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決闘、結構ですわよ

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そんなこんなで公爵令嬢にあるまじき戦闘力を持つ私が殿下に決闘を申し込んだのですが、殿下は私のことを舐めくさっておりますので、唖然とした顔の次には怒り心頭といった体で鼻に皺を刻み、顔を真っ赤にして喚き始めました。美形ってなにしても美しいものだと思っていたけれど、違ったみたいね。それも、歯を剥き出しにして怒鳴ったりなんて優美さに欠ける。いまの殿下、王族よりも猿に近いのではないでしょうか。公の場で、それも臣下の前で感情を丸出しにして取り乱すなど有り得ません。見苦しいものは貴族ではないのです。
「言うにこと欠いて決闘だと!? それも、クリスの名誉のため? エヴァンジェリン、そなたなにを考えている!?」
「アナ……殿下こそ、なにをお考えの上でこのような暴挙に及んだのですか?」
いけない、ついうっかり目下の者を嫌味で呼ぶときのようにアナタって言いそうになってしまったわ。だって目の前の殿下からは王族の威厳がまるで感じられないのですもの。
「暴挙!? 私は王太子として正義を示しただけだ!」
「この国の王である陛下の承認を受けた婚約を、事前に陛下や父である公爵に事前の相談も根回しもなしに、現在とこれから来たる未来で国に尽くすすべての臣下の前で、古くからの忠臣である我がリントンと、その臣である男爵令嬢の名誉を一方的に汚す。これのどこを暴挙と言わずして申し上げられましょう」
殿下にもわかりやすく、王でもないのに何様のつもりだと滔々と事実を並べ立てて差し上げても、殿下は尚も食ってかかってきます。
当初は鼻息の荒い殿下をヨイショして集まっていた周りの方々が「えっ、根回しなしでの独断だったの?」とドン引きしているにも挫けずに立ち向かう姿勢だけは少し評価してもいいかもしれません。周りが見えてないだけの無謀、とも言えますが。
「殿下。わたくしとの婚約を破棄したいのであれば、まずは周りに相談すべきでした。将来国の中心となるお方が独断専行されては、支える我らの立場がありません。国とは皆で作るものなのです」
なぜ私が今更こんなことを、殿下に言わなくてはならないのでしょう。嫌だわ、恥ずかしいわ。殿下の教育係はいままでなにをしていたのでしょうか。勉強嫌いな殿下を椅子に括りつけても勉強させるのが、務めでしょうに。あ~嫌だわ恥ずかしいわ。こんな方が私の婚約者なんて。
私個人ではこのまま婚約破棄上等気分上々なのですけれど、家のこともあるし、クリスティナ様も可哀想だし、あーあ、やるしかないのですよね。まぁ、あと、どうでもいいですが、私個人の名誉もかかってました。
根も歯もない、私がクリスティナ様を虐めてどうこうとかいう噂に殿下は乗せられたのでしょう。そんな卑怯な女は国母に相応しくないとかなんとかかんとか、言いそうですものね。7つの歳から殿下の婚約者となって以来、たまにお茶をご一緒する程度ですが、殿下の性格くらいわかっています。この方はすべてが浅いのです。朝に顔を洗う洗面器、いや、コップくらいしかありません。
私とクリスティナ様との噂もちょっと調べたら真相なんてすぐわかるのに、本当にお馬鹿さんですこと。このクルバルスマ国が某訴訟大国ではないことに王族は感謝することね。訴えたら最後、私だったら尻の毛まで抜いてやったのに。いけない、ちょっといまのは上品すぎましたね。お排泄物極まりない出来事に、すこし取り乱してしまったようです。落ち着かなくては。
なにはともあれ決闘は免れないのです。決闘を避けるなど、貴族である者はその瞬間から名誉が地に堕ちます。やるしかないのです。
とは言え、抜け道もあります。代理人を立てる。決闘人を闇討ちにするなど。しかし私はそのどれも許すつもりはありません。
正々堂々、殿下を決闘の場に引き摺り出して差し上げます。
なにせいまの私は腹が立って仕方ないのです。証拠も無く憶測だけで我がリントンに喧嘩を売ったこと、その甘ったれた性根と共に叩き潰し、心胆寒からしめて差し上げましょう。
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