きこなしていて、母よりも若く見えた。そのクレープはとても美味しかった。しっとりとした生地にクリームが良く合った。夢中で食べていると、男2人の客が珍しかったのか、店員さんが話しかけてきた。柔らかい話し方で、話しているととても気さくな人だということがわかった。彼女は店員ではなく、この店のオーナーの奥さんで、中学生の娘がいることも教えてくれた。やはり母と年齢が近いらしかった。
それから僕はその店に何度も通うようになった。最初は数人で行っていたけれど、そのうち僕は1人でも行くようになった。そして行くと必ず僕は母と年齢が近いその彼女と話し込むのだった。僕はサラダクレープと呼ばれるハムや卵を挟んだクレープが大好きで、それとコーヒーを毎回頼んでいた。そして彼女に学校のことや部活のことをなんでも話していた。おそらく僕は母よりも色々なことを話していたと思う。僕にとっては第2の母のようだった。高2になるころ、近くに大型ショッピンモールができ、その店はその中にテナント出店することになった。夫婦だけで切り盛りしていたので2店を併行して運営することは難しく、完全移転となった。外観も含めて好きだったので残念だったけれど、移転後、一気に客足は伸びたように思う。贔屓目なしに繁盛していた。僕は移転後もその店に通い、彼女と色々な話をした。そして、真奈とも何度もそこへ行ったのだ。
高1から卒業するまで、僕の高校生活はその店と共にあった。そしてそこで色々な話をした。彼女は僕のほとんどを知っている。
だからこそ僕は絶対にそこに行かなければならなかった。というよりも、最初からそこへ行って、彼女に訊きさえすれば全て片付くのだった。僕が真奈以外に、いや、真奈と通いだす前に、恵美さんとその店に行っていたかを問えば、全て明らかになるのだ。
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