異星人が見た異世界転生記(我輩はゴアである・改)

雲黒斎草菜

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第三巻・ワンダーランド オオサカ

 ケモミミ探検隊

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「へてから……塚本くんとはどこで待ち合わせでっか?」
「駅前だよ」
「シケてまんなー」
「高校生なんだから、質素でちょうどいいだろ?」
「おまはん。いつの人間や? 今どきの高校生なら、」
「アキラ。これだけは約束だ。我々の存在を塚本くんに悟られるのではないぞ」
「こっらー。ジブンら、ワシの話しを聞けや!」
「ジブンはお前であろう?」
「アホ。大阪では二人称や! 相手のことを指すんや」
 ほんとおかしな世界であるな、大阪は。

「だいたいギアの話には実(み)が無いのだ」
「ふん。寿司屋のアラでっか」
「何さそれ?」

「お寿司屋さんの魚は徹底して調理されるやろ? せやからもう身が付いて無い。ほんで、『み』が無い。つまり話に内容が無いことを言うんや」
「へぇー。キヨ子より勉強になるよ」

「何の役にも立たんぞ――」




 そんなこんなで、駅まであと信号機一つ手前。
「アキラ……そろそろ恭子ちゃんお手製の秘密兵器を出すのだ。してすぐにセットしろ。塚本くんに我々の会話は聞かれたくない」

 しばらくゴソゴソ。そしてギアの第一声が装置から届く。
《これ便利でんな。ブルートゥースを使ぉた双方向同時通信装置やろ? ワテらには直接伝わるし、アキラにはイヤホンから伝わるっちゅう優れもんや。これでキヨ子はんの前でも悪口が言えまっせ》
「マイボには無理だよ。暗号化された電波でも簡単に解析しちゃうからね」
《でっしゃろなぁ……》

 ゆるゆると視線を上げたアキラの声。
「あー。塚本もう来てるよ。5分遅刻ぐらいどーってことないと思っていたけど」
《アホやな。関西人はせっかちやから遅刻厳禁やで。トロトロしとったら嫌われまっせ》

「ギア。もうちょっとボリューム下げて、鼓膜が破れそう」
 耳に突っ込んだイヤホンを一旦抜いて小声で告げるアキラ。

《へぇ~、へ》




「おせえぞ。北野!」
 メガネの奥に幼さを残した瞳をした青年。背の低い体型ながら横幅に貫禄を見い出せる。
「ごめん。5分ぐらいならまだ来てないと思ってさ」
「大阪人はせっかちなんだ。とろーんとしてんのはオマエぐらいなもんだぜ」

《みてみぃ。ワテと同じこと言うとるがな》

 変わっていないのだ、塚本くん。
《おまはんら長い付き合いなんでっか?》
《それほどでもないが。以前、高校の美少女コンテストを開催した際、お世話になったのだ》

《はぁ? なにを無駄なことをしてまんねん。藤本恭子ちゃんが断トツのトップにきまってまんがな》
《と思うだろ? ところがな……。1位はキヨ子どのになった」

《なんでや。あの子は小学一年生やで。高校生の成熟した体に勝てるわけないやろ》
《お前が言うと生々しいな。あのな。その理由は簡単なことだ。事前にNAOMIさんとキヨ子にバレたのだ》
《情報を操作されたっちゅうわけか》

 ギアは溜め息混じりで言う。
《そらぁ、雨降りの太鼓でんな》

《どういう意味である?》
《ドンならんや》
《は? どうしようも無い事ではないのか?》
《意味はそうや。しやけど掛詞(かけことば)っちゅうのかな。まぁゆうたら大阪の洒落や》

《そんなのがあるのか……》

《ホンマ鈍いな、ジブン。雨が降ってたら太鼓はドンと鳴らんやろ。せやからドン鳴らん、や! どうしようもないやろ。役に立たんのや。こんなもん察しなあかんで》

《なるほどな》

 ギアはまだ言い足りないのか捲し立てる。
《まだ解ってないようやな。ええか? ドンならんのドンは『鈍』や。おまはんみたいに鈍い奴のことや。こうやってイチイチ説明しとったら、時間が何ぼあっても足りんのや。ほんま――ドン ならん奴やデ、実際!》

「…………………………」
 何も言えないのである。

「瀬戸モンの巾着でっか」
「なんだ?」
「口が開(あ)かない……や」

 くだらないシャレにアキラは感心しつつ聞き耳を立てており、怪訝に見つめ続ける塚本くんにやっと気づ付いて急いでホローする。
「あ……。ごめんごめん。ちょっと出掛けにマイボに捕まっちゃってさ」
 捕まってはおらぬのだが。NAOMIさんが口やかましいことに関しては有名である。

「そっかー。じゃあ仕方ないな」
 すんなりと信用してくれた。
《どん ならんで……ホンマ》


「じゃあ。まずはどこへ行く? 図書館か?」

《えらい真面目な子ぉなんやな、塚本くんは………》

 ギアの疑問がブルートゥース受信機から聞こえてきたので、
《勉強しに図書館へ行くと思っておるのは、この子らの両親とお前ぐらいだぞ》
《何しに行きまんの?》

 仕方がないので真実を伝えてやった。

《おほぉ。女子の物色かいなー。殊勝なこっちゃ。勉強しに行くより健康的やないかい》

 おいおい……。



 さっそくアキラは我輩たちの趣旨を簡単に塚本くんへ説明。
「美少女探しか――。そういうのを専門にしてんのは生徒会長の山崎先輩なんだけどな」

《アキラの高校大丈夫かいな?》
《にしても……。塚本くんはついに生徒会の悪事まで握ったのか。末恐ろしい子であるな》

「いやちょっと違うか。会長は三次元オンリーだったな。ケモミミ、アニメ風ときたら美術部の部長、佐藤さんのほうだな。裏でアニメ研究会っていうのを作って、準備室で時々活動してるぜ」

《アニメぐらい堂々とやればいいではないか、と訊いてくれ》

「美術部なんだし、堂々とやればいいじゃん」
「ムリムリ。あいつらの言うアニ研って、エロアニメなんだ。俺はその現場を押さえたことがある。もちろん教師には言っていない。俺たちは仲間だからな」

 また一つ、絆が強まったわけであるな。

「それよりさ、北野。お前なんでイヤホンしてんの? それってスマホとブルートゥースで繋ぐヤツだろ? 誰かと電話してんのか?」

 さっそく見つかっておるぞ。

「あーこれ? これね……。えっと。電話じゃなくてさ。聞いて覚える物理法則集って言うのを聞かされてるんだ」
 咄嗟に考え出したにしては説得力がある。この子の家だとあり得るのだ。

「ああ、あれか。英語のヤツなら知ってる。けどさすが北野んちだな。ジイさんが物理学博士だもんな。でもさ、もう手遅れだと思うぜ」

 今のは真実を突いておるな。
《ほんまや。もっともでんな》

「それよかさ。誰も見ていないんだし、イヤホン外せば?」
「うん。その時が来たらね」
「どの時なんだよ?」首を捻る塚本くん。

《アキラ。今がチャンスやろ。あまり時間が経つと白(しら)こいで》
 そうそう。今ならスマホを出しても不自然ではないぞ。

「あのさ、塚本……。ちょっとこの映像見てよ」
 と言い胸ポケットから我輩を出すので、急いで昨夜の映像を流してやった。

 初めは歩きながら覗き込んでいた塚本くんだったが、途中から電池が無くなってきたオモチャのロボットみたいに徐々に動きを緩めて、最後は足の裏を地面へと貼りつけた。

「すげぇ。アニメのコスプレか? これは何のキャラに扮してんだろ。いやこれはすげえぜ。こんな可愛らしい子が街を歩いていたら人が集まるだろうな」
「だろぉ。極上女子なんだ。僕も驚いてんだ。でさ、是非とも生で見たくなってね。このオンナの子たちを知っている人が学校にいないかな、と思ったんだ」

「図書館なんか行ってる場合じゃねーな」
《なんか……って》

 塚本くんはメガネのフレームを押し上げて、いっそう目を輝かせる。
「俺のネットワークを利用したらすぐ分かるさ」
「いいの?」
「ああ。今は全員とLINEで繋がってるから、まず美術部の部長に伝えて、そこから全校に広げてもらうんだ。たぶん即反応があると思うぜ」

 とんでもない連絡網であるな。ただのクラスメイトのLINEではない。生徒会会長を頂点に、男子クラブの部長らと闇の中で繋がったネットワークなのである。


 すぐに三つほどの情報が。
「すごいすごい、塚本ぉ。すごいよ……ね。すごいだろ、ギア?」
「ギア?」塚本くんのメガネの奥が光り、鋭い視線がアキラに振られた。

《あかん。アキラのアホ。ここは一旦イヤホン外せ。ほんでしばらく経ってからこっそりハメるんや》

「わかったよー」とアキラが応え。
「何が?」とは塚本くん。

「あ、いや。こっちの話し」
 バカ……アキラ。

 案の定。訝しげな塚本くん。

「お前やっぱり誰かと電話で繋がってんだろ。誰と喋ってんだ?」
「え? 物理の勉強してるだけだよ」

《どうしようもないな。この子は……》
《ゴアに進呈したアホンダラより2割増しのアホに、オマケもつけたるワ》

《そんなのがあるのか?》
《あるで》
 ギアは一拍ほど間を空けて叫んだ。

《ドアホっ! カスっ!》


 言うだけ言ったのだろう、すっきりした気分で取り直し、
《でもまぁ。救われるのは塚本はんのネットワークや。これは本物でんな》

 イヤホンを外したアキラへは指示は飛ばせないが、我々のブルートゥース通信は繋がったままである。

《なにしろ校内の大半の男子生徒をこの子は牛耳っておるのは確かなのだ》



 ところが。
 一つ目の情報に従って行ってみると……。

「確かにケモミミだよな」
 憮然とした態度でガラスケースの中を見つめる塚本くん。
「それに可愛いね」
「ああ。だけど。本物のネコだもんな」

 ギアも呆れ気味だ。
《確かにケモミミやけど……獣(けもの)そのものやがな。逆に人間の耳をしたネコってどないや?》
《そうなると妖怪である。化けネコとも言うな》

 ネットワーク云々よりも、質問の仕方がマズかったのではないだろうか。

「あ、ほら塚本。コーギーだ。耳がピンと立って……」
「北野……」
 塚本くん。耐えてやってくれ。

《次や次、ネクストや》



「メイド服と付け耳がセットで3600円か……」
「思ったほど高いもんじゃないんだね」

 あまりじろじろ見ないほうがいいぞ。男どうしで女装コスプレしようと悩んでおる、おかしな高校生の絵図らになってっぞ。

《ほうほう。南●とりちゃんのコスプレウイッグがおまっせ。恭子ちゃんに買ぉてってやろか?》
《やめておいたほうがいい。あの子はメカ女子だから見せるだけでヘンタイ扱いされるぞ》
《ほな。Arduino Unoにしたほうがええんかな?》
《ああ。ギリでオーケーだろう》

「あ、ほら。神楽ちゃんの髪飾りがある」
「なあ、北野……」
「ん?」
「俺たち何しに来たんだっけ? ケモミミのヘアークリップを探しに来たのか?」
 塚本くんの言うとおり。ケモミミ美少女を探せから、コスプレ衣装ってどんなもんがあるんだろう、ツアーに変わって来ておる。

《ちょっとそこらの店入って、茶ぁでもしばいて行こうや》
《高校生が喫茶店はいかんだろ?》
《きょうびの高校生がそんなこと気にするかいな》

「北野。ちょっとそこの公園でジュースでも飲みながら作戦を立て直そうぜ」
 ほらみろ。桜園田東高校の諸君は真面目なのだよ。

「それがさー。僕、電車賃使ったらスカラーになんだよ」とアキラが言い出した。
《もう、ギアのデタラメ情報が使われておるぞ》

「なんだよ。オケラなの? しょうがないな。ジュースぐらいなら俺がおごってやるよ」

 通じておるぞ、ギア。
《ほおー。塚本はんはキャバクラ物理学を専攻しとるんや。賢そうなボンやで》



 このあいだまで鳴いていたセミの声が途絶えた公園のベンチ。
 木々を照らす陽の明かりは、まだ夏の様相を色濃く残しており、冷えたジュースの水滴が美味そうに見える。飲んだことは無いが。いや。飲めないが。

《せやけど。焦点がブレブレや》
《だな。ケモミミにこだわり過ぎておるな》
「ケモミミにこだわり過ぎだって」
「お前、やっぱ誰かと通話してんだろ。そのブルートゥース イヤホン」

 バカな子である。もうバレバレだ。

《なんとかごまかせ、アキラ》
「どうやって?」
《あ、アホー! 声に出すな!》
「どうせ。あのロボットの指示で動いてんだろ。あのイヌはすげえもんな。さすが北野博士だよな。でもあの色っぽい声であの姿はひどいよな」
「だろ。でもさアンドロイドのカタチにするとジイちゃんがすごいカッコさせるんだ」

《あー。見てみたいな、実際》
「見てみたかったなぁ。コスプレ衣装も似合うんだろうな」

《ほんまや。ラブ●イブの小泉●陽チャンのカッコしてほしいワ》
「ラ●ライブの高坂●乃果ちゃんにしてくれたら俺、毎日お前ん家へ遊びに行くぜ」

 ギアと同じ感性をしておるのか塚本くん。しかしお二人さん、ちょっと●が多すぎないか?
《まーええがな。解る人だけ解かったらエエねん。ほれ、次の情報へ行きましょうや》

「さて。最後の情報だけどさ……」

 きみはギアと兄弟か。息がぴったりだぞ。

《ほんまや。塚本はんとなら気が合いそうや》

「テニス部の野村からの情報だ」
「あーこのあいだインターハイに出た野村くんだね。たしか5組だったかな」
「そうみたいだな」

《インターハイって何でんの?》
《全国の高校生が集まってやる、体育大会のことだ》
《しょーもな》
 ひ……ひとことで片付けるな。健全な青春であるぞ。

「家族と昼食にファミレスへ行った時のことだって」
「どこのファミレス?」
「俺たちの街のスモールボーイみたいだぜ。そこの裏手にものすごく可愛くて、ケモミミスタイルの二人を見たんだって」
《ケモミミも珍しくない気がしてきたで。どんな子か訊いてみいな、アキラ》

「どんな感じの子?」
「メッセージはこれで終わってるよ。もうちょっと詳しく訊いてみる。その間に移動しておこうぜ。それでラストだからさ」

《無駄の無い動きをするボンやで。ある意味この子、出世するやろな》


 自分たちが住む桜園田駅に到着。駅の構内から外へ出た辺りで、塚本くんのスマホに返事が入った。

「店の裏手で異様な数のネコが集まっていたので不審に思って、駐車場の奥からそっちへ回ったらたくさんのネコに囲まれて、信じられない美形の少女が二人座っていたらしいよ。あまりに近寄りがたいオーラが出ていたので遠くから見ていたらしいぜ。そのうちネコが騒ぎ出したので店の人が出てきたんだって。そしたら、女の子らはあり得ない身の軽さでそこから消えたってよ。でもな――」
 塚本くんは一度言葉を区切り、アキラに夕日が光るメガネを向けた。
「一人は銀色に近い長い髪の毛をしていたって」

《キャップ帽を被った少女はいたか?》

「キャップ帽を被ってた子がいたか? って訊いてるよ」
「それもあのイヌの指示か?」

「あうぅ」

《あかん『アホ』や。こいつほんまに『アホ』なんや。病的な『アホ』ってアキラのことを言うんやな。ほんま『アホ』らしゅうなるほどの『アホ』やデ》

 強く否定はできないが、よくそれだけアホを連呼したもんだ。
《お前はアホの大量生産工場か!》
 ギアは我輩の言葉を聞き流し、
《帰ったらシバキ回したらなあかんで、実際……》
 殴ったうえに回されるのである。腕も無い電磁生命体がどうやるのか見ものだな。


 質問の返事はすぐに入り、
「北野。やったぜ、被っていたってよ! ツバの大きいキャップで顔がよく見えなかったが、あれは絶対に美人だと直感したらしい、ってさ」

《決定だな。その子たちだ―》

「正解だって、塚本」
 アキラ……。

《あ……あかんわ。底抜けのアホや。もうアキラに捧げる言葉はおまへんワ》

「とにかく行ってみよう」
 勘がいいのか、細かいことは気にしないのか、塚本くんは疑(うたぐ)ること無く店へと歩む速度を増した。

 もらった情報は約3時間前らしく、少女たちがまだうろついていることはないだろうが、このままではペットショップとコスプレグッズを見て来ただけになる。せめて何らか情報が欲しくて店の裏手へ行くこととなった。

 スモールボーイは時々家族と来ると言う塚本くん。アキラは残念ながらあまりこういう店には出入りできない。なにしろ世界的に権威のある量子物理学博士ではあるが、ヘンタイエロ博士と呼ばれることが多いジイさんを持つ家庭である。その情報はマジで世界を駆け巡ったのだ。家族は肩身が狭く、公共の場にそろって出ることはあまりないらしい。

 駐車場の奥から裏に回ると、業務用クーラーの大きな室外機が数台並ぶ広場にまだ数匹のネコがうろついていた。しかも様子が普通ではなく、どのネコも恍惚とした潤んだ目をして丸まっている。

「その子たちはネコ使いなのかな?」
 一匹のネコに近づき、塚本くんが喉に手を伸ばしたが、心地よさそうに目を細めるだけだった。
「ほんとだ。僕たちが近づいても逃げようともしないよ」

《ちゃうで、腰が抜けて逃げられへんのや》
「どーいうこと?」
《わからへん》

 結局、本日のカワイコちゃん捜索隊の任務は、ここで打ち切りとなった。



 いったい何なんだ。この話――。
 でも続くゾ……。
  
  
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