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第一巻・我輩がゴアである
エピローグのようで新たなプロローグ(第一巻・最終話)
しおりを挟むキャザーンのマザーシステムが放出したインパルス放射をまともに喰らって生きているわけが無い。
その証拠に、遠くから天使の声が聞こえて来る。ここは天国なのだ。
「……だいぶ……再生してきた…………わ」
『ほんま……や……』
混沌とした意識は大阪弁を伝えてきた。
天国ではないのか?
できたら我輩は天国がいいのに。
「もう……すこしよ」
この甘い声。記憶にある。カリンちゃんだったか?
カリンちゃんって誰だ?
そうだ。同じツアーで知り合った女の子だ。そうそう。楽しい太陽系遊覧ツアーに我輩は出かけたのだ。
それからどうした? 雷に撃たれて……。
へんなイヌが出て来て……。
「さぁお茶の準備ができたわよ。みんな集まって」
ほらいつ聞いてもNAOMIさんの声は色っぽいな。
「NAOMIさん。安全レベルまで復帰しましたよ」
『ほぅ。調子ええやんか、さすがメカ女子の恭子ちゃんでんな』
「ありがとうギアさん。そう言ってもらえるとうれしいです」
「ホラそうやって、胸を揺すって強調するんじゃありません。はしたないったらありませんわ」
キヨ子どのはいつも怒っておるな――。
『キヨ子どの――っ?』
瞬時に目が覚めた。
『なんだぁ?』
『ほぉほぉ。やっとゴアのお目覚めや。どないや調子ワ』
『どないもこないもない。ここは天国だろ?』
『何ゆうてんねんおまはん。……あかんで、キヨ子はん。こいつ脳みそ吹っ飛ばされてまっせ』
『ここはどこだ?』
妙に広々とした伝導体に浸透した全身を思いっきり広げてみた。
『ほれ、こっちに移動しなはれ。そこではもう狭苦しいはずや』
『いや狭くないぞ。というよりここはどこだ?』
「ノートパソコンを改造した、電源回路の中にある電解コンデンサーよ」
とNAOMIさんの甘い声。
「もう少し容量の大きいほうに移ったほうがいいですよ」
続いて恭子ちゃんの可愛らしい声……と、
『おまはんの固い頭はどうしょうもないな。ワテを見習いなはれ。NAOMIはんが船のパワーシステムに繋いでくれた千分の一秒後には、ワテは脱出ポッドのケーブルを伝わってポッドのエンジンを起動させたんや。ほんでみんなが乗り込んできたときには、すべてのポッドと船のシステムを切り離しましたんやで』
あまり聞きたくない関西弁が我輩の耳を汚して通った。
「そうよ。早く逃げろって忠告したのに、あなたは意地になってスマホの中でがんばってんだから……ま、その分時間稼ぎができたけどね」
『我輩はどうなったのだ?』
キヨ子が半笑いで告げる。
「木っ端微塵でしたわ」
「そうだよ。バラバラに吹き飛んだんだよ」とアキラ。
そしてもう一度キヨ子が睨みを利かす。
「どうしてくれるのですか、あれは私のスマホですよ。弁償してもらいますからね」
笑みを浮かべているので、それは冗談だと思われるが、
『でも、ここは?』
「そ。みんなで脱出ポッドに移り。避難できたの」
「奈々子はポッドのシステムにも侵入しようとしたけど、大阪弁の宇宙人さんが先に接続ケーブルを焼き切ってくれたので、ポッドのコントロールは無事だったのです」
「あたしたちが逃げ出すと同時にNANAは奈々子を連れて太陽に飛び込んだわ。おかげで二個目の太陽が誕生せずにすんだわけよ」
『クララや娘子軍の子たちはどうなったのであるか?』
「クララはナナと残ると言ったんだけどさ、娘子軍が行き場を失うってキャロちゃんが言ったのに納得して、脱出ポッドに移って無事だよ。それから娘子軍は秋葉原辺りに不時着したと思う。あそこにもぐりこめば、バレないってリリーが推してたもん」
キャロちゃんって……。
でも嬉しそうなアキラの笑顔はとても爽やかだった。
『そうであったか……どちらにしてもNANAは壮絶な最期を迎えたのだな』
「でも。生まれ故郷に戻れたんでしょう? おそらく嬉しかったのだと思いますよ」
我輩は恭子ちゃんが準備してくれた大型の電解コンデンサーに接続されたコードを伝わりながら、同じ疑問を繰り返す。
『それで我輩はなぜここに?』
メカ女子にしては美しい指をした恭子ちゃんの整った面立ちを眺めながら訊いた。
応えたのはNAOMIさん。
「電磁生命体だからきっとスマホの部品に残った電荷から再生できると思ったの。それで飛び散った部品の中にあったコンデンサーのひとつに、わずかな電圧が残ってるのを見つけたので、キヨ子さんと一緒に時間を掛けて昇圧したのよ」
「一週間もコンデンサーと電圧計を睨んでいたのです。くだらない作業でしたわ」
キヨ子が相変わらず面白く無さそうに言い、ダージリンティのカップに小っさな口を寄せた。
『NAOMIさんの言うとおり。電磁生命体は少しの電荷でもあれば、そこから再生することができるのである。以前説明したことを恭子ちゃんは覚えてくれていたのか。嬉しい限りであるな』
『アホか。そのアイデアはワテが出したんや』
「あなたには私のスマホを償(つぐな)う義務があるのです。しっかり働いて返してもらいますわ」
やっぱり本気だったのか。いったいなんだったんだ、さっきの笑顔は。
「またしばらく退屈せずに済みますからね」
おいおい。嫌な小学生だな。
『それで? 我輩は何をすればいいのだ?』
「電気自動車の充電スタンドなんていかがです? それかルンバ(iRobot社製)の充電器でもいいですわよ」
『あまり喜ばしいバイト先ではないな。それなら発電所送りとそう変わらないのである』
『ワテは脱出ポッドの迅速な機械操作を買われて、KTN24の技術顧問として就職が決まったんや』
『KTN24とは?』
「アイドルグループだよ。今人気急上昇の。ほらちょうどそのニュースが流れるよ」
北野家のダイニングに点けっぱなしなっていた48インチのワイドテレビを指差した。
《本家ガールズグループ、AKKB46を脅(おびや)かすほどの人気を誇るKTN24、キャザーントゥエンティフォーの皆さんです。ヨーロッパ、北欧系の超美少女が24人、アジア系ではあり得ない瞳の色が人気の理由です。そして今日はそのプロデューサー、クララグランバードさんにお越しいただきました》
「あ。クララだよ、ほらゴア。クララもテレビに出てる」
確かにあの端正な面立ちはクララだ。それにしてもあの髪はどうしたんだ。金色に染めたのか?
でも白く透明な肌は見紛うことなくクララグランバード自身であった。
その女性がテレビの向こうで、フランス人形のようなロングへヤーをなびかせて笑顔を振りまいていた。
《日本の皆さんコンニチワ》
わざとらしく片言の日本語にしているあたりが憎々しい。ベラベラのくせにな。
《さて、クララさん。KTN24の皆さんは銀河の彼方から来た美少女グループだと言うことですが、具体的にどちらから来られたのですか?》
《ここから25万光年先にある砂の星、ジーラからヤッてキマシタ》
おいおい。マジでキャザーンの拠点だぞ。
《そうですか。そんな遠くからご苦労様です。で、地球に来て一番驚いたことはなんですか? えっと、こちらの少女に訊いてみましょう。わぁぁ。脚長いですねぇ。えーっとお名前は?》
少女は突きつけられたマイクに動じることも無く、マリーンブルー色の瞳を輝かせて蒼いツインテを翻した。
《みんなのアイドル、キャロラインでぇーす。キャロちゃんと呼んでくださーい》
『おおぅ。いっぱしに芸能人口調になっておるではないか。誰が教えたのだ?』
『ワテやがな』
なんか納得である。
《えっとぉ。地球に来て驚いたのは、海でぇぇーす。あたしたちの星には海がありませんもの~》
頭が痛くなってきた。さっきから本当のことを暴露しておる。大丈夫か地球人。そのうちあいつらに侵略されるぞ。
『このパターンはもう古いからやめとけってワテは忠告しましたんやけどな。クララが真実に勝るモノは無いちゅうてな。宇宙一しぶとい連中でっせ』
「気をつけないと日本への侵略はもう始まっていますわ。ほらこの人なんかすでに侵されて……」
「イレッサちゃ~~~ん」
「今は選抜24人だけど。娘子軍はまだ160人もいるからね。こりゃ大所帯よ。クララさんもたいへんだわ」
テレビに向かって声援を続けるアキラを片目ですがめながらロボット犬は愉しそうに言い、キヨ子は有無を言わさずテレビの電源を切った。
「あっ、もう。キヨ子ぉ~」
口を三角に尖らせるアキラへ向かって、
「せっかくあんな良い勉強部屋を頂いたのですから、あなたは早く宿題を終わらせなさい」
窓から庭の奥に視線を振るキヨ子。その先にある物体を見て我輩は苦笑いを浮かべたのである。
『脱出ポッドが勉強部屋なのか……』
『キヨ子はんから逃げ出すための脱出ポッドや』
『なるほど――そりゃぁいいな』
我輩も時々使わせてもらおうかな。
「ねぇねぇ。あれって空飛べないの?」
『エンジンは銭に替えられてまっからな。ただの箱やな』
『雨風から逃れられるだけも上等ではないか』
『それより。今度タコ焼きでも食べに道頓堀まで行かへんか?』
「えー。そんなベタなとこ行きたくない。それなら堂島ロール買いに行こうよ」
『地球外生命体と地球人との会話ではないな』
『ええがな。大阪は何でもアリや。USAでもないのにアメリカの村がおますんや。みんなでアメ村に行かへんか?』
「勝手は許しません。アキラさんは部屋の掃除でもしておきなさい。夕方には下宿人が我が家に来るのですよ」
相も変わらずアキラはキヨ子の尻に敷かれておるのか……。
『誰かこの北野家に下宿するのか?』
「そうだよ。クララさんとキャロちゃんたちさ」
『マジで?』
『ほんまでっせ。賑やかになるデ、この家も』
よりにもよってこの家とは……。
我輩は頭が急激に重くなるのを感じた。
頭は無いがな。
『細かいこと気にしなはんな。それより第二巻へ突入決定やぁー』
まだ続くのだそうだ。
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