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episode.37(2007/5/9②)
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歌舞伎町の入り口は迷路への入り口である。いや、そもそも迷路ほど親切でもない。迷路なら入り口は1ヶ所である。でも、ここは何処からでも入ることができ、さらに入り口の選び方で後の運命が変わるというほどに複雑に入り組んでいて理解するのが難しい。一番オーソドックスな格安の総合ディスカウントストアから入る入り口は僕でも何となく後の順路を理解できるが、それ以外になると難しい。ディスカウントストアと外装の配色が似ているドーナツ店や大型のパチンコ店など僕を惑わせる入り口も多く、僕がここに頻繁に立ち入らない理由の一つになっている。
佐藤さんはそのどれでもない道を選択した。地下モールを出てパチンコ店の前に出た時には、あぁ、この難しい方の道を通るのか、と気落ちしてしまったが、佐藤さんはその小道には目もくれず、大通りを経て西武新宿駅のある通りに進んでいく。
「この道は不慣れなので帰り道が心配です」
と正直に言うが、佐藤さんは、僕がついていますから、と意に介さず進んでいく。どちらにしても新宿に不慣れな僕がこの佐藤さんについていかなければならないことに変わりはないので、僕は黙って後をついていく。頭の中は朝美のこと、竹下のこと、そして不慣れな道を覚えるので一杯だった。必死だった。さくらがそんな僕の顔を覗き込んで
「そんな顔をしているとその筋の人に間違えられますよ」
と冗談めいて言ったけれど、そんなことはどうでもよかった。勝手に言わせておけばよかった。僕はもう頭の中にさくらとの正しい会話をする余白は残っていないのだ。それにここは新宿歌舞伎町である。たとえ冗談だとしても、その筋の人に見えるとしたら、それはむしろこの街に相応しいのではないだろうか。
不意に小道に入り、左右に迂回するように何度も曲がっていくと、少し開けた道路に出た。僕はもうその時点で道を覚えることを諦めていた。既に東西南北の感覚すら怪しかったのだ。小道を遠通っている間、ほとんで人と出くわさなかった。僕が以前歌舞伎町に来た際には歩けばすぐに客引きに呼び止められた。いちいちそれを断るのも面倒なので、無視を決めて歩けど、中には並んで歩き、こちらが反応するまで声を掛け続ける人もいた。僕は歌舞伎町がそういう街だと思っていたし、その認識に間違いはないはずだ。だが、どうしてか今日に限っては客引きに遭わない。
そのまま方向感覚と違和感で頭を掻き回されながら、佐藤さんは不意にコインパーキングへと入り、一台のバンの前で止まった。
「この車で僕がクラブハウスの付近に待機しておきますので、何かあればすぐにそこに逃げてもらいます」
僕は佐藤さんに店内まで案内はしてくれないのか、と訊いた。
「詳しくは後にしますが、万が一のことがあると、僕はこの街で目をつけられてしまいます。そうなったらとてもじゃないけれども仕事が出来ない。僕に出来るのはあくまで店外での手助けだけです」
確かにそうだと思った。僕は何かあれば一目散に逃げれば良い、そして二度とこの街に足を踏み入れなければ良い。けれど佐藤さんは違う。佐藤さんはこの街で働いているのだ。万が一佐藤さんがいざこざに巻き込まれたら、その後この街を出なくてはいけない。佐藤さんはそれを避けなければならなかった。
「すみません、本当はわかりやすい道もあったんですけど、極力そういう店の人間がいる道を避けて選びました。この街は横の繋がりも馬鹿に出来ませんからね。僕が中村さんと一緒にいるところを見られたくなかったんです」
なるほど、あんなに何度も左折右折を繰り返しながら進んでいたのはそういう意図があったのか。この街は僕が考えている以上に複雑で容易なものではないのかもしれない。僕一人が店に乗り込んで済むという問題でもなさそうだ。
「そんなことまでさせて僕に協力してもらい、本当に申し訳ないです」
心の底からの言葉に、佐藤さんは逆に恐縮したように、万が一ですから、と言い、
「それでは急ぎましょう、車を置いていく場所も案内しておきます」
とまた僕らの案内を始めた。そこから数分歩いた場所で再び佐藤さんは足を止めた。微かに金属バットに軟式ボールが当たる乾いた音が聴こえてくる。
「ここに車を止めておきます、ドアは開けておきますから、何かあればさっきの車に飛び乗ってください」
僕は先程の車を思い出していた。色や形は完全に覚えたが、そういえばナンバーはうろ覚えだ。写真でも撮っておけば良かったと後悔したがもう遅かった。
「あの角を左に曲がるとライブハウスの看板があります。その地下がライブハウスなので、そこで話をしましょう、もう既に店主と話はつけてあります」
というと佐藤さんは角を曲がらずに建物の裏口のようなところから地下に入って行った。
地下に降りると大きな音が響いていた。客の声はしない。リハーサルなのか、客がいないライブなのかはわからないが、裏口から楽屋を抜けると、気だるそうなバンドマンらしき男性がのそのそと準備をしていたから、どうやらリハーサルなのだろう。そのままフロアに出て、バーカウンターにいる男性に佐藤さんは簡単に挨拶をした。響くドラム音で何を話しているのかはわからなかったけれど、和やかな雰囲気で途中佐藤さんがこちらを紹介したような仕草を見せたので、僕はとりあえず深めにお辞儀をした。それでコミュニケーションは成立して、問題なかった。
「それじゃ上に向かいましょう」
話し終えた佐藤さんが耳元で聞こえるように言ってくれた。僕は声を出しても聞こえないと思って大きめに頷く。別にリハーサルで照明が落ちていないから、ジェスチャーを大きくする必要はなかったけれど、何となくそうしてしまった。
再びステージ裏に周り、関係者用のエレベータで上に向かう。3Fにつくと、そこはパーテーションで区切られてこそいるけれど、開けたスペースだった。
「ここは大きめのイベントの時に使われる追加の楽屋見たいなところです、今日は好きに使って良いと言われています」
佐藤さんはそういうとパーテーションと机をいくつか動かし、窓際に簡易的なスペースを作る。窓はちょうどパーテーションで隠され、隅から少しだけ見えるようになっていた。僕らはそのスペースに座る。佐藤さんの指示で、僕は隅に座った。
「中村さん、そこから向かいの斜め後方にベージュ色の大きい建物がありませんか」
僕が確認しようとすると
「気をつけてください、時間的には大丈夫だと思いますが、もう誰かいるかもしれません」
と佐藤さんが付け加える。僕は注意深く確認する、まだ通りには人が疎らであった。立ち止まる様子もないので、きっと大丈夫なのだろう。建物を探すと、おそらくそれと思われるものがあった。
「ホスト風の男が何人か写っている看板があるところですか」
と訊くと、佐藤さんは、そうです、と答えた。そうか、そっちの目印がわかりやすかったか、というおまけ付きで。
「今度から紹介するときはその看板を目印にします」
と言っていたが、そんな時は来るのだろうか。
「そのビルは地上部分がホストクラブやキャバクラが集まっているビルです、その地下に例のクラブハウスがあります」
そうだとは思っていたけれど、改めて言われてドキリとした。一瞬の緊張が走った。
「そのビルは元締めが全て管理していましてね、ちょっと力が強くて、警察も目はつけているものの、迂闊に手出しできないんですよ。連中はそれをわかっていて好き勝手やっているようですが」
佐藤さんが警戒するだけあってキナ臭い話である。そんなところに竹下がいるというのか。虫も好かないやつではあったけれど、僕の中の竹下像とかけ離れて想像がつかない。
「僕は万が一に備えてさっきの車で待機していますが、さくらちゃんをここで見張りにつけます」
さくらは任せとけ、という具合で大きく頷いた。
それから佐藤さんから外から入り口までの距離、注意事項、受付の仕方、簡単なフロアマップやルールを教えてもらった。まだクラブハウスの開店までは時間がある。僕たちは腹ごしらえをすることにした。僕がうろつくのはリスキーだということで、佐藤さんとさくらがコンビニに買い出しをしてくれることになった。
佐藤さんはそのどれでもない道を選択した。地下モールを出てパチンコ店の前に出た時には、あぁ、この難しい方の道を通るのか、と気落ちしてしまったが、佐藤さんはその小道には目もくれず、大通りを経て西武新宿駅のある通りに進んでいく。
「この道は不慣れなので帰り道が心配です」
と正直に言うが、佐藤さんは、僕がついていますから、と意に介さず進んでいく。どちらにしても新宿に不慣れな僕がこの佐藤さんについていかなければならないことに変わりはないので、僕は黙って後をついていく。頭の中は朝美のこと、竹下のこと、そして不慣れな道を覚えるので一杯だった。必死だった。さくらがそんな僕の顔を覗き込んで
「そんな顔をしているとその筋の人に間違えられますよ」
と冗談めいて言ったけれど、そんなことはどうでもよかった。勝手に言わせておけばよかった。僕はもう頭の中にさくらとの正しい会話をする余白は残っていないのだ。それにここは新宿歌舞伎町である。たとえ冗談だとしても、その筋の人に見えるとしたら、それはむしろこの街に相応しいのではないだろうか。
不意に小道に入り、左右に迂回するように何度も曲がっていくと、少し開けた道路に出た。僕はもうその時点で道を覚えることを諦めていた。既に東西南北の感覚すら怪しかったのだ。小道を遠通っている間、ほとんで人と出くわさなかった。僕が以前歌舞伎町に来た際には歩けばすぐに客引きに呼び止められた。いちいちそれを断るのも面倒なので、無視を決めて歩けど、中には並んで歩き、こちらが反応するまで声を掛け続ける人もいた。僕は歌舞伎町がそういう街だと思っていたし、その認識に間違いはないはずだ。だが、どうしてか今日に限っては客引きに遭わない。
そのまま方向感覚と違和感で頭を掻き回されながら、佐藤さんは不意にコインパーキングへと入り、一台のバンの前で止まった。
「この車で僕がクラブハウスの付近に待機しておきますので、何かあればすぐにそこに逃げてもらいます」
僕は佐藤さんに店内まで案内はしてくれないのか、と訊いた。
「詳しくは後にしますが、万が一のことがあると、僕はこの街で目をつけられてしまいます。そうなったらとてもじゃないけれども仕事が出来ない。僕に出来るのはあくまで店外での手助けだけです」
確かにそうだと思った。僕は何かあれば一目散に逃げれば良い、そして二度とこの街に足を踏み入れなければ良い。けれど佐藤さんは違う。佐藤さんはこの街で働いているのだ。万が一佐藤さんがいざこざに巻き込まれたら、その後この街を出なくてはいけない。佐藤さんはそれを避けなければならなかった。
「すみません、本当はわかりやすい道もあったんですけど、極力そういう店の人間がいる道を避けて選びました。この街は横の繋がりも馬鹿に出来ませんからね。僕が中村さんと一緒にいるところを見られたくなかったんです」
なるほど、あんなに何度も左折右折を繰り返しながら進んでいたのはそういう意図があったのか。この街は僕が考えている以上に複雑で容易なものではないのかもしれない。僕一人が店に乗り込んで済むという問題でもなさそうだ。
「そんなことまでさせて僕に協力してもらい、本当に申し訳ないです」
心の底からの言葉に、佐藤さんは逆に恐縮したように、万が一ですから、と言い、
「それでは急ぎましょう、車を置いていく場所も案内しておきます」
とまた僕らの案内を始めた。そこから数分歩いた場所で再び佐藤さんは足を止めた。微かに金属バットに軟式ボールが当たる乾いた音が聴こえてくる。
「ここに車を止めておきます、ドアは開けておきますから、何かあればさっきの車に飛び乗ってください」
僕は先程の車を思い出していた。色や形は完全に覚えたが、そういえばナンバーはうろ覚えだ。写真でも撮っておけば良かったと後悔したがもう遅かった。
「あの角を左に曲がるとライブハウスの看板があります。その地下がライブハウスなので、そこで話をしましょう、もう既に店主と話はつけてあります」
というと佐藤さんは角を曲がらずに建物の裏口のようなところから地下に入って行った。
地下に降りると大きな音が響いていた。客の声はしない。リハーサルなのか、客がいないライブなのかはわからないが、裏口から楽屋を抜けると、気だるそうなバンドマンらしき男性がのそのそと準備をしていたから、どうやらリハーサルなのだろう。そのままフロアに出て、バーカウンターにいる男性に佐藤さんは簡単に挨拶をした。響くドラム音で何を話しているのかはわからなかったけれど、和やかな雰囲気で途中佐藤さんがこちらを紹介したような仕草を見せたので、僕はとりあえず深めにお辞儀をした。それでコミュニケーションは成立して、問題なかった。
「それじゃ上に向かいましょう」
話し終えた佐藤さんが耳元で聞こえるように言ってくれた。僕は声を出しても聞こえないと思って大きめに頷く。別にリハーサルで照明が落ちていないから、ジェスチャーを大きくする必要はなかったけれど、何となくそうしてしまった。
再びステージ裏に周り、関係者用のエレベータで上に向かう。3Fにつくと、そこはパーテーションで区切られてこそいるけれど、開けたスペースだった。
「ここは大きめのイベントの時に使われる追加の楽屋見たいなところです、今日は好きに使って良いと言われています」
佐藤さんはそういうとパーテーションと机をいくつか動かし、窓際に簡易的なスペースを作る。窓はちょうどパーテーションで隠され、隅から少しだけ見えるようになっていた。僕らはそのスペースに座る。佐藤さんの指示で、僕は隅に座った。
「中村さん、そこから向かいの斜め後方にベージュ色の大きい建物がありませんか」
僕が確認しようとすると
「気をつけてください、時間的には大丈夫だと思いますが、もう誰かいるかもしれません」
と佐藤さんが付け加える。僕は注意深く確認する、まだ通りには人が疎らであった。立ち止まる様子もないので、きっと大丈夫なのだろう。建物を探すと、おそらくそれと思われるものがあった。
「ホスト風の男が何人か写っている看板があるところですか」
と訊くと、佐藤さんは、そうです、と答えた。そうか、そっちの目印がわかりやすかったか、というおまけ付きで。
「今度から紹介するときはその看板を目印にします」
と言っていたが、そんな時は来るのだろうか。
「そのビルは地上部分がホストクラブやキャバクラが集まっているビルです、その地下に例のクラブハウスがあります」
そうだとは思っていたけれど、改めて言われてドキリとした。一瞬の緊張が走った。
「そのビルは元締めが全て管理していましてね、ちょっと力が強くて、警察も目はつけているものの、迂闊に手出しできないんですよ。連中はそれをわかっていて好き勝手やっているようですが」
佐藤さんが警戒するだけあってキナ臭い話である。そんなところに竹下がいるというのか。虫も好かないやつではあったけれど、僕の中の竹下像とかけ離れて想像がつかない。
「僕は万が一に備えてさっきの車で待機していますが、さくらちゃんをここで見張りにつけます」
さくらは任せとけ、という具合で大きく頷いた。
それから佐藤さんから外から入り口までの距離、注意事項、受付の仕方、簡単なフロアマップやルールを教えてもらった。まだクラブハウスの開店までは時間がある。僕たちは腹ごしらえをすることにした。僕がうろつくのはリスキーだということで、佐藤さんとさくらがコンビニに買い出しをしてくれることになった。
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