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episode.27(2007/4/24)
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2007年4月24日
昨日のゼミは驚くほどスムーズに終わった。僕が篠塚教授の仮説の検証を行うことを論文に盛り込み連携を図ることが、小堺教授と篠塚先生の間で既に了承済みで、小堺教授はもちろんのこと、他のメンバーもそれ以上何も言うことはなかった。諏訪はとても悔しそうな顔をしていたけれど、教授が了承しているものを覆すだけの体力はないらしい。こちらに何か言いたそうな顔を向けてはきたが、僕が全く気にしない素振りを見せると、もう何も言わなかった。理穂子は終始俯いていた。と言うよりも心ここに在らずで考え事をしているようにも思えた。僕は何度か理穂子の方を見たけれど、理穂子の方から僕を見ることはなかった。
かくして僕は教授公認で故郷に帰ることができるようになった。毎週報告することになっている進捗状況も1ヶ月後に出向いてくれたら良いし、それも無理であるようならメールで構わないというお達しをもらえた。僕にとってはこれ以上にない好条件だった。
善は急げということで、木曜日から帰郷することになった。週末からでも良かったのだが、GW始めということもあり、新幹線の座席が取れないだろうと思った。アルバイトの塾はGWは基本的に閉めているので問題なかった。塾業界は夏休みと冬休みから3月にかけてほぼ休みなく働かなければならないため、GWくらいは、と休講にするところが多い。週末と中日に鈴の授業があるけれども、予め鈴の授業は前倒しでどんどんやっていたし、長引きそうかもということで、数回は違う講師になることを鈴に伝え、了承をもらっていた。僕自身もスムーズに引き継ぎできるように準備を進めていた。
「ちゃんと帰ってきてくださいよ」
目前で問題を解く鈴が不意に僕に漏らした。
「人を決死隊みたいに言うな」
「だって、佑矢さんは放っておくと、どっか行っちゃいそうなんだもん」
「決死隊の次は綿毛か、オレは」
冗談で逃げようとしたけれども、鈴は真面目な顔で
「帰ってこないと辞めてやるからね、ここ」
と口を尖らせていた。仮に鈴がこの塾を辞めたとしたら、僕はもう用済みなんだけど、その頃僕はもういないのだから、僕に直接的な被害はない。鈴が出してきた交換条件とも取れるような発言はツッコミどころが満載だったのだけれど、鈴は至って真剣な顔をしていたし、僕もそれを指摘するのは野暮のように思ったので止めておいた。
「分かった、戻ってくる、約束する」
というと安心した顔を見せたので、僕の判断は間違っていなかったのだと思った。
「それより、オレがいなくても、河合さんと上手くやってくれよ」
「もちろん、さくらさんとはもう友達だから」
僕が横浜を離れるにあたって、教授を説得できた今、一番のネックは鈴だった。前回の帰郷の際も鈴の要望で塾長から呼び戻された。今回も数回は誤魔化せるかもしれないが、もし長引くようであれば、前回と同じように僕は呼び戻されてしまうだろう。鈴は大切な生徒ではあったが、それは避けなければならない事態だった。
僕は事前にさくらにお願いをし、鈴の授業を引き継いでもらうことにした。さくらくらいしか僕が物事を頼める人はいなかった。けれど、ただ引き継いだだけでは3月の二の舞になってしまう。ましてや鈴は僕とさくらの関係を疑い、さくらを何かと敵視している。僕はさくらと相談をし、鈴の空き時間に積極的に話しに行ってもらうことにした。話の内容は僕のことだ。普段の僕や鈴の知らない僕の秘密などを鈴と共有し、自分は僕とただの友人なのだが、鈴には時別に秘密を教えてあげている、というスタンスを取らせた。さくらは鈴の同志となり、鈴の応援者のような形になった。自分の敵ではなく、そして自分の知りたいことを教えてくれる人、鈴はすぐにさくらと仲良くなった。これでしばらくは大丈夫だろう。さくらの返答を見る限りはそう思った。
「高くつきますからね」
さくらには冗談のように言われたけれど、感謝してもしきれなかった。バーでライブの後に高いお酒でも奢った方が良いだろう。さくらは良いお酒を飲む時、本当に良い顔をするのだ。
鈴が帰り、塾長とさくらと今後の簡単な打ち合わせをした。あとは家で荷物をまとめて帰郷するだけだった。
先日、さくらに問うてから、僕は朝美に篠塚先生の検証を行うか、とりあえず保留という形を取った。教授へは保留のことは言わずに了承をもらったが、迷ってばかりもいられない。帰って、朝美に会う頃にはある程度決めていないといけない。朝美からのメールは断続的に来ていたけれど、特に変化はないようだった。恐らく僕が何か画期的な方法を用いない限り、劇的に状況が変化することはないだろう。そして僕は篠塚先生から画期的な方法を与えられた。使うか使わないかは僕次第だった。使わずとも、適当に作文をして「失敗した」ということも可能だった。僕はまだ決められていなかった。きっと僕は朝美を目前にしても決められていないのだと思う。決めていたとしても、朝美に会ってしまえば揺らいでしまうのだと思う。
朝美と会った時にどうしたいか、その最初の感覚に委ねようと思った。
迷う心をバッグをの底に沈めて、僕は当面の着替えと資料を詰め込み、チャックを閉じた。
昨日のゼミは驚くほどスムーズに終わった。僕が篠塚教授の仮説の検証を行うことを論文に盛り込み連携を図ることが、小堺教授と篠塚先生の間で既に了承済みで、小堺教授はもちろんのこと、他のメンバーもそれ以上何も言うことはなかった。諏訪はとても悔しそうな顔をしていたけれど、教授が了承しているものを覆すだけの体力はないらしい。こちらに何か言いたそうな顔を向けてはきたが、僕が全く気にしない素振りを見せると、もう何も言わなかった。理穂子は終始俯いていた。と言うよりも心ここに在らずで考え事をしているようにも思えた。僕は何度か理穂子の方を見たけれど、理穂子の方から僕を見ることはなかった。
かくして僕は教授公認で故郷に帰ることができるようになった。毎週報告することになっている進捗状況も1ヶ月後に出向いてくれたら良いし、それも無理であるようならメールで構わないというお達しをもらえた。僕にとってはこれ以上にない好条件だった。
善は急げということで、木曜日から帰郷することになった。週末からでも良かったのだが、GW始めということもあり、新幹線の座席が取れないだろうと思った。アルバイトの塾はGWは基本的に閉めているので問題なかった。塾業界は夏休みと冬休みから3月にかけてほぼ休みなく働かなければならないため、GWくらいは、と休講にするところが多い。週末と中日に鈴の授業があるけれども、予め鈴の授業は前倒しでどんどんやっていたし、長引きそうかもということで、数回は違う講師になることを鈴に伝え、了承をもらっていた。僕自身もスムーズに引き継ぎできるように準備を進めていた。
「ちゃんと帰ってきてくださいよ」
目前で問題を解く鈴が不意に僕に漏らした。
「人を決死隊みたいに言うな」
「だって、佑矢さんは放っておくと、どっか行っちゃいそうなんだもん」
「決死隊の次は綿毛か、オレは」
冗談で逃げようとしたけれども、鈴は真面目な顔で
「帰ってこないと辞めてやるからね、ここ」
と口を尖らせていた。仮に鈴がこの塾を辞めたとしたら、僕はもう用済みなんだけど、その頃僕はもういないのだから、僕に直接的な被害はない。鈴が出してきた交換条件とも取れるような発言はツッコミどころが満載だったのだけれど、鈴は至って真剣な顔をしていたし、僕もそれを指摘するのは野暮のように思ったので止めておいた。
「分かった、戻ってくる、約束する」
というと安心した顔を見せたので、僕の判断は間違っていなかったのだと思った。
「それより、オレがいなくても、河合さんと上手くやってくれよ」
「もちろん、さくらさんとはもう友達だから」
僕が横浜を離れるにあたって、教授を説得できた今、一番のネックは鈴だった。前回の帰郷の際も鈴の要望で塾長から呼び戻された。今回も数回は誤魔化せるかもしれないが、もし長引くようであれば、前回と同じように僕は呼び戻されてしまうだろう。鈴は大切な生徒ではあったが、それは避けなければならない事態だった。
僕は事前にさくらにお願いをし、鈴の授業を引き継いでもらうことにした。さくらくらいしか僕が物事を頼める人はいなかった。けれど、ただ引き継いだだけでは3月の二の舞になってしまう。ましてや鈴は僕とさくらの関係を疑い、さくらを何かと敵視している。僕はさくらと相談をし、鈴の空き時間に積極的に話しに行ってもらうことにした。話の内容は僕のことだ。普段の僕や鈴の知らない僕の秘密などを鈴と共有し、自分は僕とただの友人なのだが、鈴には時別に秘密を教えてあげている、というスタンスを取らせた。さくらは鈴の同志となり、鈴の応援者のような形になった。自分の敵ではなく、そして自分の知りたいことを教えてくれる人、鈴はすぐにさくらと仲良くなった。これでしばらくは大丈夫だろう。さくらの返答を見る限りはそう思った。
「高くつきますからね」
さくらには冗談のように言われたけれど、感謝してもしきれなかった。バーでライブの後に高いお酒でも奢った方が良いだろう。さくらは良いお酒を飲む時、本当に良い顔をするのだ。
鈴が帰り、塾長とさくらと今後の簡単な打ち合わせをした。あとは家で荷物をまとめて帰郷するだけだった。
先日、さくらに問うてから、僕は朝美に篠塚先生の検証を行うか、とりあえず保留という形を取った。教授へは保留のことは言わずに了承をもらったが、迷ってばかりもいられない。帰って、朝美に会う頃にはある程度決めていないといけない。朝美からのメールは断続的に来ていたけれど、特に変化はないようだった。恐らく僕が何か画期的な方法を用いない限り、劇的に状況が変化することはないだろう。そして僕は篠塚先生から画期的な方法を与えられた。使うか使わないかは僕次第だった。使わずとも、適当に作文をして「失敗した」ということも可能だった。僕はまだ決められていなかった。きっと僕は朝美を目前にしても決められていないのだと思う。決めていたとしても、朝美に会ってしまえば揺らいでしまうのだと思う。
朝美と会った時にどうしたいか、その最初の感覚に委ねようと思った。
迷う心をバッグをの底に沈めて、僕は当面の着替えと資料を詰め込み、チャックを閉じた。
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