異世界チートで遠距離最強~銃は運命すらも撃ち抜く~

佐々木 篠

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chapter 2

2話 帰省

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「ルカ、着いたぜ」

「うん? ――――ああ、サンキュー」

 アシュラに揺り起こされ覚醒する。固まった身体を伸ばし、大きく息を吸って脳に酸素を送る。

 それじゃあ、また明日。とアシュラに別れを告げ、馬車から降りて大地に立つ。見渡す限り畑で、その先に実家が見える。

 現在育てている小麦の収穫にはまだ二月近くかかると思われる。今年は天候に恵まれた年だったので豊作に違いない。

 丁度帰れる時期には収穫が出来そうで、フィーへの土産は我が家特製の小麦粉料理になりそうだ。麺類とかブレッドは俺の得意料理でもあったりする。

「ただいまー」

 一週間振りにちゃんとした場所で休む事が出来る。腰やら尻やらが壊滅的なダメージを被っており、早急に柔らかいベッドでの休息を欲している。…………いや、残念ながら寮のベッドとは違い、柔らかさの微塵も感じられないようなベッドしか無いが。

 そんな事を暢気に考えていた俺は何の身構えも無く家に入り、そして思わず持っていた荷物を落とす。

 予想外な光景…………というか雰囲気。実家に何らか変わりは無い。知らない人間が居たわけでも無い。ただただ単純に…………空気が重かった。思わず揃っている面子を見回す。

 両親、妹、近くに住んでいる幼馴染み。

 欠けている人間は見当たらない。誰かが亡くなったわけではなさそうだ。

「――――兄さん、座って」

「あ、はい」

 思わず敬語を使いながら席――妹と幼馴染みの間。正面には両親が居る――に座り、背筋を正す。

 何だろうか。ただ単に、俺が戦争に行くからこんな雰囲気になっているのだろうか。

「――――ルカ、この金はどうした」

 厳かな父の声。ガチャリ、と音を立ててテーブルに置かれる大量の革袋。無論それに入っているのは水では無くギルドで稼いだ金だ。――――もしかしなくても俺、疑われている?

「兄さん、私は非常に残念です。兄さんは才能を買われて王都へ行き――――今回の行為は寂しくも誇らしくあった、私たち家族への裏切りです。冒涜です!!」

 妹の演説(?)に頷く我が御家族様御一行。取り敢えずアレだね。真っ当な行いで得た金と思われていない様子。…………アンタらこそ俺を冒涜していないか?

 いやまぁ、今までの俺だったら仕方が無いけど。少し前まで農業に青春を費やしていた人間が、こんな大金を稼げるわけがないし。

 さて、どうするか…………何て考えるよりも実行に移した方が早い。百聞は一見にしかず――この世界風に言うならば『見る事は信じる事』――とも言うし、実際に魔法という神秘を見せた方が手っ取り早い。経験則だが、言葉で信じて貰うのは諦めた方が良い。特に俺は。

「εκκίνηση,《起動》δημιουργία《指定》…………σπαθί《構築》」

 銃を見せても理解出来ないだろうし、比較的馴染みのある無骨なロングソードを創造する。

 薄青く光る粒子が消え、鈍色の剣が現れる。初歩も初歩。この程度の魔法なら使えない人間を捜す方が難しい。そもそも同学年で、この魔法を無詠唱で使えない人間の方が圧倒的に少ない。それ故に俺は劣等生。…………だが、今この場に居る人間には関係無い。そもそも『魔法を使えない』のだから、ただ使えるだけで称賛に値する。

 魔法は神の恩恵と言われているため、ただの平民にとっては正に神の所業。自分たちの息子が、兄が、幼馴染みがその神の恩恵を披露したのだから、驚かない方が無理は無い。

「…………兄さん、本当に魔法が使えたのですね」

 視線は俺が持っているロングソードに固定されたままだ。それは他も一緒で、皆同様に見詰めている。…………何か逆に申し訳なく思えてきた。

「まぁ、こんな感じで魔法を使って、ギルドの依頼をこなしていたらそれだけの金が貯まったんだ」

 実際はその数倍の貯金がある。因みに、俺は既に商人ギルドに登録していたりする。登録は無料で、口座(のような物)を開設するにはそれなりの金が必要だったが、預けていれば現在のように利子(ただし低金利)が付くので、将来への投資として諦めた。いや、一瞬足りとも迷いはしなかったが。しかも商人ギルドはこの国にしか無い弱小ギルドであるため、受付の人にはかなり喜ばれた。

 弱小ギルドとはいえ仮にも組合ギルドである。それこそ国の大多数の商人が所属しているため、国が傾かない限り問題は無い。むしろ冒険者ギルドや傭兵ギルドのような、国を跨いで存在するギルドの方が怖い。新しい国でも出来るんじゃね? 的な意味で。まぁ、ある種の権利団体であるため黙認されているが。

「凄いね、ルゥ君」

 幼馴染みであり姉のような人でもあるマリカが、剣ではなく俺を見ながらおっとりと笑う。魔法が凄いって事では無く、弟代わりの俺が凄いって意味だと思う。

 別に否定するつもりは無いし、俺もマリカの事を姉のように思っているが、実際俺とマリカは同年代である。マリカが一月だけ早く生まれて来た。ただそれだけ。

「それじゃあみんな。ルカの容疑も晴れた事だし、ご飯にしちゃいましょう!」

 母さんの言葉に頷くと、皆は食事の準備に取りかかる。何か手伝おうとするがマリカにやんわりと断られたため、仕方なく椅子に座る。周りは動いているのに自分は何もしないのは少し気まずくもある。

 しかしこれは『お帰りなさい』と『頑張ってね』を足し合わせたパーティーで、主役はもちろん俺。となると主役らしく振る舞うのが俺の仕事だ。黙って席に着いて料理を待つ…………が、何かおかしい事に気が付く。普通に考えてパティーなのだから料理が出て来る事に問題は無い。だが、俺の記憶能力が蠅並みじゃない限り先程まで俺は謎の審問を受けていた。

 料理の準備をしている事は端っから俺を歓迎しているというわけで――――なるほど、完全に騙された。みんなは最初から俺を疑って……いたとしても、少なくとも気にはしてないって事か。じゃないと用意された金額の少なさの説明がつかない。

 十分な大金、と俺に言わせた額が革袋一つに納まるはずが無い。…………いや、そもそもの前提がおかしい。本来俺はこの戦争に出なくてもいい。だというのに俺が呼ばれたのは……なかなか帰省しない俺への当て付けか!?

 そう思い色々と準備に取りかかるマリカを見ると、誤魔化すように微笑むだけだった。

 取り敢えず今回の事は俺にも非はある。何も無かった事にして料理を待とう。

「お待たせ~」

 マリカによって運ばれて来たのは『野うさぎのシチュー』だ。

 慣れ親しんだ家庭の味。高価なので香辛料はアクセント程度に使い、基本的な下味は山羊の乳だけ。食材本来の味を引き立てるルーズベルト家特製のシチューだ。

 早速木匙で一口掬い、口内に運び入れる。

「うわぁ…………」

 鼻を抜けるミルクの匂いと、舌の上でとろける肉が何とも言えない味を生み出している。堅めのブレッドをシチューに浸して食べると、また違った味わいを楽しめる。

 飲み合わせはもちろん辛口の白ワインだ。シチューの濃厚でまったりとした味に、切れ味の鋭い白ワインは正に最上。

 この国の貴族は『三度の飯より魔法』と言っても過言では無い程魔法に力を入れているが、残念ながら料理にあまり力を入れていない。そのため貴族の料理も、最高級の食材同士を足し合わせた物でしかない。料理で重要なのは、シチューと白ワインのように掛ける存在だ。足し算では無く掛け算。

 まぁ、偉そうな事を言っているが、やはり貴族の方が美味しい食べ方を知っていると思う。アシュラが「ワインで大事なのは色、味、香りだ」とか言っていたけど、ぶっちゃけよく分からないし。香りは何となく分かる気がするけど、色って何だよ色って。あー、そういえば温度も重要って言ってたな。白ワインは確か、冷やすと美味いんだっけ?

「兄さん、料理はまだまだ沢山あります」

 妹――リオナ――が運んで来たのはまたまたシチュー。しかし、色合いや匂いからお代わりでは無く、全く別の料理であるらしい。

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