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episode.14(2007/4/2)
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2007年4月2日
大学に来たのは数週間振りなのに、もう何年も来ていないような感覚になった。そもそも履修登録の時にしか足を踏み入れない学生会館に来たせいでもあるのだけれど。今日と明日で履修登録を終えないといけない。別に明日でも良かったのだけれど、何となく早めに済ませた方が良い気がして、こうして大学に足を運んだ。自分1人ではなく、朝美の履修登録も引き受けたせいかもしれない。昔から他人のことになると妙に張り切ってしまうところがあった。朝美から数学の質問をされた時も、自分が解くより入念に解いていたし、前日に明日の始業前に教えてほしいと言われたら、普段よりも1時間以上早く登校してしまう。きっと相手が朝美だったからというのもあるのだろうが、それでなくても、近しいエピソードは山のようにあった。こういうところが今の自分の行く先を示しているのかもしれない。自分のためだけには何も一生懸命になれないし、全部どうだっていいやと思う。けれど他人のことになると何かちゃんとしないといけない気がする。ちゃんとしていない自分に、今の塾講師のアルバイトも教師になろうとしているのもある意味ではちゃんと生きるためには必要なことなのだと思う。そうでなければ、僕はとうの昔に野垂れ死んでいたと思う。
朝美のことから済ませると、自分の履修登録なんてどうだって良くなりそうだったので、僕はまず自分の履修登録から済ませた。とはいえ、教職の授業もほぼ終わった4年の授業なんてほぼ無いに等しい。卒業論文に必要な授業だけを登録して、いとも簡単に終えた。階違いにある大学院の履修登録場へ行く。用紙を受け取り、必要事項を記入していく。打ち合わせた通りの授業を記入し、提出の列に並んだ。そうして自分が少しずつ近づいていくうちに、僕はまずいことに気がついてしまった。登録の際には本人証明として学生証を提示しなければならない。僕は朝美から学籍番号は訊いていたけれど、学生証は預かっていない。預かっていたとしても顔写真が本人とはまるで違う。別人というレベルではなく、性別すら違う。これでは履修登録ができない。せめて事情を話すべきだろうが、それで信じてもらえるか。学生証は盲点だった。これまでも自分の履修登録ではそうしてきたし、何ならさっきもそういえば僕は自分の履修登録の際に学生証を見せていた。どうして気がつかなかったのか。どこまでも自分のことになると無頓着な自分に腹が立つ。
そうこうしているうちに僕の番になり、仕方なく職員の人に僕は事情を話す。冷静に話しているつもりだったが、何せ慌てていたもので、幾らかしどろもどろになってしまった。ある程度で事情をわかってもらたようで、職員の女性は奥に下がり、何やら書類をいくつか探していた。どうにかなるだろうか、と心配していると、女性は戻ってきて、
「河村朝美さんのお母様の方から連絡をもらっております。本大学4年の中村さんが代理で来られると・・・」
と言ったので、僕は食い気味でそれが自分だと申し出た。一応確認のために学生証を提示すると、職員の女性は、わかりました、これで受理します、と書類を受け取り、後は何事もなかったかのように処理を始めた。とりあえず、何とかなった、僕は安心してその場を去ろうとすると、
「言い忘れておりました、河村さんのお母様から、学生証を代わりに受け取ってもらうようにと伝言をもらっています」
と呼び止められ、僕は事務棟へ行くように言われた。まだ入学前の朝美は学生証を持っていなかったのだ。学生証を持っていないのだから、僕が朝美から預かり損ねていたわけではなかった。幾分、肩の重さがなくなったような気がした。僕は言われるがまま事務棟へ行き、またそこでも事情を話し、朝美の学生証を受け取った。ここにも既に朝美の母親は連絡をしており、本来なら決して他人に渡されることのない学生証を僕の学生証を提示するだけでもらうことができた。朝美の事故はもう学内では周知の事実であるらしく、特例中の特例だった。誰もが朝美に同情し、そして扱いに困っているようだった。今は朝美の家族の意向に添っておこうという雰囲気が見て取れた。
ともあれ全ての任務を終え、僕は何もすることがなくなってしまった。今日はアルバイトもない。かと言って、何処に行こうということもない。どうしたものかと歩き出そうとすると、メインストリートの向こうから知っている人影を見た。その人影の女性は数人でいるようだったが、僕の方をチラリと見て、集団と別れ、僕の方にやってくる。近づいてきてハッキリと確認できた。同じゼミの中田理穂子だった。
佑矢、という名を呼びながらこちらへやってくる。僕は特に大きな反応をしない。久しぶり、と快活に笑いかけるのにも僕は、あぁ、という生返事しかしない。
「最近、大学にいなかったでしょ」
これにも僕は、あぁ、とだけ返す。理穂子はめげることなく、話を止めない。
「どっか行ってたの」
行ってたとして、僕はどうして理穂子にそれを言わないといけないのだろうか。僕は、いや、とだけ言っておいた。そもそもどうして理穂子は僕にこんなに話しかけるんだろう。僕はもう理穂子とは特に話したいことはないのだ。昨年、ゼミの時に散々話した。僕からもう出てくる言葉はない。それに昨年、あんなことがあったというのに、理穂子は何も思っていないのだろうか。変わらずにいられるのは何故なのか。そんなことで頭の中がぐるぐるしてくる。思考がめちゃくちゃになる。理穂子の快活な笑顔も、その言葉も全て歪んで聞こえる。
僕は何とかその場をやり過ごすために、これからバイトだから、と言って帰ろうとする素振りを見せる。理穂子は、それは残念、これからご飯でもどうかと思ったのに、と本当に残念そうに言う。良かった。危うく理穂子ともっと長い時間を過ごさないといけないところだった。
「再来週から再開するゼミで、卒業論文のテーマの素材を持ってくるって話、覚えてる」
僕はもちろんそれを覚えていた。そのためにここに一度帰ってきたのだ。けれど、それが再来週からという具体的な日程は忘れていた。それだけは理穂子に感謝する。
「そうだったな、ありがとう」
そう言い終わる頃には、僕はもう理穂子に背を向けて歩き出していた。背中の向こうから、ちゃんと用意してくるのよ、という声が聴こえた。理穂子に言われなくても、準備はこれから、完璧と言われるまでしてやるつもりだった。
大学に来たのは数週間振りなのに、もう何年も来ていないような感覚になった。そもそも履修登録の時にしか足を踏み入れない学生会館に来たせいでもあるのだけれど。今日と明日で履修登録を終えないといけない。別に明日でも良かったのだけれど、何となく早めに済ませた方が良い気がして、こうして大学に足を運んだ。自分1人ではなく、朝美の履修登録も引き受けたせいかもしれない。昔から他人のことになると妙に張り切ってしまうところがあった。朝美から数学の質問をされた時も、自分が解くより入念に解いていたし、前日に明日の始業前に教えてほしいと言われたら、普段よりも1時間以上早く登校してしまう。きっと相手が朝美だったからというのもあるのだろうが、それでなくても、近しいエピソードは山のようにあった。こういうところが今の自分の行く先を示しているのかもしれない。自分のためだけには何も一生懸命になれないし、全部どうだっていいやと思う。けれど他人のことになると何かちゃんとしないといけない気がする。ちゃんとしていない自分に、今の塾講師のアルバイトも教師になろうとしているのもある意味ではちゃんと生きるためには必要なことなのだと思う。そうでなければ、僕はとうの昔に野垂れ死んでいたと思う。
朝美のことから済ませると、自分の履修登録なんてどうだって良くなりそうだったので、僕はまず自分の履修登録から済ませた。とはいえ、教職の授業もほぼ終わった4年の授業なんてほぼ無いに等しい。卒業論文に必要な授業だけを登録して、いとも簡単に終えた。階違いにある大学院の履修登録場へ行く。用紙を受け取り、必要事項を記入していく。打ち合わせた通りの授業を記入し、提出の列に並んだ。そうして自分が少しずつ近づいていくうちに、僕はまずいことに気がついてしまった。登録の際には本人証明として学生証を提示しなければならない。僕は朝美から学籍番号は訊いていたけれど、学生証は預かっていない。預かっていたとしても顔写真が本人とはまるで違う。別人というレベルではなく、性別すら違う。これでは履修登録ができない。せめて事情を話すべきだろうが、それで信じてもらえるか。学生証は盲点だった。これまでも自分の履修登録ではそうしてきたし、何ならさっきもそういえば僕は自分の履修登録の際に学生証を見せていた。どうして気がつかなかったのか。どこまでも自分のことになると無頓着な自分に腹が立つ。
そうこうしているうちに僕の番になり、仕方なく職員の人に僕は事情を話す。冷静に話しているつもりだったが、何せ慌てていたもので、幾らかしどろもどろになってしまった。ある程度で事情をわかってもらたようで、職員の女性は奥に下がり、何やら書類をいくつか探していた。どうにかなるだろうか、と心配していると、女性は戻ってきて、
「河村朝美さんのお母様の方から連絡をもらっております。本大学4年の中村さんが代理で来られると・・・」
と言ったので、僕は食い気味でそれが自分だと申し出た。一応確認のために学生証を提示すると、職員の女性は、わかりました、これで受理します、と書類を受け取り、後は何事もなかったかのように処理を始めた。とりあえず、何とかなった、僕は安心してその場を去ろうとすると、
「言い忘れておりました、河村さんのお母様から、学生証を代わりに受け取ってもらうようにと伝言をもらっています」
と呼び止められ、僕は事務棟へ行くように言われた。まだ入学前の朝美は学生証を持っていなかったのだ。学生証を持っていないのだから、僕が朝美から預かり損ねていたわけではなかった。幾分、肩の重さがなくなったような気がした。僕は言われるがまま事務棟へ行き、またそこでも事情を話し、朝美の学生証を受け取った。ここにも既に朝美の母親は連絡をしており、本来なら決して他人に渡されることのない学生証を僕の学生証を提示するだけでもらうことができた。朝美の事故はもう学内では周知の事実であるらしく、特例中の特例だった。誰もが朝美に同情し、そして扱いに困っているようだった。今は朝美の家族の意向に添っておこうという雰囲気が見て取れた。
ともあれ全ての任務を終え、僕は何もすることがなくなってしまった。今日はアルバイトもない。かと言って、何処に行こうということもない。どうしたものかと歩き出そうとすると、メインストリートの向こうから知っている人影を見た。その人影の女性は数人でいるようだったが、僕の方をチラリと見て、集団と別れ、僕の方にやってくる。近づいてきてハッキリと確認できた。同じゼミの中田理穂子だった。
佑矢、という名を呼びながらこちらへやってくる。僕は特に大きな反応をしない。久しぶり、と快活に笑いかけるのにも僕は、あぁ、という生返事しかしない。
「最近、大学にいなかったでしょ」
これにも僕は、あぁ、とだけ返す。理穂子はめげることなく、話を止めない。
「どっか行ってたの」
行ってたとして、僕はどうして理穂子にそれを言わないといけないのだろうか。僕は、いや、とだけ言っておいた。そもそもどうして理穂子は僕にこんなに話しかけるんだろう。僕はもう理穂子とは特に話したいことはないのだ。昨年、ゼミの時に散々話した。僕からもう出てくる言葉はない。それに昨年、あんなことがあったというのに、理穂子は何も思っていないのだろうか。変わらずにいられるのは何故なのか。そんなことで頭の中がぐるぐるしてくる。思考がめちゃくちゃになる。理穂子の快活な笑顔も、その言葉も全て歪んで聞こえる。
僕は何とかその場をやり過ごすために、これからバイトだから、と言って帰ろうとする素振りを見せる。理穂子は、それは残念、これからご飯でもどうかと思ったのに、と本当に残念そうに言う。良かった。危うく理穂子ともっと長い時間を過ごさないといけないところだった。
「再来週から再開するゼミで、卒業論文のテーマの素材を持ってくるって話、覚えてる」
僕はもちろんそれを覚えていた。そのためにここに一度帰ってきたのだ。けれど、それが再来週からという具体的な日程は忘れていた。それだけは理穂子に感謝する。
「そうだったな、ありがとう」
そう言い終わる頃には、僕はもう理穂子に背を向けて歩き出していた。背中の向こうから、ちゃんと用意してくるのよ、という声が聴こえた。理穂子に言われなくても、準備はこれから、完璧と言われるまでしてやるつもりだった。
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