異世界チートで遠距離最強~銃は運命すらも撃ち抜く~

佐々木 篠

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chapter 3

7話 喰屍鬼

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 3



 ゴブリン、オーク、ケンタウロス、ミノタウロス、スケルトンナイト――――。

 あらゆる種類の魔物が出て来た。この世界の魔物は全てここから生まれているのではないかと錯覚する程の数に、何度嫌気が差した事か。

「――――ルカさん」

 ミサに肩を叩かれ、俺はランタンの蓋を閉じた。きぃ、と僅かな軋みを残して灯りが消える。その数秒後、がしゃっがしゃっ、と鎧同士がぶつかる音を響かせながらスケルトンナイトが現れた。スケルトンナイトは骸骨スケルトンの分際で光を感知するらしく、先程まであった光を探すように付近を歩き回る。

 魔物は光、音、臭い、熱のどれか、または複数でこちらを認知する。しかしこの迷宮は血の臭いで溢れ、臭いで居場所がばれる事は無い。熱でこちらを察知する魔物とは未だエンカウントしておらず、十層からここ――三十七層――まで殆ど戦闘を行っていない。

 仮に魔物に見付かったとしてもミサが秒殺していた。この場に於いて、一発撃つ毎に尋常じゃない音を響かせる俺はいらない子扱いだ。

「…………行ったみたい、だな」

 闇に隠れている俺たちを見付ける事が出来なかったスケルトンナイトは、廊下の向こう側へと消えていった。

 俺はランタンの蓋を開け、灯りを点す。その灯りにかざすように地図を開くと、現在地からの正しい道を探す。

 三十層からはだだっ広い一つの空間では無く、一層から五層のような通路が幾重にも絡み合って出来た正しく迷宮みたいな造りとなっている。ここまで来ると滅多に生きている人間と出会う事は無く、地図も曖昧になってくる。この地図を作った人間も余裕が無くなってきたのか、殆ど入口から次の層までの一本道しか描かれていない。もちろん小道も描いてはいるが、たまたま道を間違ったのだろう。そういった場合は必ず行き止まりとなっている。

 俺たちは地図通りに道を歩く。本当はランタンなど使わない方がいいのだが、魔物は暗闇でもこちらを察知して来るため使わざるを得ない。それに足下に何があるのか分かるか分からないかでは、かなり精神的な負担が変わる。

 エンチャント系の魔法が得意な人間には、対象に闇を見通す力を付与する魔法が使えたりする。俺が使えないのは当たり前として、ミサが使えないのは痛手だ。そこら辺をしっかり考えていれば、少なくとも今頃は四十五層くらいは踏破していそうだ。そもそも二人でこんな所に来たのが間違いだった。仮にアサルトライフルを持っていたとしても、このダンジョンは攻略出来ない。ミサの並外れた近距離スペックが無ければ、三十七層なんて上までこれなかった。いや、十層のフロアボス戦で死んでいた。

「…………階段か」

 ようやく次の階段に到達した。迷宮といえばトレポーター的な物があって、更新すればいつでもその階層に来る事が出来る――――なんて思っていた。何だよこの絶望空間は。ここまで来るのに何度もリアルラックを費やしたため、下手に引き返す事も出来ない。

 歩くだけで良かった層が懐かしい。ゴブリンなんか敵じゃないし、前を見たら人が居るなんて天国。フロアボス毎に人の数はどんどん減っていき、三十層を出た時から殆ど生きている人間を見ていない。フロアボスに苦戦していただけで、俺たちの少し後ろには大量の人が居ると思いたい。

「階段も気を付けないと、ですね」

 ミサの言う通り階段も危険だ。階段を使うのは俺たち人間だけじゃない。稀ではあるが魔物が使う場合もあるし、罠がしかけてある可能性もある。ここでは仲間以外の全てを疑うつもりじゃないと生きていけない。

 俺たちは慎重に階段を降りていく。持っているのがランタンでは無く懐中電灯であればどんなに良かったか。ランタンの僅かな光だと精々数メートル先しか見えず、目を凝らしてようやく「十数メートル先に何かがあるな」、程度の認識。こんなホラーゲームがあれば途中で断念しそうだ。……最も、俺はそれを現実に体験しているわけで、ほっとけばいつでも狂えそうだ。隣を歩くミサが居なければ、即座に短刀を創造して喉を掻き切るレベルだ。

 無事に三十八層に到達。だが、その達成感より『一体何層まで続くのか?』という絶望の方が濃い。人工である以上終わりはあるはずで、人間が作るのだからキリのいい数字で終わっているはず。…………いや、楽観視はよくないな。そうしたやつらが死んだのは何度も見たし、今生きているのは慎重に動いたおかげだ。

 仮に………そう、仮の話だ。ここがダンジョンを造る目的の元に生まれた場合、この奇妙な造りは納得がいく。今この階層こそ一般的な人工のダンジョンといった風だが、六層から二十九層までは自然に生まれたダンジョンのようだった。あくまで『そのよう』であり、人工物である事に変わりはないが、少なくともこんなに要り組んだ施設は不要だろう。物には限度というものがある。

「…………ん?」

 地図に従って廃墟のような通路を進んでいると、進行方向とは違う方向で微かな音が聞こえた。今までエンカウントした魔物が発する音とは違う。くちゃり、くちゃりと聞こえるそれは――――咀嚼音?

 もしかしたら冒険者が食事中なのかも知れないと手元の地図を見るが、先は行き止まりでは無く『記されていない』。…………怖気が走ったが、念のためにランタンで確認する。

「…………ルカさん、先を急ぎましょう」

 ミサが俺の袖を引く。しかし普通に考えて、ここに魔物が食べるような物があるか? 開けた場所ならまだしも、ここは通路だ。魔物が生活する事を前提に作られていないし、先程からエンカウントするのは人形の魔物――――つまり、スケルトンナイトばかりだ。少なくとも聞こえてくる音は、鎧をがちゃがちゃと鳴らすやつらのものでは無い。

「大丈夫だって。ちょっと確認するだけだし」

 ランタンを、音が聞こえてくる方向に突き出した。

「…………ん?」

 最初に見えたのは白と赤に近いピンク色で、それは複数居る。予想通り食事中のパーティーなのだろう。俺は一歩近付いた。

「――――ッ!?」

 何かが一斉にこちらを向いた。一番近いのは人体模型か。ただし眼球は無く、人間から目を奪って皮を全て剥ぎ取ったような姿だ。爪は鋭く、鍵爪のようになっている。くちゃくちゃと…………恐らく人間を喰らっているが、歯はあまり変わりが無い。ただ顎の力は半端無いようで、時折ごりごりと骨を噛み砕く音が聞こえる。

 剣を抜く。だがそいつらはこちらを一瞥すると、何事も無かったかのように食事を開始する。俺たちは多分、不要な養分として見向きされなかったのだろう。もしもやつらが腹を空かせていたら…………そう考えると鳥肌が立つ。

 俺は化け物共の食事シーンから目を逸らさず後退りすると、角を曲がった所で全力で走った。

喰屍鬼グールじゃねえかッ! 何であんなのが居るんだよ!?」

「…………流石にあんなのとは戦いたくないです」

 息を切らし、その場にへたり込む。がむしゃらに走った先は行き止まりで、運良く地図にも描いてある場所だった。ここならすぐに正しい道に戻れるし、迂回ルートもある。流石に喰屍鬼の近くは通りたくない。

 ちなみに喰屍鬼とは、人間を軽く止めた動きを見せる超・強化版ゾンビと思えばいい。先程俺たちを見逃したのをみれば分かるが、知能が滅茶苦茶高い。ただし目は退化しているし、この場では嗅覚も使いものにならない。耳も良く無いが…………熱に反応する。暗闇では出会いたく無い魔物トップ三に入る。
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