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episode.40(2007/5/9~5/10)
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夜が深くなるように僕はどんどんと階段を降りていく。少しずつベース音が足元を揺らしているのがわかる。地下はなんとか携帯電話の電波が届くらしいが、僕は一応もう一度携帯電話を確認する。さくらからメールが届いている。
「竹下という人と頻繁に会っている人物は今日はVIPにいるそうです。勿論VIPには入れません。出てきたところを狙ってください。金髪で赤いワイシャツ。Jと呼ばれているそうです」
佐藤さんは受付に協力者がいると言ってくれたが、初めて足を踏み入れる僕が必要以上に彼と話すと、後々まずいことになるかもしれない。中の情報は協力者と佐藤さんを介して、さくらから僕に連絡がいくようになっている。入り口にまで響く爆音の中、受付に立つ茶髪の男が協力者なのだろうか。向こうにも僕の情報がいっているらしく、その姿を見るなりこちらに少しだけ身を乗り出して、
「お金を出すふりをしてください」
というので、僕は精一杯の演技で財布から札を数枚取り出してさっと渡すふりをすると、彼は僕にコインを1つ渡した。
「ドリンクチケットです。あっちのカウンターで交換してください」
戸惑う僕を察して見た目とは裏腹に丁寧に説明すると、
「無茶しないでくださいよ、ここ、本当にヤバいんで」
とだけ言い、後はぶっきらぼうな対応に戻ってしまった。僕もなるべくその場にそぐうように、慣れた手つきのふりで会釈をすると、フロアに入っていく。ここからは完全に1人だ。フロアにはもう深夜だというのに人が溢れていた。ドリンクカウンターでリキュールと交換する。本当はこれからのことを考えるとソフトドリンクが良かったのだが、クラブで男が1人ソフトドリンク、悪目立ちはしたくない。一杯くらいじゃ酔わない、という経験からジントニックを注文した。綺麗な黒髪の女性が慣れた手つきでドリンクを作っていく。その可憐さはこの場にそぐわない気もしたが、手渡される時に腕から覗いたスペード柄のタトゥーで僕は現実に戻される。口をつけたジントニックは心なしか濃い気がした。空きっ腹でお腹に入れたら酔っていたかもしれない。事前に腹ごしらえしたのは正解だった。予め送られてきていたフロアマップでVIPの場所を確認する。正直よくわからなかったけれど、ドリンクカウンターと入口の位置関係で理解する。あのステージ端にあるDJブースの隣にあるところがVIP席なのだろう。曇りガラスで囲われていて、中がはっきりとはわからない。近づいてみると、男女の薄い影がいくつか見える中に赤い影が見える。あれがきっとJなのだろう。ここで待ちたかったけれど、ここでは周りがリキュールを片手に思い思いの歓声をあげたり、踊ったりしている。女性が1人、2人と単独で行動していれば、秒速で男が声を掛けていく。恐らく脳で考えて行動していない。反射で声を掛けている。とてもじゃないが、ここに染まれる気がしない。周囲を歩き回り、僕はようやく自分の場所を見つけた。トイレに続く通路からVIP席が微かに見える。例えVIPであれ、危険な男であれ、お酒が入ればトイレに行きたくなるに違いない。僕はここで待つことにした。
しばらく待っている間、僕はその赤色以外の何も色が入ってこなかったし、音も遮断していた。楽しそうにしている金髪のJにずっと釘付けだった。
永遠のような時間がどれだけ過ぎたかわからない。不意にJが立ち上がる。隣にいる女に軽くキスをしたのが見えた。そしてそのままこちらに向かってきた。トイレに行くつもりだ。ついにこの時間がやってきた。心臓の鼓動が高鳴る。近づいてくるJは遠くで見るより大きく、肩幅も広い。僕は圧倒される。ゆっくり話をするために、一度スルーしてJをトイレに向かわせる。すると後ろから追いかけてくる女がいる。トイレの手前でJを呼び止めると、何やら耳元で話をして、女がJに金を渡す。そのままJはポケットから何かを出して女はそれを喜んで受け取った。女はその欲望を叶えたような表情をすると、そのまま女子トイレへと消えていった。
僕は見ないような素振りをしながら、それを見ていた。ここは本当にヤバいところなんだ、僕は改めてそう感じた。女の後を追うように違う男が何の躊躇いもなく女子トイレに入り、そしてそのまま女を連れ出した。男の手は既に女の胸と臀部にあり、男女はそのまままぐわリ始める。女の顔は先程とは段違いに恍惚とした表情を浮かべ、こちらを見ながら時折笑みを浮かべてさえいる。なんだここは。これは本当に理性のある人間がいる場所なのか。ここから今すぐ立ち去りたい。目の前でこういにに及ぶ男女を見ながら恐怖を感じるけれど、僕はJに話を聞かないといけない。トイレから出てきたJは女に挿入している男に何やら話しかけた後、高笑いをしてまたこちらに向かってくる。
「あなたがJさんですか」
音量に負けないように横を過ぎるタイミングで大声を出すと、Jはこちらを向く。
「竹下という男を探しています。知りませんか」
気分がいいのか、いや、知らないねぇという素振りを笑顔で見せる。
「もしくは陽太と言っていたかもしれません」
Jは、あーという顔を見せた。
「陽太か。それなら知ってるな」
Jの顔に合わせて僕の顔も明るくなる。
「その男がここに出入りをしていると聞きました。居場所を知りませんか」
希望が見えた、竹下の手がかりが見つかった、そう思った。けれどそれは甘かった。
「いや、あいつは俺らから金を借りまくって、それから来てねぇよ、居場所なんて知らねぇ」
まさか、ここまで来ても手がかりはないのか。
「お前も陽太に金でも貸してんのか? 見つかったら言っといてくれよ、Jが会いたがっているとな」
そのまま行こうとするJを僕はまだ離すわけにはいかない。
「それならこの女性を知りませんか、もしかすると2ヶ月前くらいにここに来たかもしれないんです」
僕は朝美の画像を見せた。
「あーこいつな」
Jは少し写真に顔を近づけると少し不機嫌そうに反応した。
「こいつが来てから陽太がここに来なくなったんだよ、『陽太と話をさせろ』ってうるさくてな」
朝美はやはりここに来ていた。
「少し陽太と話してたな、そうだ、おい」
通りかかった2人の男にJが声をかけた。
「お前らもこの女、知ってるだろ」
2人が画像を見ると顔が険しくなった。
「あー、こいつな、陽太を連れて帰ろうとした女だ。あんまりしつこいからちょっと相手したやったよ」
その言葉に僕も反射的に声を荒らげていた。
「朝美に何をした」
凄む僕にめはも相手は全く何も動じない。
「ちょっと脅してやっただけだよ、そしたらあいつ、俺を突き飛ばして逃げやがったんだ」
「今度会ったらただじゃおかねぇ」
Jはその様子を見てニヤニヤして言った。
「こいつ、陽太とその女の知り合いらしいぜ」
その瞬間、その2人もニヤニヤしながら僕に詰め寄ってきた。
「それは良い、その女連れてこいよ」
「俺たち、陽太に金を貸したままなんだ、陽太も連れてこい」
僕はそれはできない、と言った。そもそも竹下は居場所を知らない。僕が知りたいんだ。
「朝美を連れてきてどうするつもりだ」
そんなの、と笑う男の顔が気持ち悪くてまた反射的に僕が掴み掛かろうとしたところで、凄まじい力で壁に押し付けられた。一瞬何が起こったかわからなかった。押さえつけたのはJだった。
「調子に乗んなよ、クソが」
もがこうにも相手の力が強く振り解けない。手は首の近くに伸びており、暗闇のせいなのか、焼けつくようなレーザービームの照明のせいなのか、視界がおぼつかない。無茶しないでくださいよ、と忠告する人たちの顔がフラッシュバックする。素人が手を出すような場所ではなかった。倫理が通用する相手ではなかった。分かっていたけれど甘く見ていた。
喉仏を完全に掴まれた僕は、後悔しながらもその状況をただ受け入れるように力が抜けていった。遠退く意識の中でぼやける視線の先に女性が見えた。全ての色を受け止める白いワンピースの女性が、原色の照明を跳ね返すように白いままで立っていた。
朝美だった。
「竹下という人と頻繁に会っている人物は今日はVIPにいるそうです。勿論VIPには入れません。出てきたところを狙ってください。金髪で赤いワイシャツ。Jと呼ばれているそうです」
佐藤さんは受付に協力者がいると言ってくれたが、初めて足を踏み入れる僕が必要以上に彼と話すと、後々まずいことになるかもしれない。中の情報は協力者と佐藤さんを介して、さくらから僕に連絡がいくようになっている。入り口にまで響く爆音の中、受付に立つ茶髪の男が協力者なのだろうか。向こうにも僕の情報がいっているらしく、その姿を見るなりこちらに少しだけ身を乗り出して、
「お金を出すふりをしてください」
というので、僕は精一杯の演技で財布から札を数枚取り出してさっと渡すふりをすると、彼は僕にコインを1つ渡した。
「ドリンクチケットです。あっちのカウンターで交換してください」
戸惑う僕を察して見た目とは裏腹に丁寧に説明すると、
「無茶しないでくださいよ、ここ、本当にヤバいんで」
とだけ言い、後はぶっきらぼうな対応に戻ってしまった。僕もなるべくその場にそぐうように、慣れた手つきのふりで会釈をすると、フロアに入っていく。ここからは完全に1人だ。フロアにはもう深夜だというのに人が溢れていた。ドリンクカウンターでリキュールと交換する。本当はこれからのことを考えるとソフトドリンクが良かったのだが、クラブで男が1人ソフトドリンク、悪目立ちはしたくない。一杯くらいじゃ酔わない、という経験からジントニックを注文した。綺麗な黒髪の女性が慣れた手つきでドリンクを作っていく。その可憐さはこの場にそぐわない気もしたが、手渡される時に腕から覗いたスペード柄のタトゥーで僕は現実に戻される。口をつけたジントニックは心なしか濃い気がした。空きっ腹でお腹に入れたら酔っていたかもしれない。事前に腹ごしらえしたのは正解だった。予め送られてきていたフロアマップでVIPの場所を確認する。正直よくわからなかったけれど、ドリンクカウンターと入口の位置関係で理解する。あのステージ端にあるDJブースの隣にあるところがVIP席なのだろう。曇りガラスで囲われていて、中がはっきりとはわからない。近づいてみると、男女の薄い影がいくつか見える中に赤い影が見える。あれがきっとJなのだろう。ここで待ちたかったけれど、ここでは周りがリキュールを片手に思い思いの歓声をあげたり、踊ったりしている。女性が1人、2人と単独で行動していれば、秒速で男が声を掛けていく。恐らく脳で考えて行動していない。反射で声を掛けている。とてもじゃないが、ここに染まれる気がしない。周囲を歩き回り、僕はようやく自分の場所を見つけた。トイレに続く通路からVIP席が微かに見える。例えVIPであれ、危険な男であれ、お酒が入ればトイレに行きたくなるに違いない。僕はここで待つことにした。
しばらく待っている間、僕はその赤色以外の何も色が入ってこなかったし、音も遮断していた。楽しそうにしている金髪のJにずっと釘付けだった。
永遠のような時間がどれだけ過ぎたかわからない。不意にJが立ち上がる。隣にいる女に軽くキスをしたのが見えた。そしてそのままこちらに向かってきた。トイレに行くつもりだ。ついにこの時間がやってきた。心臓の鼓動が高鳴る。近づいてくるJは遠くで見るより大きく、肩幅も広い。僕は圧倒される。ゆっくり話をするために、一度スルーしてJをトイレに向かわせる。すると後ろから追いかけてくる女がいる。トイレの手前でJを呼び止めると、何やら耳元で話をして、女がJに金を渡す。そのままJはポケットから何かを出して女はそれを喜んで受け取った。女はその欲望を叶えたような表情をすると、そのまま女子トイレへと消えていった。
僕は見ないような素振りをしながら、それを見ていた。ここは本当にヤバいところなんだ、僕は改めてそう感じた。女の後を追うように違う男が何の躊躇いもなく女子トイレに入り、そしてそのまま女を連れ出した。男の手は既に女の胸と臀部にあり、男女はそのまままぐわリ始める。女の顔は先程とは段違いに恍惚とした表情を浮かべ、こちらを見ながら時折笑みを浮かべてさえいる。なんだここは。これは本当に理性のある人間がいる場所なのか。ここから今すぐ立ち去りたい。目の前でこういにに及ぶ男女を見ながら恐怖を感じるけれど、僕はJに話を聞かないといけない。トイレから出てきたJは女に挿入している男に何やら話しかけた後、高笑いをしてまたこちらに向かってくる。
「あなたがJさんですか」
音量に負けないように横を過ぎるタイミングで大声を出すと、Jはこちらを向く。
「竹下という男を探しています。知りませんか」
気分がいいのか、いや、知らないねぇという素振りを笑顔で見せる。
「もしくは陽太と言っていたかもしれません」
Jは、あーという顔を見せた。
「陽太か。それなら知ってるな」
Jの顔に合わせて僕の顔も明るくなる。
「その男がここに出入りをしていると聞きました。居場所を知りませんか」
希望が見えた、竹下の手がかりが見つかった、そう思った。けれどそれは甘かった。
「いや、あいつは俺らから金を借りまくって、それから来てねぇよ、居場所なんて知らねぇ」
まさか、ここまで来ても手がかりはないのか。
「お前も陽太に金でも貸してんのか? 見つかったら言っといてくれよ、Jが会いたがっているとな」
そのまま行こうとするJを僕はまだ離すわけにはいかない。
「それならこの女性を知りませんか、もしかすると2ヶ月前くらいにここに来たかもしれないんです」
僕は朝美の画像を見せた。
「あーこいつな」
Jは少し写真に顔を近づけると少し不機嫌そうに反応した。
「こいつが来てから陽太がここに来なくなったんだよ、『陽太と話をさせろ』ってうるさくてな」
朝美はやはりここに来ていた。
「少し陽太と話してたな、そうだ、おい」
通りかかった2人の男にJが声をかけた。
「お前らもこの女、知ってるだろ」
2人が画像を見ると顔が険しくなった。
「あー、こいつな、陽太を連れて帰ろうとした女だ。あんまりしつこいからちょっと相手したやったよ」
その言葉に僕も反射的に声を荒らげていた。
「朝美に何をした」
凄む僕にめはも相手は全く何も動じない。
「ちょっと脅してやっただけだよ、そしたらあいつ、俺を突き飛ばして逃げやがったんだ」
「今度会ったらただじゃおかねぇ」
Jはその様子を見てニヤニヤして言った。
「こいつ、陽太とその女の知り合いらしいぜ」
その瞬間、その2人もニヤニヤしながら僕に詰め寄ってきた。
「それは良い、その女連れてこいよ」
「俺たち、陽太に金を貸したままなんだ、陽太も連れてこい」
僕はそれはできない、と言った。そもそも竹下は居場所を知らない。僕が知りたいんだ。
「朝美を連れてきてどうするつもりだ」
そんなの、と笑う男の顔が気持ち悪くてまた反射的に僕が掴み掛かろうとしたところで、凄まじい力で壁に押し付けられた。一瞬何が起こったかわからなかった。押さえつけたのはJだった。
「調子に乗んなよ、クソが」
もがこうにも相手の力が強く振り解けない。手は首の近くに伸びており、暗闇のせいなのか、焼けつくようなレーザービームの照明のせいなのか、視界がおぼつかない。無茶しないでくださいよ、と忠告する人たちの顔がフラッシュバックする。素人が手を出すような場所ではなかった。倫理が通用する相手ではなかった。分かっていたけれど甘く見ていた。
喉仏を完全に掴まれた僕は、後悔しながらもその状況をただ受け入れるように力が抜けていった。遠退く意識の中でぼやける視線の先に女性が見えた。全ての色を受け止める白いワンピースの女性が、原色の照明を跳ね返すように白いままで立っていた。
朝美だった。
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