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第4章「好きじゃない」③
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似ている、という言葉に後頭部を強く殴られたような衝撃を受けた。似ているのは名前だけではない、ということなのだろうか。衝撃の正体のようなものはわからなかったけれど、私はその場で固まってしまった。その様子を見て、少し言い過ぎたと思ったのか、
「まぁ、顔は似てないから安心して」
と言って、スマートフォンを私に差し出した。そこに映し出されていたのは2人の制服姿の女子高生だった。片方には目の前にいる人の面影がある、恐らくこの左側の女性が恵美さんなのだろうか。
「・・・左側の子ですか」
「そうよ」
女の子は黒髪でショートカットの笑顔が可愛い女の子だった。垂れ目が印象的で、たしかに私とは髪色も目も違う。
「そしたら、どこが似ているんですか」
「言葉では難しいんだけどね・・・
そうね、雰囲気ね」
雰囲気と言われても、私は自分で自分がどんな空気を出しているのか知らない。
「私が食べるまで決して口を開かない頑固さ、
警戒心、どこか壁を感じるところ」
警戒心や壁を感じるのはあなたの言動が原因ではないか、と自然と口を尖らせる。
「そう、そうやって不満があると
口を尖らせるとことも・・・でもね」
さっき注文したワインが到着する。グラスが真紅に染まっていく。
「一番似ていたのは、そういうことも全部含めて、凛としていたところ。あなたが歌っている姿にそっくりだったわ」
真紅に染まったグラスが彼女の顔に近づき、彼女の顔を染めているように見える。
「だから離れなさい、って言ったのよ。望月君はあなたを見ているんじゃなくて、あなたの後ろにある緑川さんを見ていたかもしれない」
さっきの衝撃の正体はこれだったのか、と納得した。似ていることに驚いたのではない、似ていることで私という存在が望月さんの中で揺らいでしまったことに衝撃を受けたのだと思った。
けれど、それがわかったうえで、不思議とショックは受けなかった。望月さんのことを信用していないわけではないし、望月さんもそうだと思っていた。けれど、正直、不思議に思うことがとても多かった。私が望月さんの事務所に所属することで、得をしたのは私だけのように思う。これまで自己負担した経費を持ってもらえることになった。新曲も今までよりも良いペースで、しかも経費で作ってくれる。岡村さんの力が大きいとはいえ、イベントにもブッキングしてくれるし、何より物販の時に防犯面で心配をすることがなくなった。帰りも送ってくれるし。それでいて、必要最低限の経費以外のお金は全て私にくれる。人助けとはいえ、過ぎるんじゃないか、と思っていた。私は経営の難しいことはわからない。もしかするとその経費が回り回って事務所を助けているのかもしれない。けれど、そんな空気を望月さんは微塵も出さなかった。私から見て望月さんは「拘りのない人」だった。変なところは気にするけれど、お金とか、名誉とか、そんなものに微塵も執着がない。カバのような妖精が登場する谷にいる人間の姿をした妖精みたいな佇まい、それが彼だった。最初は、こんな旨い話があるはずがないし、どこかで私には大きな裏切りがくるかもしれない。私は騙されているかもしれない、と警戒していたけれど、それは杞憂だった。いつまで経っても、私は安心で安定した活動をしていた。
だから私はほっとしたんだ、ちゃんと望月さんにも三分の理があったんだ、って。
「少し驚きましたが、大丈夫です、
むしろ安心しました」
彼女は驚いて私に理由を問うた。私は今考えたことをそのまま言葉にして伝えた。彼女は口を開けたまま私の話を聞いていた。呆れているのか、驚いているのかわからなかった。私はその姿を見て、初めて少しだけ彼女に親近感が湧いてきた。
「望月さんにあなたのことや恵美さんのことを聞いた時も、どこかでほっとしてました。あー、望月さんもちゃんと恋愛するんだなって」
相手への親近感が湧いてきたら、急に空腹に感じ始めた。チーズの香りが私を呼んでいるような気がした。
「それくらい、望月さんは何も執着しない人でした。あなたが知る以上に」
そういう彼も見てみたかったわ、と彼女は言った。あ、でも年に1回か2回かやるお芝居には執着してましたよ、脚本もそうだし、監督・・・じゃない、演出っていうんですっけ、あれ、とてつもない拘りで。そういう時は帰りの車でもずっと愚痴を言ってました。あのアイドルは演技を軽くみてる、って、と言うと、彼女は笑って、そんなことは訊いてないわ、と言った。私は楽しくなって、今の望月さんがどんな人かを事細かく説明してあげた。チーズフォンデュはどんどんとなくなっていき、彼女はいくつか追加で料理を注文した。私もご馳走であることを忘れて、どんどんと飲み物を注文した。アルコールであるとかないとか、そんなことはとうの昔に気にならなくなっていた。連絡の返信が遅いこと。詳しく伝えてほしいことほど簡素に伝えること。忘れっぽいこと。言いたいことを口に出せないこと。この間もお店で店員さんに人違いをされたのに、全く言い出せなかったこと。すぐ作詞できてしまうこと。絶対に自信がある歌詞でも必ず冒頭に「そんなに良い歌詞じゃないんだけど」と「気に入らない部分は変えてもらっていいだけど」と付けてから私に渡すこと。私があくびをすると、伝染しないように口元をしっかりと抑えること。面白かったこと、忘れっぽい望月さんのせいで、私がどれだけ迷惑を掛けられてきたのか、どれだけ助けられてきたか、そんなことが次から次へと口から出てきた。その1つ1つに彼女はリアクションをした。それは知ってる、それはわかる、そんなこともあったのね、と。会って2回目の私たちなのに、もうずっと昔から知ってるような気持ちになった。彼女は私の話で答え合わせをしているようだった。
そして、彼女も望月さんのことをたくさん話してくれた。生物の時間中にずっと脚本を書いていたこと。数学だけは真面目に受けていたこと。負けず嫌いなこと。目立つことは嫌いなくせに、クラスで目立つ人間には絶対に勝とうとすること。脚本で賞を取った時に恥ずかしそうに全校生徒の前で症状を受け取ったこと。その割に練習場所の立体駐車場では態度が大きかったこと。部活がある休日のお昼ご飯は近くの広島風お好み焼き屋に行ったこと。もっと近くに安いお好み焼き屋があるのに、そっちに行かないのは、セルフより店員さんが目の前で焼いてくれる方が美味しいから、と言っていたけれど、本当は大の人見知りで、そっちの店員さんの方が仲が良かったからだ、ということ。その店員さんはすぐいなくなったのに、それからも義理で通い続けていたこと。帰りには馴染みのクレープ店に絶対に寄って帰ること。そこの店員さんを母親のように慕っていたこと。そこのバナナチョコクレープが絶品だと言っていたけれど、私はいちごチョコの方が好きだったこと。彼女から出てくる望月さんで私も答え合わせをする。思い出が時間を超えていく。もうどれくらい時間が過ぎたかわからないほどだった。時計を見たけれども、まだそんなに時間は経っていなかった。そんなことも感じないほどに濃密な時間に感じた。こんなに楽しく話せるとは思わなかったわ、と彼女が笑った。。そして、急に真面目な顔で、
「あなた、望月君のことが好きなのね」
と言った。私は、へっ、とまた固まってしまう。そんなふうに考えたことなんてなかったからだ。
「あ、ごめんなさい、そんなふうに考えたことなくて・・・」
私はそのままを伝えた。もしかしたら好きなのかもしれない、けれど、それは男女のそれではないような気がした。この答えを出すにはまだ色々なものが足りない気がした。
「そんなあなたこそ、まだ望月さんのこと、好きなんじゃないですか」
私の話を聞く顔、望月さんのことを話す顔、私は確信を持ってそう訊くことができた。
「・・・それはないわ」
笑ったまま彼女は答えた。
「それどころか、私はずっと、一度も・・・望月君のことを好きじゃなかった」
「え、でも」
そう、今はどうかわからないけれど、少なくとも望月さんと学生時代に付き合っていたことは間違いなかった。
「そうね・・・私は望月君と付き合っていたものね」
好きでもないのに付き合う、という概念がなくて、私はまだ理解が追いついていなかった。
そんな私を知ってか知らずか、彼女は気にせず続ける。
「本当はね・・・誰にも言うつもりはなかったの、だから望月君にも同窓会に行ってほしくなかった。必死で隠そうとしたけれど・・・多分、もう時間の問題ね」
ねぇ、あなた、ここで私の話を聞いたら、私に協力してくれる? と私を見つめるそのかおはもうここに最初に来た時とは比べものにならないほどに穏やかで弱々しく見えた。けれど、何かを覚悟した顔のように見えた。
「約束はできません、話を聞いてみないと」
これも正直な気持ちだった。最初の頃のように警戒心こそないけれど、まだ信用するには足らなかったし、自分に出来ることかもわからなかった。
「そういうところも似ているわ」
意地悪そうな、それでいて堪忍したような複雑な表情で言った。
「いいわ。じゃあ頼みごとなしで、私の話を聞いてくれる?」
そして彼女は静かに語り出した。
「恵美はね、純粋な子だった・・・
けれど、それ以上に恐ろしい子だったわ」
「まぁ、顔は似てないから安心して」
と言って、スマートフォンを私に差し出した。そこに映し出されていたのは2人の制服姿の女子高生だった。片方には目の前にいる人の面影がある、恐らくこの左側の女性が恵美さんなのだろうか。
「・・・左側の子ですか」
「そうよ」
女の子は黒髪でショートカットの笑顔が可愛い女の子だった。垂れ目が印象的で、たしかに私とは髪色も目も違う。
「そしたら、どこが似ているんですか」
「言葉では難しいんだけどね・・・
そうね、雰囲気ね」
雰囲気と言われても、私は自分で自分がどんな空気を出しているのか知らない。
「私が食べるまで決して口を開かない頑固さ、
警戒心、どこか壁を感じるところ」
警戒心や壁を感じるのはあなたの言動が原因ではないか、と自然と口を尖らせる。
「そう、そうやって不満があると
口を尖らせるとことも・・・でもね」
さっき注文したワインが到着する。グラスが真紅に染まっていく。
「一番似ていたのは、そういうことも全部含めて、凛としていたところ。あなたが歌っている姿にそっくりだったわ」
真紅に染まったグラスが彼女の顔に近づき、彼女の顔を染めているように見える。
「だから離れなさい、って言ったのよ。望月君はあなたを見ているんじゃなくて、あなたの後ろにある緑川さんを見ていたかもしれない」
さっきの衝撃の正体はこれだったのか、と納得した。似ていることに驚いたのではない、似ていることで私という存在が望月さんの中で揺らいでしまったことに衝撃を受けたのだと思った。
けれど、それがわかったうえで、不思議とショックは受けなかった。望月さんのことを信用していないわけではないし、望月さんもそうだと思っていた。けれど、正直、不思議に思うことがとても多かった。私が望月さんの事務所に所属することで、得をしたのは私だけのように思う。これまで自己負担した経費を持ってもらえることになった。新曲も今までよりも良いペースで、しかも経費で作ってくれる。岡村さんの力が大きいとはいえ、イベントにもブッキングしてくれるし、何より物販の時に防犯面で心配をすることがなくなった。帰りも送ってくれるし。それでいて、必要最低限の経費以外のお金は全て私にくれる。人助けとはいえ、過ぎるんじゃないか、と思っていた。私は経営の難しいことはわからない。もしかするとその経費が回り回って事務所を助けているのかもしれない。けれど、そんな空気を望月さんは微塵も出さなかった。私から見て望月さんは「拘りのない人」だった。変なところは気にするけれど、お金とか、名誉とか、そんなものに微塵も執着がない。カバのような妖精が登場する谷にいる人間の姿をした妖精みたいな佇まい、それが彼だった。最初は、こんな旨い話があるはずがないし、どこかで私には大きな裏切りがくるかもしれない。私は騙されているかもしれない、と警戒していたけれど、それは杞憂だった。いつまで経っても、私は安心で安定した活動をしていた。
だから私はほっとしたんだ、ちゃんと望月さんにも三分の理があったんだ、って。
「少し驚きましたが、大丈夫です、
むしろ安心しました」
彼女は驚いて私に理由を問うた。私は今考えたことをそのまま言葉にして伝えた。彼女は口を開けたまま私の話を聞いていた。呆れているのか、驚いているのかわからなかった。私はその姿を見て、初めて少しだけ彼女に親近感が湧いてきた。
「望月さんにあなたのことや恵美さんのことを聞いた時も、どこかでほっとしてました。あー、望月さんもちゃんと恋愛するんだなって」
相手への親近感が湧いてきたら、急に空腹に感じ始めた。チーズの香りが私を呼んでいるような気がした。
「それくらい、望月さんは何も執着しない人でした。あなたが知る以上に」
そういう彼も見てみたかったわ、と彼女は言った。あ、でも年に1回か2回かやるお芝居には執着してましたよ、脚本もそうだし、監督・・・じゃない、演出っていうんですっけ、あれ、とてつもない拘りで。そういう時は帰りの車でもずっと愚痴を言ってました。あのアイドルは演技を軽くみてる、って、と言うと、彼女は笑って、そんなことは訊いてないわ、と言った。私は楽しくなって、今の望月さんがどんな人かを事細かく説明してあげた。チーズフォンデュはどんどんとなくなっていき、彼女はいくつか追加で料理を注文した。私もご馳走であることを忘れて、どんどんと飲み物を注文した。アルコールであるとかないとか、そんなことはとうの昔に気にならなくなっていた。連絡の返信が遅いこと。詳しく伝えてほしいことほど簡素に伝えること。忘れっぽいこと。言いたいことを口に出せないこと。この間もお店で店員さんに人違いをされたのに、全く言い出せなかったこと。すぐ作詞できてしまうこと。絶対に自信がある歌詞でも必ず冒頭に「そんなに良い歌詞じゃないんだけど」と「気に入らない部分は変えてもらっていいだけど」と付けてから私に渡すこと。私があくびをすると、伝染しないように口元をしっかりと抑えること。面白かったこと、忘れっぽい望月さんのせいで、私がどれだけ迷惑を掛けられてきたのか、どれだけ助けられてきたか、そんなことが次から次へと口から出てきた。その1つ1つに彼女はリアクションをした。それは知ってる、それはわかる、そんなこともあったのね、と。会って2回目の私たちなのに、もうずっと昔から知ってるような気持ちになった。彼女は私の話で答え合わせをしているようだった。
そして、彼女も望月さんのことをたくさん話してくれた。生物の時間中にずっと脚本を書いていたこと。数学だけは真面目に受けていたこと。負けず嫌いなこと。目立つことは嫌いなくせに、クラスで目立つ人間には絶対に勝とうとすること。脚本で賞を取った時に恥ずかしそうに全校生徒の前で症状を受け取ったこと。その割に練習場所の立体駐車場では態度が大きかったこと。部活がある休日のお昼ご飯は近くの広島風お好み焼き屋に行ったこと。もっと近くに安いお好み焼き屋があるのに、そっちに行かないのは、セルフより店員さんが目の前で焼いてくれる方が美味しいから、と言っていたけれど、本当は大の人見知りで、そっちの店員さんの方が仲が良かったからだ、ということ。その店員さんはすぐいなくなったのに、それからも義理で通い続けていたこと。帰りには馴染みのクレープ店に絶対に寄って帰ること。そこの店員さんを母親のように慕っていたこと。そこのバナナチョコクレープが絶品だと言っていたけれど、私はいちごチョコの方が好きだったこと。彼女から出てくる望月さんで私も答え合わせをする。思い出が時間を超えていく。もうどれくらい時間が過ぎたかわからないほどだった。時計を見たけれども、まだそんなに時間は経っていなかった。そんなことも感じないほどに濃密な時間に感じた。こんなに楽しく話せるとは思わなかったわ、と彼女が笑った。。そして、急に真面目な顔で、
「あなた、望月君のことが好きなのね」
と言った。私は、へっ、とまた固まってしまう。そんなふうに考えたことなんてなかったからだ。
「あ、ごめんなさい、そんなふうに考えたことなくて・・・」
私はそのままを伝えた。もしかしたら好きなのかもしれない、けれど、それは男女のそれではないような気がした。この答えを出すにはまだ色々なものが足りない気がした。
「そんなあなたこそ、まだ望月さんのこと、好きなんじゃないですか」
私の話を聞く顔、望月さんのことを話す顔、私は確信を持ってそう訊くことができた。
「・・・それはないわ」
笑ったまま彼女は答えた。
「それどころか、私はずっと、一度も・・・望月君のことを好きじゃなかった」
「え、でも」
そう、今はどうかわからないけれど、少なくとも望月さんと学生時代に付き合っていたことは間違いなかった。
「そうね・・・私は望月君と付き合っていたものね」
好きでもないのに付き合う、という概念がなくて、私はまだ理解が追いついていなかった。
そんな私を知ってか知らずか、彼女は気にせず続ける。
「本当はね・・・誰にも言うつもりはなかったの、だから望月君にも同窓会に行ってほしくなかった。必死で隠そうとしたけれど・・・多分、もう時間の問題ね」
ねぇ、あなた、ここで私の話を聞いたら、私に協力してくれる? と私を見つめるそのかおはもうここに最初に来た時とは比べものにならないほどに穏やかで弱々しく見えた。けれど、何かを覚悟した顔のように見えた。
「約束はできません、話を聞いてみないと」
これも正直な気持ちだった。最初の頃のように警戒心こそないけれど、まだ信用するには足らなかったし、自分に出来ることかもわからなかった。
「そういうところも似ているわ」
意地悪そうな、それでいて堪忍したような複雑な表情で言った。
「いいわ。じゃあ頼みごとなしで、私の話を聞いてくれる?」
そして彼女は静かに語り出した。
「恵美はね、純粋な子だった・・・
けれど、それ以上に恐ろしい子だったわ」
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