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episode.44(2007/5/11②)
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それから後は授業もうわの空で、僕はとにかく終わり次第その場所に向かうことにした。たまたま今日は自転車で来ておらず、そのまま電車で迎える。メールを見た僕にさくらが「どうかしたんですか」と訊いてきたが、僕は何も答えないことにした。結果オーライだったとはいえ、昨日も一歩間違えばさくらを危険な目に遭わせていたかもしれなかった。これ以上危ない橋を渡らせるわけにはいかない。僕は努めて冷静に何でもない振りをし、そのままアルバイトを終えた。
天王町から相鉄線に乗り、横浜に向かう。週末の横浜行き各停はこれから朝まで飲むであろう人たちで賑わっている。僕はそれを聞かないようにした。聞いてしまって心に雑音を入れたくなかった。いよいよ僕は竹下と何年ぶりかの再会を果たす。僕が思っているような竹下ではもうないかもしれない。その時の僕はどんな顔をするのだろうか、どう思うのだろうか。変化しない性根に腹が立って殴りかかってしまうのだろうか、それとも変わり果てた姿に流れた時間の重さを思い知るのだろうか、いや、何もなかったようにぎこちなく挨拶を交わしてお互いに何も言わないまま、また何年も会わなくなるのだろうか。そんなことを考えていたら、電車に乗る全ての人たちが自分とは何も繋がりがない無関係な人々に見えて、自分がどうしてここにいるのか分からなくなりそうになる。いや、銀河鉄道に自分だけ実体を持って乗り込んだジョバンニのような感覚にもなる。そのまま夜に溶けるような先に、僕は静かに確実に向かっていった。横浜駅でJRに乗り換え、関内に着いた。横浜と同じくらいの賑わいで、僕はその人混みを縫うようにして北口地下街に潜った。地上の賑やかさとは打って変わって、連絡通路には浮浪者が横たわり列をなす。横目で見ながら僕はどんどんと目的地に進んでいく。地上に上がり、伊勢崎モールに出ると、またそこは違った賑わいになる。飲み歩く人たちの喧騒は変わらないけれど、進むに連れて外国人が増える。日本語でない言語が飛び交い、僕はそれにもイヤホンで耳を塞ぐ。僕はもう竹下しか見ないのだと思った。神経を研ぎ澄まして、今もしかするとすれ違うかもしれない竹下を見逃さんとしているのだった。大きな交差点を渡り、ドンキホーテを過ぎると、所謂夜のお店が増えていく、看板には色付きのライトが灯され、歩くたびに店先のボーイから声をかけられる。12000円で僕は何に満足させてもらえると言うのか、写真だけでも見たところで僕に何が生まれると言うのか、一人一人に反論したくなる気持ちを抑えて、僕はその声を潜り進んでいく。しばらく進み、甲州街道に出るかと言うところで、佐藤さんに教わった通りに裏路地に入る。ピンクのビルが怪しく光を放つ隣にひっそりと、その店はあった。開いているかも分からない。扉は閉ざされていて、それは触ってもいないのに固く閉ざされているのがわかる。
それでも意を決してドアに手をかけようとすると、その扉が勢いよく開き、僕は反射的に数歩後ろにのけぞてしまう。開いた扉からは大音量の音楽が漏れ聞こえ、先ほどまで生気を失っていたのが嘘のようだ。その開かれた扉から1人の男が崩れるように放り出された。深い緑のワイシャツにハーフパンツの男が捨てられるマネキンのように道路に転がる。その男の顔に何故か注目すると、それはまごう事なき竹下だった。無精髭に生気を失った目で今思えどもどうしてすぐにわかったか分からない。けれど、それは竹下だった。竹下に違いなかった。
「竹下!」
僕は男に駆け寄り肩を掴んで顔をこちらに向ける。目は開いているが、何処を見ているか分からない。強い力で肩を持たれているにも関わらず、抵抗する素振りも反応もない。ただだらりと身体を任せているような感じで、とてつもなく重い。鉛の塊を見ているようだった。
「そいつを知っているのか」
男を放り出した黒服のボーイが僕に問いかけた。僕はただ、そうだと答えた。
「陽太と名乗っていたが、そいつ、迷惑なんだよ。うちはまだそういうのはやってないんだ」
そういうの、という誤魔化しに僕は最早気づいていたが、素知らぬフリをする。
「そいつ見たらわかんだろ、ヤク中だよ。うちはまだクスリはやらせてねーんだ」
無理な体制で頭だけ起こされている竹下の口からは唾液がこぼれ始めている。
「やっていたとしても分からんようにやってる、それがこの街のルールなんだ。こいつは何だ、来た時からずっとラリってやがる。困るんだよ、そういうのは」
心底関わりたくないという表情でこちらを見下ろす男の目は、怒りが滲みながらも悲しみと焦りが見える。この街で生きる彼にとっては、その秩序を保つことが一番の正義であり、それさえ維持できればいいのに、乱す竹下のことが許せなく、本当に邪魔だったのだろう。
「病院でも警察でも何でもいいが、この街を出たところにしてくれ。うちは関係ない、いいな」
そういうと扉はまた閉じられた。閉じるときに吸い込まれた空気とともに音も中に吸い込まれていった。それきり扉はまた生気を失ってしまった。僕は夢中で竹下を起こそうとした。ようやく竹下を見つけた。朝美の記憶を戻す人間を見つけることができたのだ。先ほどまでの迷いは何処かに消えていた。竹下を目にした僕は、何を考えるでもなく、ただ竹下に朝美のことを聞くしかなかった。
「竹下、起きろ! お前はあの日、朝美と会ったのか、答えてもらわなきゃいけないんだ」
揺らした肩は最早マネキンというよりもゴム人形のようにだらりと身体を拗らせるだけだった。
「おい、あの日朝美に何があった」
何度も何度も怒鳴るように問い詰めたけれど、竹下は何も答えず、時折痙攣したように震えるだけだった。最早もうこの男は竹下ではないのだろう。人間でもないのかもしれない。人間の形をしているだけのもの。それでも僕は竹下に訊かないといけなかった。言わないといけないことがあった。
「朝美がこうなったのは全部お前のせいだ!」
何度も叫ぶ僕にだんだんと人が集まり始める、竹下の様子を見て察しているのだろう。誰も声をかけてはこない。
「お前さえいなければ、オレと朝美はもっと上手くやれてたんだ。オレの高校生活を台無しにしやがって。今度は朝美に何したんだよ、何したんだ、答えろよ!」
人から僕はどう見えていたのだろうか。竹下と同じく、僕も中毒者のように見えていたのかもしれない。
「でも、朝美を変えられるのは、お前じゃないとダメなんだ、オレじゃダメだったんだ!だから答えろ、ふざけんな!」
遠くからサイレンが聴こえてきた。こちらにどんどんと近づいてくる。僕はいつの間にか誰かに強く引っ張られていた。随分前からそうした力を感じていたかもしれない。竹下に気が向きすぎて分からなかった。力の方に顔を向けるとさくらだった。さくらは今にも泣きそうな顔をしながら、僕を必死で竹下から剥がそうとしていた。
「中村さん、このままじゃ中村さんも捕まります」
さくらが何を言っているのか分からなかったけれど、その間もサイレンの音はどんどん大きくなる。
「早く、ここから離れましょう!」
僕は我に還り、竹下を残して、夜の街をさくらと駆け出した。
天王町から相鉄線に乗り、横浜に向かう。週末の横浜行き各停はこれから朝まで飲むであろう人たちで賑わっている。僕はそれを聞かないようにした。聞いてしまって心に雑音を入れたくなかった。いよいよ僕は竹下と何年ぶりかの再会を果たす。僕が思っているような竹下ではもうないかもしれない。その時の僕はどんな顔をするのだろうか、どう思うのだろうか。変化しない性根に腹が立って殴りかかってしまうのだろうか、それとも変わり果てた姿に流れた時間の重さを思い知るのだろうか、いや、何もなかったようにぎこちなく挨拶を交わしてお互いに何も言わないまま、また何年も会わなくなるのだろうか。そんなことを考えていたら、電車に乗る全ての人たちが自分とは何も繋がりがない無関係な人々に見えて、自分がどうしてここにいるのか分からなくなりそうになる。いや、銀河鉄道に自分だけ実体を持って乗り込んだジョバンニのような感覚にもなる。そのまま夜に溶けるような先に、僕は静かに確実に向かっていった。横浜駅でJRに乗り換え、関内に着いた。横浜と同じくらいの賑わいで、僕はその人混みを縫うようにして北口地下街に潜った。地上の賑やかさとは打って変わって、連絡通路には浮浪者が横たわり列をなす。横目で見ながら僕はどんどんと目的地に進んでいく。地上に上がり、伊勢崎モールに出ると、またそこは違った賑わいになる。飲み歩く人たちの喧騒は変わらないけれど、進むに連れて外国人が増える。日本語でない言語が飛び交い、僕はそれにもイヤホンで耳を塞ぐ。僕はもう竹下しか見ないのだと思った。神経を研ぎ澄まして、今もしかするとすれ違うかもしれない竹下を見逃さんとしているのだった。大きな交差点を渡り、ドンキホーテを過ぎると、所謂夜のお店が増えていく、看板には色付きのライトが灯され、歩くたびに店先のボーイから声をかけられる。12000円で僕は何に満足させてもらえると言うのか、写真だけでも見たところで僕に何が生まれると言うのか、一人一人に反論したくなる気持ちを抑えて、僕はその声を潜り進んでいく。しばらく進み、甲州街道に出るかと言うところで、佐藤さんに教わった通りに裏路地に入る。ピンクのビルが怪しく光を放つ隣にひっそりと、その店はあった。開いているかも分からない。扉は閉ざされていて、それは触ってもいないのに固く閉ざされているのがわかる。
それでも意を決してドアに手をかけようとすると、その扉が勢いよく開き、僕は反射的に数歩後ろにのけぞてしまう。開いた扉からは大音量の音楽が漏れ聞こえ、先ほどまで生気を失っていたのが嘘のようだ。その開かれた扉から1人の男が崩れるように放り出された。深い緑のワイシャツにハーフパンツの男が捨てられるマネキンのように道路に転がる。その男の顔に何故か注目すると、それはまごう事なき竹下だった。無精髭に生気を失った目で今思えどもどうしてすぐにわかったか分からない。けれど、それは竹下だった。竹下に違いなかった。
「竹下!」
僕は男に駆け寄り肩を掴んで顔をこちらに向ける。目は開いているが、何処を見ているか分からない。強い力で肩を持たれているにも関わらず、抵抗する素振りも反応もない。ただだらりと身体を任せているような感じで、とてつもなく重い。鉛の塊を見ているようだった。
「そいつを知っているのか」
男を放り出した黒服のボーイが僕に問いかけた。僕はただ、そうだと答えた。
「陽太と名乗っていたが、そいつ、迷惑なんだよ。うちはまだそういうのはやってないんだ」
そういうの、という誤魔化しに僕は最早気づいていたが、素知らぬフリをする。
「そいつ見たらわかんだろ、ヤク中だよ。うちはまだクスリはやらせてねーんだ」
無理な体制で頭だけ起こされている竹下の口からは唾液がこぼれ始めている。
「やっていたとしても分からんようにやってる、それがこの街のルールなんだ。こいつは何だ、来た時からずっとラリってやがる。困るんだよ、そういうのは」
心底関わりたくないという表情でこちらを見下ろす男の目は、怒りが滲みながらも悲しみと焦りが見える。この街で生きる彼にとっては、その秩序を保つことが一番の正義であり、それさえ維持できればいいのに、乱す竹下のことが許せなく、本当に邪魔だったのだろう。
「病院でも警察でも何でもいいが、この街を出たところにしてくれ。うちは関係ない、いいな」
そういうと扉はまた閉じられた。閉じるときに吸い込まれた空気とともに音も中に吸い込まれていった。それきり扉はまた生気を失ってしまった。僕は夢中で竹下を起こそうとした。ようやく竹下を見つけた。朝美の記憶を戻す人間を見つけることができたのだ。先ほどまでの迷いは何処かに消えていた。竹下を目にした僕は、何を考えるでもなく、ただ竹下に朝美のことを聞くしかなかった。
「竹下、起きろ! お前はあの日、朝美と会ったのか、答えてもらわなきゃいけないんだ」
揺らした肩は最早マネキンというよりもゴム人形のようにだらりと身体を拗らせるだけだった。
「おい、あの日朝美に何があった」
何度も何度も怒鳴るように問い詰めたけれど、竹下は何も答えず、時折痙攣したように震えるだけだった。最早もうこの男は竹下ではないのだろう。人間でもないのかもしれない。人間の形をしているだけのもの。それでも僕は竹下に訊かないといけなかった。言わないといけないことがあった。
「朝美がこうなったのは全部お前のせいだ!」
何度も叫ぶ僕にだんだんと人が集まり始める、竹下の様子を見て察しているのだろう。誰も声をかけてはこない。
「お前さえいなければ、オレと朝美はもっと上手くやれてたんだ。オレの高校生活を台無しにしやがって。今度は朝美に何したんだよ、何したんだ、答えろよ!」
人から僕はどう見えていたのだろうか。竹下と同じく、僕も中毒者のように見えていたのかもしれない。
「でも、朝美を変えられるのは、お前じゃないとダメなんだ、オレじゃダメだったんだ!だから答えろ、ふざけんな!」
遠くからサイレンが聴こえてきた。こちらにどんどんと近づいてくる。僕はいつの間にか誰かに強く引っ張られていた。随分前からそうした力を感じていたかもしれない。竹下に気が向きすぎて分からなかった。力の方に顔を向けるとさくらだった。さくらは今にも泣きそうな顔をしながら、僕を必死で竹下から剥がそうとしていた。
「中村さん、このままじゃ中村さんも捕まります」
さくらが何を言っているのか分からなかったけれど、その間もサイレンの音はどんどん大きくなる。
「早く、ここから離れましょう!」
僕は我に還り、竹下を残して、夜の街をさくらと駆け出した。
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